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邪教、引き継ぎます

作者:どっぐす
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第五章
  46.総攻撃

 総攻撃が開始された。

 神殿を囲む柵の南側の出入り口からは、空堀を切るように道が伸びていた。そこにローレシアを盟主とする連合軍の兵士が殺到してゆく。
 やや遅れてその他の場所でも、塁に築かれた柵に兵士が殺到し、まとわりついた。堀にかけられていた橋は事前にすべて教団によって落とされていたのだが、兵士たちはそれをものともせず、堀底から急斜面ををよじ登っていた。
 教団側に休む暇を与えず、被害を出しつつも攻め続けていく。

 アークデーモンのイオナズンやデビルロードのベギラマなど、教団側の強力な攻撃魔法は高い効果をあげていた。連合軍側にはない空からの攻撃手段・翼竜バピラスによる急降下攻撃も、またしかりだった。

 だが、やはり数が違いすぎた。
 ある場所では、柵を乗り越える兵士が現れ。
 ある場所では、柵が壊され。
 教団側の必死な柵際での抵抗もむなしく、徐々に均衡が崩れていく。

 そして教団側の魔物や信者たちの魔力が次々と切れ、バピラスも疲弊していくと、その流れは加速していった。

 ローレシア王・ロスは、後方でときおり報告を聞き、ローレシアから連れてきた臣下と相談して指示を出しながら、戦況を眺めていた。

 やがて、堀の内側でひときわ目立って見えていた背の高い(やぐら)が、巨大な火柱となってゆっくりと崩れ落ちた。
 ロスはそれを確認すると、剣を抜いた。

「そろそろ行くぞ」

 (かたわ)らに控えていたサマルトリアの王子・カインとムーンブルクの王女・アイリンに声をかけると、二人もうなずいた。



 ◇



 柵を抜けてきた連合軍の兵士に対しては、バーサーカー、ブリザード、キラーマシンらが対応に当たり、乱戦模様となっていた。
 もうこの世界に逃げ場なく窮鼠(きゅうそ)となった教団側の士気は、決して低くはなかった。が、確実に連合軍兵士は奥へ奥へと侵入していく。

「どんどん湧いてくるな」

 神殿の中から出てきていたバーサーカーの少女・シェーラは、柵際の混戦を抜け出して奥へと進んできた連合軍兵士の相手をしていた。

 彼女はバーサーカーの伝統的な服ではなく、タクトから譲り受けた装備を着用している。薄く頑丈で伸縮性に富む生地で、体を密着して覆う、緑色の服である。
 仮面も着けておらず他のバーサーカーよりも目立つために、連合軍の兵士に優先的に狙われることとなったが、本人はこれ幸いと奮闘を続けた。

「妙に強いバーサーカーがいるぞ!」
「接近戦はだめだ!」
「弓と魔法だ! 囲んで撃て!」
「まずは弱らせろ!」

 怒号が飛ぶ。
 連合軍の兵士は遠征に選抜されただけあって、動きもしっかりとしていた。近くにいた兵士たちが一斉に集結し、彼女を囲んでほぼ同時に弓を放つ。

「あ゛ああッ」

 それまで素早い動きで射撃もかわし続けていたが、一斉に標的にされては難しい。そのほとんどが命中し、苦悶の声とともに彼女の服の胸部、腹部、背部から火花が散った。
 さらに魔法使いとおぼしき兵士二人が同時にベギラマを放つ。

「う゛あ゛ああッ――!」

 これも命中し、服全体から火花を散らした。

「今だ!」

 好機と見た兵士が剣で斬りかかっていく。

「……っ!」

 シェーラはふらふらになりながらも一人目の攻撃を盾で受け、渾身の斧の一振りで兵士を飛ばした。
 だがさらに続く兵士の剣は受けられず。

「ああ゛ッ」

 横薙ぎを受け、火花を散らしながら彼女の体が反る。
 さらに続いた斧装備の兵士による重い一撃も入った。

「あ゛あ゛ああアッ――!!」

 大きな声とともに派手に服から火花を散らし、ついに地に伏した。

「ぁ……ぅ……ぁ゛ぁ……」
「よし倒したぞ!」
「油断するな。しっかりとどめを刺しておこ――っ!?」

 地面であえぎながらもがく彼女に兵士が近づこうとしたとき、その足元に弓矢が刺さった。

「キラーマシンだ!」

 今度は一斉に兵士たちが離れていく。

「シェーラちゃん大丈夫!?」
「だ、大丈……夫……だ……」

 伸ばされた手を取り、シェーラが立ち上がる。
 助けに来たのは、数体のキラーマシンと、自称キラーマシン使いのタクトだった。

「19番、20番、49番、50番、52番、頼むよ!」

 番号管理がなされているらしいキラーマシンに対し、タクトが指示を出す。
 サッとキラーマシンたちがタクトとシェーラを守るように位置した。シェーラを包囲して攻撃していた兵士たちに対し、逆に左手の弓で射撃をおこない始めた。速い。
 これにはたまらず、兵士たちはいったん距離を取っていく。

「いいねー。優秀。百点!」
「……お前……楽しそうだな。みんな死ぬのは時間の問題なんだぞ。人間なら……もう少し怖がったらどうだ」
「んー、なんか海底の洞窟のときより平気なんだよね。なんでだろ。大きな戦が初めてだから興奮状態なのかも? いい武器と防具もあるしね!」

 笑みを浮かべるタクトの右手には、竜王の杖。左腕には、竜王の鱗で作製した盾が装着されていた。

「お前は最後まで変な人間だったな。気に入った」
「お。またきみの中でおれの評価アップ? うれしいねー。きみはどうなの? この状況」
「愚問だろ」
「バーサーカーに臆病者はいない、だっけ?」
「そうだッ」

 流れてきた矢を盾で弾きながら力強く言うと、彼女はもう休憩は十分と言わんばかりに下ろしていた斧を構える。

「ところでフワフワ浮いてる奴はどうした」
「キラーマシン2なら神殿の出入り口近くで活躍中だよ。いいデビュー戦になってるね。引退戦にもなっちゃいそうなのは残念だけどさ!」



 ◇



「すまなかったのお、お嬢ちゃん」

 向かってきたデルコンダル兵と思われる人間を退けると、老アークデーモン・ヒースは前を見たまま背中に向けて言った。
 魔力はとうの昔に尽き、種族特有の三つ又の槍で戦い続けていた。

「ん。なんの話」

 背中側にいたのは、謎の吹雪の呪文を連発し続けているロンダルキアの(ほこら)の少女・ミグアである。

「こっち側に来いとおぬしを最初に誘ったのはワシじゃろうからな」
「……フォルもしつこく謝ってきてうるさかったから、昨日『ごめんなさい』を禁止にした」
「フム。そうじゃったのか」
「わたしはここにいないといけないような気がしたからそうしただけ。それより、この子のほうがよっぽど気の毒」

 彼女はやってきた連合軍の兵士に呪文を放ちながら、横を見た。
 頭巾から茶色の髪をあふれさせている、背の低い魔術師――海底の洞窟の唯一の生き残りであるカリルだ。

「カリルも頑固よの。あれだけ避難せいと言われたのに」
「もう行くところはありません。最後までフォルさんのため、みなさんのために働かせていただきます」

 彼もすでに魔力は尽きており、身長に不釣り合いな大人用の杖を槍として使っていた。

「……どんどん敵が増えておるな。いよいよ厳しくなってきたかの」

 巧みな槍さばきを見せながらぼやくヒース。
 そしてその背後では、謎の詠唱が途絶える。

「おぬし、もしや――」

 老アークデーモンが後ろを見た。

「うん、そのもしや。魔力が切れた」
「フォフォフォ。おぬしでも切れるのじゃな」
「生まれて初めて。まあ、限界がわかったのはいい思い出かな」

 白い少女は、ローブの中から赤い柄の小さな短剣を取り出した。

「そのかわいい信者服もよい思い出か? あれだけ嫌っておったのに着てくれる日が来るとはのぅ」
「着ないと誤射されるから仕方ない」

 フォルが彼女の体に合わせて作ってくれた信者服をなびかせ、白い少女は銀色に光る短剣を振っていく。



 ◇



 南側の出入り口から堂々と柵内に入った、ロス、カイン、アイリン。

 いまだ乱戦が続く中、バーサーカーやシルバーデビルなどが三人を発見して襲いかかるも、彼らにとってはまったく敵ではなく。かすり傷すら負うことはなかった。

「あっ、ローレシア王! お待ちください!」

 しかし神殿を目指そうとする三人に対し、兵士から声がかかる。

「どうした?」
「神殿の建物近くに、ギガンテスと、何やら宙に浮いているキラーマシンがいます! 異様に強く手間取っています! 念のため王はもうしばらくお待ちを!」
「いや、問題ない」

 自重を求める兵士に対し、青い剣士は手のひらを向けて言った。

「無理せず引き付けておいてくれさえすればいい。その間に俺らが神殿に入り親玉を叩く。それですべてが終わるはずだ」 
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