邪教、引き継ぎます
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第五章
47.礼拝堂
神殿に入り込むことに成功したロトの子孫三人組は、すぐに異様な雰囲気を感じ取った。
「人っ子一人いないわね」
無言で進む先頭のローレシア王・ロスの後ろで、ムーンブルクの王女・アイリンが疑問を口にした。
「やっぱり、もう逃げていたり? フォルという魔術師は」
「ないない。一番奥に礼拝堂があるらしいから、そこにいるよ」
サマルトリアの王子・カインが、彼女の隣を歩きながら自信満々に断言すると、ロスが後ろを向いた。
カインは目を合わせ、微笑を返す。
それに対し、ロスは特に何か言うわけでもなく。
すぐに前に向き直り、やはり無言で進み続けた。
◇
広い礼拝堂には、高窓からロンダルキアの光が差し込んでいた。
神殿の外で乱戦が続いていることが嘘のように、静かだった。
足音が三つ、礼拝堂に近づいてきて、止まった。
青い剣士、緑の魔法戦士、紫の魔法使いの順で、ゆっくりと、開いたままの扉から入ってくる。
三人は中に入ると、横に並んで止まった。
礼拝堂の中央で立っていたのは、仮面を着用していない、杖を持った一人の魔術師であった。
入ってきた三人――ロトの子孫たちを、静かに見つめていた。
緑の魔法戦士・カインが口を開いた。
「後悔してる? ハーゴンの後を継ごうとしたこと」
「……いいえ」
「それは、今でも?」
「はい」
碧い瞳に柔らかな光をたたえ、わずかに微笑んだカイン。
それに対する魔術師・フォルの黒い瞳の光も、虚空に向けて放っているかのような不思議な光り方ではあったが、柔らかかった。表情も、けっして睨みつけるようなものではなかった。
「たくさん調べました。たくさん勉強しました。あなたたちが来るまでに、なんとか、破壊神様を呼び出そうと」
「どうだったの?」
「すべて失敗しました」
「そっか」
「……ですが、まだ、試せていないことがあるのです」
フォルが立っている場所には、石の床に大きな魔法円が描かれていた。
背後、壁近くにそびえ立っているのは、大きな三つ又の槍のような石像。
その隣には、漆黒の光を放つ鏡。
青い剣士・ロスが、剣を握る手をやや締めた。紫の魔法使い・アイリンも、杖を構える。
「何度もやろうとしましたが、とめられてしまい、やらせてはもらえませんでした……同志の皆さんはとても優しい方々ですので……。でも、今ならできます。ハゼリオ様の最後のご命令に背くことになりますので、成功するとあの世で怒られてしまいそうなのですが、今はそれが、私が皆さんのためにできる最後の努力だと思います」
フォルは振り向くと、両腕を広げた。
「破壊の神よ、私が生贄となります――」
フォルが“破壊の神”という言葉を口にした瞬間に、ロスは床を蹴っていた。
「ッ……」
フォルの前胸部から、刃が生えた。
後ろには、剣の柄を握ったままの、青い剣士。
貫かれた部位を、フォルは見ていなかった。そこに手をやることもしなかった。
ただただ、先にある、像と鏡を見ていた。
何も、起きない。
何も、起きなかった。
「これでも、現れては……くださらない……のですね」
ゆっくりと、剣が抜かれた。
胸と背中から出る血が、みるみるうちにローブを赤く染めていく。
「フォル君。僕たちに何か言い残すことはある?」
そばに来ていたカインが、目から光を失いつつあったフォルに声をかけた。
「いいえ……もう……何度も……お伝え……しましたから……この世界に……皆さんの居場所を……それだけを……願って……ここまで――」
そこまで言うと、ゆっくりと倒れた。
石の床に、赤い血が広がっていく。
「終わったな」
「そうね」
「……」
ロスとアイリンが、短く言葉を発した。
カインは無言で、広がっていく血だまりを見つめた。
突如、神殿が激しく揺れた。
「――!」
三人は、踏ん張りながら同時に天井を見た。
破壊神シドーは、塔の天井を突き破って降臨した。まだ三人の記憶に新しい。
しかし天井は壊れていない。
揺れ方も、三人の記憶にあった、上から来る衝撃ではなかった。
下から突き上げてくるような縦揺れだった。
「これ、地震!?」
アイリンがそう言って、必死に杖で体を支える。
その揺れは、石の床をまるで液体のごとくうねらせていた。
そしてついには、太い石柱までが倒れ出す。
「神殿が崩れる! ロス、アイリン、僕につかまって! 脱出しよう!」
二人が自身の体に触れたことを確認すると、カインはリレミトの呪文を唱えた。
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