彼は いつから私の彼氏?
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第3章
3-1
大晦日、年が明けるかという時、お兄ちゃんに硝磨君から連絡があって、お正月に家族で来ないかということだった。硝磨君のお父さんの仕事の関係から、マグロとか鯛に貝なんかも沢山もらったから、一緒にどうかということなのだ。どうも、お父さんは昔、寿司職人を何年かやっていたみたい。だから、寿司にして振舞うらしい。
ウチのお父さんは、1~3日まで休みなのだけど、お母さんは元旦は仕事で2.3日がお休みなのだ。だから、お兄ちゃんがお母さんにその話をして、結局2日の夕方にお伺いするということになった。
ウチの元旦は、お母さんが普段より遅めとはいえ、お仕事なので朝は比較的簡単にお雑煮とお煮〆程度で済ませていて、その後は、お父さんとお兄ちゃんはTVを見てだらだらとしていた。
次の日はお母さんが朝早くから動いていて、鰤とか海老を焼いて、数の子なんかの和え物を作ったみたい。揃って、ようやく我が家も年が明けたみたいに食卓が賑やかだった。食べ終えたのはお昼に近かって、片付けを終えた後、お母さんは着物に着替えていたのだ。
「お正月によそのお宅にお呼ばれするんですからねー あなたもせめてブレザーぐらいでね! ポロシャツは駄目ですよ カッターシャツぐらい・・・水澄はワンピース買ってあるでしょ」
「お母さん 俺は?」
「達樹は何でも良いわよー 男の子だからー ジャージはダメ! 適当にね」
「チエッ 差別」
「男の子はつまんないからね 着飾っても・・・」
「フン まぁな」
私のは、ベルベット生地のダークブルーで衿元がレースのワンピースを、友生地の細いリボンで髪の毛を両脇に結んで、左側だけ耳の前に降ろしてきてリボンで結んでいた。私はうっとぉしいんだけど、お母さんの好みなのだ。でも、自分でも着飾った私を見ると、割と可愛かったんだけど。
そして、約束の時間は4時なんだけど、早い目に出て、近くの神社に初詣に・・・前は元旦に家族揃ってだったんだけど、去年からお母さんが元旦はお仕事なので2日にすることになったのだ。
お母さんは手土産にと前の日、苺パックを用意していた。向こうに着くと、着物姿のおばさんとチェックのカッターシャツを腕まくりをしたおじさんだろう人が出迎えてくれた。私がコートを脱ぐと、おばさんが
「まぁー 可愛らしい 女の子は良いわねー お洋服も選び甲斐があるでしょ」と、お母さんに同意を求めるように言っていた。
通されたのはダイニングで、私と翔琉君がいつも勉強するところだ。テーブルの上には小鉢と細巻が用意されていた。子供達は続きの部屋になっているリビングのほうでねと言われた。
「お酒 召し上がるでしょ? 何が良いかしらー」
「あぁー じゃぁ 日本酒を冷やでー」
「今日はね 滋賀の湖西の 不老泉 という酒でね 天然酵母仕込みらしい 昔ながらの仕込みで 最近すごく人気らしい 貰ったものだからー」と、おじさんも好きなのだろう 自慢げに勧めていた。
「奥様 良かったら ワインもありますのよ」
「あっ 私も 少し そのお酒をいただきます そのー 奥様って言い方・・・」
「そう じゃー 香月さん 以前のお店で何度かお話しているから、まるっきり他人とは思えないわねー」
「はい 覚えています それに、幼稚園でも小学校入った時も 翔琉君と水澄がご一緒だったから・・・」
「そうでしたね 水澄ちゃんが 少し翔琉に似ている子って 印象深いですわー」
私達は眼の前のきゅうりととびっこの細巻と厚焼き玉子、椎茸の甘く煮たものの細巻をつまんでいたのだけど、そのうち、おじさんが
「さぁ 握るかー 本まぐろ、氷見の鰤、明石の鯛、広島の穴子の照り焼きだ」と、立って前掛けを締めだした。
「この人ね 若い頃 寿司職人目指したんだけど 手がごっついから 繊細なことできないってあきらめたんだってー」と、おばさんが言っていたけど、その握ってくれるお寿司は、とっても美味しかったのだ。
「いゃー おいしいですねー 高級すし屋 そのものですよー」と、お父さんもお酒も進んで、浮かれてきているみたいだった。
「この人ね こーいうの楽しいみたいなんです お酒も大好きなんですよー かかせないみたい」と、おばさんが
「なんだよー ひとのことを アル中みたいにー」
「あらぁー 最近はお歳のせいか 控えているみたいだけど 家ん中では遠慮してるのか 翔琉が生まれる前後なんか 私が構ってあげなかったから、ストレスもあったんだろうけど 毎晩のように、散歩の振りしてふらふらと公園なんかで飲んでいたんでしょうよ」
「おぉ それは 男の醍醐味ですなー でも 不審者扱いされたのではー」
「そーなんですよー 度々ね でも ドキドキする楽しいこともこともあったんですよ」
その時、私達へのお寿司のお皿を運ぼうと思ったのか、お母さんが立ち上がったて椅子の脚につまづいたのか、よろけてしまってー お母さんの手をおじさんが咄嗟に支えていた。少しの間があって
「いゃぁー」と、お母さんの悲鳴がして、その場でしゃがみこんでいた。みんなが、その時固まっていたみたい。
「どうした 民子 大丈夫か?」と、お父さんがお母さんの肩を抱いて、声を掛けていた。
「あっ ええー すみません 私ったらー 久々なので酔ったのかしら・・・ 主人以外の人と手を握ったことが無いのでー 動揺しちゃってー」
「いゃ いゃ 僕のほうこそ 失礼しました 咄嗟だったので・・・」
「まぁ 香月さんって 純情なのねー ご主人とはどこで出会ったのかしらー」
「いゃぁ 取引先の事務員だったんですよー 僕が一方的に惚れてしまって テキパキと仕事をこなして、頭もキレそうでねー でも アタックしてから 最初のデートまで2年かかりました それから結婚まで3年です」
「そーなの 前の刺繍の糸屋さんで何度かお話したんだけど 確かにハッキリとした印象だったわ 水澄ちゃんも そーいうとこ そっくりよねー」
「そーなんですよー 水澄は・・・今でも 思い出すんですよー 普段は控え目なのに あの時 珍しく 民子が積極的にせがんできて乱れていたんです 多分 その時の子が 水澄なんですよー お陰で僕には似ないで可愛い子を授かった」
「・・・あなた そんなこと 子供達に聞こえますよ! 飲み過ぎなんでしょ もう そろそろ お暇しなきゃー」 と、言うお母さんは心なしか顔から血の気がひいているよに見えていたのだ。だから、おじさんが「まだ いいじゃぁないですか 魚もまだあるしー」と、言っていたんだけど、私はお母さんを心配して帰る素振りをしていたのだ。
結局、お母さんが体調が悪くなった様子で、おじさんが 後でお腹すいたら食べなさいと、何貫か握ったものを持たせてくれたのだ。帰り道で私がお母さんと手を繋いでいて
「お母さん 気分悪いの? 大丈夫?」と、聞いても、お母さんは黙りこくったままで、家に着いても、直ぐに「お先に 失礼して お風呂に入って休ませてもらいます」と、帯紐を緩めていたのだ。
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