現実世界は理不尽に満ちている!
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第86話「荒らし殲滅プロトコル発動」後半
前書き
ネオ・代表O5−1。第86話「荒らし殲滅プロトコル発動」後半となります。
どうぞ、ご覧ください。
その言葉と同時に、全ての惑星破壊兵器とブリリアンス艦隊はカウントダウンを開始する。超兵器による総攻撃が、今まさに始まろうとしていた。
「カウントダウンを開始せよ」
「了解、カウントダウンを開始」
スヴェート砲、惑星破壊兵器のカウントダウンが始まる。砲口にエネルギーが凝縮され、送り込まれ、蓄積されていく。
「クワオアー級改、アクラメータ級、ヴェネター級。全て、発射準備完了しました」
発射準備が整うと、今か今かと発射を待っている。
スヴェート砲は、大陸を破壊できるかどうかの兵器だ。とはいえ、この規模の戦力が集結しているのだ。惑星を破壊することは、可能となった。
「エターナルストーム級Ⅱ型、エターナルストーム級Ⅱ型改、主砲発射準備完了」
クワオアー級改と比べ、全長1600mと全長2000mの二種類あるエターナルストーム級。元々エターナルストーム級は惑星どころか、準惑星ケレス、そして大陸すら破壊することなど無理に等しい。そもそも、自身と同等かつ同等以上を対処するための艦艇なのである。
しかし、これらのエターナルストーム級は一味違う。何故ならば、スヴェート砲に換装しているからだ。
「全エターナルストーム級、スヴェート砲発射!」
主砲をエメラルドグリーン色に煌めかせると、その一本の主砲からレーザーが発射された。光の矢となって、《滅びの方舟》へ殺到する。
次にクワオアー級改、アクラメータ級、ヴェネター級らがスヴェート砲を発射した。エターナルストーム級と同様に、《滅びの方舟》へ殺到していく。
スヴェート砲非搭載型からも主砲が斉射されるが、木星規模の《滅びの方舟》相手には豆鉄砲もいいところ。
しかし、それでも砲撃を続行し、更にはミサイルも投射された。
投射されたミサイルは、ただのミサイルではない。投射されたのは、核融合ミサイル。核融合ミサイルは、プロトコル発動で投入されたミサイル艦隊のみ。
核融合ミサイルの成果は、《滅びの方舟》相手には微々たるもの。それでも艦艇に命中すれば、オーバーキルといっても過言ではない代物だ。
「目標、全弾命中を確認」
「スヴェート砲非搭載艦、敵目標に全弾命中を確認」「核融合ミサイル、全弾命中」
「敵目標にダメージは…小」
この攻撃を以ってしても、《滅びの方舟》は健在。モロに受けたのにも関わらず、ダメージは小さい。〈スターダスト〉の艦橋で指揮する、司令官は舌打ちした。
「惑星破壊兵器、発射準備が全て整いました」
「照準修正、誤差+2度」
「重力収束バレル、形成完了。重力バレル強度の強化よし」
「発射準備完了」
護衛艦隊が射線上から退避すると、司令官は命じた。
「撃て」
惑星破壊兵器から放たれた黄色の光芒は、亜光速のスピードを維持し向かっていく。膨大な黄色の粒子ビームは、光の柱にも等しかった。《滅びの方舟》に”吸収”されていない、残骸となって漂うカラクルム級。その残骸を蒸発させながら、《滅びの方舟》の方舟まで向かっていく。
そして、遂に目標へと到達した。轟音と共に、周辺に粒子を舞い散らせた。
「撃て」
スヴェート砲と惑星破壊兵器の二発目が、発射される。二千を超える光の矢が直撃する中、惑星破壊兵器からも砲撃が出され、その光芒は真っ直ぐと進んでいき、命中していった。
「エネルギー充填中の〈スターダスト〉を除き、全艦隊は攻撃を中止せよ」
「了解。全艦隊、攻撃中止」
同時に、誰もがその変わり果てた《滅びの方舟》に見入る。
「《滅びの方舟》、損傷あり。損傷ダメージは―――」
無敵を誇っていた《滅びの方舟》には、確かに損傷が確認出来た。
司令官は、笑みを零さずにはいられなかった。とはいえ、だ。流石に攻撃してこないのはおかしい。異常な程に上昇していたエネルギーが未だ健在だ。きっと何かあるに決まっている。
司令官のその考えは、的を当てていた。
「敵方舟のコアに変化あり。エネルギー収束率を観測!」
「異常な数値です。波動砲をも上回っています、計測不能!」
突如としてコアが紫色を伴ったと思えば、不気味な輝きを強めたのだ。
「《滅びの方舟》、我が〈スターダスト〉に切っ先を向けています。おそらくはそれが…」
司令官は、副官の言わんとしていることを察した。あれは、《滅びの方舟》は攻撃態勢に移行したのだ。嫌でも理解できる。
艦尾側? の形状とその切っ先がこちらに向けられている。それを確認した司令官は、艦隊を惑星破壊兵器の後方に下げるよう指令。
30秒が経過した時だった。”それ”が、やって来た。
「《滅びの方舟》、巨大エネルギーを放出!」
波動砲をも上回る強大なエネルギーが開放され、そのエネルギーは宇宙空間を席巻した。薄紫色、あるいはピンク色にも近しい輝きは巨大なエネルギー流となって、〈スターダスト〉の盾となっていた惑星破壊兵器に襲う。
シールドの上位版であるフィールドを展開していたのにも関わらず、その防御を嘲笑うかのように、フィールドを貫通した。
勢いは止まらなかった。それは、装甲すらも貫通した。巨大な穴を形成され、その直上に存在していた一つの惑星破壊兵器も同様の運命を辿った。
そして、―――爆発四散した。
その付近には、艦隊が展開していた。200隻以上の規模である。スヴェート砲を搭載するアクラメータ級とエターナルストーム級は、爆炎と爆散の余波に巻き込まれてしまい―――爆沈。
《滅びの方舟》から放たれたエネルギーは止まることなく、〈スターダスト〉の正面で防御の構えを執る惑星破壊兵器に衝突した。
ピンク色の粒子を、花を咲かせるように拡散する。〈スターダスト〉に直撃することは無かったものの、後方で待機していた艦隊はそのエネルギーに命中してしまい、約千隻のブリリアンス戦闘艦の殆どが沈んでしまう。
「〈DSー5〉、中破」
この攻撃により、プロトコル発動で投入された半数が撃滅された。
「〈DSー5〉、後退せよ。〈スターダスト〉、前へ」
〈DSー5〉が後退する中、遂に惑星破壊兵器の頂点が動き出だした。入れ替わった〈スターダスト〉はいつでも発射出来る状態である為、後は指示が下されるだけだった。
発射指令が下された。
「オメガ・アナイアレイション・ランス、発射せよ」
オメガ・アナイアレイション・ランス。
惑星破壊兵器のコア内に設置された巨大な反応炉によって駆動され、地殻の下に存在する多数のシステムによって制御されている強力なエネルギー兵器。
巨大な反応炉からこの超兵器オメガ・アナイアレイション・ランスに供給され、使用されれば目標は跡形もなく破壊される。
「発射!」
それが今、発射された。
紅の光芒が《滅びの方舟》を襲い、閃光が宙域を覆った。
ズォーダーは方舟の中枢にて、〈スターダスト〉の攻撃を忌々しい顔で凝視していた。
「テレサめ……」
ズォーダーは”彼女”を憎む。相手は…テレサだ。
高次元世界にいるだけで、何も出来よう筈も無かったテレサは、よもや地球の〈ヤマト〉と同じくブリリアンスが《滅びの方舟》を阻止することを見通していたというのか?
ふざけるな!
千年の絶望、慚愧は全て無駄だというのか?
それに加え、だ。
《滅びの方舟》は、どうして防衛策を実行しない。一回は可能であったのに、それ以降は何故…?
何故だ、何故、己と一体化した筈の〈滅びの方舟〉は、指示を受けつけない?
何故。
何故。
何故。
何故!
「テレサめ…ッ!!」
憎しみを含めた言葉を放った直後、”彼女”の声が聞こえた。
「ごめんなさい」
「ッ――!?」
ギョッとして振り返る、ズォーダー。
そこには、方舟に身を捧げる際に共に生贄となったサーベラーが、何故か黒髪の姿で立っていた。それは、桂木透子として潜り込んでいたサーベラーの純粋体のコピーであった。
「サーベラー……お前が……? 」
制御機能は掌握していた筈なのに、まさか奪取したとでもいうのか? ズォーダーは驚きを隠せずにいた。
「私が、《滅びの方舟》を蘇らせてしまったばかりに。……愛しい貴方に、千年もの憎しみを抱え続けさせてしまった」
「……違う」
ポツリと、ズォーダーは否定する。それでも、サーベラーの口は止まらない。
次第に、耐え兼ねたのか、涙がポロポロと溢れ始める。これまで、ズォーダーが幾度となくサーベラーの命を奪った際に見てきた涙であった。
それを見たズォーダーは、己の内にある憎しみと絶望に対する感情が揺らいでいく。
愛を育んだ女性を奪われた事に対する、激しい憎悪で動き続けて来たズォーダーであったが、それは同時に、サーベラーに対しても相応の時間と記憶を重ねさせてきた証しであり、…彼女を己の手で殺した記憶も重ねている。
サーベラーも、記憶が戻るたびにズォーダーを静止し、彼に殺される記憶があり、重ねていった。
既に、《滅びの方舟》の崩壊が始まっている。
「私が止めるべきだったのです。あの時、最初に《滅びの方舟》を見つけた時に。貴方には、そのような感情を持って生きて欲しくなかった。…なのに私は……貴方を止めることが出来なかった」
そう語る彼女の姿が、やがてあの生きていた頃の、オリジナルのサーベラーの姿へとなった。自分が押し付けたに等しい行為を。サーベラーは自分の責任だと涙を流す姿に、ズォーダーも耐え兼ねた。
「違う!」
今度はハッキリとした口調で、サーベラーの謝罪を遮る。気づけばズォーダー自身の頬にも、流す事など絶対に無かった筈の涙を、彼はサーベラーと共に流していた。
「お前は、この私の願いにただ従っただけなのだ」
「しかし――!?」
サーベラーの身体を抱き寄せるズォーダー。それに驚く、サーベラー。
この千年もの間、決して行わなれなかった抱擁だった。ズォーダーは逞しい腕と胸板に、サーベラーを出来る限り優しく、想いを強く乗せて包み込んだ。
「もういい」
驚き、ズォーダーを見上げるサーベラー。彼女はフッと笑みを零して、両手で彼の頬を優しく添える。
戦う事しかしなかったズォーダー。人間らしく、愛する事を覚えた、素晴らしいあの時代へ生きた彼が戻ってきた瞬間だった。
「もう、いいんだ……」
崩壊を告げる音が聞こえる中、少しして二人を包み込む強烈な光が漏れ始める。
しばらくすると、光のせいでお互いの姿は見えなくなってしまうが、二人にとっては些末な事。それでもお互いが、そこにいるという暖かな感覚だけは伝わり続けている。それで充分なのだ。
命の灯が尽きるその瞬間まで、抱きしめるズォーダーとサーベラー。
「私は、お前をずっと、愛しているぞ、サーベラー」
「ふふっ、その言葉、そっくりお返しします、あなた」
そして二人の男女は、肉体が消滅する最後の最後まで穏やかな気持ちのまま―――生涯を終えた。
地球暦 2203年6月5日 ガトランティス戦役終結。
後書き
次回、最終話「エピローグ」
ページ上へ戻る