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ドリトル先生と奇麗な薔薇達

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第十幕その八

「言ってね」
「研究室を荒らされても」
「暴力を受けて死霊や文献を滅茶苦茶にされても」
「それでもなんだ」
「そんなこと言ったんだ」
「図書館で借りた本と時間とお金をかけて手に入れた本は違うよ」
 先生は断言しました。
「わかるよね、こんなことは」
「うん、わかるよ」
「そのことも誰でもね」
「そんなこともわかっていないんだ」
「戦後最大の思想家が」
「そうだったんだ、さっき言ったね」
 先生は首を傾げさせつつ言いました。
「何を書いているかわからない文章を書いていたって」
「うん、言ったよ」
「確かにね」
「そうしたわ」
「その頃に持て囃されて」 
 そうされてというのです。
「戦後最大の思想家になったんだ」
「何を書いているかわからなくて?」
「そんなこと書いて?」
「それでなの」
「ほら、難しいことを理解したら」
 そうすればというのです。
「自分は頭がいい、凄いって思うね」
「あっ、思うね」
「確かにね」
「難しい問題解いたりしたら」
「そう思うわ」
「そしてそんなこと書いたこの人凄いってね」 
 その様にというのです。
「思うね」
「うん、思うね」
「その時は」
「僕達だってね」
「それで吉本隆明はそう呼ばれたんだ」
 皆にお話しました。
「戦後最大の思想家ってね」
「それって錯覚じゃない?」
「ただ単に他の人に理解してもらう文章書けないだけでしょ」
「説明とか文章が下手で」
「それだけでしょ」
「よくあったんだ、昔の戦後の知識人には」
 どうだったかといいますと。
「異様に漢字や片仮名を使った文章を使って」
「普通に書けばいいのに」
「勿体ぶってだね」
「そうして書いていたんだね」
「わかりにくい、そんな文章が知的だって」
 その様にというのです。
「思われていたんだ」
「単にわかりにくいだけなのに」
「そう言っていたんだ」
「そんな文章書いていたんだ」
「普通の人にボヘミアン的とかウィットとかドライとか書いても」
 そうしてもというのです。
「わからないね」
「何それよね」
「普通にね」
「そうなるね」
「そんな文章を読んで」
 そうしてというのです。
「色々解読して理解する」
「理解した自分頭いい」
「そしてそんな文章書いた人凄い」
「そう錯覚するんだ」
「今言ったのは中沢健一という人のことだけれど」
 吉本隆明ではなくというのです。
「この人もそうした教団賛美したことあったしね」
「ああ、そんな人ね」
「吉本隆明と同類ね」
「そんな人だね」
「そうでね、実は言っていることはね」
 難しい様に書いてもというのです。 
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