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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第215話:黒衣との対峙

 アマルガムの発動により、ヴァネッサ達が展開したダイダロスの迷宮が破られた。形状を変えたスーツに身を包んだ奏を除く装者達の周りに展開された、金色のバリアフィールドが昇った朝日に照らされてある種幻想的な光景を見せた。

 自慢にして最大の攻撃を打ち破られたヴァネッサ達は、二重の衝撃で暫し言葉を失う中真っ先に響が動き出した。

「オォォォッ!」

 バリアフィールドに充てられていたエネルギーを全て攻撃に変換。すると彼女の体を守る様に覆っていたフィールドは物質としての形を持ち、両肩から黄金の腕を生やしたような姿に彼女を変えた。

 明らかに攻撃的な姿になった響に向けて、ヴァネッサ達は再びダイダロスエンドをお見舞いしようとキューブを飛ばす。しかし先程クリスの攻撃を受けても傷一つ付かなかったキューブは、響の両肩から伸びた拳が振るわれただけでいとも容易く粉砕されてしまった。

「そんなッ!?」
「化け物かよッ!?」

 ヴァネッサ達が驚くアマルガムを展開したシンフォギア。その秘訣は、サンジェルマン達のファウストローブに使われていた賢者の石にあった。賢者の石によって、響達のギアはリビルドされた。それにより引き出されたシンフォギアの秘められた力は、ギアを構築するエネルギーを解き放ち、高密度のバリアの形成とそれを攻撃に転用する事による高い戦闘能力にあった。
 つまりアマルガムは普段のギアで、曖昧と言うと聞こえが悪いが攻防両方に用いられているエネルギーをどちらか一方に偏らせる事で驚異的な防御力と驚異的な攻撃力を装者に齎したのである。

 全く攻撃力を持たない第一段階の『コクーン』と、そこから派生する第二段階の『イマージュ』。これだけ聞くとイグナイトに匹敵する破格の決戦機能に思えるかもしれないが、イグナイトの様な単純な出力アップとは違うステータスの振り分けを攻撃と防御どちらかに偏らせた非常に極端でクセの強い形態であった。それ故に一度イマージュとなれば、迂闊に相手の攻撃を喰らう訳にはいかないある種綱渡りな戦いを強いられる事となる。

 だが響はそんな懸念など存在しないかのように、ヴァネッサ達に向け突撃した。

「ハアァァァッ!」
「チィッ!」

 ダイダロスが通用しないと分かるや、ミラアルクは背中の翼の形状を変化させ鋭い刃を持つブーメランの様な武器に変形させてそれを投擲してきた。高速回転する刃は鋼鉄すらも切り裂けそうなほど鋭く、通常の状態のギアでは喰らえば装者ですらただでは済まなさそうな危険があった。

 しかし…………

「フンッ!」
「嘘だろッ!?」

 響の黄金の拳は、そのブーメランを軽々と弾き飛ばしてしまった。真正面からのぶつかり合いで、ブーメランと接触した拳からは火花が飛び散ったが、弾かれた後には拳には傷一つ付いていない。ダイダロスエンドを防ぎ切った、バリアフィールドに使われているエネルギーが全て凝縮されているのだからそれも当然と言えば当然か。

 このままではマズイと、ヴァネッサとエルザも響への攻撃に加わる。だが戦況は明らかに響の方へと傾いており、彼女1人でも何とかなってしまいそうな状態だった。これは響がアマルガムを起動した事で戦闘力が上がっている事に加えて、そもそもあの3人が大分消耗して十分な能力を発揮できない状態となっている事が大きかった。

 ともあれ勝敗は付きそうだ。その事に安堵する奏は颯人の方はどうなったかと彼を探すと、彼女の目に何かを咀嚼するような動きを見せるオーガの姿を見た。だが肝心の颯人の姿は無い。
 奏は嫌な予感を感じて、通常ギアのまま仲間の輪から出てオーガへと声を掛けた。

「おいお前ッ! 颯人はどうしたッ!」

 まさかと思いながら、そんな筈はないと自身に言い聞かせつつアームドギアの切っ先を向ける。するとオーガからは、予想に反して困惑した声が返ってきた。

「……ん? あ? どこ行った?」
「え?」

 タイミング的にオーガは間違いなく颯人を頭から丸呑みにしたと思っていた。だが意識してみると、体に斜めに走る口の中に何かが入った形跡はない。一体颯人は何処へ行ったのかとオーガが周囲を見渡そうとしたその時、出し抜けに光の軌跡を描きながらインフィニティースタイルの颯人が超高速で動き回りながらオーガの体を次々と斬りつけていった。

〈インフィニティー!〉
「うぐぉぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「颯人ッ!」

 先程、アマルガムによりダイダロスの迷宮が内側から粉砕されそちらに一瞬意識を持っていかれた颯人。その瞬間を狙ったかのように大口を開けて迫ってきたオーガを見た瞬間、颯人は咄嗟にインフィニティースタイルの特殊能力である超高速移動をギリギリのところで発動させ、間一髪のところで難を逃れていたのである。

 無事だった事に安堵する奏の傍に姿を現した颯人。彼は少しとは言え奏を心配させてしまった事を恥じてか、彼女の肩を優しくポンと叩いた。

「悪い悪い、肝を冷やさせたな?」
「全くだよ」
「あ、そう言えば魔力の心配してるんだったらもう大丈夫だ。さっきアイツから全部返されたんでな」

 颯人の目眩ましの為に放たれた魔力球。攻撃として返されたそれを颯人は逆に吸収・還元して自身に戻した。それはつまり奏にも十分な魔力のリソースが得られるようになったと言う事。
 試しに再び奏がウィザードギアブレイブになると、先程迷宮の中で感じていた窮屈な感じが無くなっていた。

「お、確かに」
「それじゃあ……」
「あぁっ!」

 さっさとオーガを始末しよう。言葉もなく頷き合う事で互いの考えを理解しあった2人に向け、オーガは大剣を振り上げながら飛び掛かった。

「ゴチャゴチャとうるせえなぁッ!」

 轟音と共に振り下ろされた大剣を、颯人はように飛ぶ事で回避。一方奏は大剣の一撃を、体を炎とする事で無力化。それだけに留まらず、体を炎にした状態でオーガの側面に移動すると攻撃直後で隙だらけとなっているどてっ腹に鋭い刺突をお見舞いした。

「ハァッ!」
「ぐふっ!?」

 奏の刺突で大きく体勢を崩され、更には真横に吹き飛んだオーガ。そこを待っていた颯人は、アックスモードのアックスカリバーで追撃した。

「そらっ!」
「がぁぁっ!?」

 破壊に特化した一撃を喰らい、オーガの体に罅が入る。この隙を見逃さず、破壊力より攻撃の速度を重視した颯人はカリバーモードにして何度も切り付け、更には奏も合流して2人でオーガを徹底的に攻撃した。何度も襲い掛かる2人の攻撃に、気付けばオーガの手からは大剣が離れていた。

「ハッ!」
「セイッ!」
「よっと!」
「オラッ!」

 反撃の隙を与えない2人の怒涛の連続攻撃に、オーガの体がみるみるボロボロになっていく。だがそんな状態でも、オーガは反撃の隙を虎視眈々と伺っていた。

 そして遂にその時が訪れる。オーガの動きが鈍ったと見るや、2人は同時に飛び上がりオーガに向けて飛び蹴りを放つ。

〈〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉〉
「「ハァァァァァッ!」」

 足に魔力を集束させた2人の必殺技。それが来た瞬間、オーガは待ってましたと言わんばかりに大口を開いて2人が飛び込んでくるのを待ち受けた。

「貰ったッ!」

 大きく開かれたオーガの口の中に光は見えず、まるで深淵に飛び込む様な錯覚を覚える。だが2人の中に恐怖は無かった。それどころか、奏はオーガが口を開くのを待ってすらいたのだ。

「そいつは、こっちのセリフだッ!」
〈ブレイブ!〉

 オーガが口を開けて待ち受ける姿勢を見せた瞬間、奏は背中から炎の翼を生やして自分と颯人の体を覆った。すると次の瞬間、オーガの口の中に飛び込もうとしていた2人の体が揃って炎と化してその場から掻き消え、オーガの背後に着地した状態となっていた。

「何ッ!?」

 まさかの展開に振り返ろうとしたオーガだったが、2人はそれを許さずオーガの背を蹴り飛ばした。

「「フンッ!」」
「ぐはっ!?」

 蹴り飛ばされて地面に倒れるオーガ。それを見て颯人はすかさずアックスカリバーを取り出し、アックスモードでハンドオーサーにタッチした。

〈ハイタッチ! シャイニングストライク!〉
「だぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 まだ倒れたままのオーガに向け、巨大化したアックスカリバーが叩き付けられる。起き上がっていればオーガであればこれを喰らう事も出来ただろうが、俯せに倒れた状態ではそれも儘ならない。
 結局オーガは、背中から縦に体を切り裂かれそのまま爆散してしまった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 強敵オーガを仕留め、颯人は立ち上がり大きく息を吐いた。これでまたジェネシスの戦力を大きく削れたと、安堵しつつ響の方を見ればあちらも大勢は決していた。

 アマルガムを起動した響を前にヴァネッサ達は消耗した様子で膝をついている。そんな3人に響は優しく手を差し伸べていた。

「……大丈夫です。私は、私達は、あなた達を傷付けるつもりはありません」
「え……」
「だから……」

 流石にここまで追い詰められた状態になれば、こちらの話を聞く気にもなるだろう。颯人と奏がそう思っていると、突如通信機からサイレンのような音が聞こえ次の瞬間弦十郎から驚きの指示が飛んできた。

『現時刻を持って、装者達の作戦行動を中止とする……日本政府からの通達だ』

 まさかの通達、それも日本政府からのそれを聞き、装者は誰もが言葉を失った。まさか国連下部組織であるS.O.N.G.に対し、日本政府から直接行動の中止の指示が来るとは思っていなかった。これまでにも何度かS.O.N.G.の行動に日本政府が口出しをしてきた事はあったが、それでもここまで思い切った行動は予想外であった。

 この横紙破りも甚だしい事態に対し、真っ先に……と言うか唯一動いたのは颯人であった。

「ちと窮屈だろうが、我慢しろよッ!」
〈バインド、プリーズ〉

 政府からの通達に対して、颯人が真っ先に行ったのはヴァネッサ達の拘束であった。このタイミングでの日本政府の介入。恐らく政府の中に、ジェネシスないしあの3人の錬金術師と何らかの繫がりがある者からの横槍の可能性がある。情報が漏洩する事を恐れての動きだろう。これ以上好き放題される前に、3人全員か最低1人でも手元に置いておきたい。何らかの情報が洩れる事を恐れる日本政府内の誰か……まぁ、考えられる人物はそう多くないが……に対して、あの3人は無視できないカードとなる。

 何より、これ以上あの3人を放置する事は危険であった。放っておけばジェネシスとは別に事態を引っ掻き回されかねない。

 懸念があるとすれば弦十郎からの指示に真っ向から反抗する形になる事だが、他2人はともかく颯人は明確にS.O.N.G.に対しては飽く迄協力者と言うスタンスを貫いている。故に厳密には彼に対して弦十郎が命令できる理由は存在せず、彼の指示を突っ撥ねる事も颯人には許されていた。

 この颯人の行動に対し、ヴァネッサ達3人は反応が遅れた。突如伸びてきた魔法の鎖を前に、3人揃って拘束され逃走を封じられる。

「あぁっ!?」
「しまった!?」
「くっ!?」

 3人は颯人の拘束から逃れて撤退しようとするが、テレポートジェムも取り出せず消耗した体では抵抗も満足にできない。危ういところで3人の拘束に成功した颯人は、取り合えず最悪の事態だけは防げたと安堵の溜め息を吐いた。

「ふぃ~……」




「困るね、彼女達を連れていかれては」
〈ライトニング、ナーウ〉

 直後、何処からか飛んできた電撃が颯人に直撃した。突然の事に思わず顔を手で覆ってしまう颯人。飛んできた電撃は、何とアダマントストーンで出来た鎧を纏っている筈の彼を大きく吹き飛ばしてしまった。

「うわぁぁぁっ!?」
「「「颯人(さん)ッ!?」」」
「嘘だろッ!? あの姿のペテン師が吹き飛ばされんのかよッ!?」
「誰ッ!?」
「あ、あれは……!」

 切歌が指さした先に居たのは、黒衣の魔法使い……ワイズマンであった。彼は颯人を魔法で吹き飛ばすと、手に持つ赤く光る光刃の剣でヴァネッサとエルザを拘束している鎖を切り裂いてしまった。
 そのままミラアルクの拘束も解こうと動くワイズマンであったが、そうはさせじと颯人は痛む体を無理矢理動かして左手をハンドオーサーに翳した。

「させるかッ!」
〈インフィニティー!〉

 残像の様に光る軌跡を描きながら駆けた颯人は、ミラアルクの前に立ち塞がるとワイズマンに向けて回し蹴りを放つ。反応が遅れたワイズマンは手を颯人に蹴り飛ばされ、その勢いで体勢を崩してしまった。

「くっ!?」

 ワイズマンが体勢を崩し、次の行動に移る前に颯人は素早くミラアルクをこの場から連れ出す為に動いた。

「悪い奏、すぐ戻るッ!」
「ッ! 分かった!」
「させると思うかね!」

 颯人のやろうとしている事を即座に察した奏は、2人を逃がすまいと刃を振り下ろそうとしたワイズマンに槍を振り下ろす。奏の動きの方が僅かに早かったのか、ワイズマンの刃が颯人に襲い掛かる前に奏の槍がそれを邪魔した。

「ッ、装者は行動禁止ではなかったのかね?」
「抵抗禁止、とは言われてないんでね」

 仮面越しに睨みつけてくるワイズマンに不敵な笑みを返す奏。その後ろで、颯人はミラアルクと共に魔法でその場から転移してしまった。

〈テレポート、プリーズ〉
「ヴァネッサ!? エル――」

 光を放ち颯人と共に姿を消してしまったミラアルク。その光景にヴァネッサとエルザは顔を青褪めさせて手を伸ばした。

「ミラアルクちゃんッ!?」
「待つでありますッ!?」
「もう遅い。一度転移を許してしまえば、今頃はあちらの本拠地の中だろう。もう間に合わん」

 そう言いながら、ワイズマンは奏を睨みつつゆっくりと後ろに下がり指輪を取り換えた。それがこの場を去る為の行動であると察した奏は、しかし油断なく槍の先端を向けながら身構えていた。

「案外あっさり引き下がるんだな? 仲間がやられたってのに、仕返しの一つもしないなんて」

 奏の言葉にヴァネッサ達もワイズマンがミラアルクを放ってこの場を去るつもりである事に気付き、エルザはその事でワイズマンに抗議した。

「ミラアルクを見捨てるつもりでありますかッ!」

 思わずワイズマンに掴み掛りそうになるエルザであったが、それより早くにワイズマンが彼女の首筋に熱を発する光の刃を突き付けた。刃が直接触れている訳ではないが、それでも刃から放たれる熱と時折迸る稲妻に、エルザの細い首の肌が僅かに焼かれる。
 堪らず後ろに飛び退ったエルザを、ヴァネッサが守る様に抱きしめた。

「うっ!?」
「エルザちゃんッ!」
「まぁ落ち着け。誰も見捨てるなんて言っていないだろう? 安心しろ、ちゃ~んと迎えには行ってやるから」
〈テレポート、ナーウ〉

 そう言ってワイズマンはヴァネッサ達を連れてその場から転移した。まだワイズマンが居た重圧感が残ったその場で、奏はゆっくりと呼吸を落ち着けながら槍の穂先を下ろす。

 直後、宣言通り戻った颯人は既にその場にワイズマンが居ない事に安堵と悔しさを感じたのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第215話でした。

オーガは今回で退場です。案外あっさりとした退場のような気もしますが、まだメデューサにグレムリン、ベルゼバブなどが居るので巻き気味にしていかないといけないのでこんな感じになりました。オーガの能力は野放しにすると厄介なので。

そしてここで原作から大きな乖離点。ミラアルク捕縛です。ここら辺からXVのストーリーも大きく変わっていきます。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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