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第63話「まるで墓場だな」
前書き
ネオ・代表05−1です。第63話「まるで墓場だな」となります。
どうぞ、ご覧ください。
―――ブリリアンス駐地球大使館・会議室
第十一番惑星の軌道上には、未曾有の攻撃を実行せんとした―――ガトランティス第八機動艦隊。
そんな第八機動艦隊であるが、現在も輝きを失っている人工太陽の周囲を漂っていた。波動共鳴―――EMPパルス攻撃のようなものによって、機関部などが異常を来たしているからである。
第十一番星沖で漂流する第八機動艦隊は陣形が崩れたままで、艦隊を組み直す様子は一切無かった。
「まるで墓場だな」
「全く以ってその通り」
宇宙戦艦ヤマトによって無力化された第八機動艦隊を、ギルド長スヴェートとブリリアンス大使2号は眺めていた。
偵察フリゲート艦からの報告によると、熱源はおろかレーダー波も0とのことだった。更にだ。それどころか、修理している様子すら見受けられない。
「改めて思うが、人工太陽を狙い撃たなかったら地球は終わってたな」
「そうだな」
ギルド長と2号は揃って、ゾッと身震いした。今回は、第十一番惑星に〈ヤマト〉がいたから対処出来た。しかしもしも、〈ヤマト〉がそのままテレザート星へ向かったり、艦隊の到着を待っていたら……地球に明日が訪れることは無かっただろう。
「それにしてもコイツラ、ただ漂流しているだけだな。これでは、死んでいるのと変わりない」
「事態の打開を図るような事が、奴らには出来ないのか?」
いったいどうしたんだと、ギルド長と2号は首を傾げる。そんな中、漆黒のコスチュームを着用する生体アンドロイドが口を開く。
「おそらく、ガトランティスは壊す事しか出来ないのでしょう」
であれば、その逆の―――直す事が出来ないのか。ギルド長と2号は納得していた時、ふと思い出す。そういえばガトランティス、兵器を含めて、物を造る、修復する、という概念が希薄だったなと。だからこそ、ガミラスを含む異星勢力の優秀な科学者と技術者を捕虜とし、―――《科学奴隷》として利用しているのだと。
「その理由は確か―――国体保持と覇道完遂の為、だったか?」
「可哀想だよな」
捕虜とされたら最後、ガトランティスに従属する《科学奴隷》として生かされるのだ。愛する家族と愛する者に二度と会えることなく、死ぬまで働くのだ。ブラック企業を極めた、超ブラックかな。
可哀想とは思うが、優秀だったのが悪いのだ。哀れ哀れ、本当に可哀想だ。我々は涙を流したいものだよ。名も知らぬ、超ブラック企業で働いている科学者と技術者よ。達者でな。
「第十一番惑星の生存者を乗せた〈ヤマト〉は、現在惑星《シュトラバーゼ》へ向け航行中です」
おっと、脱線には気をつけなくてはな。ギルド長と2号は、生体アンドロイドの報告に耳を傾ける。〈ヤマト〉は既に第十一番惑星を発っており、その宙域に残るのは偵察フリゲート艦と無力された第八機動艦隊のみ。
民間人の今後の扱いについてであるが、このまま救援艦隊の到着を待つのは危険があるということで、〈ヤマト〉は地球へ民間人を輸送していない。
その理由としては、スケジュールが崩れるからだ。〈ヤマト〉が《シュトラバーゼ》と呼ばれる惑星へと向かっているのは、《シュトラバーゼ》付近でガミラス艦隊の定期便が通過する為、それに民間人を移送するとのこと。
「惑星《シュトラバーゼ》、か」
「確か、太陽系から約1800光年の位置に存在しているんだったか?」
「左様です。そして惑星《シュトラバーゼ》にて、〈ヤマト〉は民間人を定期便に託します」
大地はバラバラで溶岩で覆われている《シュトラバーゼ》。例えるならば、地獄を体現したかのような惑星。その星の周囲をリング状―――紫色のガス雲が特徴的なだけでなく、両極から串刺しするかのように結晶のような物体が伸び、それは遠目からでも確認出来る程に巨大であるのだ。
「再起動した第八機動艦隊の消息ですが、おそらく〈ヤマト〉を追撃しているものと思われます」
ガトランティス第八機動艦隊が、〈ヤマト〉によって無力化された事は周知の事実。その敵艦隊は、例外なく機関部に異常を来たしているのもそうだ。しかしどうやらガトランティス兵は、”例の自爆”によって機関部と艦橋の双方を破壊していた事が発覚した。
おそらく、敵に利用されぬよう、〈ヤマト〉を追う旗艦とそれに従う約100万隻のカラクルム級戦闘艦を除いて、自爆して使えない様にしたのだと推測された。
「現在、一部の駐留艦隊とアンドロメダ級を旗艦とした少数の地球連邦艦隊は、残存する第八機動艦隊の監視の任に就いております」
監視をしている理由は、再活性化―――再起動するか、だ。規模は少なくとも艦隊を配置しているのは、”もしも”に備えてである。
「この規模の艦隊―――それもカラクルム級のみで構成された艦隊が、後9個もあるのか」
「第八、か付くんだ。あり得なくはないだろうな」
はぁ、と揃って溜息を吐くギルド長と2号。これが、ガトランティスが投入出来る最大規模の艦隊であると信じたい。しかし、後9個も存在するというのは決してあり得なくはない。
改めて思うが、3年間の間で何が起きたんだ。こんなもん、チートではなかろうか。この世界がゲームであるなら、運営によって修正されるだろう。だが悲しいかな、この世界は現実である。
2号は、ギルド長スヴェートにお願いをする。
「ギルド長―――いや、オリジナル。増援を要請する」
もとよりそのつもりだと、ギルド長スヴェートは力強く頷いた。増援として派遣する艦隊は主に、量産型機関を宿すアクラメータ級戦闘航宙艦。支援船の【DH全能支援船】の他に、アクラメータ級の後継艦をも組み込む。
派遣する艦艇数は、千の桁。
なんだったら艦ではないが、スターダスト計画の資材を転用した自律防衛システム―――無人戦闘衛星12個が完成次第、地球に無料で提供する予定だってある。お金は要らんぞ、その代わり転生者と自称している死刑囚を所望する。我ながら、良心的で素晴らしいと思う。
地球の為だ、出し惜しみするつもりは無い。
「了解した。地球連邦には、話を通しておく」
喜んでと、2号は笑みを浮かべると共に頷く。ギルド長は笑みを返した時、ふと思い出す。
「女神テレサがいるテレザート星へ艦隊を派遣しようと考えているんだが、お前はどう思う?」
それに対して、2号は目を見開く。テレサをこの目で見たいの一心で艦隊を派遣するとは思ってはいたが、まさか本当に派遣する考えがあったとは…。
2号は改めて、女神テレサについて思い起こした。文明の極致として精神力を物理的な力に変換可能になったテレザート人が、肉体を捨て去り一つに結集した集合知的存在。通常世界よりも更に高次元の世界にいる為、未来をも見通せる存在。それが、彼女だ。
「その行動、未来を変えてしまわないか?」
「大丈夫だ、問題ない」
何が大丈夫で問題ないのだろうか。如何に自分がオリジナルより”コピーアンドロイド”と称されているとはいえ、思考が全て同じという訳ではない。少し心配だ。
そんな2号に対し、ギルド長は照れたように訳を話す。
「実は私、テレサのメッセージを受け取ったんだ」
「…え、は?…ふぁ!?」
それは、あまりにも驚愕してしまう程の内容であった。え、幻を見たのか。確かその幻はメッセンジャー、それは啓示の際に故人をメッセンジャーにする…えぇ?!。2号は絶句した。
「いやぁ、80年ぶりに亡き姉を見たよ」
聞くところ、ギルド長の姉はこう言っていたそうだ。―――我が妹よ、女神テレサの姿を写真で収めるのだ、手段は問わないぞ。
それは、なんて、なんて…!
「いやそれ意味ある??」
なんて、訳が分からないメッセージなのだろうか。とても重要性を感じさせないのだが。ツッコミをしてしまう自分は悪くないだろう。
「あるらしいぞ。ゴホン!―――テレサを見たかったら直ぐ見れる、とな」
「えぇ…??」
こんな時どんな顔をすればよいのだろう、2号は困惑した。オリジナルの思考趣味etc…がコピーされているとはいえ、流石の自分でさえ困惑してしまう。さぞや、オリジナルの娘―――スラクルも自分と同じ反応をしただろう。
「そうと決まれば早速行動に移さねば!」
「いや、あの…」
「ふふっ、何、心配するな、テレサの写真を収めたら送ってやるから」
「……」
あらやだ、どうしましょう。会話が成立しません。言葉を失ってしまいました。…こうなれば、仕方ない。
「4号!あ、失礼したな、ダークネス卿と呼んだほうがよかったか。ちょうどよかった。今から―――」
彼女はそっとホログラム姿のギルド長を消すと、無言で会議室から後にしたのだった。
―――アルポ銀河、某宙域。
ギルド長スヴェートからの命を受け、某宙域に存在する軍事要塞よりブリリアンス艦隊が姿を現した。その艦隊は一部を除き漆黒の塗装が施された戦闘艦で統一されており、まさに「漆黒艦隊」であった。
「楽しみだ」
その漆黒艦隊を率いる旗艦〈ダークネス〉の艦橋にて、4号と呼ばれる漆黒の女性は不敵な笑みを浮かべていた。不敵な笑みを絶やすことない彼女は、《ライトセーバー》と呼ばれる光剣を起動する。
現界するは、深紅の光。血のように紅い、原初の光。それを彼女は突き出すように前へと向けると、先程と同じく嬉々とした声音で言い放つ。
「楽しみで仕方ない―――殲滅のメロディを奏でるのが」
ダークネス卿とも呼ばれる彼女の双眼は、黄金色に輝いていた。
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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