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第62話「波動砲の輝き」「愛だよ」
前書き
ネオ・代表05−1です。第62話「波動砲の輝き」「愛だよ」となります。
どうぞ、ご覧ください。
それから数時間が経過した現在、第十一番惑星には夜明けが訪れていた。
空にはガトランティス軍―――第八機動艦隊の巨大な影が見え、長大な円筒形とそれを囲む複数のリングが大量のカラクルム級戦闘艦によって形成されている。
間もなく、かつてガミラスがこの星を開発すべく移送してきた人工太陽が、第八機動艦隊が形成する円筒の側面に空いた穴に入り、カラクルム級が装備する《雷撃端末》によって、地球を破壊するための《レギオネル・カノーネ》のエネルギーへ転換される。
それは、ガトランティスにとって予定通り。
「達する」
だが、その予定を破壊せんとする意志を抱く宇宙戦艦ヤマトは、既に戦闘配備を整えていた。
地表からそう離れていない高度で静止する〈ヤマト〉の頭上には、ガトランティスの新鋭戦艦―――カラクルム級戦闘艦のみで構成されている250万隻の敵艦隊の姿がある。
「―――本艦は只今より、波動砲発射シークエンスへ移行する!」
艦長代理を務める男―――古代進が宣言する。同時に艦内へ向け、その旨を知らせるアラートが鳴り始めた。波動砲発射後の波動エンジン再起動に備え、艦内電力が切り替えられ、艦内の照明は薄暗くなる。
航海長―――島大介から艦長代理―――古代進へ操艦権限が移され、〈ヤマト〉の艦首は軌道上に集結するガトランティス第八機動艦隊へと向けられる。
古代進が握っている照準―――ターゲットスコープには、第十一番惑星の人工太陽が重なっていた。既にガミラス製の人工天体は敵艦隊が形成する砲身内へ進入している。
ターゲットスコープに人工太陽が重なっている理由は、だ。
敵艦隊が砲撃のエネルギー源にしようとする人工太陽を波動砲で撃ち、破壊しカラクルム級戦闘艦の機関を異常発生させる現象―――”波動共鳴”を引き起こす為である。
アドバイザーとして乗艦するキーマンの助言が無ければ、実行には至らなかった。ちなみにそんな彼は今、山本玲と共に夜明けの景色を見ていた。
「総員…対ショック、対閃光防御!」
古代の凛とした声を受け、艦橋内のメンバーは波動砲用ゴーグルを着ける。艦橋窓にも、閃光を和らげる電子スクリーンが展開される。
波動砲のトリガーに、古代の指が掛かる。
その瞬間、彼の胸にはあらゆる感情が去来した。
沖田艦長。
イスカンダルの女王―――スターシャ。
兄の古代守。
様々な人の顔を幻視する彼は、地球を守るため―――波動砲の発射トリガーを引き絞った。
「波動砲、発射ァ!」
瞬間、突入ボルトが圧力薬室へ突き刺さり、光の粒を波動砲口へと集めていた艦首から青白い光の奔流が迸り、一気に第十一番惑星の空を駆け上がる。
そして、ガトランティス第八機動艦隊の内にて、ちょうど”接続”寸前の人工太陽へと突き刺さった…。
―――ガトランティス・第八機動艦隊旗艦〈メーザー〉。
「ど、どうした…?何が起こっている…?!」
白と灰色で複雑に塗装されたカラクルム級の艦橋で、第八機動艦隊を率いる提督―――メーザーは眼前の光景に混乱していた。
後少しで《レギオネル・カノーネ》のコアポイントに接続する筈だった人工太陽が、地球の戦艦〈ヤマト〉より波動砲の攻撃を受けると同時に紫がかった放電光を発し、第八機動艦隊を構成するカラクルム級1隻1隻に纏わりつく。
「何らかの干渉波が、全艦隊の動力部に異常を来たしています!」
「メーザー提督!」
「どうした!」
「人工太陽、崩壊。《レギオネル・カノーネ》の陣、崩れます!」
「そ、そんな…!?」
暴発するエネルギー―――波動共鳴が、《レギオネル・カノーネ》の陣を敷いていたカラクルム級戦艦群へ連鎖、艦隊の端々にまで及んでいく。
メーザーが座乗する旗艦〈メーザー〉も例外ではない。第八機動艦隊に属するカラクルム級は動力部に異常発生し、1隻も残らず操艦不能となっていく。
陣形を組むカラクルム級の群れは1隻、また1隻と死んだように漂って位置を離れる。《レギオネル・カノーネ》を放つために形成していた円筒形は崩壊の一途を辿っていた。
人工太陽も燃え尽きたとばかりに輝きを失い、《レギオネル・カノーネ》へ使用するエネルギー供給が不可能となったのは明白だった。
「…ッ!!」
第八機動艦隊は『《レギオネル・カノーネ》を使用する任』を果たせなかったどころか、その戦闘力の全てを喪失してしまった。その事実を認識したメーザーは表情が歪み、恥辱のあまり拳を握りしめた。
―――ガトランティス。
野蛮にして戦闘種族と称される彼らの母星が何処に存在するのか、ガミラスを含む星間国家は今も分からない。
分からない、それは当然だ。
何故ならば―――常に移動している国家なのだから。
その移動する国家の中枢にて、ズォーダー大帝に近しい高位の者達―――最高位幕僚が《王座の間》と呼ばれる空間に集まっていた。
1人は、艦隊司令長官を務める老年の男―――ゲーニッツ。
1人は、支配庁軍務総議長を務める壮年の男―――ラーゼラー。
1人は、”第七機動艦隊”を率いる男―――バルゼー。
1人は、諜報記録長官を務める老年の男―――ガイレーン。
誰もが口を閉じている中、最高位幕僚の一員である若い女の声音が王座の間に響き渡る。
「波動砲―――バラン星を崩壊させた武器か」
そして最後は、丞相にして巫女である―――シファル・サーベラー。臨席する者の中で、唯一異なる色の肌をする白銀の美女である。
彼らは、〈ヤマト〉が第八機動艦隊を無力化した瞬間を観ていたのだ。そして、互いの反応を伺うかのように、顔を見合わせていた。皆、訝しげな表情を浮かべている。
何故、人工太陽を狙い撃ったのか。波動砲を以ってすれば、《レギオネル・カノーネ》の陣を執っていたカラクルム級戦艦群を薙ぎ払える筈なのに。
いったい何故、それを選択しなかったのか。いったい何故、ガトランティス将兵1人も殺さなかったのか。皆、皆目検討もつかなかった。…ガトランティスの頂点に君臨する、大帝を除いて。
サーベラーが白銀の髪を靡かせ、大帝の姿を仰ぎ見た。彼女に続き、最高位幕僚も頂点に君臨する男を仰ぎ見た。
「…フフっ」
大帝は薄い笑みを浮かべ、目の前に展開されている投影スクリーンを観ていた。頬杖をしているが、退屈の色は一切無い。
この光景に何か御心に触るものがあったのだと、彼らは察した。そして、大帝が見つめている投影スクリーンへ視線を向ける。
『―――逃げろ、ただ逃げろ…と奴は言いました。〈ヤマト〉は何故、我らを生かしたのか』
そこには、第八機動艦隊を率いる男―――メーザーが映っていた。メーザーの顔は、煩悶の色を浮かべていた。
そんな彼を一瞥した大帝は、サーベラーに命令する。
「〈ヤマト〉からの通信を見せよ」
御意、と応えた彼女はメーザーの横に投影スクリーンを展開させた。視線が集中する。そこには、地球人の若い男が映っていた。
『こちら、宇宙戦艦ヤマト。艦長代理の古代進だ』
そう名乗った男は、言葉を紡ぐ。
『今なら、本艦の火力で貴艦らを全滅させる事も出来る。だが、これ以上の戦闘は望まない。黙ってこの宙域から退去して欲しい。そうすれば、我々は貴艦らを攻撃しない』
古代の言葉に、サーベラーを含む最高位幕僚は眉を顰める。こいつは、何を言っているんだ。そんな彼らを他所に、大帝は珍しい動物でも見たかのような目つきとなっていた。
『星は違えど、同じ人間として賢明な判断を求む』
通信はここで終わると共に、最高位幕僚らは考えた。第八機動艦隊すべての機関が停止し、波動砲を向けながらの通信―――勧告だ。機関が復旧し再び航行可能となった際、なおも現宙域に留まれば今度こそ、波動砲を撃つという魂胆なのだろう。
疑問だった。何故、そのような脅しを掛けるのか。
『我らを殺すでもなく…』
それは、メーザーも同じ気持ちだった。彼自身、この勧告を繰り返し再生したのだ。真意がどこにあるのか、を。しかし、それでもなお結論を出しかねた。
『あれほどの火力を保有しながらも何故、戦おうとしないのか』
メーザーの口元が震え始めた。
『理解が、理解が出来ません…!あれは、あれはいったい…っ』
煩悶の色が高まるメーザーに対し、大帝はニヤリと笑みを浮かべた。ククッと喉を鳴らした後、大帝はこう口にする。
「愛だよ」
最高位幕僚が畏敬の眼差しを向けるのに対し、メーザーは意味が分からず怯えた眼差しを向けるのだった。
―――ブリリアンス駐地球大使館・会議室。
ブリリアンス大使館に存在する内の一つ―――その会議室には、2人の女性と生体アンドロイドがいた。
1人は、ギルド長スヴェート。ギルド長は実際にいる訳ではなく、ホログラム姿となってこの部屋にいるのだ。
1人は、ブリリアンス大使―――ラウラこと2号。
そして最後は、機器操作を担当する生体アンドロイド。
彼女らは、ステルス型の偵察フリゲートより送られる映像通信を観ている最中である。
「〈ヤマト〉、ガトランティス第八機動艦隊の無力化に成功」
生体アンドロイドより報されたギルド長と2号は、深く座っていた席から勢いよく立ち上がる。
「ざまぁみやがれ、ガトランティス!!」
「〈ヤマト〉に勝とうなど、100年早いわ!!馬鹿めが!!バーカバーカ!!」
2人の女性は喜びを声を挙げ、バンザイポーズを繰り返したのだった。その後、祝杯した。
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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