バックベアード
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第四章
「別に妖怪でもね」
「驚かないわよ」
「そういえば最初から落ち着いているな」
妖怪は部屋の中から応えた。
「言われてみれば」
「ええ、妖怪でもね」
「驚かないわ」
「そうだな、まあ別にな」
妖怪はそれでもと返した。
「落ち着いているならいい」
「そうなのね」
「あんたとしても」
「うむ、しかしな」
それでもとだ、妖怪は二人にこうも言った、
「日本は確かにいい国だ」
「暮らしやすいと聞いて来てみたら」
「そうなのね」
「わしは元々ニューヨークにいた」
アメリカのこの街にというのだ。
「あの街もいいが大阪もいいと聞いてな」
「移住してみたのね」
「そう聞いて」
「すると実際にいい街でな」
明るい声で言ってきた。
「ずっといたい、こちらの顔役とも親しいしな」
「大阪の妖怪の」
「顔役っているのね」
「ここのすぐ近くのな」
妖怪は二人にすぐに話した。
「安倍晴明神社におられるぞ」
「ああ、あそこになの」
「同じ阿倍野区の」
「そうだ、あそこの九尾の狐殿がな」
この妖怪がというのだ。
「大阪の妖怪のまとめ役なのだ」
「そうだったのね」
「あそこにそんな妖怪さんいたのね」
「そういえば安倍晴明さんって狐に縁あったわね」
「お母さんが狐だったそうだし」
「そうした話があってな」
それでというのだ。
「あちらは狐の社でな」
「それでなのね」
「あちらに大阪の妖怪さんのまとめ役がいるのね」
「その狐殿とも懇意になって」
そうしてというのだ。
「楽しく暮らしておる」
「この大阪で」
「そうなのね」
「いい街だ」
満足している言葉だった。
「大阪はな」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
「私達にしてもね」
「大阪生まれの大阪育ちだし」
「それじゃあね」
「そうだな、しかしな」
妖怪はこうも言った。
「一つ気になることがある」
「っていうと?」
「何が気になるの?」
「大阪の夏は暑いな」
少し苦笑いになっての言葉だった。
「どうも」
「それはね」
杏奈は妖怪の今の言葉に否定せずに答えた。
「確かにね」
「これが大阪の夏なのよね」
美嘉も言った。
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