リュカ伝の外伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
世の中そんなに自信に満ち溢れている人ばかりじゃ無い
(グランバニア王都:中央地区・アマン・デ・リュムール)
リューナSIDE
少しだけ値段は張るのだが、味に関しては自信が持てる“アマン・デ・リュムール”!
そこで最初こそはアルバイトのウェイトレスとして働いていたリューノ。
元々料理に興味があり、親交のある近衛騎士隊長のラングストンさんに習っていた為、短期間で“ウェイトレス兼パティシエ”になる事が出来、現在ではファンも居るくらいの人気パティシエになっている。
かなり目立ってきたお腹を愛おしげに摩りながら仕事をしている。
店長を含め、お店の同僚も妊娠の事は理解しているから互いに支え合い業務を行っている。
しかも殆どのお客さんが彼女の妊娠の事は知っているので、誰も強引な事等はしないし言ってもこない。素晴らしい職場である。
まぁ、まだ彼女は学生であり……
本来ならばアルバイトとしての立場しか貰えないのではあるが、色んな事情と力が働いて、この若さで社員扱いとして普通に仕事をしている。
日曜日ではあるものの一人でお店に訪れた私に気付いたリューノが、気を利かせて店の奥にあるあまり目立たない席へと案内してくれる。
彼女は本当に気が利くイイ女ってやつだ。
私は簡単に、サンドウィッチとケーキセットをオーダーし、暫しの間料理の到着を待つ。
そして到着した料理を私の血肉へと変換させる。
本来ならばそこで私のランチは終了なのだが、今回は相談があっての来店だったから、私は小声で『仕事、何時に終わる?』と確認し、仕事終わりに会う約束を取り付けた。
彼女のその日のシフトは9:00~17:00だった為、まだ12:30を過ぎたくらいじゃ終わりそうに無かったのだが、アマン・デ・リュムールの店長“アントワーヌ・ドゥバイヨル”さんが気を利かせて『ランチタイムが過ぎて客足が遠退いたら、15:00頃までなら長時間の休憩に入って良いよ』と許可を出してくれて、結果的に13時過ぎたくらいから、お店の奥の人目に付かない様な席でリューノに相談する事が出来ました。
勿論相談内容は近日中にご挨拶をさせてもらうラッセルのご両親の事だ。
「な、何が問題なの?」
リューノに相談内容を伝えた結果の反応が今の台詞。
「だ、だって……」
思わず言い淀んで言葉に詰まる。
「言っちゃなんだけど、私達って遺伝子のお陰で容姿的に随分と優遇されているわよ!」
確かにその点は気付いているけど……
「それって自分の努力じゃ無いわよね。私もリューノも父親の遺伝子が良いからの結果でしょ? 序でに付け加えちゃえばお互い母親も美人じゃん。私達自身の努力は何処にも存在しないのよ!」
「自分の努力が感じ取れないから美貌の部分は却下って言うのなら、リューナには沢山の努力結果があるじゃない!」
「私の努力結果!?」
「そうよ……MP然り、MG・MB等の最新鋭の楽器然り……しかも、それらを売り出す為に起業して社長に就任したり凄く努力を窺えるけど……リューノ的にはこれは努力じゃ無いの?」
「それなのよ……私が気になってるのは!」
「どれなのよ?」
「MPやMG・MBの大本のアイデアは全部プーサン社長だからね!」
「つまり自分は何もしていない……と、言いたいの?」
「そうよ。社長就任に至っては完全にプーサン社長の後ろ盾が無きゃ就任して無いからね!」
「ちょっと如何したのよ……何時もの貴女らしくない!? 何時もなら自信に満ち溢れてて訊いても無いのに開発した物の事を語り出すのに? 何があったのよ!」
「『訊いても無いのに……』って、私ってばそんなに鬱陶しい?」
「えっ……? いや……まぁ……流石に言い過ぎたかもしれないけど、普段だったらもっと自信に満ちているからさぁ……」
「そ、そうかしら……?」
「でも私に言わせてもらえれば、現状で開発した品々だけで十分に努力の証だと思えるけどね」
……全部お父さんの発案なんだけどなぁ。
「“全部お父さんのアイデアだぁ~”とか思ってるでしょ?」
「う、うん。事実だし……」
私には何一つとして思い付かない品々よ。
「発案者が誰であるのかも重要だけど、アイデアを見せられて、それを具現化にしちゃうのって凄い事だと思うわよ。それはそれで高い具現化の能力なワケだし、それを努力と言っても間違いじゃ無いと思うわ」
「そ、そうかしら? でもラッセルは漫画と言う世界に人を登場させて物語を作って、キャラ達に人生を与えて、世界観を作り出しちゃってるわ。お父さんに言われたモノをそのまま作るのでは無く、完全に自分の力だけで一つの世界を作り上げてる。私には……」
「う~ん……ラッセンさんだって王様に言われるがまま描いてるところが在るとは思うんだけど?」
「それはリューノがラッセルの全てを見た訳じゃ無いから、見えてない部分でそう考えちゃうのよ! 凄いのよ。次の日は授業があるってのに、夜中まで漫画の事を考えて机にしがみ付いて描いてるんだから」
「でもそれは仕事だもの……仕方ない事でしょ? リューナだって同じ事をしてるわよ! その結果が今の発明品の数々なワケだから、貴女は何も恥じる事無いわよ! 努力して、努力して……その結果を発明品として世の中に生み出し届けているんだから……大丈夫よ。貴女はラッセンさんに引けを取ってないわ!」
「ありがとう。少し自信が出てきたわ」
「何が『少し』よぉ……昨今世の中に浸透してきた魔道具は貴女無しじゃ世に出る事は無かったのよ!」
「そうかしら? 何も私じゃ無くても……」
「それは否定しないけど……訊いてるわよ、魔道車の追加装備の事。貴女からの提案だったんでしょ?」
「マジック・防護・装置の事?」
「そうよ! それそれ!! リューナが最初に言い出したんでしょ!?」
でも、私の提案は却下だったしなぁ……
「でもね私は『万が一の事故に備えて、魔道車に衝撃が加わると発動する魔法を、魔道石に封じて魔道車の内部に搭載しましょう。それで私の思い浮かんだ安全対策の魔法は“アストロン”でして、この世界では王太子夫妻が使用出来ますので、未来を見越して魔法を確保させて貰いましょう』って提案なのよ」
「それが……何? 凄い事でしょ?」
「でも陛下には却下されたわ」
私より視野が広いのよ。
「陛下はね『確かに魔道車が何かに猛スピードで衝突すると、中に乗っている人は凄い衝撃を受ける。“アストロン”の魔法なら魔法の効果で全身が鋼鉄になり、何処にぶつかろうが魔道車が爆発炎上しようが完全に無事だろう。でも考えてくれ……その魔法は効果が切れる。そうなった時その者は危険なんじゃないだろうか? 運悪く乗っていた魔道車が事故後に爆発炎上した為、魔法の効果が続いてる間は鋼鉄になり守られていたが、効果が切れた途端その人は炎に包まれて大変な事になる』って……言われて私も気付いたわ! “アストロン”って魔法は効果が持続している間は、指一本ピクリとも動かせないって事に!」
「……で、現状の装備に?」
「そうよ。 魔道車に安全対策の標準装備として魔法を込めた魔道石を搭載させるんだけど、それは“スクルト”って魔法になったの。この魔法なら重ねがけも出来て大幅に搭乗者の防御力を向上させる事が出来、それでいて魔法の効果中に動く事が出来る。命を失う可能性が大幅に減ると思われるわ」
「これは完全にリューナのお手柄でしょ!」
「何がよぅ……私の魔法は却下されたのよ!」
「十分でしょ! リューナは完璧を求めすぎなのよ」
「でも常識的に考えれば魔法はあり得ないわよ……何で私は魔法をチョイスしたのかしら?」
「兎も角はさ、リューナのお陰で魔道車に事故が起きてしまった時用の緊急事態対応装備が施される様になったんだし、リューナの努力の賜である事は誰にも否定は出来ないしするやつが居るとは思えないわ」
「……そ、そうよね。初対面とは言え、ラッセルのご両親に嫌われる要因だとは私も考えないわ。でも彼氏の両親に挨拶するのってこんなにも緊張するモノなのね……」
「因みにラッセンさんのご両親って、如何な人物なのか訊いてはいるんでしょ?」
「まぁ……概要は……」
彼氏の両親の事を訊かれて“概要”って言葉のチョイスはセンス最悪ね!
「何でも実の父親とは幼い頃に死別なさったと……その為10年近くは母子家庭で育ったのだそうよ。王都よりやや北東にある草原地帯が彼氏の故郷『ホックワルト村』と呼ばれている小さな村だとか……」
「あら、王都からもそんなに遠くはないんじゃないのかしら?」
「そうね。微妙に場所が王都よりか北に位置するから、若干南の“グラント村”に線路が引かれちゃって、少しだけ遠回り感は否めないけど……行こうと思えばほぼ日帰りで旅行が出来る綺麗な村だと聞いてるわ。変な風習のお祭りもあるって……」
物資流通の観点で、既にその村には舗装された道路が敷いてあり、その村のお祭りを盛り上げるのに行く事はそんなに苦痛ではない。
そのお祭りなのだが、男女が互いに別の性別になり、美しくなって自慢し合うのが目的なお祭りだそうだ。
「ラッセルのお母様……つまり私のお義母様も、過去にだが3回程優勝をした事があるらしい。別に参加者人数が少なくて優勝出来たわけじゃないわよ。彼氏の母子は祭りが近付くと、息子が母親の男装した絵を描き当人に相談するのだとか……そこからだろう、ラッセルが実際の物を見なくても描けちゃうのは……」
つまり幼い頃から練習してきた……ある意味で英才教育だったのだろう。
さて、私も腹をくくるしかないわね。
未来の義両親に挨拶するのだから!
リューナSIDE END
ページ上へ戻る