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八条学園騒動記

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第七百二十三話 狼へのイメージその二

「別に人は襲わない」
「そうなっていますか」
「そもそも狼は人を襲わないからな」
「だからですね」
「狼男もな」
「人を襲わないですか」
「人を襲う獣が家畜になるか」
 そして犬になるかというのだ。
「考えたらわかるな」
「そうですね」
 上等兵もそれはと頷いた。
「言われてみますと」
「だから連合ではな」 
 この国ではというのだ。
「狼は嫌われるどころかな」
「有り難い獣としてですか」
「愛されてさえいる」
「では狼と三匹の子豚でも」
 上等兵は今度はこの童話を思い出した。
「子豚達を狙っていますが」
「連合でも確かに子豚達を狙うが」
 それでもとだ、大尉は答えた。
「死なない、懲らしめられてだ」
「終わりですか」
「他の童話でも同じだ」
「七匹の子山羊や赤ずきんちゃんでも」
「狼少年でも嘘吐きの少年自体は襲われない」
 エウロパの原典では羊達だけでなく少年も襲われる。そして八つ裂きにされて食べられてしまうのだ。
「羊が襲われるだけで終わりだ」
「やはり人は襲われないですか」
「むしろ狼が出るならな」
「畑が守られるので」
 畑を荒らす獣達を食べてだ。
「いいのだ」
「それが連合ですね」
「だから日本語ではな」
 この国の言語ではというと。
「大きな神、大神なのだ」
「だから『おおかみ』ですね」
「そう呼ばれているのだ」
「日本はかつては完全な農耕社会だったので」
「田畑が何よりも大事でな」
 そうした社会だったからだというのだ。
「畑を荒らす獣は厄介者でだ」
「その獣達を食べてくれて人は襲わない」
「そうした獣だからな」
「有り難く思われて」
「大いなる神とさえ呼ばれたのだ」
「そうですか」
「それはおおむね連合全体がそうなっている」
 この国もというのだ。
「根幹が農耕社会だからな」
「それで、ですね」
「狼はそうした生きものだ」
「だから動物園でもですね」
「人気があるのだ」
「親しまれていますね」
「そして強い」
 この面も認められているというのだ。
「それが狼の評価だ」
「連合の」
「いい生きものだ」
「エウロパとは違いますね」
「モンゴル人は自分達の子孫と言っている」
 彼等はというのだ。
「青き狼と白き牝鹿だ」
「モンゴル人は彼等の子孫ですか」
「トーテミズムの考えでな」
「モンゴル人は狼と鹿の血を引いているのですね」
「伝承でそう言われている」
「ではモンゴルでは狼は」
「連合各国の中でも特に狼が人気がある国だからな」
 そうであるからだというのだ。 
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