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イベリス

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第百二十話 大きく深くなっていく想いその十一

「それで犯罪者じゃなくてもね」
「所謂嫌な奴がいる」
「そして卑しい奴もね」
「そうしたことも覚えておかないとね」
「ちゃんとね」
 皆でこうした話をしてだった。
 咲はこのことも覚えておくことにした、そうしてアルバイトも出て太帰りにあの交番の前を通った、すると。
 彼はいなかった、それで咲は残念に思って家に帰った。そうして家に先に帰っていた父にため息交じりに言った。
「何時でもって訳にもいかないのに」
「いきなり何言ってるんだ」
 お風呂から上がったばかりの父はこう返した。
「何かあったのか?」
「まあちょっとね」
 少しはぐらかして答えた。
「何ていうか」
「別に悪いことじゃないな」
「そんなんじゃないから」
 このことは事実なのであっさりと否定出来た。
「別にね」
「そうか、じゃあいいけれどな」
「いいの」
「悪いことしていないならな」
 それならというのだ。
「それならな」
「そうなのね」
「ああ、それでな」 
 父はさらに言った。
「別にな何時でもっていうのはな」
「ないのね」
「毎日予定通りとかな」
「いくものじゃないのね」
「そうだぞ」
 こう言うのだった。
「晴れる日もあればな」
「雨の日もあるわね」
「そうだからな」
「お天気も違うし」
「それにな」
 父はさらに言った。
「いきなりな」
「何があるか」
「わからないわね」
「世の中はな」
「だからなのね」
「毎日いつも通りなんてな」
 そうしたことはというのだ。
「ないんだよ」
「そうなのね」
「毎日同じことの繰り返しなんてな」
「それもないのね」
「仕事していて急に雨が降ってな」
 父は笑ってこうも言った。
「そこで仕事するとかな」
「あるの」
「あるぞ、お父さんの仕事でもな」
「お父さん今ガソリンスタンドにいるけれど」
 店長をしていることは咲も知っている。
「そこでもなのね」
「ああ、屋根はあるけれどな」
 ガソリンスタンドにはというのだ。
「その範囲が限られてるだろ」
「そんなところで雨が降ってきたら」
「やっぱり嫌なんだ、けれどな」
「雨が降ってきて」
「そこでお客さんの車にガソリン入れることだってな」 
 そうなることもというのだ。 
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