八条学園騒動記
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第七百二十話 夜の鳥達その六
「その時点でな」
「それも現実ですね」
「そうだ、どうしてもな」
「不可能なこともありますね」
「ナポレオンは不可能なことはないと言った」
自分の辞書にその言葉はないと言ったのだ。
「しかしな」
「それでもですね」
「そのナポレオンもだ」
「不可能なことはありましたね」
「だから最後は敗れた」
ワーテルローにおいてだ。
「その前のロシア遠征でもな」
「ライプチヒの戦いでもですね」
「彼は二人の政権の柱をつなぎ止められなかった」
「そうだったのですね」
「タレーランとフーシェをな」
それぞれ外交と内政の中心人物であったのだ。
「この二人は極めて有能だったが倫理観はなかった」
「ナポレオンへの忠誠心もですね」
「フランスという国にはあったがな」
それでもというのだ。
「ナポレオン個人にはな」
「忠誠心はなかったのですね」
「あったかも知れないがそれよりもだ」
彼個人へのそれよりもというのだ。
「自身のことにフランスへの忠誠心がだ」
「勝っていたのですね」
「二人共平然と政敵を陥れ賄賂を執ったり汚職もしていた」
「悪人だったのですね」
「生粋と言っていいまでのな」
二人共少なくとも政治的倫理観は見られなかった。
「能力は高いが」
「政治的倫理観のない」
「その彼等をだ」
「つなぎ止められなかったのですね」
「それは出来なかった」
即ち不可能だったというのだ。
「これがな」
「不可能だったのですね」
「あの二人には忠誠心がなかった」
ナポレオンへのそれがというのだ。
「そもそも政治的に倫理観がな」
「なかったのですね」
「二人共私人としてはよかったそうだが」
タレーランは親睦のある人物が多くフーシェは優れた教師として多くの学生達に慕われていたのだ。
「しかしな」
「政治家としてはですか」
「全くだ」
それこそというのだ。
「信用出来なかった」
「そうだったのですか」
「悪人も悪人でだ」
大尉は剣呑な目で話した。
「歴史上あそこまでだ」
「悪人もいないですか」
「狡猾でモラルのないな」
そうしたというのだ。
「非常に危険なだ」
「悪人達でしたか」
「謀略家だった」
「そうした意味の悪人ですか」
「躊躇なく相手を陥れてだ」
それが無実の者でもだ。
「ギロチン台に送り平然としていた」
「そうした悪人達でしたか」
「しかも知力と政治力はナポレオン以上だった」
英雄と言われた彼以上だったのだ。
「恐ろしいことにな」
「あのナポレオン以上ですか」
「彼のことは君も知っているな」
「はい」
上等兵は緊張した顔で答えた。
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