イベリス
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第百十九話 秋という季節その六
「その人が自分が死んで残念と思うのを見て」
「そうしてですか」
「わかるんだよ」
「そうですか」
「その人が自分のお友達だとね」
そのことがというのだ。
「わかるんだよ」
「お互いですか」
「残った人も死んだ人もね」
どちらもというのだ。
「わかるんじゃないかな」
「お友達は」
「お互いが生きている時はわからなくて」
そしてというのだ。
「そのうえでね」
「死んだらですか」
「片方の人がね」
「その時にわかるものですか」
「そうも思えて来たよ」
咲に遠い目になって言うのだった。
「僕はね」
「そうですか」
「ちょっとね、中学時代の友達がね」
「まさか」
「夏休みの間に事故でね」
悲しい顔で言うのだった。
「そうなってね」
「それで、ですか」
「今思うんだよ」
「そうですか」
「彼は僕の友達だったんだって」
その様にというのだ。
「彼が死んでね」
「思う様にですね」
「なったんだ」
「そうですか」
「いや、本当にね」
さらに言うのだった。
「これは僕だけの考えかも知れないけれど」
「それでもですか」
「そうもね」
「思われてますか」
「どうなんだろうね」
部長は咲に自分に問う様にして言った。
「友達の概念ってね」
「片方だけ思ってじゃないですね」
「それは間違いないしね」
「そうですよね」
咲もそれはと頷いた。
「片方の人がお友達と思っても」
「もう片方の人が思っていないとね」
「違いますね」
「こうしたことも考えてね」
そのうえでのことだというのだ。
「僕はそうじゃないかなってね」
「お考えですか」
「うん、お互いが友達と思ってるかなんてわからないし」
「相手の本心ってわからないですよね」
「自分の本心は自分にしかわからないよ」
「言葉は建前だったりしますし」
「本心はね」
それこそというのだ。
「自分自身にしかだよ」
「わからないもので」
「それでね」
「そうお考えですか」
「そうなんだ、それでね」
部長は咲にさらに話した。
「友達について僕は最近考えてるんだ」
「一体どんなものかって」
「そうね」
実際にというのだ。
「考えてるんだ」
「そうですか」
「どうなのかな」
部長は考え続けながらまた言った。
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