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イベリス

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第百十六話 交番に寄ってその八

「そのままね」
「磨くことですね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「だからね」
「まずはですね」
「努力して」
「経験を積んで」
「大人になりたいなら」
「それが一番ですね」
「そうよ」
 こう咲に言うのだった。
「まさにね」
「それで私も」
「そうよ」
「努力ですね」
「それをして」
 そしてというのだ。
「また言うけれど」
「大人になることですね」
「そうしていってね」
「そうします」
 咲もたしかな声で応えた。
「私も」
「まあ私も偉そうなこと言えないわね」
 先輩は苦笑してこうも言った。
「このことは」
「といいますと」
「だってまだまだだから」
 それでというのだ。
「自分をそう思っているからよ」
「至らないところが多いってですか」
「そうよ、人生の経験も勉強もまだまだで」
 咲に今しがた話したこのことがというのだ。
「浅はかだしね」
「考えが足りないですね」
 浅はかと聞いてだ、咲はこう返した。
「つまり」
「そうよ、本当にまだまだよ」
「そうなんですか」
「人間としてね」
「ですが」
 咲は先輩の話をここまで聞いて言った。
「私聞いたんですが」
「どうしたの?」
「はい、何の経験もない人程自分は偉いって思うって」
 神戸の本校の方で有名な話を思い出しつつ話した、八条学園を経営する家が信者であり天理教の教会の関係者のことをだ。
「聞いています」
「井の中の蛙ね」
「そうしたものだって」
「じゃあ私はそれなりに経験を積んでるから」
「そう思うんじゃないでしょうか」
「知れば知る程自分が知らないことを知るってことね」
「そうじゃないですか?」
「そうね、それはね」
 どうしてもとだ、先輩も応えた。
「言えるかもね」
「そうですよね」
「何も知らないと」
 それならというのだ。
「無知程怖いものはないっていうし」
「勝手に勘違いもしますね」
「自分は偉いってね」
 その様にというのだ。
「下手をすればこの世で一番ね」
「お釈迦さんやキリストさんよりもですね」
「どういう訳かね」
「お釈迦さんより偉い人って」
「いる筈ないでしょ」
「生きてる人で有り得ないですよね」
「キリストさんもね」
 先輩は白湯に眉を顰めさせつつ話した。 
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