イベリス
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第百十六話 交番に寄ってその九
「絶対と言っていいわ」
「偉い筈がないですね」
「今生きている人達の中でも」
「偉い人沢山いますよね」
「そんな人達を知らなくて」
そしてというのだ。
「自分が至らないっていう経験がないから」
「そう思うんですね」
「それで勝手にプライドだけ大きくなって」
自分の中のそれがというのだ。
「そうしてね」
「そうなるんですよね」
「そうなったら」
それこそとだ、先輩も言った。
「駄目よね」
「人として」
「じゃあ私は」
「経験を積まれてるから」
「まだ至らないって思ってるのね」
「ご自身が。若しかして」
咲は考える顔でこうも言った。
「人間って経験を積めば積む程」
「ものごとを知っていけば」
「自分はまだまだだって」
その様にというのだ。
「思うんじゃないでしょうか」
「世の中物凄く広くて」
「色々あって」
「色々な人もいるってなのね」
「知るんじゃないでしょうか」
こう言うのだった。
「若しかして」
「そうかもね」
先輩も否定しなかった。
「人間って」
「そうですよね」
「ええ、人間って」
まさにというのだ。
「知れば知る程ね」
「自分が知らないってわかってきますね」
「人間の知識って大海の中のスプーン一杯で」
その程度に過ぎずというのだ。
「人間自体が大海の中の葦よ」
「一本の」
「そんなちっぽけなものでしょうね」
「そんなものですね」
「そうしたものだって知ることもね」
「大事ですね」
「それがわかるのも大人かしら」
咲に考えつつ述べた。
「やっぱり」
「そうですか」
「そしてね」
それでというのだった。
「どんどん経験を積んで学んでいく」
「それも大人ですか」
「そうかもね」
「大人の基準がわからなくなってきました」
咲はここまで話してそうなった、それで首を傾げさせつつ言った。
「一体どういうことか」
「まあ人間としてある程度成長した時点で」
「大人ですか」
「そして大人になってからもね」
「成長していくんですね」
「大人になって終わりじゃなくて」
そうでなくというのだ。
「そこからね」
「さらにですね」
「学んでいくのがね」
それがというのだ。
「大人でしょうね、何の経験も積んでいないのにふんぞり返ったら」
「大人じゃないですね」
「何歳でもね」
「お爺さんお婆さんでも」
「お年寄りになっても」
例えそう呼ばれるまで年齢を重ねてもというのだ。
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