リュカ伝の外伝
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とあるメイドの追憶
前書き
あけましておめでとうございます。
本年もリュカ伝共々宜しくお願い致します。
(ラインハット城)
私はラインハットのメイドと執事の娘として生まれ、そして同じく王家付きのメイドになった。
デール陛下と同い年という事もあり、最も近くでお仕事をさせてもらっている。
と言ってもふしだらな感情を抱いた事は一度も無い! 本当よ!!
デール陛下が王子であった時から、兄上様のヘンリー陛下(当時は殿下)の悪戯には困っていたモノだが、今では良い思い出である。
陛下共々“ラインハット動乱”と呼ばれる時期を乗り越えた事に誇りを持っている。
動乱を超えた後もデール陛下が正王として即位し続け、あの悪戯坊主だったヘンリー陛下が副王として王家を支えているのも心から尊敬できる。
奴隷というお辛い体験をしたであろうが、それが良い方向へ成長を促してくれた。
グランバニア王国には悪い事をしたと思っている……
幼いデール陛下への愛情と、その愛情を利用した魔物の所為ではあるのだが、時の王を罪人扱いし、更には当時の王子をも誘拐させて奴隷にしてしまった事は、幾ら謝罪しても足りる事は無いだろう。
だがそれでも、私はあの国が嫌いだ!
名も聞かぬ小国であったクセに、今では我が国を越える大国へと名を馳せ……
それだけなら現国王(当時の王子)の努力であると思えるが、当時の事を蒸し返してはデール陛下やヘンリー陛下に横暴を働く。
剰え……
あの可愛らしかったコリンズ様を誑かし、ちゃっかり王太子妃の地位に収まったのは、あの国の王女である!
見た目が良い事は認める。血筋が良い事も認める。だがあの性格である!
幼き日に仕掛けた可愛らしい悪戯……“子分の証を取ってこい”という他愛も無い悪戯に、過去に体験した事のある父親に泣きつきズルをして攻略をする。
その事でマウントを取り、随時高圧的に接する。
更には色仕掛けで手を出させておきながら、王族にあるまじき事後の姿で城内を闊歩し、既成事実を周囲に知らしめるというイヤらしい行為!
そんな状態に常識的な対応をするお父上(ヘンリー陛下)にもマウントを取る態度。
私は心の底からあの女には嫁いできてほしくなかった……が、例の既成事実が覆る事も無く、あの女はコリンズ様の下に嫁に来た。
所詮は小国の下品な小娘だと思い、私が躾直してやろうと気持ちを切り替える。
コリンズ様と小娘の結婚式も終わり、正式にラインハット王家入りを果たし、王太子妃として初対面の挨拶時……
私は生まれた下賤な小国とは違う事を教えてやろうと『今までの様に無教養で生活できません事を理解願います』と言ってやった。
だが小娘は『あら……それは私に対しての宣戦布告でしょうか? 手加減致しませんわよ♥』と嬉しそうに返される。
一体如何言う神経をしてるんだ!?
少しでも摩擦を避けるべく大人しくするのが一国の姫君であろうに!
初戦はテーブルマナー……
王家の者として最低限の作法は心得ていて当然。
だがこの女のマナーは最悪だった。
音を立てて食べる……
他者の皿の物に手を出す……
これはまだ序の口。
食事中にベラベラ喋る。
しかもその内容が下ネタ。
一人先に食事を終えると平気で『ちょっとおしっこ』と言って席を立つ。
他にも挙げればキリが無い。
だが最悪だったのは、これらの行為が私に対しての当て付けでしか無かった事だ!
既に有力貴族方との食事会が予定されており、この女のテーブルマナーの悪さが露見される事は不可避であった。
当然これまでの私との講習会は他のメイド等を通じて噂となり、食事会に参加する貴族方には知れ渡っていたのだが……
いざ当日になると、この女は完璧なテーブルマナーで王太子妃としての好印象を見せ付けた。
噂の真相が気になっていた貴族の令嬢が、その場の会話で作法の事を聞いてくると……
『そうなんですよ。我が国……いえ、故郷のテーブルマナーと違うらしく、この国の教育係には常々叱られております。しかし染み付いてしまった作法は中々抜けず、今も教育係のメイドは怒り心頭でございましょう』
そう言って私をチラリと見やる。
いや、私にだけ視線を送るのならまだ許せるのだが、デール陛下やヘンリー陛下にまで視線を向けて“間違ってる作法を教えている”という印象を貴族方に与えたのだ。
食事会が終了した後……
王家が一堂に会してる場で私に『非常識を演じるには常識を熟知する必要があるのよ。喧嘩を売る相手を間違えましたわねぇ(大笑)』と嘲笑ってきやがった。
後日、この娘の父親が来た際に、ヘンリー陛下がこの時の事で苦情を入れる。
すると父親は……
『そりゃ王族の姫君に再度テーブルマナーを教え込もうとすれば馬鹿にされてると感じて逆襲されるよ。馬鹿なの? お前は馬鹿なのかいヘンリー君?』
とヘンリー陛下をも馬鹿にする父親!
更に小娘も『あらあら……貴女が私に敵対するから、敬愛する国王陛下が田舎の小国に馬鹿にされてますわよ』と言い放つ。
私は顔から火が噴き出しそうで俯くしか出来ない。
しかしながら小娘に感謝をした事もある。
それでも“終わってみれば感謝……かな?”くらいの感謝だが!
そう……あれは夏。
グランバニアよりも北に位置するラインハットは、年間を通しては気温が低い。
それでも夏場は暑く、風の無い日などは地獄に感じる。
貴族の中には、夏は避暑地から出てこない者も居るくらいだ。
だが故郷よりかは涼しいはずであろうに、この小娘は夏に弱い。
如何やら実家では魔法技術によって、夏は涼しく冬は暖かい環境を作り出しているらしい。
何とも腑抜けた環境だろうか!?
その為か暑さを我慢する事が出来ず、若い男性兵士が居る前であろうと平気で肌を露出させるのだ!
最初こそは長いスカートをバタつかせて太股をチラチラ見られる程度の状況で我慢していたが、暑さが増すにつれてスカートの丈は短くなり、終いにはキャミソールにホットパンツという出で立ちで闊歩する様になった。
内面は兎も角、外見は極上な女なのだ……
若い男共にとっては地獄の様な光景であろう。
何よりも腹立たしいのは、私が注意すればするだけ露出度を上げていく事だ!
私も我慢が出来なくなり、涙ながらにヘンリー陛下に訴えた。
陛下にも目に余る物があったらしく、即座に注意をしてくれた。
だがこの小娘は悪びれる事無く……
『じゃぁグランバニアから魔道空調機器を輸入して下さいよ。動力になる魔力は私が責任を持って込めますから』
と言って、あの小国に頼る様に具申。
ヘンリー陛下は義理の娘の目に余る痴態を鑑みて致し方なくであろうと思われるが承諾。
ラインハット城内の各所にグランバニア王国製の魔道空調機器が設置された。
悔しいが我が儘娘が腑抜けになるのも頷ける性能。
年間を通じて城内は適温を維持される様になり、快適に従事できる様になった。
この時ばかりは小娘に感謝した……が、噂を聞きつけた貴族方も挙って魔道空調機器を輸入する事になり、あの小国に資金が流れる事になってしまった。
性格の悪い小娘の事だ……これを狙っていたのだろう。
これだけでも本来であれば許されない事態なのだが、数ヶ月後に困った事へと陥る。
人間という物は便利な技術に慣れてしまうと不便な時代には戻れなくなる。
城内各所の環境が整うと、もうそれ無しでは堪えられなくなる。
それなのに、何やら実家が緊急事態という事で、約一年程ではあるのだが小娘がグランバニアへと帰国した。
あの破廉恥娘が居なくなる事に本来であれば喜ぶべきなのだが、導入した魔道空調機器に魔力を込める者が居なくなってしまったのだ!
正確に言えば魔力を込められる者は少数であれば居るのだが、その全員が小娘に比べ魔力量が大幅に少なく、人数も少なすぎて城内全域の魔道空調機器に魔力を行き渡らせるには至らない。
国中から魔力量の多い者を雇い入れるとなれば、それはそれで多大な予算を割かなければならない。
あの小娘が動力に関しては責任を持つと豪語したからこそ、一時の出費に目を瞑り導入した機器であるのに、責任を持たずに帰国してしまったのだ。
私を含め城内の者が数人でヘンリー陛下に意見具申をしたのだが、何でもあの小娘の父親が突然異世界に囚われてしまい、それを救出する為に王位継承権を持つ者が数名不在になってしまった為、血の濃い小娘が出戻る事になったそうだ。
知った事では無い!
本来であれば、そんな他国の事情に我が国が振り回されるのは間違っていると思われるのだが、デール陛下もヘンリー陛下も彼の国には気を使っておられ、最大限協力をする姿勢で国政を行っている。
本当に厄介な小娘である。
居れば居るで迷惑を掛け……居なければ居ないで迷惑極まりない。
コリンズ殿下は何故にあんな小娘を気に入ったのであろうか!?
先程も言ったが、一年程で事態は収束し日常を取り戻した様だが、その割にはあの国の傲慢さは変わらなかった。
これほどまでに我が国が尽力してやったにも関わらず、あの国の王はヘンリー陛下に対して態度を改めない。
私は我慢できずヘンリー陛下にコッソリとその不満を告げた。
だがヘンリー陛下からは『俺もそう言ったんだが、奴からは“文句はアリアハンに言え”って返されてな』と……
何故に新興国家が関係するのか解らない。
しかもアリアハンが建国されたのは、グランバニア王が戻ってきた後だ。
全くの無関係である他国に責任を擦り付けるなど言語道断である!
とは言っても、これ以上ヘンリー陛下に文句を言っても、ただただ困らせるだけである事は理解出来る。
私も馬鹿では無いのだ。
あの小娘の扱い方も慣れてきた事だし、私が大人しくする事で収束させよう。
そう……私が大人しくしてやれば良いのだ。
あの小娘は刺激しないに限る。
ラインハット王家の品位を下げる行いに、何度か激怒はしたモノの……最近は折り合いを付けて過ごしている。
そう……思っていた時期もありました!
あの小娘は遂にやってしまったのだ!
我が国にとって非常におめでたい事に、あの小娘も生物学上の女であった事が証明され、コリンズ様のお子をその胎内に宿したのだ。
これはとてもめでたい事。
誰もがそう思い、私も例外なく喜んだ。
噂は直ぐに国内に広がり、各貴族方からは祝報も届く事多数。
母親の外見だけは極上であるので、お生まれになるお子は美形である事疑いない。
そんな事情を各貴族方にお披露目する為に、多忙な政務の合間を縫って“王太子妃御懐妊祝賀パーティー”を催す事になる。
本来ならもう少しお腹の目立たないタイミングで開催するべきではあるのだが、多忙極まる都合で些か時期が遅れてしまい、それなりに御懐妊が目立つ状態での開催となる。
尤も、御懐妊を祝う為の会であるのだから、それ自体は問題にはならない。
問題になるのは新米母親の性格だ。
何度でも言うが、黙って大人しく会場の置物になっていれば極上のビスクドールであるのだから、お客方の目を楽しませる事は間違いないのに、基本的に大人しく出来ないのが大問題なのだ。
事件はとある有力貴族一家が会場入りしてから巻き起こる。
有力貴族の名はネル子爵家。
現在家長であるネル子爵(父親)は足を悪くしていて一線を退き来場していない。
その為、子爵家の家督を継いだも同然の長男“ミザン・ファン・ネル”が代表としてヘンリー陛下に近付き挨拶をする。
その光景を遠巻きに美しき壁の花となった主役の新米母親が見詰めていた。
本来であれば女が出しゃばるべきでは無い。
ちゃんと解っているらしく、自分が主役である事を主張する事無く大人しくしていた。
ネル家の四男が近付いてくるまでは……
贔屓目に見てもネル家の四男に問題があった事は否めない。
事もあろうに懐妊パーティーの主役である女を、平然と口説き始めたのだから!
だが淑女であるのならば、社交辞令として受け取り穏便に事態を流せば良いのに……
この女は『身重の人妻をナンパするなんて良い度胸ね。アンタ自分の立場を理解しなさいよ』と叫んで、ネル家の四男の股間を蹴り上げたのだ!
股間に突起物が無い私でも、股座を蹴り上げられたなら悶絶するのに、相手は男性でそのダメージは計り知れない。
これだけでも大問題であるのに、この女は目の前で蹲る四男に右足を乗せ踏みにじると、『場所とタイミングと相手を全て間違えてるわよ! 恥を知りなさい。お~ほほほほっ!』と高笑いをしたのだ!
ネル家は長男・次男共にラインハット家とは深い協力関係にあり、間柄に亀裂を生じさせる事は出来ない。
にもかかわらず、この女は平気でネル家の四男を足蹴にしたのだ……他の貴族が大勢居るパーティー会場で!
流石に一度退場したデール陛下も再登場して、お客様方をもてなす事で事態を収拾させた。
だが噂は広がりネル家は家名に傷が付いたであろう。
パーティーは予定より早めに終わる事となり、その日の内に新米母親も説教をされる事になったのだが……
『あの男はイヤらしく私の胸や腹に手を伸ばし、下品な言葉で口説いてきたのですよ! 殺さなかっただけでも感謝されるべきですわ!』
そう言って自身を正当化する。
両陛下やコリンズ殿下の話を聞く限り、ネル家には早急に名誉回復の機会を設ける必要があるらしい。
当然である。
どの様な機会になるのかは私には見当も付かないが、あまり長い時間をおく訳にはいかないだろう。
因みにネル家の四男……ドン・ファン・ネルも、勘当されて家を追い出されたとか……
我が国の未来を憂いつつも、この女を表舞台に出さない様にする事を望む。
後書き
名も無きメイドにスポットが当たったエピソードかと思ったでしょ?
ところがどっこい、
結果としては私が大好きなドン・ファン・ネル君の物語なのでしたwww
追伸:
今回の語りべのメイドさんですが、
一応原作のDQ5に登場してるキャラを想像して書いてます。
主人公が幼少期に初めてラインハットへ辿り着き、
1階の台所で「あなたもヘンリー様の相手をさせられるの? 大変ね」的な台詞を言ったモブ少女がモチーフです。
敢えて名前は付けませんでした。
再度登場する事があれば、その時にでも考えます。
でもドン君ほど気に入ってないので、再登場は無いと思います。
ポピレア様次第ですかね?
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