仮面ライダーAP
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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 第6話
「ぬぅうぅッ……!? まさか、これほどとはッ……!」
オルバスのFIFTYΦブレイクによって外装の一部を破壊され、コクピット内を剥き出しにされたアイアンザックは、仮面の下で驚愕の表情を浮かべていた。遥か上空からの降下にも適応出来る頑強な装甲が、たった1発のキックで破壊されてしまったのである。
――絶対的な力を目の当たりにすれば、人は否応なしに認めざるを得なくなる。そんな彼自身の言葉が、皮肉な形で跳ね返って来た結果であった。だが、彼はまだ諦めてはいない。
「うぐッ!?」
「……まだだぁぁあッ! まだ終わってなぁあぁぁあーいッ!」
コクピットを剥き出しにされた無防備な状態であるにも拘らず、アイアンザックは怯むことなく戦闘を続行しようとしていた。力を使い果たしたオルバスの身体を両手で捕まえた彼は、そのまま装甲を開いてミサイルを撃ち込もうとしている。
ミサイルスパルタンの両手が、爆炎に巻き込まれることも厭わないつもりなのだろう。3m級の鉄人はオルバスの身体を捕まえながら、最後の一斉発射を繰り出そうとしていた。
「く、くそッ……こんな近距離で大量のミサイルを直撃させたら、あんたもタダじゃ済まないはずだぞ! ハッチが壊れてる今の状態でそんなことになったら、剥き出しのコクピットに居るあんたまで……!」
「ふん、臆したか仮面ライダー! 私は今さら死を恐れるつもりなどない! 死よりも耐え難い11年を過ごして来た私にとって、一瞬で終わる死など極楽も同然よッ!」
「し、始末に追えねぇ爺さんだぜッ……! そういうガッツはもうちょっと世の中のために使ってくれよなッ!」
オルバスはなんとか拘束から逃れようと懸命にもがくが、最大稼働スキルによって力を使い果たした今の状態では、ミサイルスパルタンの剛腕から逃れる術などない。まさしく、絶体絶命の窮地であった。
「……その通りね! 正しく在ろうとする気持ちを失った力は、ただの暴力! そんなものに、私達は絶対に屈しないッ!」
「あっ……アーヴィング捜査官ッ!?」
しかし次の瞬間、鈴を転がすような美声がこの一帯に響き渡って来る。その声の主であるマス・ライダー軽装型ことヘレン・アーヴィングが、最後の力を振り絞ってこの場に駆け付けて来たのだ。上階の大穴から地下格納庫の様子を覗き込んでいた彼女は、「降下」の準備を始めている。
「はぁッ!」
腰部のベルトから射出されたワイヤーを部屋の壁に固定した彼女は、そのワイヤーを伸ばしながら急降下して来る。アイアンザックのパンチによって空けられた大穴に飛び込み、この格納庫まで舞い降りて来た彼女は、滑り込むように現れながらスコーピオンを構えていた。
「ははははははッ、馬鹿な女だ! コアフォームにさえ手も足も出なかったお前に何が出来る!? そんな豆鉄砲がこのフォートレスフォームに通用するものかッ!」
だが、基本形態にすら通じなかったスコーピオンの銃弾が、より頑強な外装を得た要塞形態に通用するとは到底思えない。そんなオルバスの懸念を肯定するかのように、アイアンザックも嘲笑の声を上げていた。
「……さぁ、それはどうかしらッ!」
だが。仮面を失ったヘレンは余裕の笑みすら浮かべて、スコーピオンを片手で構えている。そして彼女が引き金を引き、単発で放たれた銃弾が閃くと――その弾丸は、アイアンザックの胸を容赦なく貫いたのだった。
「な、にッ……!? そんな、馬鹿な……!」
「あっ……!?」
予想だにしなかった結果に、アイアンザックもオルバスも仮面の下で瞠目する。彼女はコクピット内に居るアイアンザックの胸を銃撃したのだが――その着弾点は、オルバスがエンジンブレードで装甲を斬り飛ばした箇所だったのだ。
FIFTYΦブレイクによって胴体部のハッチは壊され、その中に居たアイアンザック本人も、エンジンブレードの刃で胸部装甲の一部を破壊されている。つまりその一点だけは、スコーピオンの銃弾でも通じる状態になっていたのだ。ヘレンはそんな極小の弱点を、正確無比な射撃で撃ち抜いて見せたのである。
「……私達を侮ったこと。それがあなたの敗因よ、アイアンザック」
「ぐ、はぁあぁッ……! おっ、のれぇえッ、対策室の雌犬がぁぁあ……! あのまま無様に恥辱を晒し、屈服しておれば良かったものをッ……!」
銃弾を撃ち込まれた胸部から鮮血が噴き上がる。その胸を抑えながら苦悶の声を上げるアイアンザックは操縦を乱し、ミサイルスパルタンの巨躯を大きく揺らめかせていた。その弾みで鉄人の手から解放されたオルバスが、地を転がってその場から離れて行く。
壁に背を預けた巨大な鉄人は、全身から火花を散らしていた。どうやら、アイアンザックの身体を貫通した銃弾が大型外骨格の内側で跳弾し、内部機構の異常を引き起こしていたらしい。どれほど頑強な鎧であっても、内側からの攻撃には耐えられないのだ。
「……許さん、許さんぞ貴様らぁあッ……! こうなれば残る全弾を撃ち尽くし、この島諸共全てを吹き飛ばしてくれるッ!」
「……ッ!? そうはさせるものですかッ!」
だが、このままで終わるアイアンザックとミサイルスパルタンではない。身体中から火花を発しながらも、巨大な鉄人は軋む両腕を前方に翳し、全てのミサイルを一斉に発射しようとしていた。
街を灰にするミサイルスパルタンの全火力が解き放たれれば、オルバスもヘレンも島自体も、火の海の中へと消えて行くことになる。そうはさせじとヘレンは再びスコーピオンを構えるが――引き金を引いても、銃口に反応か無い。
「弾切れ……!? こんな時にッ! オルバス、あなたの最大稼働スキルは!?」
「生憎、まだ充填期間が終わってねぇ……! ちくしょう、こんなところでッ……!」
残弾が尽きたヘレンはオルバスの方へと視線を移すが、戦闘を続行出来る力を使い果たしたのは彼も同じだったようだ。片膝を着いている深紅の騎士は、悔しげに拳を震わせている。
このままでは2人とも助からない。何か手を打たなければ。そう思考を巡らせていたヘレンの眼前に――あるものが飛び込んで来る。この状況を打開し得る「それ」は突然、ヘレンの目の前に「落下」して来たのだ。
「……っ!? こ、これは……!」
スコーピオンに対応した兵器として設計されている、ノバシェード対策室が保有する装備の一つ――「GG-02サラマンダー」。スコーピオンの銃身に装着することで、グレネード弾を発射出来るようになるカスタムパーツだ。
新世代ライダーの1人である「仮面ライダーG-verⅥ」こと、水見鳥清音。彼女が運用しているギガントやケルベロスランチャーと比べれば、火力の面では大きく劣る。しかし、そうであるからこそ。大量のミサイルを搭載しているフォートレスフォームへの誘爆を避けつつ、そのパイロットであるアイアンザックのみを確実に「制圧」出来る。今のミサイルスパルタンに対しては、最も有効な装備だ。
「どうしてこれがこんなところに……!?」
そんな対策室の装備がなぜ、こんなところに落ちて来たのか。その答えを求めて、破壊されている天井を見上げたヘレンは――驚愕の表情を露わにしていた。
ウェーブが掛かった艶やかな黒のロングヘア。
身体にぴっちりと張り付き、扇情的な曲線を浮き上がらせている青のチャイナドレス。
深いスリットから覗いている、スラリと伸びた白く長い美脚。
肉感的な太腿と、ハイヒールによってピンと伸びている艶やかな爪先。
戦士として苛烈に鍛え抜かれ、細く引き締まっている、くびれた腰つき。
ヘレン以上に豊穣な「実り」を見せ付け、ドレスを内側からはち切れそうなほどに押し上げている、釣鐘型の爆乳。
妊娠・出産に最適なラインを描き、何人でも産める身体であることをその膨らみで主張している、安産型の爆尻。
むっちりとした桃尻に深く食い込み、豊満な白い尻肉を露わにしているTバックのパンティ。
そして――この遠距離からでも匂って来る極上のフェロモンと、妖艶に微笑む口元。
(うそ……!?)
顔こそハッキリとは見えていないが――その圧倒的過ぎるプロポーションは、見間違えようがない。同性すらも惑わせる、このフレグランスな女の香りは間違いない。男の本能を狂わせ、獣欲を煽るために生まれて来たかのようなその肢体と色香は、どんなに高級な娼婦でも決して真似出来ないのだ。その絶対的な美貌とフェロモンは、「長い付き合い」だったヘレン自身がよく知っている。
(真、凛っ……!?)
夢か、幻か。「大穴」の淵からヘレン達を見下ろしている謎の女は、真凛・S・スチュワートを想起させる姿だったのである。その人物が、上階からサラマンダーのパーツを投げ落としていたのだ。
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