仮面ライダーAP
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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 第5話
広大な格納庫を火の海に変える、ミサイルスパルタンの一斉射撃。全身に内蔵されていた無数の小型ミサイルが容赦なく乱れ飛び、両腕部の大型ミサイルランチャー、さらには各部に搭載された単装砲も火を噴いていた。その上、両手のマニピュレーターまで単装砲に変形させ、その砲身からも砲弾を連射している。
そんなミサイルスパルタンの一斉砲火を辛うじて回避していたオルバスは、深紅の鎧を煤で汚しながらも、熱で歪んだコンテナの影に身を隠している。その遮蔽物から鉄人の巨躯を覗き込むオルバスは、仮面の下で冷や汗をかいていた。
「……そういやぁ、さっきそのデカブツのことを『仮面ライダー』とも呼んでいたな? 随分と悪趣味な当てつけじゃねぇか。それに、そんな図体じゃバイクにも車にも乗れやしねぇぞ。そのデカブツのどの辺が『ライダー』なんだ?」
「ふっ、無知とはやはり罪なものだな。我々がノバシェードと繋がっていた……という単純な事実以外は何も知らぬままここに来た、ということか。良かろう、冥土の土産に教えてやる。スパルタン計画のこと……そして、このミサイルスパルタンの価値というものをな」
コンテナの影に背を預けたまま、ミサイルスパルタンの精神を乱そうと挑発の声を上げるオルバス。そんな彼の言葉に鼻を鳴らすアイアンザックは、オルバスを探すように辺りを見渡しながら、ミサイルスパルタンの巨体を操縦していた。
――やがて、彼の口からスパルタン計画の実態が語られる。
約11年前の2009年。仮面ライダーGと旧シェードの戦いが始まってから間も無い頃、当時の北欧某国では早期に「仮面ライダーの力を再現した新兵器」を開発する計画が始まっていた。当時のアイアンザックが主導していたその「スパルタン計画」は、番場惣太総監の新世代ライダー開発計画より10年も早く、Gの再現を目指していたのである。
だが、当時の絶望的な技術不足もあって計画は難航。最終的にはGそのものの完全再現は諦め、様々な追加装備による一芸に特化させた「試作機」を多数配備することにより、「総合的」にGの戦力を再現するという方針に決定された。
その成果物たる試作外骨格の運用をアイアンザックから命じられていたのが――ジークフリート・マルコシアン大佐率いる、伝説の英雄部隊。某国陸軍最強の精鋭陸戦部隊である、「マルコシアン隊」だったのである。
しかし、所詮は未熟な技術で強引に急造した粗悪な模造品。スパルタン計画によって開発された試作機のほとんどは旧シェードの怪人達には通用せず、マルコシアン隊は彼らとの戦いで壊滅してしまった。人知れず誕生していた仮面ライダー達は、そのまま人知れず戦火の彼方に消え去ったのである。
辛うじて侵攻を退けることには成功したものの、隊長のジークフリートを除く全ての隊員は戦死。スパルタン計画の試作機も全壊し、上層部を納得させられるだけの成果を挙げられなかった同計画は凍結・抹消となった。そして、この計画に自らの威信を賭けていたアイアンザックも失脚し、シャドーフォートレス島に左遷されてしまったのである。
それから約10年間、アイアンザックは自分の尽力を否定した全てに対する激しい恨みを募らせながら、落伍者達の「流刑地」であるシャドーフォートレス島の司令官を務め続けていた。ところが1年前、そんな彼の元にノバシェードの研究者達が現れた。彼らは絶海の孤島で燻っていたアイアンザックに、スパルタン計画の「再生」を持ち掛けて来たのである。
「圧倒的な暴力」が大金になる商売は、この世界の何処にでも在る。その「商い」で巨額の資金を蓄えていた死の商人達ならば、アイアンザックのスパルタン計画を蘇らせることも容易だったのだ。
スパルタン計画が「無かったこと」にされ、仮面ライダーとして認められることもなく消え去ってから10年が過ぎた頃。番場惣太の主導により、世に出ることになった新世代ライダー達。一光博士によってロールアウトされた、ジャスティアライダー達。彼らの華々しい活躍を報じるニュースの数々は、アイアンザックの尊厳をこれ以上ないほどにまで傷付けていた。
――本来なら、世間からヒーローと称賛されていたのは、私のスパルタンシリーズであるはずだったのだ。なぜあんな、10年も後から出て来た連中が認められて、私の計画が認められないのだ。
そんな鬱屈とした思いを抱えて来たアイアンザックにとっては、ノバシェードの提案こそが最後の希望だったのである。彼らへの全面的な協力を条件に資金援助を受け、密かにスパルタン計画を再始動させたアイアンザック。彼は自分を認めなかった全ての人間達に対する報復として、かつて机上の空論のままで終わっていた「悪魔の兵器」の建造に着手していた。
かつては予算不足という理由から、開発に漕ぎ着けることすら叶わなかった幻のスパルタン。それが二重外骨格という特性を持つミサイルスパルタンだったのだが――この兵器の真価は、それだけではなかった。
過剰なまでの防御性能を追求した理由は、ただ敵の攻撃に耐えるためだけではなく、「遥か上空からの降下」に適応するためでもあった。このミサイルスパルタンは、敵地の頭上からのミサイル弾幕で攻撃対象を焦土にするための兵器なのである。
弾頭部にミサイルスパルタンを搭載して目的地に射出する、大型ロケット「ブースターサイクロン号」。その推進力を借りて世界各地の都市へと迅速に降下し、対改造人間用ミサイルによる絨毯爆撃で全てを灰にする。大都市一つを殲滅し得るその絶対的火力を以て、人類に仇なす存在を根刮ぎ消し去る。
それが「Inter Continental Ballistic Masked Rider」――「ICBMR」。あるいは「大陸間弾道仮面ライダー」の別名を持つ、ミサイルスパルタン本来の運用方法であった。そのためのブースターサイクロン号を建造する場所として、元々ミサイルサイロとして利用されていたシャドーフォートレス島の施設は、まさに「うってつけ」だったのである。
すでにミサイルスパルタン本体は完成。後はブースターサイクロン号の開発資金を得れば、同機は全世界に対してスパルタン計画の存在を知らしめることが出来る。
世界中のどこにでも駆け付け、嵐のように戦い、圧倒的な武力を以てシェードを駆逐する。そんな仮面ライダーGの「一面」だけを完全に再現した悪魔の鉄人が、世界中に牙を剥くことになるのだ。
――その計画の全貌を聞かされたオルバスの手が、義憤に震える。ギリギリと握り締められたエンジンブレードの刃先が振動する。「仮面ライダー」という英雄の名に泥を塗る最悪の存在に対し、忠義・ウェルフリットは静かな闘志を燃やしていた。
「……弾道ミサイルのドタマに乗せてブッ飛ばす仮面ライダー、だと……? それでGの再現……? 笑えねぇぜ、全く笑えねぇ……! 『仮面ライダー』って存在を、単純な力でしか測れねえような奴が! 軽々しくその名前を使ってんじゃあないぜッ!」
「今の話がおふざけに聞こえるか? 私は本気だ。私は11年前のあの日、現場の中継を観ていた。日本の放送局前に現れた仮面の戦士が、異形の怪物達を矢継ぎ早に斬り捨てるあの光景を。そして誓ったのだ、必ずあの力をモノにして見せるとな!」
オルバスの怒号を耳にしたミサイルスパルタンが、ついに彼の位置を捕捉する。単装砲が火を噴くと同時に全身の装甲が展開され、その全てのミサイルポッドから大量の誘導弾が連射された。乱れ飛ぶ弾頭の嵐が、オルバスに襲い掛かる。
「くッ……! それで造ったのがそのデカブツかよ! どうせ怪人を街ごと全部焼き払うつもりだって言うんなら、そんな回りくどいことしてないで最初から爆薬たっぷりのミサイルでも造っとけ!」
「ただの弾道ミサイルでは改造人間を倒せても、国際社会からの非難は免れん。……何事も物は言いよう。『体裁』が大事なのだよ。仮面ライダーという救世主を、必要とされる場所に送り届ける……という『体裁』がな」
「詭弁を……!」
「それをジャッジする権利などお前には無い。ミサイルスパルタンが詭弁の化身となるか否か……その答えを『検証』するのも我が計画の目的なのだからな」
オルバスが身を隠していたコンテナは一瞬で消し飛び、そこに居た深紅の騎士は間一髪のところで地を転がって回避する。屋内で戦っている今は「手数」をある程度セーブしているようだが、全弾を撃ち尽くす勢いならば都市一つを殲滅出来るほどの火力なのだ。新世代ライダーと言えども、まともに喰らえばひとたまりもない。
「そのために俺達を……新世代ライダーやジャスティアライダーを倒して、自分の成果物こそが『本物』だと言いたいってわけか! こんなやり方で俺達と張り合おうったって、誰もあんたのことなんか認めちゃくれねぇよッ!」
「認めるさ。絶対的な力を目の当たりにすれば、人は否応なしに認めざるを得なくなる。『正義』とは常に、『力』の後に付いて来るものなのだよ。かつての我々がそうだったようにな!」
「だったら……あんたを信じて最期まで付き合った、マルコシアン隊の連中はどうなる!? そいつらは皆、あんたが造ったスパルタンシリーズとやらに命を賭けていたんだろう!? 頭のあんたがこんなことをしていたら、そいつらだって浮かばれねぇよ!」
「この私が奴らの弔い合戦をしている……とでも思ったのか? これは奴らへの復讐でもあるのだよ。腐った政府や軍の上層部だけではない。私のスパルタンシリーズを一つ残らず台無しにした挙句、私の顔に泥を塗り、こんな僻地にまで追いやったのは奴らの失態だ!」
「……!?」
ミサイルスパルタンの周囲を全速力で疾走し、誘導弾や砲撃の猛雨を掻い潜りながら、爆炎を背に疾るオルバス。彼は一縷の望みに賭けて、アイアンザックの良心に訴えようとしていた。だが、彼の身勝手極まりない思考回路はオルバスの想定を大きく超えていたようだ。
「マルコシアン隊が旧シェードに完勝さえしていれば、私のスパルタン計画は大々的に認知され、賞賛され、歴史に記録されていたのだ! だのにスパルタンシリーズを開発した私の功績は抹消され、試験装着者に過ぎなかったマルコシアン隊の下らん自己犠牲ばかりが称賛されている……! ジークフリート・マルコシアン! あの無能な愚図の木偶の坊が私の人生を狂わせたのだッ! 無駄な犬死にで私の名誉を貶めた、奴の部下共も纏めて同罪だァッ!」
「……ッ! あぁハイハイ、そうかよ分かったよ分かった分かりました! あんたの良心にほんのちょっとでも期待した俺がバカだったぜ! いちいち他人のせいにしてなきゃ自我すら保てねぇってんなら、頭冷えるまで失神してろッ!」
アイアンザックの傲慢な物言いに怒りを露わにしながら、オルバスは再びコンテナの影に飛び込む。そこを走り抜けた先からオルバスが飛び出して来ると予測したミサイルスパルタンは、ミサイルポッドの照準をその座標に向けていた。
「ぬッ……!?」
だが、予測通りにコンテナから飛び出して来たのはオルバス本人ではなく――彼が囮として放り捨てていたエンジンブレードだった。
「……俺達を倒すって息巻いてる奴が! こんな古い手に引っ掛かってんじゃねーよッ!」
そのフェイントに反応が遅れた隙を突き、反対側の影から飛び出したオルバスが急接近して行く。彼はコンテナに飛び込んだ瞬間、エンジンブレードを投げ飛ばしながら体勢を切り返し、真逆の方向に駆け出していたのだ。
「おのれッ!」
「その図体じゃ……遅過ぎんだよッ!」
ミサイルスパルタンも即座に狙いを切り替えようとするが、ここまで来ればオルバスの方が速い。最大稼働スキルを発動した深紅の騎士は地を蹴って跳び上がり、勢いを乗せた後ろ回し蹴りを繰り出そうとしていた。「懐」に入り込まれたミサイルスパルタンはそんな彼を迎え撃つべく、単装砲形態になっていた両手をマニピュレーターに再変形させる。その手指で背部の超大型刀剣を引き抜き、そのまま一気に振り下ろして来た。
「はぁあぁああッ!」
「ぐはっ、あ……!?」
だが、オルバスの必殺技に相当する「FIFTYΦブレイク」は、アイアンザックの予測を遥かに上回る破壊力を秘めていた。超大型刀剣を真っ向からへし折った後ろ回し蹴りは、そのまま勢いを殺されることもなく、ついにミサイルスパルタンの胴体部に炸裂する。先ほどの斬撃とは桁違いの衝撃に襲われ、胴体部ハッチは木っ端微塵に破壊されていた――。
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