イベリス
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第百五話 何の為に学ぶかその三
「他の誰もな」
「相手にしなかったのね」
「五十代で子供だ」
そんな有様だったというのだ。
「能力も人間性もな」
「それが努力しなかった人ね」
「そして今はな」
「行方不明ね」
「誰からも見放されてな」
「無意味で無価値な人生ね」
咲は心から思った。
「つくづく」
「誰もそう思うな」
「一体何だったのかしらって」
「死ぬ時にそう思うか、いや」
「思わないわよね」
「そんな人はな」
到底と言うのだった。
「若し思うのだったらな」
「もうその前によね」
「反省してな」
時分自身を振り返ってというのだ。
「行いをあらためていてな」
「助かってるわね」
「ああ、世の中こんな人はどんな宗教や哲学でも救われない」
「そうなのね」
「そうなる様なものがないからな」
だからだというのだ。
「最初から」
「救われる様なものが」
「ああ、救われるにもな」
人がそうなるにもというのだ。
「ただそこにいるだけじゃ駄目なんだ」
「信仰心とか?」
「それもないと駄目だし感謝の気持ちもな」
「ないと駄目なのね」
「あの人は信仰心もなければ」
それにというのだ。
「感謝の気持ちもな」
「なくて」
「それでだ」
それ故にというのだ。
「もうな」
「救われないのね」
「ああ、それでな」
そのうえでというのだ。
「破滅したんだ」
「救われなくて」
「そうだ、白痴みたいでそして正しい見方が出来ない」
「いつもふんぞり返ってるから」
「それで救われるか」
「無理なのね」
「そうなんだ、救われるにも努力して」
そしてというのだ。
「そうなる様にしないとな」
「ならないのね」
「ああ、しかし残念なことだろ」
父は咲にこうも言った。
「どんな宗教でも思想でも救われない人がいるなんてな」
「誰が何を言ってもなのね」
「救われない人だっているんだ」
「それこそ弥勒菩薩でもないと」
「ああ、あの仏様だな」
父もその菩薩の名を聞いて頷いた。
「あの仏様だとな」
「そんな人でも救えるわよね」
「あの仏様は特別だ」
五十六億奈々千万年後にこの世のあらゆる魂を救うとされている、その為に修行を積んでいるのである。
「もうな」
「仏様の中でも」
「ああ、そうした仏様だとな」
「そんな人でも救えるのね」
「間違いなくな、しかしな」
それでもとだ、父は話した。
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