| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

仮面ライダーAP

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

陰謀編 穢れた正義と堕ちた英雄 第3話

 
前書き
遥花「頑張ってるあの子を応援するわよっ!」
駿「だが、自分の力で成し遂げなければ……」
忠義「意味ねーんじゃねーか?」

ライダーマンG「だから元気をフルチャージよ! ビタミンC!」
タキオン「ビタミンB!」
オルバス「着色料保存料ゼロ!」

ライダーマンG&タキオン&オルバス「元気ハツラツ! オロナm――(強制終了)」
 

 
 ――仮面ライダータキオンの従兄は、日本政府の諜報機関で活動していた元捜査官だと聞いたことがある。その人物がタキオンに直接、ノバシェード関連の情報を提供することも少なくないらしい。

(仮面ライダーを陰ながら助けている元捜査官……か。ふふっ、どこか他人事には思えない話ね)

 「家族仲が良いのは結構だが、公的手続きを介さない情報のやり取りは慎んで欲しいものだ」……という上司の愚痴は対策室に居た頃、何度も聞かされた覚えがある。恐らくこの件も、その従兄の情報がきっかけだったのだろう。

『……フンッ!』
『ぐッ!? がッ……!』

 超加速機能「CLOCK(クロック) UP(アップ)」を駆使しているタキオンの動きは鮮やかだ。一瞬のうちに戦闘員の背後に回り込むと、痛みを感じさせる暇も与えないまま頭を掴み、首をへし折って即死させている。

『……先に地獄で待っていろ』

 ある意味、慈悲のある「処刑」と言えるだろう。死に行く戦闘員を見下ろすタキオンの仕草は、どこか哀愁を感じさせるものがあった。

『せっかくの長物も、この狭い通路では使いづらいようだな! 覚悟しろ仮面ライダーッ!』
『くそっ、こんな奴らにッ……!』

 一方、エンジンブレードを振りづらい狭いエリアでの戦いには慣れていないのか、オルバスの方は少しばかり手を焼いているようだった。
 並外れたタフネスを誇る、耐久性特化型戦闘員との戦いは初めてなのだろう。最後の生き残りを相手にしている彼の動きには、普段の冴えが無い。

『こうなったらッ!』
『……! ウェルフリット、待て!』

 その焦りが、「判断ミス」を招いたのか。オルバスは「必殺技」に相当する最大稼働スキル「FIFTYΦ(フィフティーファイ)ブレイク」を発動させると、前蹴り(ケンカキック)の要領で片脚を振り、戦闘員の胴体に命中させてしまう。

『喰らえッ……!』
『ぐッ……はぁあぁあーッ!?』

 オルバスに蹴られた戦闘員の身体が吹っ飛び、地を転がった彼のボディが白熱化して行く。爆発の前兆だ。耐久性特化型戦闘員は、胴体部分に限界以上の衝撃を受けると、自爆機能が作動してしまうのだ。

『いかん……!』

 しかし、ここは危険物が満載の火気厳禁エリア。この場で戦闘員が爆散すれば、どれほどの被害が出るか分からない。その危険な兆候を察知した瞬間、タキオンが動き出す。

『……クロックアップ!』
CLOCK(クロック) UP(アップ)!』

 刹那の時を駆け抜ける、クロックアップ機能。そのポテンシャルが全開になった瞬間、それを報せる電子音声が鳴り響く。
 次の瞬間、オルバスからエンジンブレードを奪い取ったタキオンは、戦闘員の背後にある壁を一気に切り裂いていた。円形に切り抜かれた壁の向こう側には、「外」の景色が広がっている。

『外の空気でも吸っていろ』

 そしてタキオンは、白熱化した戦闘員の身体を瞬く間に掴み上げると、力任せに工場の外まで放り投げてしまうのだった。円形に切り抜かれた壁の穴から、戦闘員の身体が外に飛び出した瞬間、そのボディが木っ端微塵に爆散する。

『ふぅっ……!』

 爆発のタイミングが遅れていたから良かったものの、一歩間違えれば工場内の危険物に引火し、大惨事になっていたところだ。
 だからタキオンも派手な必殺技に頼らず、地味だが確実な手段で戦闘員達を仕留めていたのだろう。引火の恐れがない「外」での爆散を見届けたタキオンは、ベルトを操作してクロックアップ状態を解除している。だが彼は、勝利を喜ぶ気配もなく拳を握り締めていた。

『……ウェルフリット、何を考えている! ここでお前の最大稼働スキル(フィフティーファイブレイク)は使うなと言ったはずだ!』

 腕輪型変身装置(ライダーブレス)のスイッチを切って変身を解除したタキオンこと森里駿(もりさとはやお)は、この一帯の制圧を確認した後、自分の制止を聞かなかったオルバスに激しい剣幕で詰め寄っていた。

 黒と灰色を基調とするノースリーブの特殊戦闘服を着用している、黒髪黒目の怜悧な美男子――といった容姿だが、その爽やかな顔立ちに反した険しい表情からは、無骨な印象を受ける。
 ノースリーブによって露出している筋骨逞しい腕は、改造人間ならではの強靭な膂力を物語っていた。軟派な男を嫌うヘレンの趣味に「どストライク」な、「男らしい男」といった佇まいだ。

『す、済まねぇ森里(もりさと)……! コイツら、これほどしぶといとは……!』

 腰のジャスティアドライバーを外し、変身を解除したオルバスこと忠義(チュウギ)・ウェルフリット。
 金髪碧眼の色白な美男子である彼は、赤と黒を基調とするノースリーブの特殊戦闘服を着用していた。筋肉質でありながらも、しなやかに引き締まった白い腕が露わになっている。いわゆる細マッチョという印象だ。恐らく、女性からは特にモテるのだろう。

『……たかが戦闘員、とはいえ奴らも改造人間なんだ。迂闊な真似はするな』
『あ、あぁ……』

 駿の叱責を受けた彼は我に返ったようにハッと顔を上げると、沈痛な表情で俯いていた。普段は明朗快活な彼も、この時ばかりは自分を責めずにはいられなかったようだ。
 本人としては、それほど必死だったのだろう。だが、忠義が撃破した戦闘員の爆散音はすでに外に響いてしまっている。無かったことには出来ない。尤も、そんなつもりは毛頭無いのだろうが。

『……ZEGUN(ゼガン)、聞こえるか。こちらタキオン。このエリアの制圧は完了した、今のところ負傷者は出ていない』
『……』

 忠義の表情に眉を顰めた駿は暫し逡巡した後、左胸に装着していた無線機に手を伸ばす。この件を報告するつもりなのだろう。忠義は何も言えず、ただ俯いていた。

『それと……俺のライダーキックで戦闘員1体が爆散した。さっきの爆音はその時のものだ。幸い、施設内に引火はしていない』
『えっ、ちょ……森里、あんた!?』
『皆まで言うな、始末書は今日中に仕上げておく。ではこれより、オルバスを連れて帰投する。オーヴァー』

 だが駿は、通信相手の「仮面ライダーZEGUN(ゼガン)」こと芦屋隷(あしやれい)に対して、事実とは異なる内容を伝えていた。そのことに驚きの声を上げる忠義に、隷との通信を切った駿はジロリと鋭い目を向けている。

『森里、どうして……!?』
『……俺は現役警察官のお前とは違って、立場上は芦屋に雇用されている下請けの民間協力者(モルモット)だ。しかも元ノバシェード構成員という、新世代ライダー最悪の汚点。今さら何を仕出かそうが、落ちるような評判などハナから持ち合わせていない』
『だからって……!』

 どうやら、忠義のキャリアに傷が付くことを懸念しての判断だったようだ。理由を言われても納得し切れない様子の忠義に対し、駿は諭すような声色で言葉を紡ぐ。

『ウェルフリット。人間を超えた力を持つ俺達仮面ライダーは、常に奴らと「表裏一体」なんだ。一歩間違えればその瞬間、俺達は怪人と何ら変わらない存在になる。特に……悪魔に近しい名を背負っているお前達「ジャスティアライダー」の多くは、政府の後ろ盾すら持っていないんだ。俺達より自由であればあるほど、個々に課せられたその責任も重くなる。そういう業を背負っている』
『……!』
『人の手で再現された「紛い物」とはいえ、悪魔の力を正義に使う……という生き方は、決して生易しい道のりではない。だからこそお前達は、俺達以上に正しく在らねばならないんだ。万に一つも、由来通りの悪魔になどならないために。そのことを忘れるな』

 悪魔に近しい名を背負っているジャスティアライダーだからこそ、芯まで悪に染まらぬよう己を厳しく律しなければならない。特に、政府や警察に与しているわけではない忠義以外のアウトローなライダー達は、その庇護を得られない分、余計に多くの敵を作りかねない立場にある。

 故にその力を行使する責任はある意味、新世代ライダー達よりも遥かに重い(・・)。自由と責任は表裏一体。それは政府に属する新世代ライダーだろうが、アウトローなジャスティアライダーだろうが、本質的には変わらない。だからこそ、正しく在ろうとする意思を忘れてはならないのだ。

『……あぁ。ありがとな、森里』

 そう諭す駿の言葉に、思うところがあったのか。忠義は納得し切れない己の心を押し殺すように、瞼を閉じて深く頷いている。そんな彼に頷き返しながら、駿はこの場を後にしようと踵を返していた。

『……それに、お前のようなお調子者にはこの方が「良い薬」だろう? ふふっ』

 だが、肩越しにニヤリと意地悪な笑みを浮かべる駿は、忠義をからかうように口角を吊り上げていた。普段は仏頂面しか見せない彼にしては、珍しい表情だ。
 言い寄って来る女達には淡白だが、慕って来る子供には優しい……という傾向があると聞いた覚えはあるが、どうやら忠義は彼にとって、可愛い弟分に近い存在であるようだ。接し方が親戚の子供に対するそれである。

『んなっ!? タ、タチ悪いぃ〜……!』
『さ、Gチェイサーを停めていた場所に戻るぞ。帰ったらコーヒーの1杯でも奢れ』
『分かってるよっ!』

 一方、忠義は複雑な表情で地団駄を踏んでいる。問題を起こした自分自身が始末書を書くより、自分の失敗で他人が始末書を書かされている方が、忠義のような性格の人間には堪える(・・・)。そんな駿の考えにようやく気付いた忠義は、やり場のないもどかしさを全力で顔に出していた。

 ――この戦闘の映像記録は、ここで終わっている。森里駿と忠義・ウェルフリット。2020年現在における彼らの技量と人柄を、この映像から観測していた真凛は、蠱惑的な微笑を浮かべていた。

(……忠義・ウェルフリット、か。良くない噂が絶えないジャスティアライダーだけど、こういう子も居るのなら……あながち、そう悪いものでもないのかも知れないわね)

 映像から垣間見える駿の人柄に優しげな笑みを溢している真凛は、挫けることなく成長しようとする忠義の人格についても、好感を持っているようだった。
 そんな時、真凛のスマホから独特な着信音が鳴り響いて来る。その画面に表示された人物の名前に、彼女は眉を顰めていた。どうやら、あまり話したい相手ではないらしい。

(さて、と……そろそろ、「彼」に事の顛末を報告してあげようかしら)

 それでも、無視するわけには行かないようだ。やがて彼女は、スマホの画面に指先を滑らせ――「ある男」との通話を始める。

「……私よ。この国に潜伏しているノバシェードの構成員達は、ギルエード山地の地下に怪人研究所を建設していた。確かに、あなたの情報通りだったようね」
『ふん、私の話を僅かでも疑っていたのか? つくづく癪に触る女狐だな、スチュワート』

 通話先に居るのは――ギルエード山地に隠されていた怪人研究所の存在を突き止め、真凛にその情報を流していた張本人。

 この男こそが。怪人研究所を潰した彼女を陰から動かしていた、真の黒幕だったのである。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧