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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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9名の救出劇②


9名の救出劇②

 

 —— 現在、病院 ——

 

 

 木下の話が終わり、次に話すのは誰かとなった時。

 

 櫛田が手を挙げて立候補してきた。

 

「多分、その後は私の所に来たと思うから私が話すね? 私は〜……」

 

 

 

 —— 桔梗si……桔梗と騎士様のラブストーリー♡ ——

 

 

 審議の傍聴に向かう際、Cクラスの奴らに誘拐された私は商店街にある空き店舗へと連れ込まれた。

 

 誘拐される寸前に緊急連絡をツナ君の端末に送っているから、いずれ助けに来てくれるはずだ。

 

 私を誘拐したのはCクラスの男子2人。

 

 野球部だったはずだけど、名前は忘れた。

 

 そいつらは手足を縛られて床に転がされた私を見下ろしている。

 

「……もう! いきなりなんてことするのぉ!」

 

 いつもの調子で抗議すると、男子達はニヤニヤしながら近づいてくる。

 

(こっち来んな!)

「櫛田ちゃ〜ん。残念ながら君は、龍園さんの沢田潰しの為の餌に選ばれたんだ」

「! ツナ君潰し?」

 

 龍園め。まだツナ君に勝てると思っているのか。

 

 しかもその為に私を利用しようとするなんて!

 

「そうさ。今日で沢田も終わりだ」

「だな。クラスメイトが龍園さんに目を付けられたばっかりに、櫛田ちゃんも不運だよ」

 

 何を言ってるんだか。ツナ君にちょっかいを出したいがあまりにツナ君のクラスメイトを誘拐するなんて、そんな方法を取ってしまった龍園の方が不運だ。

 

 さすがにここまでしてしまったからにはツナ君も黙っていられないだろう。

 

「終わりなのは龍園君の方だよ。ツナ君にこんなことしちゃってさ」

「ははは、そう強がり言ってられんのも今のうちさ」

「だな、もう少ししたら泣き叫んで許しを乞う事になるぜ」

 

 はぁ!? 誰が泣き叫んで許しを乞うか!

 

「……どういう事?」

「龍園さんからの命令で、沢田が人質の誰か一人を助けに来たらその時点から人質を潰すことになってるのさ」

「そうそう。だからそうなったら俺達は櫛田ちゃんをボコボコにしないといけないってわけ」

 

 ……誰か一人? 人質は私一人じゃないのか?

 

 ……! なるほど。審議の傍聴に来た奴らは全員人質になってるのね。

 

 いや、むしろそれ以上かもね。あの中に堀北はいなかったし。

 

 龍園がツナ君を追い詰めるのに堀北を利用しないとは思えないし。

 

 ……ってか! 人質は私だけにしろや! 騎士様に助け出されるお姫様は私だけで十分なのに!

 

 全く! 龍園の野郎は使えなわねっ!

 

「……櫛田ちゃん? 何か、全然怖がってないね?」

「! え?」

「確かにな……この状況で怖がんない女子がいるとは思わなかったわ」

 

 そりゃあまぁ……ねぇ。

 

 だって、すでにツナ君に緊急連絡してあるしね。

 

 助けが来るって分かってる時点で怖がる必要ないでしょ。

 

 それに、この状況ってわりといいのよね。

 

 敵に拉致されたお姫様わたしを騎士様ツナくんが助けに来るなんて、中々体験できそうにないもん。

 

 でもそんな私の心中を勘違いしたのか、男子達は下衆な事を言い出した。

 

「櫛田ちゃん、俺達の条件を飲むなら見逃してやるけど?」

「え? 条件?」

「そうそう!」

 

 何が条件だ。どうせロクでもない最低な事を言ってくるだけでしょうが。

 

「じ、条件ってなあに?」

 

 男子の好きな櫛田ちゃんを演じつつ問い返すと、男子達はニヤニヤしながら口を開いた。

 

「日曜と月曜、つまりクリスマスイブとクリスマス当日は俺達に付き合えよ」

「え?」

「だから〜、イブとクリスマスを俺達と過ごしてくれるんならどうにかするって言ってんの〜」

「……」

 

 こいつら、欲望に忠実すぎるでしょ……。

 

 ……龍園の命令に逆らった時のペナルティよりも、一時の欲望を晴らす事の方が優先されるのか。まぁ。高校生の男子なんてこういうもんかな。

 

 いや、私が言えた事じゃないね♪ えへへ♪

 

 だからと言ってそんな条件飲むわけないけど!

 

「……ごめんね。それはできないかな」

「! ほぉ、じゃあ俺らにボコボコにされてもいいの?」

「……いいよ? 多分無理だけど」

「無理? なんで無理なんて言えるんだ?」

 

 は? なんで?

 

 そんな事決まってるでしょう?

 

 私には最強最愛の騎士様がいるからに決まってるわよ!

 

「ふふふ♪ 私には最強の騎士様が付いてるもんっ♡」

「はぁ? 騎士様?」

「ちょっw 高校生にもなって騎士様てw」

 

 男子の1人が私の発言に笑う。

 

 でも気にしない。だって本当にそうだもん。

 

「笑ってられるのも今のうちだよ? 私の騎士様が来たら、あなた達なんて瞬殺なんだから!」

「ぷぷぷw へ〜w それは楽しみだなぁw」

「そんなに言うなら今すぐ呼んでみろよ、その騎士様をさw」

 

 ふっ、バカ共め。自分からやられに行くなんて、さすがはモブキャラね。

 

 じゃあ遠慮なく呼ばせてもらおうかな?

 

「……すぅ〜」

 

 私は深く息を吸い込んだ。

 

 ……確証はない。呼んですぐに来てくれる確証なんてない。

 

 でもなんでだろう。ツナ君なら、私が助けを求めたらすぐに駆けつけてくれる。そんな気がしてるんだ。

 

 ……だから私は、君の名前を叫ぶよ!

 

「ツナ君! 助けて〜っ!」

「……」

「……」

「……」

「……ぷっw 来ないじゃん?」

 

 私が叫んでから数十秒。

 

 誰も現れない事に吹き出す男子達。

 

 でもそれは大きな間違いだよ?

 

 だって……来てくれたもん♪

 

 ——ドーン!

 

『っ!?』

 

 大きな衝撃音と共に、建物の扉が内側に倒れ込む。

 

「なっ、なんだなんだ!?」

「扉が倒れてきた!?」

 

 いきなりの事に慌てふためく男子達。

 

 そんな男子達を他所に、私の視線は倒れた扉の向こうに釘付けになっている。

 

(……ああ、かっこいいなぁ♡)

 

 これこれ! こういう登場シーンを求めてたの!

 

 ——コツ、コツ。

 

 土煙舞う中、その向こうから騎士様が現れる!

 

「……! さ、沢田!」

「き、来やがったか!」

「……お前達」

 

 そして騎士の登場に驚く敵に、騎士は冷静に怒りをぶつけるの!

 

「な、なんだよ!」

「……桔梗は返してもらうぞ」

「……ツナ君♡」

 

 ゴーーーーールっ♡

 

 来た来た来たぁ♪

 

 セリフも、セリフの間も完璧! 

 

 しかもいつもと違って私の事呼びすてだしっ♪

 

 さすがはツナ君、分かってるぅ〜♪ 

 

 私の大大大好きな騎士様っ♡

 

 あ〜! 承認欲求が満たされる〜♪

 

 大好きな、いや愛してる人から助け出される! 

 

 まさにロマン! 女の本懐! もう〜さいっっこう♪

 

「や、やってみろや!」

「行くぞおらぁっ!」

「……ふん」

 

 ——ドゴッ!

 

『うっ!』

 

 無謀にもツナ君に突っ込んで行った男子達は、鳩尾に拳を撃ち込まれて呆気なく気絶してしまった。

 

 じゃあねモブ共。私達の〝ラブストーリー〟の出演者になれた事を光栄に思って眠ってね♪

 

「……桔梗、今助ける」

「うんっ♪」

 

 ツナ君は私の手足を縛っているロープを外し、気絶している男子達の手を適当な場所に縛り付けた。

 

「桔梗、動けそうか?」

「……」

 

 本音を言うと動ける。でも、ここで動けないと言えば、ツナ君ならあれをしてくれるはず!

 

 そう! お姫様だっこを!

 

 ラブストーリーは、騎士様によるお姫様だっこでフィナーレを迎えるのがふさわしいもん!

 

「う、う〜ん。無理みた〜い」

「そうか。なら少しの間我慢してk」

「うんっっ!」

「……早いな。よっと!」

「うわぁっ♡」

 

 私は無事にツナ君にお姫様抱っこをしてもらえた。

 

 そして、ツナ君は歩き始める。

 

 ツナ君の腕の温もりに浸りながら、頭の中ではこの後のラブストーリーの構想が練り上げられていく。

 

(うふふ♪ ねぇダーリン! このまま結婚式場まで行っちゃう?)

 

 

 

 ……なんて幸せの絶頂だったのに。

 

 その幸せは1〜2分で終わりを告げたんだ。

 

 ……こいつのせいでねっ!

 

「あ! 沢田! そして桔梗ちゃ〜ん!」

「! 池、来てくれてありがとう」

「全然いいよ! むしろ呼んでくれてサンキューな!」

「……」

 

 そう! 空き店舗の外に出たら、寛治君が待っていたの!

 

「桔梗ちゃん! 大丈夫!? け、怪我とかしてない!?」

「……あ、あはは。平気だよ寛治く〜ん」

 

 

 ツナ君は寛治君に気づいた途端に私を下ろしちゃうし、寛治君は私の事を親かよってくらい心配してくるし!

 

「池、桔梗を病院に連れて行ってくれ」

「おう! 俺に任せろ!」

(いやいや、任せたくないから!)

 

「ツナ君、もう行っちゃうの?」

「すまない、この後は愛里を助けに行くんだ」

「……ぶ〜。わかった。気をつけてね」

「ありがとう。じゃあ池、頼んだぞ」

「おお!」

 

 流石の私でも他の子を助けようとするツナ君を止めることはできないみたい。

 

 一度私に背を向けたツナ君。だけど走り出す前にもう一度振り返ってくれて、私の頭に手を置いて軽く撫でてくれた。

 

 ……それもいつもの優しい表情で。

 

「桔梗。後で見舞いに行くからな」

「! ……うんっ♪  病院で待ってる♡」

 

 私の頭から手を離すと、今度こそツナ君は他の人質にされた子達を助けに向かった。

 

「……」

「……さぁ桔梗ちゃん。病院に行こう」

 

 走り去っていくツナ君の背中を見ていると、寛治君が私にそう言ってきた。

 

「……ふぅ。うん! そうだね!」

 

 そして私は、寛治君と共に病院へと向かったんだ。

 

 

 

 〜 現在 〜

 

 

「……と、私はこんな感じ!」

 

 ラブストーリーや内心は全てカットして皆には伝えた。

 

「そっか〜。櫛田さんも大変だったんだねぇ〜」

「うん! すごく怖かったよぉ〜」

 

 私は目に涙を溜めながらそう言った。ほとんどの皆がうんうんと同情してくれているのに、堀北だけはジト目で私を見ている。

 

 ……ちっ!

 

 気を取り直して、次の語り手にバトンタッチをしよう。

 

 私の次は〜、佐倉さんだねっ。

 

「私の後は佐倉さんを助けに行ったんだよね?」

「は、はい。そうです」

「どうやって助けてもらったか教えてくれるかな?」

「わ、わかりました」

 

 そして、佐倉さんは自分の体験について語り始めた。

 

 

 

 —— 愛里si……『愛里とツナぴょんのラブストーリー♪』『ち、違うよ波瑠加ちゃん!』 

 

 

「……」

「くくく」

 

 綱吉君の参加する審判の傍聴に行った際に、私と波瑠加ちゃんはCクラスの男の子達に誘拐された。

 

 私はバスケ部用の体育館に連れて行かれて、用具倉庫に押し込まれてしまった。

 

 

 手足をロープで縛られている私は床に寝転がされて、男の子達は私を笑いながら見下ろしている。

 

(こ、怖いよぉ……)

 

 とてつもない恐怖を覚えながらも、私は勇気を振り絞って男の子達に問いかける。

 

「……ど! ど、どっ」

「どどど?」

「はぁ? 何言ってんのこいつ」

 

 やっぱりだめだ。

 

 怖くてまともに喋れない。唇が震えて発音すらままならないよ。

 

 頭の中では、あの時のストーカーのことが嫌でも思い出されている。

 

 もしかしたら、あの時もこうなっていたかもしれない。

 

 そう思うと、当時に感じていた恐怖感が鮮明に思い出されてしまうんだ。

 

 執拗なネットストーキング。そしてそのストーカーはこの学校の敷地内にいて逃げ場がないという絶望感。

 

 もう不安で不安で、怖くて怖くて。毎晩泣きながら無事に朝が来るように祈るばかりだった。

 

 

 ……彼に出会ったのはそんな時だった。

 

 

 そう。私の好きな人……沢田綱吉君だ。

 

「佐倉さん。じゃあ俺達も付き合うよ」

 

「何言ってるの! 佐倉さんの写真のおかげで一方的に須藤君が悪いって事にならなかったんだよ? 十分過ぎる活躍だったよ。本当にありがとう、佐倉さん」

 

「佐倉さん。これからも何か困った事があったら、いつでも俺に相談してよ」

 

 あの時に綱吉君がくれた言葉は今でも覚えている。

 

 だから私は、誘拐される直前にどうにか綱吉君に緊急連絡を送った。

 

 これで綱吉君が助けに来てくれるはず。

 

 ……だけど、それまでは私は1人なんだよね。

 

「はぁ、なんで俺達はこいつ担当なんだろうなぁ? 櫛田ちゃんとか長谷部とかいう女の方が良かったぜ」

「まぁな〜。お、でもこいつもなかなかいい体してねぇ?」

「ん〜、まぁそうか?」

 

 男の子達は私の体を隅々まで見回してきた。

 

 ……気持ち悪い。そんな目で見ないで欲しい。

 

 しばらくして男の子の1人は私から視線を外したけど、もう1人だけは私の顔を見つめたまま視線を外そうとしなかった。

 

「というかさ、こいつのことどっかで見たことある気がすんだよなぁ」

「ははっ、同じ学校で同じ学年だぜ? 見たことあるに決まってんだろw」

「いや、そういうんじゃねぇんだよな。この学校に来る前に見た事ある気がするんだよ」

「お? 同中だったのか?」

「それならはっきり覚えてるはずだろ? なんで思い出せないんだろーなぁ」

「! もしかして前はメガネかけてなかったんじゃねぇ?」

「お! それあるな! よし、メガネを取ってやれ」

 

 男の子の1人が私のメガネに手を伸ばしてくる。

 

「や、やめてっ!」

「おい、抵抗すんなよっ!」

 

 ……だめ。メガネは外さないで!

 

 素顔は見られたくないの! もしかしたらグラビアしてた私の事を知ってる人がいるかもしれな……い。

 

 私の抵抗も虚しく、メガネは男の子に奪われてしまった。

 

 私の事を見たことがある気がすると言っていた男の子は、私の素顔を見るとはっとした表情になり……ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべ始めた。

 

「……へへへっ! ま、まじかよっ!」

「なんだ? 誰か思い出したのか?」

(ま、まさか……)

 

 私の嫌な予感は当たっていたようだ。

 

「思い出した! こいつ雫ちゃんだよ!」

「雫? ……あっ! あのグラビアしてた雫ちゃん!?」

「お前も知ってたか?」

「おう! 俺ファンだったもんよ!」

 

 ……最悪だ。私の事をCクラスの男の子達に知られてしまった。

 

 そしてそれと同時に、男の子達の私を見る目も変わっていた。

 

「あ〜! 雫ちゃんと同じ学校だったのかよ!」

「くぅ〜! 同じクラスが良かったなぁ〜!」

「だよなぁ〜、水泳とか体育とかパラダイスだったのになぁ〜」

 

 先程までと180度反対の反応。

 

 ……これは私がグラビアをやっていたからかな。

 

 男の子が女の子の体に興味津々なのは仕方がないし、思わず目が行くのも仕方がない。

 

 だってグラビアはそう需要があるから成立するものだし。

 

 だけど、私は基本的に目立ちたくない人間だ。

 

 グラビアをやっていたのは、アイドルという偽りの仮面を被れば本当の自分を隠して別の自分になれると思ったから。

 

 最初はそんな理由だったけど、高校入学時にはカメラに向かって笑顔を向けて、他人に笑顔の自分を見せる事にワクワクするようにもなっていた。その延長上に今の写真撮影の趣味があるわけだし。

 

 ……でもそれはネット上だからできる事だ。

 

 リアルで誰かに見せることはきっとできない。

 

 グラビア撮影にも撮影スタッフに男の人がいるけど、下心は一切ないプロとしての仕事だから許容できていただけだった。

 

 だから、今こうやってジロジロと見られていることも嫌で仕方がない。

 

 ……見ないで。

 

 私の素顔も、私の体も見ないで。

 

「くくく、なぁ〝雫〟ちゃん。俺達と個人的な撮影会しない?」

「……え?」

「俺ら3人だけでこっそり撮影会やろうぜ! それを受けてくれるなら痛い目には合わなくてすむぜ? なぁ〝雫〟ちゃん?」

 

 ……雫、ちゃんかぁ。

 

 それはアイドルをやっていた時の、本当の自分を隠したかった時の私の名前なんだよ。

 

 今の私はアイドルを休止した、佐倉愛里という普通の女子高生なのに。

 

(この人達は、私のグラビアアイドルとしての姿しか見てないんだね)

 

 まぁそれも仕方ないとは思う。クラス内でだって私の胸に男の子の視線が向いてることはよくあるし。

 

 グループの男の子達だってそうだ。何かの弾みで私や波瑠加ちゃんの胸が揺れたりすると目が行ってる。

 

 それでも思わず目が行ってしまったって感じで、すぐに視線を外してくれるから嫌な気持ちにはならない。

 

 綱吉君なんて、顔を赤くしていきなり話題を変えようとするから分かりやすい。

 

 それがむしろ可愛いとすら思える。

 

 ……でも、この男の子達の視線は嫌だ。100%下心だし、なにより私の事を雫としてしか見ていない。

 

 ……こんな人達に、私の素顔も私の体も見られたくないよ。

 

 私は目に涙を溜めながら、精一杯絞り出した小さい声で彼の名前を呼んだ。

 

 嫌な気持ちを消してほしくて、彼の優しい笑顔で包まれたくて。

 

「……助けて、綱吉君」

 

 掠れたような声しか出なかった。すぐ近くにいる男の子達にすら聞こえていないようで、執拗に私に撮影会を受け入れさせようとしてくる。

 

「なぁ。どうする雫ちゃん?」

「ボコボコにされるよりいいだろ? 雫ちゃん?」

「……」

 

 助けはまだ来ないし、もうどうすればいいのか分からない。

 

 ……その時、体育倉庫の扉が轟音を立てて急に倒れた!

 

 ——ドーン!

 

『!?』

「……あ」

 

 扉が倒れた衝撃で埃が煙のように舞い上がっているけど、その先に誰かのシルエットが浮かび上がっている。

 

 ——コツ、コツ。

 

 そして、そのシルエットは足音と共に輪郭を帯びて、その全容を露わにした。

 

「……! さ、沢田!?」

「……つ、綱吉君!」

 

 そう、現れたのは綱吉君だった!

 

「……愛里、大丈夫か?」

「えっ!? う、うん。大丈夫///」

 

 あ、あああああああ愛里!?

 

 今、私の事を愛里って呼んだの!?

 

 初めての呼び捨てに顔を赤くしていると、綱吉君はCクラスの男の子達を鋭い視線で睨みつける。

 

「……お前ら。この子は雫じゃないぞ」

「は、はぁ?」

「い、いやいや。間違いなくグラビアやってた雫ちゃんだろ?」

「……」

 

 男の子達の返答を聞いて、綱吉君の視線がより鋭くなる。

 

(……つ、綱吉君。怒ってる?)

 

「……お前らは、この子の〝本当の魅力〟を知らないんだな」

(……え?)

「は、はぁ? 本当の魅りょ……!」

 

 男の子の1人が問い返すよりも早く、綱吉君は男の子達の懐に入り込んでいた。

 

「……ふん」

『ぐぼぉ!』

「悪いな、お前達には教えたくない。だが、これだけは覚えとけ。この子の名前は〝佐倉愛里〟だ」

 

 そして、同時に2人の鳩尾に一撃を入れた。

 その一撃で男の子達は気絶してしまったようだ。

 

「……」

「待たせたな愛里、今助ける」

 

 その後、綱吉君は私の手足を縛っていたロープを解くと、Cクラスの男の子達の手を手近な所に縛り付けはじめた。

 

「……」

 

 ロープを縛っている綱吉君に、私は思い切って聞いてみる事にした。

 

「ね、ねぇ綱吉君」

「なんだ?」

「あの……さっき言ってた、私の本当の魅力って?」

 

 そうだ。さっき綱吉君が男の子達に言っていたあの言葉だ。

 

「あぁ。その事か」

 

 綱吉君は一度こちらに振り返ると、ロープを縛り続けながら答えてくれた。

 

「……君の本当の魅力は容姿じゃない。いや、もちろん容姿も素晴らしい事に間違いはないが」

「う、うん///」

 

 そしてロープを縛り終えたのか、綱吉君は床に座ったままの私の元まで来ると目線を合わせるように屈み込んだ。

 

「愛里。君の本当の魅力は、他人を想う優しい心だよ」

「……他人を想う優しい心?」

 

 私がそのまま返すと、綱吉君は深く頷いた。

 

「そうだ。君は自分の心よりも他人の心を大事にできる人だ」

「そ、そんな事ないよ」

「そんな事あるさ。須藤の事件の時、君が勇気を出して報告してくれたから俺達は勝てた。それは君が怖がっている自分の心よりも須藤の事を優先してくれたからだよ」

「……」

「それに、今の俺達のグループでもそうだ。君が皆の事を優先して自分の気持ちは抑えてることも分かってる。それはグループの雰囲気を良くしようとする君の優しさからだろう? あと記念写真もそうだな。あれも皆の思い出になるようにっていう君の想いやりだ」

「……うん」

 

 綱吉君にはバレバレだったのか。

 

 せっかくできた私の居場所。そこの雰囲気を悪くしたくなくて、皆が一番楽しめそうな選択肢を選ぶようにしていた。

 

「俺はそんな君を凄い人だと思ってる。でも、その為に君が自分を抑えている事に申し訳なさも感じてる」

「そ、そんな、綱吉君が気にする事じゃ」

 

 だって私がやりたくてしてる事なのだから。

 

「いや。それじゃダメだ。まだ見つかってないけど、いずれ俺達のグループを君にとって自分の気持ちを素直に表現できる場所にしてみせるよ。だから、もう少し待っててくれ」

「綱吉君……」

 

 今の時点でも、綱吉君のグループは私にとってかけがえのない居場所になってくれてるのに……。

 

 さらに私が自分らしくいれるようにしようとしてくれるなんて。

 

 私は綱吉君のそんな気持ちが嬉しかった。

 

 そして、私なんかよりも綱吉君の方がずっと優しいよと思ったんだ。

 

「……あ、メガネを取り返さないとな」

 

 綱吉君は一度立ち上がり、Cクラスの男の子達が倒れた時に落としていた私のメガネを拾って手渡してくれた。

 

「……病院に行こう。動けそうか?」

「……ご、ごめん。腰が抜けてるみたい」

「無理ないさ。よし、じゃあ少し我慢してくれ」

「え? ……わわわぁっ///」

 

 人生で二度目のお姫様抱っこをされた。

 

 そして、そのまま綱吉君は私をバスケ部用体育館から助けだしてくれたんだ。

 

 

 

 私達が外に出ると、啓誠君が待ってくれていた。

 

 きっと綱吉君が呼んでいたのだろう。

 

「綱吉! 愛里!」

「啓誠、愛里を病院に連れて行ってやってくれ」

「ああ。まかせてくれ」

 

 綱吉君は私を地面に下ろしながら啓誠くんにそう言った。

 

「じゃあ俺は波瑠加を助けに行ってくる」

「ああ。頼んだぞ」

「まかせろ。……じゃあ」

「つ、綱吉君!」

「!」

 

 綱吉君が走りそうとした瞬間。私は無意識に声をかけてしまっていた。

 

 私の事を見つめる綱吉君。そんな彼に私は、今の思いの丈を伝える事にした。

 

「……綱吉君、助けてくれてありがとう。波瑠加ちゃんのこともよろしくね」

「……もちろんだ。愛里、君はやっぱり素晴らしい魅力を持ってるよ」

「っ! う、うん///」

 

 私に優しい微笑みを向けて、綱吉君は走り出した。

 

「……愛里、病院に行くぞ」

「う、うん。ありがとう啓誠君」

 

 そして、私は啓誠君と共に病院に向かったんだ。

 

 

 

 〜現在〜

 

 

「……こ、こんな感じだった……です」

「うわぁ……愛里の事を誘拐した奴らも最低だねぇ」

 

 波瑠加ちゃんが私の背中をさすりながらそう言ってくれた。

 

「……私の次は波瑠加ちゃんだよね?」

「あ、うん。そうだと思う」

「ど、どんな感じに助けてもらったの?」

「……え、え〜っとねぇ///」

 

 次の語り手は波瑠加ちゃんだ。

 

 

 

 —— ……「は、波瑠加ちゃんと綱吉君のラ、ラブストーリ~」「……」「……あ、あれ? 否定しないの?」

 

 

 ……愛里と共にツナぴょんの参加する審議の傍聴に向かった私。

 

 しかし、その道中でCクラスの男子に襲われて誘拐されてしまった。

 

 私と愛里は別々の所に連れていかれ、辿り着いたのは水泳部用プールの用具倉庫だった。

 

 両手足を縛られた私は1人の男子に担がれており、用具倉庫に入るなり私は床に乱暴に投げ出された。

 

「痛っ!」

「おっと悪い。でもこれからもっと痛い思いをする事になるんだ。この位の痛みは我慢してもらわねぇとな」

「……な、何でそんなことされないといけないわけ?」

「へへへっ、お前は沢田を潰す為の人質に選ばれたんだよ」

「え? 人質?」

 

 ツナぴょんを潰す為の人質?

 

 ……なるほど。最近Cクラスの奴らが私達の周りをウロチョロしていたのはこの為か。

 

 この時に誘拐する人質を選定していたんでしょうね。

 

「……」

「お? 怖くて声も出ないか?」

 

 怖いかと聞かれれば怖い。私だけで同級生の男子2人を相手にできるわけもない。

 

 でも、誘拐される直前にツナぴょんに緊急連絡をしておいた。だから少なくとも助けは来るという希望がある。

 

 それが救いとなって私の正気を保たせていた。

 

「ん〜、にしてもこいつすげぇよな」

「え? 何が?」

「おいおい、胸に決まってんだろ?」

「ああ! 俺も思ってた! 学年で1番なんじゃね?」

「Bクラスの一之瀬も捨てがたいけどな〜w」

「……」

 

 ……本当に下らない。

 

 こんな状況でも気にするのは私の女の子らしい部分だけなのか。

 

 私は小学校の頃からは発育が良くて、小学生の時点で女の子らしい部分が他の子より目立っていた。

 

 そのせいで男子からはからかわれ、女子からは同情の眼差しで見られていた。

 

 中学に上がれば更に顕著になる。まぁその年頃は男女問わず異性に対する興味が増えるからしょうがない。

 

 胸に目がいってしまうのも仕方ないと分かってる。でも、そこに下心が見えた途端に急激に冷めるのだ。

 

 その影響で私は運動もしなくなり、友達と積極的に交流することもしなくなった。

 

 そうするとお高いイメージが付いたのか、周りの方から離れていくようになった。

 

 私はその状態も楽でいいかなと思っていたから、それでかまわないと思ってた。

 

 ……でも高校に入って、ツナぴょん達と過ごすようになって、グループまで組んで。

 

 私の心境も少し変化が起きていた。

 

 あのグループは居心地がとてもいい。

 

 ほとんどのメンバーが1人行動が多い奴だから、お互いに干渉しすぎず離れすぎず。

 

 全員の予定が合う時だけ集まる。そんな関係が居心地の良さを感じさせてくれるんだ。

 

 それにグループの男子達も胸に目が行くことはあるけど、下心を安易に見せたりはしない。

 

 みやっち・ゆきむー・きよぽんは何とも思ってないように見えるって言えばいいかな。

 

 ……ツナぴょんは3人と全く反応が違う。目が行くと必ず顔を真っ赤にしてすぐに目線を逸らすし、急に話題を転換しようとするんだ。

 

 ……その姿が何か可愛くて、わざとツナぴょんの前で胸を強調したりすることもあったりする。

 

 まぁとにかくグループの男子達は胸に目が行くことはあっても、そこに下心は感じれないから嫌な思いはしないのだ。

 

 だけど、今向けられている視線は100%下心しかない下品な視線だ。

 

「あ〜やべぇ。なぁなぁ、少しくらい手を出してもよくね?」

「ん〜、まぁ大丈夫か?」

(……愛里、大丈夫かな)

 

 下品な視線を受けながらも、私の頭の中には愛里の事が浮かんで消えない。

 

 あの子も私と同じような悩みを持ってるし、愛里もこんな視線を向けられているかもしれない。いや、手だって出されていてもおかしくない。

 

 でも愛里は気が弱いから「やめてよ」と言うこともできないだろう。

 

 ……ごめんね愛里。私のせいだね。

 

 私がツナぴょんの審議の傍聴に誘わなければ、愛里が誘拐されることはなかったのに。

 

 今回の体験はきっと、愛里の心に傷として深く残ってしまうだろう。

 

 たとえツナぴょんが助け出してくれたとしても。

 

 ——そう思った時、私の脳裏に中学時代の親友の顔が思い浮かんだ。

 

(……ああ、二度とあんな経験をしなくて済むように1人で過ごしてきたんだけどなぁ。結局友達を作って、グループを作って、その内の1人が親友になって。……で、その親友を酷い目に合わせて)

 

 ……中学の時の二の舞じゃん。

 

 今度こそは、そう思っていたのに。結果は同じだった。

 

 ……やっぱり、私は友達を作らない方がいい女なのかな。

 

 ……いや、友達だけじゃないね、家族もそうかもしれない。

 

 ……青春を取り戻せるかも、なんて思ってた自分が憎いよ。

 

 愛里の置かれた状況を想像しながら、私の目尻には涙が溜まっていく。

 

「おい、こいつ急に泣き出したぜ?」

「はははっ! 急に怖くなったんじゃねw」

 

 私を野次る男子達の言葉も頭の中に入ってこない。

 

(ああ、愛里。本当にごめんね?)

 

 そう心の中で呟いて、もう自分はどうなってもいいと目を瞑る。

 

「あ? なんだよ、ついに観念したか?」

「いいのか? 目を閉じたってことはOKと受け取るぜ?」

 

 どうとでも受け取って欲しい。親友の愛里をこんな目に遭わせた私には、きつい罰が必要だ。

 

「……好きにして。私は……親友をこんな事件に巻き込んだんだから、どうなったって自業自得だよ」

「おお〜。そりゃあいい心がけだなw」

「んじゃ〜まぁ。……遠慮なく?」

 

 ……私の胸部に男子の手が伸びてくるのが分かる。

 

 愛里、私も同じ目に遭うからね。

 

 すぐに男子達の手が自分の体に触れる……そう思ったが、全然体を触ってこない。

 

『ぐっ! ……がぁ……』

(……何を変な声を上げてるの? この状況を楽しみたいわけ?)

 

 私はさっさと終わらせて欲しいのに。

 

 思わず私は強い口調で男子達に懇願する。

 

「何してるの? さっさとやれよ! 親友を酷い目に合わせた悪い女に罰を与えてよ!」

「……いや、君は悪くない。悪いのは俺だよ。波瑠加」

「……え?」

 

 叫ぶように懇願した私の前方から、最近よく聞く優しい声が聞こえてきた。

 

(この声は……)

 

 声の主に思い至った私は、ゆっくりと目を開いていく。

 

 少しずつ視界に入り込む光。そしてその中心にはツナぴょんが立っている。

 

 目線を動かすと、すぐ近くにCクラスの男子達が倒れているのも見えた。

 

「……ツナぴょん」

「……波瑠加、無事で良かった」

 

 ツナぴょんは床に寝かされている私の前に屈み込んでいる。

 

「……助けに、来てくれたの?」

「ああ。もちろんだ」

「……そっか」

 

 緊急連絡を受けて助けに来てくれたのだろう。

 

 ! いや、今は私なんて助けてる場合じゃない!

 

「ツナぴょん! 私よりも愛里を! 愛里を助けて!」

 

 私の前に屈んでいるツナぴょんのブレザーを掴みながらそう言うと、ツナぴょんは私の手を優しく包んでブレザーから離させた。

 

「安心しろ。すでに助け出している。愛里は無事だよ」

「! ……そ、そうなの?」

「ああ。だから安心してくれ」

 

 ……よかった。愛里は無事だったんだ。

 

 親友の無事が分かり、私の体から一気に力が抜けていく。

 

(本当によかった。中学の二の舞にならなくて……)

 

 力なく床に寝転ぶ私。ツナぴょんは私の手足を縛っているロープを解いてくれている。

 

 そして、解いたロープでCクラスの男子達を手近な場所に縛り付けた。

 

「……」

「これでよし」

 

 男子達を縛り付けた後、私の方へ戻ってくるツナぴょん。

 

 私はそんなツナぴょんに今の心境を打ち明ける事にした。

 

「ねぇ……ツナぴょん」

「……ん?」

「私、愛里に酷いことしちゃったよね」

「……」

 

 私が質問している事に気付いていないのか、はたまたあえて答えないのか。

 

 それは分からないけど、ツナぴょんは黙って私の事を見つめている。

 

「……私ね。愛里を審議の傍聴に誘ったんだ」

 

 私はツナぴょんに話した。

 

 ツナぴょんの参加する審議の傍聴に愛里を誘った事。そして傍聴に向かう途中で誘拐されてしまった事。

 

「……だからね? 私のせいで愛里は酷い目に遭っちゃったんだ。私、親友失格かな」

「……」

 

 情けなくて悲しくて、また涙が出てくる。

 

 そんな私を見たツナぴょんは……無言で私の顔を流れる涙を指で拭った。

 

 そして私の顔を両手で掴み、優しく自分の顔の方に向ける。

 

「……波瑠加。俺の目を見ろ」

「……え?」

「俺の目を見ろ」

「……うん」

 

 言われるままにツナぴょんの目を見つめる。

 

 その目はいつも通りに優しげで、そしてどこか暖かくて。自分の全てを許してくれる、そんな気がしてくる不思議な目だ。

 

「いいか波瑠加。今回の事件は全部俺のせいだ。龍園に目を付けられたのに放っておいた俺のせいだ。だから君は一切悪くない。まずはそれを受け入れてくれ」

「……で、でも」

「いや、俺が悪いんだ。君は何も悪いことはしていない。それが真実だ」

「……」

 

 ツナぴょんの言い様に何も言えなくなり、とりあえず受け入れて黙り込む。

 

「……よし。受け入れてくれてありがとう。……でだ。波瑠加、君にお願いがある」

「? お願い?」

 

 ……こんな私に何をお願いすると言うのだろう。

 

「この後病院に行ったら愛里が待っていると思う。そして波瑠加を見たらきっと、心配して走り寄ってくるはずだ」

「……うん」

 

 その様子は容易に想像できてしまう。

 ……だからこそ辛い。

 

「それでお願いなんだが……」

「……何?」

「愛里が『大丈夫?』とか聞いてきたら……〝大丈夫だ〟っていつも通りの笑顔で言ってあげて欲しいんだ」

「……え?」

 

 ……いつも通りの笑顔?

 ……大丈夫だ?

 

 私がそんなこと言って何になるの?

 

 意味が分からなくて、私は思わず聞き返してしまう。

 

「……そんなこと言って、何になるの?」

「決まってるだろ。波瑠加が大丈夫なら俺達グループメンバーも大丈夫だからだ」

「……まずます意味が分からないわ」

 

 余計に意味が分からなくなり、私がさらに聞き返した。

 

「私が大丈夫と言ったところで、愛里も他のメンバーも大丈夫にはならないでしょ」

「そんなことないぞ波瑠加。君は俺達のグループのコアだからな」

「……コア?」

 

 コアって中心人物ってこと?

 

 ……いやいや、グループの中心はツナぴょんでしょ。

 

 結成したときに沢田グループって事になったじゃない。

 

「……グループの中心はツナぴょんだよ?」

「いや、違う。俺達のグループの中心は君だ。だってあのグループを作ったのは波瑠加だぞ」

「!」

 

 ……まぁ確かに。私がこのメンバーでグループを作りたいとは言ったけど……その後にツナぴょんのグループだって決まったんだよ?

 

 ツナぴょんが私達を纏め上げたんだからさ。

 

「でも、グループを纏め上げたのはツナぴょんだし……」

「確かに俺が纏め上げたかもしれない。でもな、俺はこう思ってるよ。沢田グループは……〝俺が集めて、波瑠加が一つに繋げたグループ〟だってな」

「!」

 

 ……ツナぴょんが集めて、私が一つに繋げた?

 

「……私が、繋げた?」

「そうだ。よく考えてみろ。いくら居心地がいいからって、基本的に1人で過ごす事が好きな人達がそう頻繁に集まるか? そして何時間も楽しくおしゃべりをするか? 俺はそうは思わない。普通に集まるだけなら、同じ空間にいてもそれぞれ好きな事をするはずだ」

「……」

「それなのに俺達は頻繁に同じ空間に集まり、楽しくお喋りして笑い合っている。そんな皆を見ていて俺は思うんだよ、グループメンバー達は居心地がいいという思いよりも、このグループで集まっていると楽しいという思いの方が強いんだとね」

「楽しい……」

 

 ……そうかもしれない。私もグループで一緒に過ごす時間を楽しいと感じていた。

 

 だからこそ頻繁に集まって、くだらないおしゃべりに何時間も費やすんだ。

 

「そして、グループの中に楽しいという感情を生んでいるのは俺じゃない。波瑠加、君だ」

「……私?」

「そうだ。俺が集めたメンバーを、グループという一つの輪に繋げたのは君だ。だからこそ、グループで集まっている時に君が笑っていると他のメンバー達も笑うんだ。全員を繋げている君を通じて、皆で楽しいという感情を共有するんだ!」

「……ツナぴょん」

 

 ツナぴょんは力強い目で私の事を見つめている。

 

 そしてツナぴょんの言ってくれた言葉は素直に嬉しい。

 

 私だって友達を作って青春したっていい。そう言ってくれている気がした。

 

「……だから、波瑠加には笑っていて欲しいんだよ。たとえグループにどんな事が起きたって、君が楽しそうに笑っていればグループメンバーも安心して笑えるから」

「……でも私、こんな時に笑える自信ないよ?」

 

 これは私の本心。私は怖い目にあった時も気丈に笑える様な強い女じゃない。しかも親友が酷い目にあったというのなら尚更だ。

 

「……もちろん君だけに無理を強いるつもりはないさ。さっきも言ったけど、沢田グループは俺が集めて君が繋げたグループだ。だから、波瑠加が安心して笑っていられる場所は俺が用意するよ。どんな状況に陥ったって君が不安になったり怖い思いをしなくて済むように、俺が君の事を守る」

「……うん」

「改めて頼むよ。……この後愛里に会ったら、笑顔で大丈夫だと言ってあげてくれないか? 君が大丈夫なら……愛里も、啓誠も、明人も。もちろん俺と清隆も。大丈夫だって安心できるから」

 

 ——ゴシゴシ。

 

 再び目に溜まっていた涙をブレザーの袖で拭い、私はツナぴょんに向けて強く頷いてみせる。

 

「……うん! わかった!」

「……ありがとう」

「! っ///」

 

 ツナぴょんに微笑みかけられて、私は思わずドキッとしてしまう。

 

(あ、あれ? ツナぴょんってこんなにカッコよかったっけ?)

 

 心臓が高鳴っている所に、ツナぴょんは再び心臓に悪い事をしてきた。

 

「……よっと」

「わ、わああっ///」

 

 なんといきなりお姫様だっこをしてきたのだ。

 

 そして、そのままツナぴょんは私を抱えて水泳部用プールの外へと出て行った。

 

 

「波瑠加! 綱吉!」

 

 水泳部用プールの外に出ると、みやっちが走り寄ってきた。

 

 ……近くで待機していたのかな。

 

 みやっちが私達の元に来ると、ツナぴょんは私の事を近くの段差がある所に下ろして座らせてくれた。

 

「明人。波瑠加を病院に頼む」

「ああ。任せろ」

「助かる。じゃあ俺は他の子を助けに行ってくる」

 

 みやっちと話し終わると、ツナぴょんはどこかに走って行ってしまった。

 

「よし、病院に行くぞ波瑠加。肩に掴まれ」

「……う、うん。ありがとうみやっち」

 

 みやっちに肩を借りながら病院へと向かう。

 

 その道中、私はこんな事を考えていた。

 

 

 私はこれまでに恋愛なんてしてこなかった。

 

 好きになったかなと思う人はいたけど、本当に恋だったのかは分からず終いだった。

 

 それは告白をしなかったからなんだけど……そのことは今でも後悔している。

 

 だから、次に恋をしたら後悔しないように頑張ろうと思っていた。

 

 ……だけどもし。もしも今抱えたこの感情が恋なのだとしたら。

 

 ……私は、自分の気持ちと親友の気持ち。そのどちらを取るのだろうか。

 

 

 

 ——そんな事を考えていたら、いつの間にか病院に着いていた。

 

「波瑠加、着いたぞ」

「え? あ、本当だ」

 

 みやっちに先導されて病院の中に入ると、待合室には愛里とゆきむーの姿が見えた。

 

 自動ドアの音に反応して入り口の方を見る2人。

 

 もちろん私達の事に気がついて、こっちに走り寄ってきた。

 

 ……全く。ここは病院だよ?

 

 だけど、愛里も特に怪我はしていなさそうだ。

 その事が嬉しくて、また涙ぐみそうになる。

 

(……ダメだ。ツナぴょんとの約束を果たさないと。私が笑っていれば、皆も笑う。私が大丈夫なら、皆も大丈夫。……そうだよね、ツナぴょん)

 

 愛里とゆきむーが私達の前に来ると、愛里は予想通り心配そうに私の全身を見回し始めた。

 

「は、波瑠加ちゃん! 大丈夫!? ど、どこか怪我とかしていない?」

 

 怪我が見当たらなくても心配なのか、愛里は私の両手を掴んできた。

 

「……」

「……」

(ゆきむー、みやっち……)

 

 愛里から視線をゆきむーとミヤッチに移すと、2人も心配そうな顔をしている。

 

 だから私は……いつも通りの軽い笑顔を浮かべて、笑って言ってやったんだ。

 

「あははっ♪ 3人ともなんて顔してんの? 私は全然大丈夫だよっ!」



 
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