我が剣は愛する者の為に
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結婚するための試験
馬良こと黎に引っ張られ、この街の城に向かっている事に気がついた。
史実では馬良は馬騰の血縁関係ではなかった筈だ。
まぁ、この世界を史実通りの世界と考えたら駄目だけど。
門番は黎の顔を見ると、すぐに通してくれた。
これを見た限り、この城に住んでいる事は確かだ。
てか、あの門番俺の事を何も聞かなかったけど、大丈夫なのか?
黎とは会って、まだ三十分も経っていないんだけど。
城の中を進み、ある部屋で止まる。
確か姉に会ってもらうと言っていたが。
扉を開けると一人の女性が着替えをしている最中だった。
下着を履き、これから服を着るであろう場面だったので、色々と目のやり場に困る。
「れ、黎。
これって、まずくない?」
何とか眼を逸らそうとするが、俺も男性。
見えるのなら見てしまう。
そんな中黎は何も動じることなく、竹簡を取り出して素早く書いていく。
しかし、それを見せる前に女性が吼えた。
「そんなの書いている前に、その男を連れて出て行けぇぇぇぇぇ!!!!」
とんでもない速度で接近されて、二人とも廊下に放り出される。
黎はどうしてあれだけ怒っているのか分からず、小首を傾げている。
対する俺は重いため息を吐く。
数分後。
ゆっくりと扉が内側から開かれた。
「・・・どうぞ。」
不機嫌そうな声で彼女はそう言う。
下着姿を男に見られたのだから、そりゃあ怒るわな。
黎と俺は中に入る。
髪は青色、長い髪を後ろで束ね三つ編みのように一つに結んでいる。
胸は大きく冥琳くらいはあると思われる。
白を主体とした長袖の服に、太股まで伸びている薄い水色のソックスのような物を穿いている。
彼女は一緒に入ってきた俺に棘のある視線を向けながら、黎に言う。
「黎、この男は誰?」
『私の婿。』
「ぶっ!?」
あまりに直球すぎる言葉が書かれていて、思わず吹き出してしまった。
対する彼女は唖然とした表情をして、眼を何度も瞬きさせる。
「面白い冗談ね。
いつの間に覚えたのかしら。」
若干声を震わせながらも、必死に冷静を装うとしている。
『冗談じゃない。
本気だよ、この人は私の婿。』
「ふ、ふ~ん。」
明らかに動揺しているな、この人。
ターゲットを黎から俺に変えた。
ジロジロと頭から足先まで、じっくりと観察される。
一通り見て終わって、彼女は言う。
「却下。」
その言葉を聞いて納得いかないのか、黎は素早く竹簡に文字を書く。
『どうして?
美鈴の言っていた条件に当てはまっている。』
「容姿はまぁ合格と認めても、その他の事がねぇ。」
『なら、試験を出せばいい。
それが合格したら彼を認めて』
黎の言葉を見て、少しだけ考えているようだ。
「いいわ、それであなたが納得するのならね。」
彼女の言葉に黎は頷く。
あれ、俺の意見は聞かないの?
「早速始めるわ。
ついて行きなさい。」
そう言って、部屋を出て行く。
もの凄く帰りたかったが、黎ががっちり俺の腕を掴んで離さない。
これは帰るのが遅くなりそうだな。
移動した先は隣の部屋だった。
開けると中は服が散らばっていたり、埃が溜まっているなど、明らかに掃除が行き届いていない部屋だ。
「第一試験は掃除よ。
この部屋を一刻以内に終わらせなさい。」
部屋の大きさはそれほど大きくないので、効率を考えればクリアできなくはない。
「今の時代、男も家事ができないとね。」
この時代でそんな思想を持っているなんてな。
『頑張って。』
「てか、俺に拒否権ってないの?
そもそも結婚するつもりは。」
「邪魔にならないように、外で待っているわ。
今から一刻以内よ。」
そう言って二人は部屋を出て行った。
この時代の人間は人の話を聞かない人が多すぎて困る。
思いため息を吐いて、部屋を見回す。
あの子と結婚するつもりはないので、手を抜くもしくはやらない方が良いんだけど。
「でも、このまま失敗すれば俺は何もできない奴って思われるよな。」
そう思われても、あの二人とこれから会うかどうかわからない。
だが、俺はこの国の王になるつもりだ。
その王が何もできない屑野郎でいいのか?
いいや、良い訳がない。
そう考えると急にやる気が湧いてきた。
腕を捲り、刀を壁に立てかける。
「んじゃ、やるとしますか。」
一刻後。
扉が開かれ、中の状況を見た二人は驚き、眼を見開いた。
服はきちっと畳まれ、棚に収納している。
窓もきっちりと拭かれ、指紋一つない。
寝台もしっかりとベットメイキングされており、埃も見た限り取り除かれている。
黎は綺麗なった部屋を見て、俺を感心した視線を送り、彼女はうぬぬ、と眉をひそめこちらを睨んでいる。
「ご、合格よ。
でも、この試験はこれからの試験に比べれば序の口。
さぁ、次の試験をするわよ。」
悔しそうに言いながら部屋を出て行き、俺と黎も後をついて行く。
全部の試験をクリアして、結婚を断っても遅くはないはずだ。
次の試験は料理。
材料を使って、料理を作りそれを食べて評価すると言うものだ。
「そう言えば、まだ自己紹介してないよな。」
材料を確認しながら、俺はまだ名前も知らない彼女に話しかける。
「そう言えばそうね。
『一応』、黎の婿候補なんだから、名前くらい教えておくわ。
私は龐徳よ。」
「俺は関忠だ。
よろしく。」
「よろしくしたくないわね。
黎に近づく男は皆敵よ。」
「俺から近づいたわけじゃないんだけどな。」
龐徳といえば、馬騰に仕えていた将の名前だ。
つまりこの城に馬騰がいる事は間違いないだろう。
(この一件が終われば、馬騰に会わせてもらえるか聞いてみるか。)
「それじゃあ、何か料理を作って。
普通の料理じゃあ、私は納得しないから。
もちろん、公平に審査するから安心して。」
ここは転生者としての知識を使わしてもらおう。
材料を見た限り、作れそうなのが一つだけある。
野菜などを千切りにして、牛肉と豚肉を叩き潰してミンチ状に仕上げる。
野菜と牛肉と豚肉のミンチ肉を合わせて、油の引いた中華鍋に入れる。
ソースは中華風の辛口仕上げ。
充分に焼けたハンバーグに中華風ソースをかけて出来上がり。
皿に盛りつけて、龐徳に渡す。
「何なのこの料理?」
「ある人物の調理方法を聞いてね。
ハンバーグという料理名だ。」
「確かに良い匂いね。
それでは早速。」
箸でハンバーグを一口サイズに切り、口に運ぶ。
「美味しい、はっ!?」
思わず漏れた言葉を黎は聞き逃さない。
『今、優華美味しいって言った。
つまり、合格よね?」
「う、ううううう!!」
どうやらうまく仕上がったらしく、口に運んだら思わず声が出たようだ。
料理を作ったものとしてはこれ以上にないくらい嬉しい反応だ。
黎に言われたこともあり、渋々と答える。
「合格よ・・・予想外だったわ。
まさか、本当に見た事もない料理を出すだなんて。
次の試験の準備をするから、中庭で待ってなさい!!」
捨て言葉のような言葉を言い残して、走ってどこかへ行ってしまう。
ちなみにハンバーグは全部食べて行っている。
中庭、次の試験の内容が分かった気がする。
それは黎も分かっているのか。
『次の試験が一番難関です。
頑張ってください、縁様。』
俺達は一足早く中庭に向かう。
おそらく、次の試験の内容は。
「最後の試験は強さよ。
この私に勝つ事ができれば認めてあげるわ。」
長さは一メートル六十センチくらい。
先端は斧のような形をしており、その先には鋭く尖っている。
それが一本ではなく、二本持っていると言う所だ。
月火と同じタイプの武人だろう。
確か龐徳は五虎将クラスの強さだったはず。
油断はできない。
俺は刀を抜いて、構えのない構えをとる。
「行くわよ!」
地面を蹴って、こちらに接近してくる。
右手に持っている双戟を横一閃に振り抜く。
それを上に跳ぶ事で避けるが、それを読んでいたのか、もう片方の双戟で俺の頭上から振り下ろす。
だが、こちらも跳べばどう対応してくるかは読んでいた。
刀で振り下ろしてくる双戟を横から斬って弾く。
氣で腕を強化しているので、完全に弾かれる。
「くっ!?」
しかし、龐徳は弾かれた反動を利用して、そのまま一回転して今度は双戟同時にこちらに打ち込んでくる。
俺は刀を盾にして、その双戟を受け止める。
重い攻撃だったが、全身を強化しているので受け止める事ができた。
「あの勢いの攻撃を受け止めるなんて。」
自信があったのだろう。
それを完璧に正面から受け止められたので、信じられないような顔をしている。
その隙を突くかのように、俺は右手で腹に掌底を繰り出す。
龐徳は後ろに吹き飛ぶが、地面を滑りながらも倒れない。
俺は刀を地面に刺して、両手に氣を溜める。
氣を感じた龐徳は俺に近づこうとするが、その前に両手の氣弾が発射される。
両手から小さい氣弾がマシンガンのように発射される。
阻止できないと分かった瞬間、双戟で氣弾を弾いて行く。
その間に俺は足を巧みに操り、刺している刀を蹴り、飛んで行った刀は氣弾の間を縫って龐徳に向かって行く。
思わず双戟による防御を止め、眉間に突き刺さる軌道の刀をギリギリでかわす。
そこに小さいが隙ができた。
右手を銃のように構え、その指先に氣を溜めていく。
俺が何をするか分かったのか、双戟で防御しようとするがまたしても俺の方が早い。
高密度の氣弾が龐徳の眉間に襲い掛かる。
直撃を受け後ろに倒れる。
それでもすぐに立ち上がろうとするが、すでに勝負は決していた。
立ち上がろうとする所に俺が接近して、掌を龐徳に向ける。
もちろん、氣弾の準備は既にできている。
「この状況を見て、あんたほどの実力の持ち主なら勝敗が決したと思うが。」
俺の言葉に唇を噛み締めながらも小さく頷いた。
この勝負、俺の勝ちが決定した。
龐徳の武器を見た限り、パワータイプなのは何となく分かった。
なので、接近戦ではなく氣弾を使った遠距離からの攻撃スタイルに変更させた。
「う、うう・・・・」
龐徳から変な呻き声が聞こえる。
「おい、どうかしたか?」
声をかけたのと同時だった。
「うわぁ~~ん!!!!
変なのに黎を盗られたぁぁぁ!!!!!!」
突然、本気泣き始めた。
これって傍から見たら、完全に俺が悪く見えるのよな。
どうすれば良いのか全く分からない俺はオロオロするしかできない。
そんな時に黎が龐徳に近づいて、竹簡を見せる。
『泣かないで、優華。』
「ひっく、ぐすっ。」
『私はあの人の嫁に行っても、元気でいるから。』
「うわああああああ!!!!」
「火に油を注ぐような真似を止めろ!
この人を何とかしてくれる人はいないのか!?」
俺の助けを求めた。
しかし、誰も反応してくれる人はいない。
そう思っていた時だった。
「ここにいるぞ!!」
と、元気な声と共に一人の少女が手を挙げてやってきた。
髪をサイドポニーで纏め、服はオレンジ色を主体とした服装を着ている。
少女は黎に話しかけると、黎は竹簡に何かを書き始める。
内容はこうだ。
『優華、泣かないで。
嫁に行っても、優華の事は大好きだし忘れないから。』
「ひっく・・・本当?」
涙を溜めながら、黎に聞く。
それに黎は深く頷いた。
堪らず黎に抱き着いた龐徳を優しく抱き返す。
これではどっちが姉なのか分からない。
「助かった。
あのまま泣き続かれるのは、非常に困っていた。」
「気にしないで。
優華さんの泣き顔なんて滅多に見れないからね。
私は馬岱、お兄さんの名前は?」
「俺は関忠。
君が馬岱って事は馬騰さんを知っているかい?」
「知ってるも何も、馬騰は私の叔母さまだよ。」
やはり馬騰も女性の様だ。
馬岱は史実でも馬騰の甥だったはず。
名前を聞いた時、ピンときたが間違いないようだ。
黎も馬騰に仕えている可能性も高い。
手紙の件やこの結婚の事についても馬騰に相談した方が一石二鳥だろう。
俺はその事を馬岱に言う。
「そういう事なら叔母さまの部屋に案内するね。」
「ありがとう。」
「ほら、二人も一緒に行くわよ。」
馬岱はようやく泣き止んだ龐徳と黎を立ち上がらせる。
こうして、馬岱の案内の元、馬騰の部屋に案内される事になった。
後書き
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