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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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一目惚れ

皆さんは『白馬の王子様』という言葉を耳にした事はあるだろう。
おそらくだが、少女の永遠の憧れでもあるあれである。
女性は差はあれど理想とする男性像はある筈だ。
それは現代だけではなく、この三国志の時代の女性も例外ではない。
さて、とある街で一人の少女が歩いている。
髪は雪のように白く、眉毛も同じように白い。
身長の大きさはあの諸葛孔明こと、朱里と同じくらいと言えば想像できると思う。
髪はショートヘアー、彼女は今、街中を歩いている。
別に用があって歩いている訳ではないのだが、この時間はやる事がないので散策している所だ。
ふと、彼女の前をとてもラブラブしている男女の姿が目に入った。
具体的に何をしているかというと、店で頼んだお菓子を食べさせ合っている。
実にリア充爆発しろ、という言葉が似合いそうな二人だ。
周りも認知しているからか、客も一歩引いている。
それを見た彼女は重いため息を吐いた。
年頃の彼女にとって、あのバカップルの様な事まではしたくないが、ああいうやり取りをしたいと思っている。
客観的に見たら彼女は可愛い。
思わず守ってしまいそうな、そんな可愛さを秘めているのは間違いない。
それなのに、彼女は今まで男と付き合った事すらない。
原因は二つ。
一つは彼女の姉ともいえる存在が、彼女に寄ってくる男を視界に入れる際にボコボコにするからだ。
故にこの街では彼女に手を出す者はいない。
その姉ともいえる存在は強く、並みの強さでは歯が立たない。
もう一つの原因はある意味、その姉のせいでもある。
姉は幼い頃から彼女にこう言っていた。

「男には注意しなさい。
 皆獣だからね。
 そうね・・・強さは私より強くて家事も何でも出来る。
 髪は黒色でお姉ちゃんより長くないとね。
 もちろん、手入れしたかのようなしなやかで美しい髪よ。
 最後が大事、器の大きさよ。
 どれくらい大きいのが良いかって?
 う~んと・・・・・この国を自分の国にするって言うくらいでかくないと。
 そんな男が出てきたら、少しだけ考えてあげてもいいわ。」

これを耳にタコが数十個出来るくらい、かつ幼少期から聞かされればどうなるだろうか?
しかも、これだけの条件を言って少し考えるだけなのだから恐ろしい。
一種の洗脳、と言い換えてもおかしくはないと思う。
それが影響してか、そこら辺の男を見ても胸の高鳴りも一切ない。
考えに耽っていると、通行人に肩が当たった。
それほど強く当たっていないのだが、今日は運が悪かった。

「あぁ?
 嬢ちゃん、どこに目つけてんだよ!」

相手はガラが悪い行商人だった。
見た限り機嫌が悪い。
彼は持っている商品を恐喝紛いのように、相手に進め高値で売る事を商売にしている。
今回の客は恐喝に動じない客だったので、思うように売れなかったのだ。
つまり、八つ当たりだ。
彼女はどこから取り出したのか、竹簡と筆を取り出す。
尋常ではない速度で木簡に文字を書き、それを行商人に見せる。

『ぶつかったのは済まない。
 謝る。』

「そんな文字じゃなくて、口で言え!」

『面倒くさい。
 別に言いたい事が伝われば、文字も声も変わらないだろう。』

彼女こと、馬良は少々変わった思考の持ち主だ。
さっきも馬良が書いた通りの事を思っているため、竹簡と筆を常に持ち歩いている。
しかし、この行動が彼をさらに怒らせた。

「てめぇ~、俺に喧嘩打ってんのかよ!」

『どうして、そうなるのかさっぱり分からない。』

「うるせぇ!」

「ッ!?」

行商人は拳を作り、馬良に向かって繰り出す。
武術の心得は全くないので、避ける事もできずただ目を瞑り、息を呑むだけだ。
これから来るであろう痛みを、必死に耐える準備をしようとした時だった。
パン!!、と拳を受け止める音が聞こえた。
ゆっくりと眼を開けると、後ろから行商人の拳を受け止めている。

「おいおい。
 大の大人がこんな可愛い子に手を挙げて良いのかよ?」

「だ、誰だ!」

「通りすがりのお節介焼きだ。」

その男は行商人の拳を弾き、その一瞬で馬良と行商人の間に入り込む。
大きな後ろ姿、背中の半分くらいまで伸びた黒い髪。
何より、馬良は少しだけドキドキしていた。
こんな体験は初めてだったからだ。

「このっ!!」

行商人はもう一度拳を握り、その男に振りかぶる。
首を少し横に動かして、紙一重で避ける。
左手で避けた拳の手首を掴み、右手で胸ぐらを掴む。
次の瞬間には行商人は空を一回転して、地面に叩きつけられる。

「があはぁ!!」

肺の中の酸素が一気に吐き出される。
手加減したのか、行商人には意識があった。

「頭が冷えたか?
 この子が悪いかもしれないけど、そこは大人の貫録見せて、ね?」

「ち、ちくしょう!」

悔しそうに言って立ち上がり、走ってこの場を去っていく。

「君、怪我はない?」

助けてくれた男が馬良の方に振り向く。
その顔を見た瞬間だった。
バキューン!!、と馬良の大事な何かが貫かれたのは。

「う、うん?
 お~い、大丈夫かい?」

馬良の目の前で上下に手を動かす。
唖然としていた馬良だが、正気に戻る。

「おっ、気がついた。
 君もちゃんと前を歩いて行くようにな。」

そう言い残して男は立ち去ろうとする。
今までに感じた事のない胸の高鳴り。
馬良は経験がないが、この気持ちは長年待ち望んでいたあれだと直感する。
だからこそ、離れようとする男の手を掴んだ。

「あ、あれ?
 他に何か?」

手を掴まれた男は少しだけ戸惑いながらも、振り返る。
馬良は顔を赤くしながら口を開ける。
この言葉は竹簡に書くのではなく、自分の言葉で話さないと理解しているからだ。

「私と、結婚してください。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」








早朝、俺達はようやく涼州の馬騰が居る筈の街に着く事ができた。
涼州は一番端に位置するので、道のりが長かった。

「早速、馬騰の居る城に向かうのですか?」

隣にいる星が話しかけてくる。
早めに会っておいたほうがいいんだが。

「後ろの奴が結構ボロボロだから。
 初めてくる涼州でもあるから、今日は街を散策して明日にでも、馬騰の居る所へ向かおう。」

そう言って、俺は後ろで木刀を支えに必死に立っている一刀に視線を向ける。
足がガクガクで立つのもしんどいらしい。
あの一件以来、一刀はさらに修行に打ち込むようになった。
さらに追加で勉学についても教えて欲しいと、俺に頼んだ。
さすがに一気に上げると一刀の身体が壊れてしまうので、ちょっとずつあげている。
今までの修行が結構ギリギリだったのに、それをさらに上げるのだから疲労は結構来ているだろう。
現に木刀を杖代わりにしないといけないくらいまで、疲弊している。
俺の話を聞いていたらしく、声ではなく手を挙げて返事をする。
どうやら、声も出すのもしんどいらしい。

「んじゃあ、適当に宿でも取るか。」

皆に異論がなかったので、早速宿を探す。
幸いにも宿自体はすぐに見つかり、部屋を取る。
泊まる部屋に入ると、一刀はすぐに寝台に倒れ込み、十秒もかからず寝た。

「よほど、疲れていたみたいですね。」

月火は寝ている一刀の頬を突きながら、そう言う。

「一刀お兄ちゃん頑張ってたもんね。」

「縁殿の辛い修行の後、さらに本を読んで勉強しておられるからな。」

「あの街の事で力不足を痛感したんだろうな。
 ちゃんと自分の許容範囲内で、治めているぽいから寝てれば大丈夫だろ。
 お前達はこれからどうする?」

一刀はこのまま爆睡。
今日一日はこの宿で泊まるので、他の皆の予定を聞く。

「私は涼州独特のメンマがあると思うので、それを探しに。」

「お前はどんなところでもぶれないな」

星はメンマ探し。

「私と美奈はこの街を色々と回ってみる予定です。」

「うん!
 何か面白いものでもあるかもだから、楽しみ。」

豪鬼と美奈が街の散策。

「私は少しだけここに残るわ。
 休憩したら、街に行くつもり。」

とりあえず、月火は待機。
俺も街が気になるから、散策に向かうか。
という訳で、一刀と月火を残して俺達は宿を後にする。
って言っても、俺達は別々で行動する事になった。
豪鬼と美奈の家族の間を割って入るつもりもない。
星には一緒に来るかと誘われたが、悪いがそれほどメンマに興味がないので断った。
ちょっと寂しそうにしていたので、後で何か土産でも買うか。
ある程度店などを見て回りながら、歩いていると。

「てめぇ~、俺に喧嘩打ってんのかよ!」

そんな声が聞こえた。
その方に視線を向けると、一人の少女にガラの悪い男が絡んでいる。
服装を見た限り行商人のようだが、全く服が合っていない。
何が原因で怒っているのかは分からないが、行商人は拳を握り、今にも殴りに行こうとしていた。
それを黙って見過ごす訳にはいかない。
少女を殴ろうとする拳を俺が変わりに受け止める。

「おいおい。
 大の大人がこんな可愛い子に手を挙げて良いのかよ?」

「だ、誰だ!」

「通りすがりのお節介焼きだ。」

この子の方が悪い事をした可能性もあるが、それでもこの子が殴られていい事にはならない。
拳を弾き、その隙に少女と行商人の間に入る。

「このっ!!」

再度、拳を握り、今度は俺に殴りにかかってくる。
原因は不明だが完全に頭に血が上っているようだ。
向かってくる拳を首を横に移動させ、紙一重で避ける。
左手でその拳の手首を掴み、右手で胸ぐらを掴む。
そのまま空中で一回転させて、地面に叩きつける。

「があはぁ!!」

叩きつけられた衝撃で、肺から酸素が吐き出される。
手加減はしたのでそれほど痛みもない。
けど、これで頭が冷えた筈だ。

「頭が冷えたか?
 この子が悪いかもしれないけど、そこは大人の貫録見せて、ね?」

「ち、ちくしょう!」

悔しそうに言葉を吐いて立ち上がると、そのまま何処かへ立ち去って行った。
少しだけ息を吐いて、俺は振りかえる。

「君、怪我はない?」

そう声をかけるが、全く反応がない。
少し怖くなったので、手で少女の前を上下に動かす。

「う、うん?
 お~い、大丈夫かい?」

声を聞くと、我に返ったのか目が合う。

「おっ、気がついた。
 君もちゃんと前を歩いて行くようにな。」

ちょっとだけ注意をして、俺はこの場から立ち去ろうとする。
しかし、後ろから手を掴まれて動きを止める。
振り返ると少女が俺の手を握っている。

「あ、あれ?
 他に何か?」

もしかしたらお礼を言いたいのかもしれない。
礼儀正しい子だ。
何故か、その子は顔を赤くしながら口を開いた。

「私と、結婚してください。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」

少女の言葉を理解するのに、たっぷり十秒はかかった。
俺の耳がおかしくなった訳ではないよな?

「え、えっと・・・・・・・・何を言っているのかな?」

ちょっと、いやかなり戸惑いながらも俺は聞き返した。
あれだ、かなり人見知りで男の子に免疫がなくて、突然助けられてパニックているからそんな発言が出たんだ。
きっと落ち着けば、さっきの言葉はなかった事にしてくれるはず。

「いえ、私は貴方と結婚したいのです。」

都合の良い現実逃避という名の幻想は、少女自らがぶち殺した。
はっ?
結婚?
何を言っているのこの子は?
初対面だぜ、俺?
なにこれ、前世では結婚しているとかそんな電波でも拾ったの?
俺が驚き戸惑いっていると、少女は俺の腕を掴み、そのまま引っ張っていく。

「ちょっ、どこに行くんだ!?」

すると、少女はどこから取り出したのか。
竹簡と筆を取り出し、片腕は俺の腕を掴んでいるので、空いている手に竹簡、口に筆を加える。
そのまま流れるように文字を書いて行き、書いた竹簡を俺に見せる。

『これから私の姉に会ってもらいます。』

「姉!?
 会って五分もせずに家族に紹介されるの俺!?
 てか、何で竹簡で会話!?」

『絶対に逃がしません。
 もう貴方は私の婿さんです。』

「勝手に婿にされた!?
 気が早いすぎるだろ!?」

どうする。
このまま力ずくで振り払うか?
それだとちょっと可哀想だし。
姉に会うのだから、姉に説明してこの子を説得してもらって、こんな馬鹿な真似を止めた方が良いか。
もしかしたら俺の他にもこうやって、結婚を申し込む少女なのかもしれない。
何より、この子は可愛い。
少しため息を吐いて言った。

「君、名前は?」

『馬良。
 真名は(れい)。』

「真名まで教えるのかよ。
 ならこっちも教えないとな。
 関忠だ、真名は縁。」

『縁・・・・・これで婚儀が開けれる。』

「もしかして強引に引き剥がした方が良かったかもな。」

これから起こる事が全く予想できない不安の中、俺は彼女に引っ張られながら街を歩いて行くのだった。 
 

 
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