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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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ぺーパーシャッフル⑥ 〜嵐を呼ぶ試験直前〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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ぺーパーシャッフル⑥ 〜嵐を呼ぶ試験直前〜

 

 —— 清隆side ——

 

「ねぇねぇ、歌っていい?」

「待って、軽井沢さん。今日は遊びに来たわけじゃないのよ?」

「え〜、折角のカラオケなのに?」

「あなたがどうしても誰かの部屋は嫌だと言うからここにしたんでしょう?」  

 

 軽井沢がマンションを嫌がったのは、場所をケヤキモール内にするように俺が指示を出しておいたからだ。

 

 なんたって、ケヤキモール内にはクリーニング屋がある。

 すぐ近くにクリーニング屋がある事が大事なんだ。

 

「そうだけどさ。何ていうか〜。カラオケに来て歌わないのって馬鹿じゃない?」

「さっき頼んだ軽食で我慢して」  

 

 入室する際に、すぐさまに店員に人数分の飲み物と軽食を注文していた軽井沢。

 

 すでにテーブルには色んなジャンクフードと個人のドリンクが置かれていた。

 

「じゃあ作戦会議終わったら歌っていいよね」

「それはもちろん構わないわ」

「やった〜♪ じゃあみーちゃん、デュエットしない?」

「うん、いいよ」

「そうだね。最近根を詰めてるし、それくらいの息抜きはいいんじゃないかな」

「私も賛成! カラオケで歌うのも結構久しぶりだし〜♪」  

 

 カラオケを歌いたい組と真面目組の折り合いが付いたところで、俺達は早速本題に入った。

 

「……では、始めましょう。まずは勉強会の成果だけれど、結果は上々だと思っているわ。数名の男子がふざけた行動をしたときはどうなるかと不安にもなったけど、現時点で期末試験の範囲にはある程度対応できるようになったはずよ」

 

 堀北はDクラスの現状を上出来だと感じたようだ。

 

 俺は沢田グループの勉強会しか見てないから詳しくは分からないが、堀北がそう言うならそうなのだろう。

 

 高評価を下した堀北に、須藤が得意そうに口を開いた。

 

「へへっ! 口から英単語帳が飛び出すくらい勉強したからな!」

「まだ付け焼刃状態よ。基本学力は中学1年生レベルである事はを忘れないで」

「ええっ! こんだけ勉強して、まだ中1レベルかよ……」

 

 ……喜んだり悲しんだり、本当に堀北の忠犬って感じだな。

 

「長谷部さん達の方はどう?」

「こっちも問題はない」

 

 堀北の確認に簡潔に啓誠が答えると、櫛田が嬉しそうにポンっと手を叩いた。

 

「良かった〜♪ Dクラスの誰かが欠けるなんて絶対に嫌もんね! 皆で乗り越えようね、ペーパーシャッフル♪」

 

 ……さぁ、このタイミングで仕掛けてみるか。

 

「……」

「!……」

 

 目で軽井沢にアイコンタクトを送ると、軽井沢は複雑そうな顔で口を開いた。

 

「……でもさぁ、本当に大丈夫なの?」

「え? 軽井沢さん?」

 

 予定通りだ。櫛田が反応を見せてくれたぞ。

 

「そりゃ、クラスメイトが減るのは嫌だけどさ。毎年誰かが退学してる試験なんでしょ? 私や須藤くんが赤点を取らない保証はないよね?」

「保証は……出来ないね……」

「だったらそんな軽々しい言い方しないでよっ!」

 

 困ったような顔になる櫛田に、軽井沢は怒りのボルテージが上がって行くように詰め寄っていく。

 

「前々から言いたかったんだけど、櫛田さんって良い子ちゃんぶってない?」

「え? ……そ、そう、かなぁ……」

 

 不穏な空気に包まれた2人を、進行役の堀北が取りなそうとする。

 

「冷静になってもらえないかしら。今はテストに向けての話し合いをしている最中よ?」

「堀北さんは黙っててよ!」

 

 しかし軽井沢は、堀北の言葉を跳ね除けて、詰め寄ることを止めようとしない。

 

「ねぇ櫛田さん。本当は心の中で私の事を馬鹿にしてたりするんじゃないの?」

「そ、そんなことしないよ?」

「だったら気安く言わないでよ! 私が赤点取ったら責任取れるわけ?」

「せ、責任って……わっ!?」

 

 演技の怒りがマックスに達したのか、軽井沢は自分のグラスに入っていたグレープジュースの中身を櫛田にぶっかけた。

 

 ブレザーの胸元付近に、グレープジュースの紫色のシミがついている。

 

「軽井沢さん、今のはいけないよ。やっていいことと悪いことがあると僕は思う」

「だ、だって……。私が悪いの?」

「今の話はあなたが悪いわ、軽井沢さん。櫛田さんにはどこにも非がなかったわよ」

「さすがに擁護できんぞ」

「わ、私は平気だよ。全然気にしてないから、軽井沢さんを責めないであげて?」

「そうはいかないだろ。どう考えても軽井沢が悪い」

 

 平田・堀北・啓誠から窘められる軽井沢。

 

「……っ」

 

 そんな軽井沢に1人だけ手を差し伸べる者がいた。……王だ。

 

「軽井沢さん、とりあえず謝ろう? 謝れば櫛田さんも許してくれるよ。ね? 櫛田さん」

「う、うん。もちろんだよ」

 

 ……軽井沢が謝れば櫛田も許す、そう言った意識を植え付けるような行動だな。

 

 本人が許すんだから外野が口出すな、そう言いたいのだろう。

 

(……しかし、王ってクラス内の揉め事に干渉するような奴だったか?)

 

 どこか違和感を感じつつも、意識はすぐに深く頭を下げた軽井沢へと移った。

 

「……ごめんなさい」

「ううん、いいんだよ。私ももう少し軽井沢さんに理解ある発言をするべきだったかなって」  

「今の私、全然冷静じゃなかったかも。ごめん」  

「いいんだって、気にしないで♪」

「……ありがとう」

 

 いつもの女神のような微笑みで軽井沢の暴挙を許した櫛田。

 

 しかし、軽井沢は何かに気づいたようにハッとした表情を見せた。

 

「櫛田さん。明日学校に着て行く予備のブレザーって持ってる?」

「……あ、私前に1着ダメにしちゃって、これしか残ってないな……」

 

 元々ブレザーは学校から2着支給されているものだ。

 櫛田のそのダメになったというブレザーは、保管している俺の指紋付きブレザーに違いない。

 

「お詫びとしてさ、せめて私にクリーニング代を出させて」

「え? いいよそんなの」

「それじゃあたしが落ち着かないから……ダメ?」

「……本当にいいの?」

「うん。全部あたしが悪いから、それくらいはさせて」

「……分かった。じゃあお願いするね」

 

 櫛田がブレザーを脱ぎ、軽井沢に手渡した。

 

 こうして、クリーニング代を軽井沢が出すということで今回の争いは終幕となった。

 

 そこからの話し合いはスムーズに進み、Cクラスに出す問題も最終決定となった。

 

 さすがに話し合い終了後もカラオケをしていくって感じにはならず、全員が帰路へと付いた。

 

「……」

「……」

 

 別れ際に俺は軽井沢にあるものを手渡し、何食わぬ顔で家路へと着いた……

 

 

 

 

 —— 美雨の部屋 ——

 

 

 ……全員が家に帰った頃。

 王美雨は、自室でとある人物に電話をかけていた。

 

 ——プルルルル、ガチャ。

 

『あ、もしもし? ……うん、予想通り櫛田さんに対してアクションを起こす人がいたよ。……うん、そう。軽井沢さん。……ジュースを櫛田さんのブレザーにかけたんだよ。それでブレザーにシミが。……うん。軽井沢さんがクリーニングに出す事で落ち着いたよ。……帰り際、綾小路君と軽井沢さんが2人で会ってたね。……うん、後を尾けたよ。なんかね、クリーニングに出す前に、ブレザーの内ポケットに何か入れ込んでた。……うん、多分紙だと思う。……あ、うん。ちゃんと軽井沢さんのフォローもしたよ。大丈夫、険悪な雰囲気にはなってないから』

 

 ……それから数分間、美雨は何者かと通話をし続けていた。

 

 

 

 

 —— 翌日の朝、職員室前 ——

 

 —— 桔梗side ——

 

「……これがDクラスの出題する問題文……って事でいいんだな?」

「はいっ! よろしくお願いします♪」

「わかった。……しかし、お前が持ってくるとは少し意外だな、櫛田」

「堀北さんに頼まれましたから♪」

「……そうか」

「あ、もう一ついいですか?」

「なんだ?」

「問題文のすり替え等が起きないように、私以外の誰かが問題文を提出してきても受け取るふりだけをして、受理しないで欲しいんです」

「……分かった。いいだろう」

「ありがとうございます♪」

 

 

 ……先生に問題文を提出した私は、そのまま屋上へと向かった。

 

 ——ギィィ……

 

 屋上へ繋がる扉を開き、屋上に出てみると、そこには龍園君が立っている。

 

「よぉ……桔梗」

「おはよ〜。……はい、Dクラスから出す問題文のコピー」

 

 私が手渡した封筒を受け取り、龍園君はニヤリと笑う。そして、同じような封筒を私へと手渡してくる。

 

「ほらよ、Cクラスから出す問題文のコピーだ」

「ありがとう♪」

「うちの金田の自信作だ。相当難しいはずだぜ」

「なら、私だけ高得点になっちゃうかも♪ 試験結果が楽しみだね〜、龍園君♪」

「ああ……楽しみだ」

 

 短いやりとりを済ませ、私はすぐに屋上を後にする。

 

(ふふふ♪ さぁ〜、これで確実に堀北鈴音に勝つ事ができるよ〜♪ ……なんてね)

 

 屋上から離れた私は、1年フロアの女子トイレへと向かった。

 

 女子トイレに入ると、手洗い場の所に1人の女子が立っている。

 

「……あ、おはよう♪」

「……おはよう」

「頼んでたものは準備できた?」

「う、うん。……これ」

 

 その女子は、一枚の紙を手渡してきた。

 

「あはっ♪  ありがとうね? ……木下さん♪」

「……こ、これで。沢田君も堀北さんも許してくれるんだよ……ね?」

「もちろん♪ Cクラスの出す問題文のコピーを準備出来れば、〝体育祭での堀北さんとの事故をわざと引き起こした事〟を不問にするって約束だもんね♪  2人も約束は守ってくれるよ!」

「そ、そっか……」

「うん! じゃあ、ありがとね?」

「うん……」

 

 用件が済んだので、私はさっさと女子トイレから立ち去った。

 

 体育祭で堀北と接触事故を起こした木下。

 その事をネタに、木下を遠回しに脅してCクラスの問題文を入手させたのだ。

 

(私、ツナ君以外の誰も信用してないんだよね〜。そして、それはもちろん君もだよ龍園君っ。……大事な事は必ず2回確認する。それが私の流儀♪)

 

 女子トイレから出た私は、別方向にある多目的トイレに入った。そして、龍園君からもらった問題文と木下さんからもらった問題文を見比べる。

 

(……あはは、やっぱり! 問題文が違うね〜。龍園君、私に偽の問題文を流してきたわけか)

 

 龍園君からもらった問題文をビリビリに破き、洗面台の付近に置かれたゴミ箱に捨てた。

 

(どうせ、堀北か綾小路が先手を打ってたんだろうね。そしてそれを龍園君に告げ口したんだろう。そうなるとCクラスの旨味がなくなるから取引不成立になっちゃう。だから、偽の問題文を渡してきたと)

 

 思い通りの展開に思わずにやけてしまう。

 

「ふふふ……もうすぐだよ? もうすぐ私が君の隣に行くからね。待っててね? ツ〜ナ君っ♡」

 

 

 —— その日の放課後。清隆side ——

 

 Cクラスへの問題文提出も終わり、後は勉強するのみとなった。

 

 今俺は、堀北と共に図書館で自習をしている。

 今日は全ての勉強会が休みだからな。

 

 黙々と自習を続ける堀北に、俺は何気ない質問を投げかける。

 

「……後は勉強を続けるだけ、か?」

「ええ。櫛田さんへの対策はもう済んでいるし」

「……」

 

 堀北は櫛田対策として、ペーパーシャッフルの説明を受けた日に茶柱先生に『自分以外から受け取った問題文は受理しない』という約束を取り付けていたらしい。

 

 それで龍園と櫛田がお互いに問題文を渡し合うという契約を出来ないようにしたわけだ。

 これで櫛田がCクラスの問題文を先取りする事はなく、純粋な学力勝負になるはずだ。 

 

 ……しかし、俺は一抹の不安を抱えてしまっていた。

 

「……それで、十分なのか?」

「え? どうして?」

「なんとなくだが……それだけでは不十分な気がするんだ」

「何? いきなり綱吉君みたいな直感でも身についたの?」

「いや……これは直感というか……危機感と言った方が正しいな」

「……」

 

 俺の言葉で堀北も不安を覚えたのか、無言になってしまった。

 

(……どうすればこの不安を解消できる?)

 

 そんな事を考えていた時。俺達に声をかけてくる人物が現れた。

 

「あ! 堀北さん、綾小路君」

『?』

 

 声をかけてきたのは……王美雨だった。

 

「2人共、ツナ君が2人を探してたよ」

「え? 綱吉君が?」

「う、うん。見つけたら屋上に来るように伝えてって頼まれてるの」

「……そう。わかったわ。ありがとう王さん」

「ううん。じゃあ、私は戻るね」

 

 そして、王は図書館から出て行った。

 

「……」

「……」

 

 ——ガサゴソ。

 

 王がいなくなると、堀北は勉強道具を片付け始めた。

 

「……行くのか?」

「ええ。呼ばれているのに行かないわけにはいかないわ」

「……櫛田との勝負を感づかれたのかもしれないぞ?」

「……そうだとしたら、説得するしかないわね」

「……そうだな」

 

 俺も勉強道具を片付け、屋上に行く為に図書館を出た。

 

 

 

 —— 屋上 ——

 

 ——ギィィ。

 

 屋上に行ってみると、そこに綱吉の姿はなかった。

 

「……まだ来てないわね」

「だな。王が綱吉に連絡してる最中なのかもしれん」

「……あ」

『!』

 

 屋上の真ん中程まで歩み進めると、端っこの方に誰かがいる事に気づいた。

 

(……あの女子は確か……Cクラスの)

 

「! 木下さん」

 

 木下……確か、体育祭の時に堀北と接触事故を起こしたCクラスの女子か。

 

 木下は、俺達のいる所におずおずと近づいてきた。そして、よく意味の分からない言葉を口にする。

 

「あの……あれでよかったんだよね?」

『?』

 

 あれでよかった? どういう意味だ?

 

「あの……あれとは何の事かしら?」

「え? ほ、ほら。今朝私が櫛田さんに渡したやつ……」

「櫛田さんに渡した? ……ごめんなさい、全くわからないわ」

「……あ、やっぱりこれくらいじゃ許してもらえない、よね……」

 

 悲しそうな顔をしている木下に、堀北はなるべく優しめに声をかける。

 

「落ち着いて、木下さん。今朝櫛田さんに何かを渡したの?」

「う、うん」

「……一体何を渡したの?」

「……その、沢田君と堀北さんが欲しがっていたものなんだけど」

「……堀北と綱吉が欲しがっていたもの?」

 

 堀北の顔を見ても、困惑しているようにしか見えない。

 つまり見に覚えがないのだろう。

 

「あの……私達は何も欲しがっていないと思うのだけど」

「え? で、でも櫛田さんからは、体育祭での事故が故意じゃなかった事にする交換条件に、堀北さんと沢田君が要求しているって……」

「え? 私達、櫛田さんとそんな話をした事ないわよ?」

「え?」

「……え?」

 

 木下も堀北もお互いに状況が良く理解できていない様子。

 ここは俺が橋渡しになるしかないか。

 

「……木下、落ち着いてくれ。とりあえず、お前が櫛田に何を言われたのかを教えてくれ」

「う、うん……」

 

 そして、木下は語り始めた。

 

 3日前に、櫛田に呼び出された事。

 

 その時に、堀北と綱吉が体育祭での事故の事を学校に報告する気になっていると言われた事。

 

 それを止めたいなら、Cクラスの問題文のコピーを手に入れろと交換条件を出された事。

 

 そして、なんとか手に入れた問題文を今日の朝に櫛田に渡した事。

 

 

 木下の話を聞き終えた時、俺達は非常にまずい状況にある事を理解した。

 

「……まずいな」

「え?」

「現在、俺達にとって最悪な状況になっている可能性が高い」

「? どうしてそう思うの?」

「よく考えろ、お前はどうやって櫛田の企みを阻止しようとした?」

「それは……」

 

 堀北は少し考え込み、自分のした事を話し出した。

 

「櫛田さんが偽の問題文を提出できないように、茶柱先生と契約を結んだわ」

「そうだな。それで、櫛田から龍園へと渡ったであろう問題文は無意味なものになったはずだ」

 

 本当は俺も裏で少し動いているのだが、今回の話には関係しない為に黙っておく。

 

「ええ、だから櫛田さん受け取るはずだった見返りも無くなっているはずよ」

「ああ。それだけだったらな」

「……どういう意味?」

「今朝、なぜか櫛田は木下から問題文を受け取っている。龍園からもらう予定になっているはずのものをだ」

「そうね。それは確かに気になるけど……」

「勝負を持ちかけた時の事を思い出せ。櫛田は大事な事はどうすると言っていた?」

「え? ……! 大事な事は2回確認する……そういう事?」

 

 不安げな表情になっている堀北に無言で頷き返す。

 

「そうだ。きっと今回も櫛田は、龍園から貰った問題文のみを信じようとはせず、別ルートでも問題文を手に入れる事にしたんだろう」

「……その別ルートが木下さん」

「だろうな。木下は体育祭で綱吉とお前に負い目があるんだろ? そこをついて自分の言う事を聞かせたんだと思う」

「……」

 

 木下は話に付いていけずにただただ困惑している。

 

 その様子を見た俺は、一度堀北と共に木下から離れる事にした。

 

「すまん木下。俺達少し離れるから、ここで待っていてくれるか?」

「う、うん」

 

 木下を残し、俺と堀北は屋上のフェンス付近へと移動した。

 

「……あなたの言う事をまとめると、櫛田さんは本物のCクラスの問題文を手に入れたという事よね」

「ああ。こうなってしまうと、櫛田は間違いなく満点を取ってくるだろうな」

「……なら、私も満点を取るしかないわね」

「……だな。負けない為には、同点で賭けを無効にするしかない」

「……少し、考える時間をもらうわ」

 

 堀北は目を閉じ、考え事に集中し始める。

 必死にこの状況を打破する方法を考えているのだろう。

 

 ……俺は2つほど思いついているが、堀北はどっちの方法にたどり着くだろうか。

 

 ——それから5分後。

 

 堀北は何かを決意したような表情で口を開いた。

 

「……この窮地を脱する方法、1つだけ思い付いたわ」

「……ほぉ?」

「……でも、それには綾小路君。あなたの協力が必要不可欠よ」

「もちろんだ。協力はする。……で、どんな方法なんだ?」

「それは……」

 

 堀北は考えついたと言うたった1つの方法を詳しく話始めた。

 

「……」

「……なるほど、そっちを選んだか」

「え? そっち?」

「……なんでもないさ。それより、するなら早く取りかからないとな」

「そうね。まずは準備からよ。これがないと始まらないものがあるから」

 

 そして俺達は、とあるものを求めて木下の元に戻った。

 

「木下さん、お願いがあるの」

「……何?」

「提供して欲しいモノがあるのよ」

「……提供?」

「そう。それは……」

 

 堀北が提供して欲しいものを2つ口にすると、木下は困った顔になってしまう。

 

「……2個目の方はすぐに渡せるけど、1個目の方が……」

「難しいかしら」

「……ごめんなさい。ほとんど覚えてないの。だけど、もう一度手に入れるなんて不可能だと思うし……」

「そう……なら覚えている範囲でかまわないわ。どれくらいなら覚えているの?」

「……最初の5問くらいかな」

「……十分よ。このノートに書いてもらえるかしら」

「うん、分かったよ」

 

 堀北に手渡されたノートに、鞄を机代わりにしてすらすらと記入していく木下。

 

 書き終わると鞄を開き、数枚のプリント用紙を取り出した。

 

 そして、プリント用紙とノートを重ねて堀北へと返す。

 

 中身を確認した堀北は、木下に感謝の言葉を告げる。

 

「ありがとう木下さん。助かったわ」

「ううん、罪滅ぼしでやってるんだし当然だよ。……じゃあ、私はこれで」

「あ、待って木下さん」

「はい?」

 

 屋上を立ち去ろうとする木下を堀北が呼び止めた。

 止まって振り返った木下に、堀北は優しい微笑みを浮かべながら話しかける。

 

「……体育祭の事件の事、もう気にしないでいいわよ。あれはあなたも被害者だし」

「! で、でも……」

「綱吉君だってそう言うと思うわ。だから、もう櫛田さんのお願いを聞く必要もないのよ」

「……ありがとう。……本当にごめんね、堀北さん」

「いいのよ。その謝罪だけで十分だわ」

 

 堀北の微笑みを見て、安心した表情になって木下は、今度こそ屋上から出て行った。

 

『……』

 

 2人なった俺達は、堀北の抱えたプリントとノートを見て考えを巡らせる。

 

「……これではまだ不十分だな」

「そうね。せめて最後の5問だけでも分からないと……」

「……あいつを使うしかないかもな」

「あいつ?」

「……龍園さ」

「!?」

 

 俺の答えに驚愕の表情を浮かべる堀北。

 

「あなた正気? 教えてくれるわけないじゃない!」

「だが、それしか他に最後の5問を知る方法はないんじゃないか?」

「……それもそうだけど」

「綱吉を頼らない以上、俺達はこの方法を取るしかない」

「……」

 

 口をモゴモゴと動かしている堀北。色々と言いたい事があるのだろうが、なんとか飲み込もうとしているようだ。

 

「……交換条件はどうするの?」

「Dクラス側の最後の5問。そしてあいつの欲しがる情報1つと引き換え……って事ならどうだ?」

「……成立するかもしれないけど、情報というのは何なの?」

「……それは、これから考える」

 

 本当は、龍園が反応しそうな情報に心当たりがある。それも綱吉に関する事以外でだ。

 

 だが、それを堀北に言う事は出来ない。

 

「……何よそれ。でも、今はそれしか方法がないのよね?」

「俺はそう思う」

「……なら、その方法で行きましょう」

 

 堀北は覚悟を決めたのか、俺の提案を受け入れた。

 

「分かった。早速送ってみる」

 

 学生証端末を取り出し、龍園へとメールを送る。

 

 

 TO 龍園

 

 取引を持ちかけたい。

 内容としては……Dクラスが出す数学問題の内、最後の5問を教える。

 その代わり、Cクラスの数学問題の最後の5問を教えて欲しい。

 望むなら、お前が知りたいだろう情報を1つ教えることもできる。

 

(……さぁ、どう反応するだろうか)

 

 龍園からは、3分も経たずに返信があった。

 

 TO 綾小路

 

 先に情報の概要を開示しろ。

 応じるかはその概要次第だ。

 

(……よし、予想通り食いついたな)

 

 俺はすぐに龍園へと返信をした。

 

 

 TO 龍園

 

 いいだろう。その情報は……だ。

 もし取引に応じるなら、期末試験後に完全な情報を提供する。

 

 TO 綾小路

 

 いいぜ、その取引に応じる。

 画像添付:『Cクラス問題文の一部』

 

(よし。取引に乗ってくれたな)

 

 龍園からの返信を確認し、一度堀北に声をかける。

 

「堀北、龍園が乗ってきたぞ」

「! 交換条件が成立したのね」

「ああ。昨日提出した問題文のコピー持ってるか?」

「ええ、持ってるわ」

 

 堀北は鞄を開き、中からDクラスの問題文のコピーを取り出した。

 

「はい、これよ」

「おう」

 

 

 ——カシャっ!

 

 

 受け取った問題文のコピーを、最後の5問分だけが写るように学生証端末で写真を撮った。

 

 そして、その写真を添付したメールを作成する。

 

 

 TO 龍園

 

 取引成立だな。

 画像添付:『Dクラス問題文の一部』

 

 

「……送信完了っと」

 

 龍園にメールを送信した俺は学生証端末をポケットにしまった。

 

 

「堀北、手に入れたぞ。Cクラスの数学の問題文、ラスト5問を」

「そのようね。……じゃあ、後は根気の作業だけだわ」

「ああ。期末試験まで、残り2日。どれだけ絞れるかが肝心だ」

 

 堀北の考えた作戦が上手く行くかどうかは、残り2日の作業の出来にかかっている。

 

 ……だが正直、可能性は五分五分言った所だった。

 

「……あと2日。勉強会は平田君に任せるわ。私はひたすらこの作業に集中する」

「……そうだな。それぐらいしないと間に合わんしな」

「勿論、あなたも手伝ってくれるのよね?」

「……当たり前だろ」

「……今日も素直なのね」

「……うるさい。さっさと行くぞ、図書館がいいか?」

「……そうね、図書館でしましょうか」

 

 堀北が軽い冗談を飛ばすが、緊張のせいかあまり空気は変わらなかった。

 

 そして、図書館へと向かう俺と堀北だったが……屋上の入り口の扉を開いて廊下へ続く階段に戻ると、ちょうど屋上に向かって階段を登っている人物がいた。

 

『あ』

 

 ……綱吉だった。

 

(そういえば……元々屋上に来たのは王に綱吉が呼んでるって言われたからだったな)

 

「あ、よかった2人とも。屋上に来てくれてたんだね?」

「……ええ。私達に何か話があったの?」

「うん、期末試験まであと2日になったし、聞いておきたい事があったんだ」

「聞いておきたいこと?」

 

 綱吉は階段の途中に立ったまま、俺達にへと質問を投げかける。

 

「……誰もいなくならないよね?」 

『!』

「今日の朝、鈴音さんがアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を読んでたからさ。ちょっと気になっちゃって」

『……』

「君達、俺の前からいなくなろうとしたり……してないよね?」

『……』

 

 この質問……。確実に俺達と櫛田の勝負に気づいているな。

 やっぱり綱吉をごまかし続ける事はできなかったか。

 

(俺達を止めに来たのか?)

「……それは……」

「……」

 

 堀北が少し悲しそうな顔になってしまう。

 

 ……その時。

 

 ——ダッ!

 

『!』

 

 綱吉がダッシュで階段を駆け上がり、堀北の前に立った。

 

 そして綱吉は……

 

「……綱吉君? ! ひょっ!?」

 

 ——ムニィィィ〜。

 

 堀北のほっぺを掴んで横に引っ張った。

 

「鈴音さん! そんな顔をしてたらだめだよ!」

「に、にゃに?」

「清隆君も! いつものキリッとした表情が崩れてるよ!」

「……え?」

 

 綱吉にそう言われ、思わず階段の壁に貼り付けられた鏡を見る。

 

 しかし、俺も堀北もいつもと同じ表情にしか見えない。

 

(……綱吉には違って見えるのか?)

 

 顔を赤くして困惑する堀北に、綱吉は優しい笑顔で語りかける。

 

「俺の友達にね、〝嬉しい時こそ、心から笑いなさい〟ってお母さんから言われて育った子がいるんだ」

「……」

 

 ……俺、心の底から笑った事はまだないかもな。

 

「だからね、俺はこう思うんだよ。嬉しい時こそ心から笑うなら、〝不安な時こそ、根拠のない自信で強がればいい〟……ってね!」

『!』

「ボs……リーダーっていうのは、仲間達に不安な気持ちを持たせちゃいけないんだって。たとえ仲間が不安がってても、リーダーだけは余裕を持ってないといけないそうだよ」

 

 堀北のほっぺから手を離すと、綱吉は堀北と俺の間に立ちなおし、そして俺の右肩と堀北の左肩に手を置いた。

 

「……俺は君達を信じてる。だからこそ、今回の試験はDクラスで最も信頼している君達に委ねたんだ」

「……綱吉」

「綱吉君……」

「それに2人は俺を認めてくれてるんでしょ? だったらさ、君達は自分が認めた相手に信頼されてるんだから、不安になる事なんて何もないよ」

『……』

「だから。そんな顔をしていないで、いつものような2人のかっこいい顔を見せてよ! そして俺に言って欲しい! 黙って自分達に任せておけって!」

『……』

 

「……」

「……」

 

 俺と堀北は顔を見合わせる。言葉にはしなかったが、それだけでお互いの考えが読めた気がした。

 

 

『……綱吉(君)の期待と信頼に、応えたい』

 

 

 そして、俺達は自分の肩に置かれた綱吉の手を掴んで離させた。

 

「……」

 

 ——コツ、コツ。

 

 2段ほど階段を下りると、堀北が綱吉に話しかける。

 

「……安心して綱吉君。今回の試験は私達だけで勝てるわ」

「……そうだな。むしろお前に出番はない」

「……」

 

 堀北の言葉に俺も追随する。

 綱吉は無言だが、嬉しそうな表情だ。

 

「……俺達を信じて、お前は大人しく待機してろ」

「そうね。Dクラスのリーダーならリーダーらしく、教室の後ろの席でどーんと構えておけばいいのよ」

「うん。そうさせてもらうよ。……頑張れ相棒。そして、負けないでねパートナーさん!」

「……当然だ。相棒」

「もちろんよ。安心して自分の勉強だけしてなさい。……パートナー君」

 

 最後はお互いに無言で頷き合い、俺と堀北は図書館へと向かった。

 

「……絶対、満点を取るわ」

「ああ。俺も手伝うから安心しろ」

「……ありがとう」

 



読んでいただきありがとうございます♪

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