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ぺーパーシャッフル⑤ 〜両翼達、動く〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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ぺーパーシャッフル⑤ 〜両翼達、動く〜

 

 —— 清隆side ——

 

 勉強会が始まって数日後、沢田グループのトークルームにこんなメッセージが届いた。

 

 波瑠加:ねぇ皆、明日勉強会の後に映画を観に行かない?

 明人 :それって、今話題の新作か?

 波瑠加:そうそう!

 明人 :俺は別にかまわんぞ。

 啓誠 :俺もいいぞ。

 清隆 :俺も大丈夫だ。

 愛里 :私も大丈夫。

 波瑠加:ツナぴょんは?

 綱吉 :ごめん、生徒会の仕事が入ったから勉強会には参加できないかも!

 波瑠加:そっか〜、映画も無理そう?

 綱吉 :映画は大丈夫。終わったら映画館にそのまま行くよ。

 波瑠加:そっか! じゃあそれでよろしく〜♪

 愛里 :綱吉君、頑張ってね。

 綱吉 :うん、ありがとう愛里ちゃん。 

 

 そう。明日の土曜日、沢田グループで映画を見る事になったわけだ。

 

 ……だが、今の俺は悩ましい問題を抱えていた。

 

 その問題とは、目の前にいる堀北からの話についてだ。

 

「……どうしたの? 学生証端末をじっと見つめて」

「ん? あ、悪い」

「話は聞いていたのかしら?」

「聞いていたぞ」

 

 さっきのトークルームを見返していたら、堀北が不機嫌そうにそう言ってきた。

 

 話を要約すると、Cクラスに出す試験問題が出来たから作戦会議をした皆で試験問題の最終打ち合わせを行いたいという事だ。

 

「で、どうなの? 明日行いたいのだけど」

「……時間は?」

「明日中なら、いつでもいいわ」

 

 それは助かる。明日は勉強会の後に映画を見にいく約束だからな。

 

「じゃあ20時で頼む」

「20時? 随分遅いわね」

「すまん、明日の夕方は勉強会のグループで映画に行く予定なんだ」

「そうなの。まぁ時間は遅くてもかまわないわ。いつも夜の部は20時からだもの。……だけど」

「……だけど?」

 

 堀北は少し心配そうに聞いてくる。

 

「……勉強会のグループって事は、綱吉君も参加するのでしょう?」

「まあな。あいつは生徒会の仕事だから、昼の勉強会には参加できないそうだけど」

「ということは、映画鑑賞には参加するのね?」

「ああ」

「……だとすると、話し合いに綱吉君も参加しようとしてくる可能性もあるわね」

「……ダメなのか?」

「当然よ。今回の試験は、私とあなたで勝ちに行くって話したでしょう?」

「それは分かっているが、話し合いにも参加させないのか?」

「できればね。どこから私達が勝負しようとしてる事に気づかれるかわからないもの」

「……綱吉は直感が鋭いからな」

 

 俺達と櫛田の勝負を綱吉に知られるわけにはいかない。

 俺達の退学を賭けた勝負なんて綱吉が放っておくわけないからな。

 

 しばらく考えていると、堀北が何か案を思いついたようだ。

 

「……そうね。一之瀬さんを頼りましょうか」

「一之瀬? どうしてだ?」

「生徒会の仕事があるのでしょう? それなら、何か仕事が残ってたとか言って連れ出してもらえると思うのよ」

「……なるほどな」

 

 確かに生徒会の仕事なら、話し合いよりもそっちを優先するだろうな。

 

「……しかし、一之瀬と連絡を取れるのか?」

「この前連絡先を交換したわ。早速連絡してみる」

「……行動早いな」

「思いついたら即行動、よ」

 

 堀北は学生証端末操作し、一之瀬に電話をかけ始めた。

 

 ——プルルルル。ガチャ。

 

『もしもし?』

「もしもし、堀北です。今は電話大丈夫?」

『堀北さん。うん、大丈夫だよ〜』

「あの、一つお願いしたい事があるのだけれど、いいかしら?」

『お願い? 何かな?』

「……その。明日の20時頃に、綱吉君をどこかに連れ出して欲しいのよ」

『……綱吉君を連れ出す?』 

「ええ。明日は午後に生徒会の仕事があるのよね? その時の仕事に漏れがあったとでも言ってもらえないかしら」

『……ん〜。どうしてそんな事をするのかな?』

「……その時間、綱吉君を私から引き離して欲しくて」

『……何か訳ありみたいだね』

「まぁ、その……そうね」

『……ねぇ。今どこにいる?』

「今? パレットにいるけど」

『じゃあ私が合流するね』

「え?」

『対面で、詳しい話を聞かせて? じゃないとお願いは受けられないよ』

「……わかったわ」

『ありがとう、5分くらいで行けるから』

 

 ——ピッ。

 

「……今から一之瀬さんがここに来るわ」

「は? どうしてだ?」

「対面で詳しい話を聞きたいそうよ」

「……そうか」

 

 一之瀬の真意は読めないが、対面で話をしたいというなら受け入れるしかないか。

 

 

 

 〜5分後〜

 

 

「お待たせ〜」

「いえ、わざわざすまないわね」

「ううん、こっちから行くって言ったんだし。あ、綾小路君もいたんだね」

「ああ」

 

 5分もすると一之瀬がパレットにやってきた。

 軽く挨拶をすると、一ノ瀬は俺達と同じ席につく。

 

「……さてと。で、どうして綱吉君を連れ出して欲しいのかな?」

「……」

 

 早速本題に入る一之瀬。堀北はどう答えるべきかで悩んでいるようだ。

 

(櫛田と退学を賭けた勝負をしてる。でもそれを綱吉に知られたくない……とは言えないよな)

 

「……明日のその時間にクラスで話し合いの時間を設けるのだけれど、その話し合いに綱吉君が参加できないようにしたいのよ」

「ほうほう……でも、どうして参加して欲しくないのかな?」

「……今回のペーパーシャッフルを、私と綾小路君の力でクリアしたくて」

「ふ〜ん。……それは綱吉君の力を一切借りずに?」

「そうね」

「……でもさ、Dクラスって綱吉君がリーダーだよね? AとCクラスはそう思ってないかもだけど」

「ええ」

「じゃあさ、リーダーの力を借りずに勝ちに行く理由は何?」

「……」

「その理由は話せない……って事なら協力はしかねるかな?」

(一之瀬の言い分は最もだな……)

 

 一之瀬と沢田は生徒会においては前会長と橘先輩のような関係だと聞く。

 

 信頼関係も軽くないだろうし、そんな相手を理由も知らずに騙すような真似はしたくないか。

 

 ……ここは俺が動くべきだな。

 

「……一之瀬」

「ん? 何かな?」

「お前が俺達の申し出を受け入れられないのは、綱吉との信頼関係を崩したくないからか?」

「! ……まぁそうだね。私と綱吉君って生徒会だとニコイチって感じだし。その関係は崩したくないよ」

 

 やはりか。だったら、俺達の申し出を受け入れてもその関係が崩れる事はないと安心させてやればいい。

 

「……堀北」

「……何?」

「お前と綱吉の関係性を一之瀬に教えてやれ」

「……は!? か、関係って。私と綱吉君はそういうのでは!」

「? 何を狼狽えている? お前と沢田はパートナーだって事を言えばいいんだぞ?」

「あっ……そ、そういう事ね」

 

 分かりやすく狼狽えている堀北が落ち着いてくると、一之瀬の方から質問をしてきた。

 

「……堀北さん、パートナーってどういう事?」

「……私と綱吉君は、共にDクラスをAクラスまで押し上げる事を誓っているの。だから、綱吉君は私の事をAクラスを目指すパートナーだって言ってくれるのよ」

「……ふ〜ん。そうなんだね。それで?」

 

 堀北はさっきの質問で俺が何を言わせたいのかを理解したのだろう。

 今度は毅然とした態度で一之瀬の質問に答えていく。

 

「実は私、ペーパーシャッフルの説明を受けたその日に、綱吉君に許可を取っているのよ」

「許可?」

「ええ。ペーパーシャッフルについては、私達がクラスを率いるって事をね」

「! 綱吉君がそれを認めたの?」

「ええ、ペーパーシャッフルについてはクラスメイトの勉強のサポートしかしない事を受け入れてくれたの」

「……そっか」

 

 一之瀬は目を閉じてしばし考え込む。

 

「……なるほど。つまり君達は、今回の試験を自分達の力だけで攻略したい。そしてその上で、作戦の詳しい内容を綱吉君に知られたくないわけだ」

「……そういう事ね」

 

 さすがは一之瀬だ。きちんと理解してくれているようだな。

 

「……作戦を知られたくない理由も気になる所だけど、今までのやりとりからして私には言えないんだろうね」

「……」

「……すまん」

「ふふふ♪ 正直でよろしい! ……最後に聞くけど、君達のお願いを受けたところで君達が綱吉君を裏切る事にもならないし、私が綱吉君に不利益を与える事にもならないんだね?」

「それはもちろんよ」

「……約束する」

「そっか。うん、わかったよ」

 

 そう言って頷く一之瀬。その表情はいつも通りの優しい笑顔だ。

 

 ……どうやら納得してもらえたようだな。

 

「明日の20時に、綱吉君を連れ出せばいいんだね?」

「ええ。お願いするわ」

「ちなみに、綱吉君の明日の予定とかもう決まってるのかな?」

「ああ。生徒会の仕事が終わったら、俺と何名かのDクラスの奴らと映画を見に行く予定だ」

「そうなんだ。あ、じゃあ映画を見終わったら連れ出して欲しい感じ?」

「そうだな。映画を見終わったら、俺はそのまま話し合いに行かないとならん」

「なるほど、そこに綱吉君がいたら参加しようとしてくるかもしれないわけだね」

「そういう事だ」

「分かった。じゃあ7時過ぎぐらいに映画館前で待機しておくよ。出てきたところに声をかける事にするから」

「すまんな、面倒かける」

「受けてくれてありがとう、一之瀬さん」

「ううん、友達だしね。助けになれるなら嬉しいよ」

「……」

 

 ——ガタッ。

 

「じゃあ、私はもう帰る……」

「……ごめんなさい、一之瀬さん。一つ聞いてみたい事があるの、もう少しだけ時間をくれないかしら?」

『?』

 

 

 話が終わって席を発とうとした一之瀬を、なぜか堀北が引き止める。

 

(……もう話すことはないはずだが?)

 

「うん、いいよ。何かな?」

 

 一之瀬は言われた通りに席に座り直した。

 

 一体、堀北は何を聞きたいというのだろうか。

 

「一之瀬さんは……仲間が困っていたら助けるわよね?」

「んっ? そんなの当然じゃないのかな?」

 

 ……堀北、その質問はどういう意図なんだ?

 

 一之瀬は仲間思いのリーダーだって事は周知の事実だろうに。

 

「そうよね。今までのBクラスを考えてもそれはよく分かるわ。……でも、クラスメイト達が助けてほしいと願う内容は様々でしょう? 学力を上げたい、虐められてる、お金がない、もしくは友人関係や先生との関係。人の悩みの問題をそれこそ多種多様。その全ての悩みに対して、困っている仲間が助けを求めてきたのなら一之瀬さんは手を差し伸べる?」

「もちろん! 私に出来ることは全てするよ」

 

 堀北の質問に一之瀬は即答してみせる。

 迷う必要もないってわけか。

 

 ……質問相手が綱吉でも、あいつは即答するだろうな。

 

「じゃあ、あなたに取っての仲間と判定する基準はある?」  

「んー、難しい質問だなぁ〜」

「例えば、Bクラスの生徒であるならば誰でも無条件で助ける? 普段からほとんど話すことのない生徒だとしても」

「Bクラスである以上仲間だもん。関係値は関係なく、困ってたら絶対に助けるよ」

「……そうよね。愚問だったわね」  

 

 またも即答する一之瀬。その堂々とした姿にどうしても綱吉の姿を見てしまうが、堀北も同じなのだろう。愚かな質問をしてしまったと、深いため息を吐いた。

 

 一之瀬に質問する堀北からは、綱吉に助けを求めているような雰囲気が見て取れる。

 

 だけど綱吉に頼るわけにもいかないから、似たような価値観の一之瀬に抱えている悩みをぶつけているのかもしれない。

 

 櫛田との関係を相当思い悩んでいるのか? 

 今回の勝負に俺達が勝っても、櫛田との関係が修復されるわけではないしな。

 

「もう少し質問させて頂戴。……仮に、もし仮に、あなたを生理的に嫌う人がBクラス内にいて、日頃から仲が悪かったとする。それでもあなたはその人を好きになれる?」

「……ん〜、それはちょっと難しいかも。生理的に嫌われてたら、多分自分ではどうしようもないもん。極力嫌われないように接触を控えるくらいしかできないかな」

「じゃあ、そんな人が困っていたら一之瀬さんはどうする?」

「それは助けるよ。生理的に嫌われるとしてもBクラスの仲間には変わりはないもん」

 

 ……やっぱり一之瀬と綱吉は、性格的に似てる部分があるのだろうな。まぁ沢田なら嫌われてても交流しようとするかもだが。

 

「……」

 

 2人の会話を聞いていたら、俺も一之瀬に聞いてみたい事が出てきた。

 

「なぁ。俺からも一之瀬に1つ聞いていいか?」

「うんっ、いいよ!」

「Bクラスのクラスメイトなら仲間だって事は理解できた。けど、友達って呼べる存在は他のクラスだっているだろ?」

「そうだね。綾小路君や堀北さん、綱吉君も私にとっては大切な友達だよ」

「なら、俺達が困っていたらどうする? 助けになりたいと思うか?」

「もちろん。友達だって助けたいって思う対象だよ」

 

 最後まで迷いなく答える一之瀬に堀北がため息を吐いた。

 

「全く……あなたも綱吉君も、どこまでお人好しなのかしら。2人とも誰でも助けようとしてしまうんじゃないの?」

「あはは、理想を言えばそうなんだけね。現実はそんなに甘くないし、私個人に出来ることなんて限られてることは弁えてるつもりだよ。例えば龍園君が困ってたとしても、皆と同じようには助けられないかな。まぁ大したことなければ助けるけど」

 

 ……普通はその大したことも出来ないものだけどな。

 

「きっと、私が友達だと認めた人は全員仲間ってカテゴリに入るんだと思う」  

「そう……。なら、私と神崎くんが同じように困っていたらどうするのかしら?」

 

 それはちょっと意地悪な質問だな。

 一之瀬が綱吉と似た考え方をしてるから嫉妬でもしてんのか?

 

「もちろん両方助ける。……いや、助けたいとは思う」

「……思う?」

「いや〜、両方助けるのは時と場合によっては難しい事もあるしね。安易に助けるとは言い切れないかな」  

 

 そう言いながら、若干悔しそうな顔をしている一之瀬。

 助けられるならもちろん両方助けたい、という気持ちは本物なのだろう。

 

「私はこの学校に入学して綱吉君と出会うまで、純粋な善人を信じていなかったわ。人は少なからず見返りを求める生き物だと思っていたし」

「基本的にはその通りだと思うよ? 稀に常識はずれの善人がいるくらいじゃないかな」

「じゃあ……あなたや綱吉君は、その常識はずれの善人に当てはまるのでしょうね」

「……」

 

 素直に尊敬の念を述べる堀北だが、一之瀬はなぜか悲しそうな顔になっていた。

 

「……それは買いかぶりすぎだよ、堀北さん」  

「そんなことは無いわ。あなたも綱吉君も今まで見たことがないほどいい人だと思うわ」

「私は……私は、綱吉君ほど立派な人間じゃないよ」  

 

 堀北の賛辞を否定する一之瀬の瞳は泳いでいた。

 ……動揺しているのか?

 

「私なんて、綱吉君と比べたら大したことないよ」  

「……一之瀬さん、どうかしたの?」

「……私は綱吉君とは違うよ。綱吉君のように大きな懐で誰かの居場所を作っているように見えるかもしれないけど、それも結局は本物じゃないし。厳密には、私は堀北さんや綾小路君と同じような人間だよ」

「……どう言う意味だ?」

「! っ、ごめん! なんでもないの」

 

 唐突に笑顔に戻り、何でもないと誤魔化す一之瀬。

 気にはなるが、ここで追求する意味はないか……

 

 ——がらっ。

 

 再び椅子から立ち上がる一之瀬。

 

「ごめん、私もう行くね」

「ええ……質問に答えてくれてありがとう」

「……明日はよろしく頼む」

「うん、また明日ね」

 

 逃げるかのようにパレットから去っていく一之瀬。

 

(……綱吉と同じような人間って言ってから、急に動揺し出したよな。何か思う所でもあるのか?)

 

 一之瀬の去り際に疑問を持ちながらも、用件は達成したので俺達もマンションへと帰る事にしたのだった……

 

 

 

 —— 清隆の部屋 ——

 

 

「……」

 

 これまでの事や今日の堀北の様子を考えると、堀北は櫛田との関係を今も悩んでいるのは間違いない。今回の勝負に勝った後の関係をどうしていくべきか考えが纏まっていないのだろう。

 

 ……だが、そんなあやふやな心持で櫛田に勝つことが出来るのだろうか?

 

 堀北も自分なりに勝ち筋を見出しているようだが、櫛田はかなり狡猾だ。何か策を打ってくるのは間違いない。それに対してはどう対処しようと考えているのだろうか。

 

「……やはり、最悪の事態に備えて、俺も手を打っておくか」

 

 そう考えた俺は、学生証端末を取り出してとある人物に電話をかけた。

 

 ——プルルル、プルルル、ガチャ。

 

「……もしもし?」

「夜にすまんな……軽井沢」

 

 電話をかけた相手は軽井沢だった。

 

「別に大丈夫よ。……で、どうかしたの?」

「後で堀北から連絡が行くと思うが、明日の20時頃からCクラスに出す問題文の話し合いをする予定なんだ」

「20時? 随分遅いのね」

「ちょっと予定があってな。勉強会の後に映画に行くんだ』

「……勉強会のグループで?」

「そうだ。でな、その話し合いの時に軽井沢に頼みたいことがあるんだ」

 

 軽井沢に頼みたい事を説明する。全てを聞き終えた軽井沢からは嫌そうな声が返ってきた。

 

「……また凄い面倒な役回りね。何が狙いなわけ?」

「全て終えた後で説明する。その方がお前の為だ』

「……というか、そんな事ツっ君が許さないんじゃないの?」

「綱吉は話し合いには参加させない。だから大丈夫だ」

「……ふ〜ん。何か釈然としないわね」

「これも綱吉の、ひいてはDクラスの為だ。協力して欲しい」  

「……わかったわ」

 

 ——ピッ。

 

「……よし、早速動くか」

 

 軽井沢との電話を切った俺は、次にメールを作成し始めた。

 

「……TO 龍園……っと」

 

 

 

 —— 翌日。映画館 ——

 

 

 昼の勉強会終了後、俺達はケヤキモールにある映画館へとやってきた。

 

「綱吉は……まだ来ていないな」

「まだ上映時間までは時間あるじゃん? 先に6人分チケット買ってくるね」

「頼む、波瑠加」

「いいよ〜。あ、後でポイントは徴収するからね」

 

 波瑠加がチケットを買って帰ってくる頃、綱吉が走ってくるのが見えた。

 

「あ。ツナぴょん、ちょうど来たね」

「全力疾走してねぇか?」

「だろうな、すごいスピードでこっちに近づいているぞ」

「……いや、それよりも綱吉の奴、誰かを背負ってないか?」

 

 姿が見えてから数秒後、綱吉は俺達に合流した。

 ……背中に美少女を背負って。

 

「はぁはぁ……ま、間に合った!?」

「お、おう。全然余裕あるぞ」

「そっか、よかった〜」

「綱吉君お疲れ様!」

 

 安堵する綱吉に、背負われている美少女が労いの言葉をかける。

 

「間に合ってよかったね、帆波ちゃん」

「うん! 綱吉君のおかげで助かったよ」

(! 一之瀬?)

 

 綱吉が背負っていたのは一之瀬帆波だった。

 

 息を整えている綱吉に、啓誠が苦笑いしながら声をかける。

 

「一之瀬を背負ってここまで走ったのか?」

「うん、帆波ちゃんもクラスメイトと映画を見るらしくてね。で、予想より時間押しちゃってたし、目的地が同じだから背負ってきたんだ」

「いや、普通は遅れそうなら誰かを背負って走る選択はしないだろ」

「え? そう?」

「あはははっ! きっと、綱吉君の辞書に普通って言葉はないんだよ!」

 

 一之瀬が綱吉の背中から降りると、遠くから一之瀬を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

『一之瀬さ〜ん!』

「あ、は〜い! 綱吉君、私いくね? おんぶしてくれてありがとう!」

 

 一之瀬は呼び掛けられたクラスメイト達の元へ走って行った。

 

(……なるほど、映画終わりに声をかけやすいように、一之瀬も映画を見にきたわけか)

 

「……じゃあ、俺達も映画館に入る……」

「あ、ツナく〜ん!」

 

 俺達も映画館に入ろうとしたのだが、綱吉が誰かに声をかけられてしまった。

 

「あ、麻耶ちゃん!」

 

 声をかけてきたのは、佐藤麻耶だった。

 堀北から聞いた話では、最近勉強会夜の部で綱吉にべったりくっついているらしい。

 

「あ、もしかして今から映画観るところ?」

「うん、あの話題の映画をね」

「わ〜偶然! 実は私も映画観に来たんだよね。軽井沢さん達と一緒に!」

「そうなの? あ、本当だ」  

 

 見てみると、佐藤の後ろから数人が近づいてきている。

 

「軽井沢さんに、みーちゃん……あ、桔梗ちゃんも一緒なんだ」

「うん!」

 

 ……櫛田がいる時点で偶然じゃないな。

 おそらく綱吉と映画を見るついでに俺の監視も兼ねてるのだろう。

 

「あら、綾小路君達も来てたの?」

「……まあな」

 

 軽井沢から知らじらしい事を言われた。

 お前も偶然じゃないだろうに。

 

「約束してたの?」

「軽井沢さんとはね。みーちゃんと櫛田さんとは途中で会って一緒に来たんだ」

「そっか」

「あ、ねぇねぇ! せっかくだから一緒に見ようよ〜♪」

 

 佐藤がグイッと綱吉の腕を両手で掴んだ。

 

「ふあっ!?」

 

 するとその後ろで、愛里が悲鳴に似た声をあげた。

 

「わっ、急にどうしたの?」

「えへへ~、別にいいでしょ?」

 

 何でもないことのようにさらっと言う佐藤だが、顔は赤くなっている。……本当は照れくさいのか?

 

「……皆、中に入ろう」  

 

 嫌そうな顔をした啓誠は、一人で先にチケットを見せて中に入ってしまう。

 

(啓誠は騒がしいのが苦手だったな……)

 

 明人や波瑠加も啓誠に続いて中に入っていく。沢田グループは綱吉以外ソロプレイヤーだから仕方がないか。

 

 ……訂正する。綱吉と俺以外な。

 

「……綱吉、もう波瑠加が6席分確保してるぞ」

「あ、そうなの? ごめん麻耶ちゃん、一緒に映画を見るのはまた今度で」

「そっか〜。残念だけど……まぁしょうがないよね」

「ほら、私達もチケット買いに行くわよ」

「うん……」

 

 残念そうな佐藤は、軽井沢に連れられてチケット売り場へと向かった。

 

「俺達も入……」

「つ! 綱吉君!」

「? 愛里ちゃんどうしたの?」

 

 俺が声をかけようとすると、愛里が大きめの声で綱吉に声をかけた。

 

「わ、私達も、中に入ろう?」

「うん、そうだね。清隆君、行こ……」

「ほ! ほらっ! 早く行こう!?」

 

 ——ガシッ!

 

 愛里が綱吉の腕を掴んで引っ張りはじめる。

 

「わわっ、愛里ちゃん。そんなに引っ張らなくても!」

「た、楽しみだね〜、新作映画〜!」

 

「……俺も行くか」

 

 ずんずんと中に進んで行く2人を、何とも言えない感情の俺も追いかけるのであった。

 

 

 

 —— 映画館、シアター1 ——

 

 

 映画館の中は、ほとんどの席を埋め尽くされていた。

 

「……これ、佐藤達でもう満席だろうな」

 

 至る所からポップコーンやホットスナックの匂いが鼻腔をくすぐってくる。  

 

(ポップコーン……食ってみたいな)

 

 映画館に来るのも初めてだが、それよりもポップコーンの方が気になる。

 

「きよぽん、こっちだよ〜」

「! ……おう」

 

 

 最後尾座席の右端から波瑠加に呼び掛けられる。

 

 6人横並びで見れるように席を取ってくれていたようだ。

 

 俺は右から6番目の座席に座った。すると、3番目の席に座っていた波瑠加が何かを差し出してきた。

 

「はい、飲み物とお菓子。好きなの選んで?」

「え? いいのか?」

「うん、時間あったから全員分買っておいた」

 

 ナイスだ波瑠加。そしてお前はいい奴だな。

 俺が一応選べるように、自分は手を付けずに待っていてくれたようだ。おかげで2つも選択肢がある。

 

(塩味のポップコーンとキャラメル味のポップコーン……そしてコーラと烏龍茶か。ふむ、初めてだしここは王道を選ぶべきか?)

 

「じゃあ……塩味のポップコーンと烏龍茶をもらう」

「お、私の好きなのが残ったね。ラッキー♪」

 

 俺にポップコーンと烏龍茶を手渡すと、波瑠加ニコニコしながらコーラに口をつけた。

 

 俺もポップコーンを一口……

 

(! う、うまい。これがポップコーンという食べ物か……)

 

 もう一口ポップコーンを味わおうとすると、隣に座っている綱吉に愛里が何やら質問している話し声が聞こえてきた。

 

 

「あの、綱吉君」  

「どうしたの?」

「……その、佐藤さんと綱吉君。最近仲が良いよね?」

「うん、多分、夜の部で一緒に勉強してるおかげかな」

「そ、そっか……」

 

 ……愛里、頑張っているな。

 誕生日会の後から、愛里は積極的に綱吉と絡むようにしているように見える。

 

 綱吉の対応が全く変わってないのが残念だが……。

 

「そ、その……勉強会でも、普通に腕とか組んだりし、してるの?」

「え? ん〜、麻耶ちゃんとはそんな事はないかな〜」

「ほっ……そ、そうなんだね」

 

 ……気づけ愛里。

 

 綱吉は〝佐藤とは〟と、言ったんだぞ。

 

 それはつまり、佐藤以外に腕を組まれる事はあるという事だ。

 

「あ、あの……もう一つ聞いてもいい?」

「うん、いいよ?」

「生徒会交替式の後、佐藤さんと2人でどこかに行ってたよね?」

「ああ、うん。そうだね」

「な、何の話をしたの?」

「え〜とね、友達になって欲しいって言われたんだ」

「……それだけ?」

「うん。……あ、あとお互いに下の名前で呼び合いたいって言われたね」

「そ、そうなんだ……」

 

 ……多分だが、佐藤は友達になりたいとは言ってないな。綱吉が変に勘違いしてるだけだろう。

 普段はすごい直感をしてるのに、なぜか綱吉は異性の感情には鈍感だからな。

 

「と、友達になりたいって言われたの?」

「うん。あ、厳密には『友達からお願いできないかな』って言われたかな」

「……」

「……」

「? どうかした?」

 

 すごい複雑そうな愛里。

 

 そして綱吉。友達からって事は、いずれは友達以上になりたいって意味だぞ。

 

「……まぁ、気づいてないならその方がいいの、かな」

「え? 気付いてないって何が?」

「ううん、な、なんでもないよ?」

 

 ……それでいいのか?

 

 そう言いたくなったが、こっそり小さくガッツポーズを作る愛里を見て言葉を飲み込んだ。  

 

 その後すぐに上映が始まったので、俺達はただ粛々と映画を鑑賞した。

 

 ちなみに映画のタイトルは、「京子とドナート。〜ラブラブ物語〜」だ。

 

 

 —— 映画鑑賞後 ——

 

 

 映画館からケヤキモールに出てきた俺達は、各々に映画の感想を言い合っていた。

 

「いや〜、いい映画だったね〜」

「そうか? 俺は微妙だったな」

「男には分かり辛かったかもな」

「……だな。俺も良く理解できなかった」

「わ、私は感動したけどな…… 」

「女子には刺さる内容だったんだろう」

「え〜? そんな事ないでしょ? だってほら……」

「……うっ、うううっ!」

『……』

 

 綱吉だけがなぜか号泣している……。

 

「ほら、ツナぴょんは感動して号泣してるよ?」

「綱吉は……普通の男じゃないからいいんだよ」

「だな、綱吉は変なやつだからな」

「き、きっと綱吉君は感受性が豊かなんだよ」

「……優しい言い方だな」

 

 中々泣き止まない綱吉の背中を愛里と波瑠加が摩ってあげている。

 

「ほらほら、泣き止めツナぴょん!」

「な、泣かないで?」

「うう……あ、ありがとう〜」

(……そろそろだな)

「あ! いたいた! 綱吉く〜ん!」

 

 若干泣き止んできた綱吉の元に、予定通り一之瀬が現れた。

 

「あ、あれ? 綱吉君なんで泣いてるの?」

「ご、ごめん。映画に入り込みすぎちゃって」

「そ、そうなんだ」

「……で、帆波ちゃんはどうしたの?」

「あ、そうそう! 実は今日の生徒会の仕事でやり残した仕事があったのを思い出したの!」

「ぶほっ! まじ!?」

 

 一之瀬の言葉で一気に涙が引っ込んだようだ。

 

「うん! それでね、今から一緒に生徒会室に行って欲しいんだけど……いい?」

「もちろん! 2人の仕事だしね!」

「ありがとう。……じゃあ、さっそく行ける?」

「うん! 皆ごめん、俺もう一度生徒会に行ってくるね」

「いいよ〜、今日はここで解散だったし」

「お、お仕事頑張ってね」

「うん、じゃあまた明日」

 

 予定通り、一之瀬に綱吉を誘い出させる事に成功した。

 

 そして、残された俺達は解散する事になる。

 

「じゃあマンションに帰ろうか?」

「そうだね」

「ああ」

 

 一緒にマンションに帰る流れになるが、俺と啓誠はまだ予定がある。ここから3人とは別行動だ。

 

「悪い、俺と清隆はこれから平田達と会う予定があるんだ」

「このまま待ち合わせ場所に向かうから、今日はここで解散でもいいか?」

「そうなんだ、じゃあまた明日ね」

 

 波瑠加・明人・愛里と別れ、俺と啓誠は待ち合わせ場所であるカラオケへと向う。

 

「……行くか、啓誠」

「そうだな」

 

 

 

 ——ケヤキモール内を歩く中、清隆達と同じ方向へ歩いていく軽井沢。

 

 そして、その横には美雨がいる。

 

 もちろん清隆は気づいているが、どうして美雨がいるのかについては気にも留めていなかった……



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