八条学園騒動記
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第七百一話 潜入前にその一
潜入前に
八条学園に向かいつつだ、上等兵は大尉に尋ねた。二人共カトリックの聖職者の身なりで首には十字架がある。
「問題はやはり」
「我々が工作員と見抜かれないことだ」
大尉は即座に答えた。
「それがだ」
「やはり問題ですね」
「そうだ、しかしな」
「怪しまれると思って」
「おかしな動きをするとな」
その時点でというのだ。
「もうだ」
「終わりですね」
「堂々としてこそだ」
まさにというのだ。
「ばれないものだ」
「その通りですね」
「こそこそとしてだ」
そしてというのだ。
「自信なさげにいるとな」
「かえって怪しまれますね」
「そうなるからな」
それ故にというのだ。
「ここはだ」
「堂々としていることですね」
「我々は何だ」
大尉は上等兵に彼の目を真剣に見据えて問うた。
「一体」
「連合市民です」
上等兵は毅然として答えた。
「そして日本市民です」
「今喋っている言語は何だ」
「日本語です」
実際にこの言語で喋っている。
「それも播磨星系訛の」
「標準語の様であってもな」
「言葉のアクセントはです」
これはというのだ。
「紛れもなくです」
「そうだ、播磨星系の方言だな」
「そうです」
「そうだ、抹茶は好きか」
「シロップを入れずに熱いものを飲めます」
シロップを入れて冷やすとグリーンティーになるというのだ、尚二人共普通の抹茶もそちらの茶も好物である。
「そして和菓子もです」
「好きだな」
「うどんは音を立ててすすります」
「蕎麦もだな」
「そしてこの星系の蕎麦はです」
上等兵はさらに答えた。
「おつゆは昆布を入れています」
「ざるそばの時は噛むな」
「喉越しを味わいません」
「それは武蔵星系のものだ」
その食べ方はというのだ。
「承知しているならいい」
「有り難うございます」
「助六とは何だ」
大尉は今度はこう問うた。
「一体」
「歌舞伎の演目の一つです」
上等兵はこれまた即答で返した。
「十八番の一つ、江戸歌舞伎です」
「その通りだ」
「浄瑠璃でもあります」
上等兵はこうも言った。
「またヒロインは揚巻であります」
「見事だ、では日本で使う刀剣は何だ」
「日本刀です」
上等兵はまた即答した。
「武士が用いていました」
「そうだな」
「そして剣は使っていなかったか」
「使っていた、草薙剣は何か」
大尉はこの剣の名を出した。
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