仮面ライダーAP
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暗躍編 真凛・S・スチュワートという女 中編
真凛の白く肉感的な太腿に装備されている、数本のダガーナイフ。その鋭利な刃は妖しい輝きを放ち、己の存在を刀身の光沢で主張している。
カツカツとハイヒールの音を鳴らし、引き締まった腰を左右にくねらせて歩み出す真凛。その蠱惑的な足取りによってたぷたぷと揺れ動く爆乳と爆尻が、倒れ伏している男達の視線を惹き付けていた。チャイナドレスの深いスリットにより強調されている、スラリと伸びた白い美脚も、男達の獣欲を掻き立てている。
その下に隠されたTバックのパンティから漂って来る、芳醇な女の香り。その芳香が男達の鼻腔を擽り、目を血走らせていた。ヒールによってピンと伸びている優美な爪先も、彼らの目を引いている。真凛の肉体から滲み出る甘い匂いは、そこからも滲み出ていたのである。
この極上の女体を思うがままに組み伏せ、隅々まで丹念に味わい、嬲り尽くせたなら。この美しくも憎たらしい高慢な貌を、屈辱と恥辱に歪ませることが出来たなら。一体、どれほどの征服感を得られただろう。他の女を辱めた時とは、比べ物にならないほどの快感を得られたに違いない。
この期に及んでも、そんな途方もない妄想が男達の脳裏に過ぎっている。つい先ほど、その妄想を現実にしようと彼女に襲い掛かった結果、全員纏めて呆気なく返り討ちにされたばかりだというのに。
(……改造人間という人の身に余る力を得た者達は例外なく、その精神を試される。得た力に溺れ、悪に堕ちるか。その力に飲まれることなく、人で在ろうとするか。この男達の場合は……抗う気すら無かったようね)
それほどまでに、男達の判断力を狂わせる真凛の色香は「劇薬」なのだろう。
これまで幾度となく命と貞操を狙われ、その両方の危機に直面して来た真凛は、この男達の粘つくような視線にもすでに気付いているようだった。欲望に塗れたケダモノ達を冷たく一瞥する彼女の眼に、情けの色は微塵も無い。
(ただの人間でも……いえ、人間だからこそ堕ちる者はどこまでも堕ちる。それを思えば……例外なく精神を試される改造人間がこんな連中で溢れ返るのも、ある種の「必然」なのかも知れないわね)
11年前、旧シェードによって両親を殺され、犯罪組織に売り飛ばされた時だけではない。対策室の特務捜査官になってからも、そういう危険は何度も味わった。新世代ライダー達の助太刀が無ければ、その危険を乗り切ることは出来なかっただろう。
(ノバシェード対策室最強の特務捜査官。そう呼ばれていた私でさえ、怪人達に敗北しかけたことは何度もあった。改造人間の力には、それだけの不条理がある)
頼もしい有望な後輩の助けが無ければ、確実に屈服していた場面もあった。改造人間の暴力がどれほど理不尽であるか。ただの人間がどれほど非力であるか。真凛は己の人生を通して、それを嫌というほど「肌」で理解して来た。
だからこそ。何があっても、何をされても決して屈しないために。そんな理不尽に負けないために、特務捜査官として戦い続けて来たのだ。その地位を失ったところで、今さら改造人間達との戦いから降りるわけには行かないのである。
(悪に堕ちた改造人間は、人の姿と知性を持った猛獣に過ぎない。そして、猛獣相手に人間の道理は通用しない。ならば私達人間も、相応の「作法」を以てそれを制するのみ)
その苛烈な信念を、豊満な胸の奥に宿して。彼女は露出している太腿に装備していたナイフを引き抜くと、その切っ先を容赦なく男達に向けていた。足を止めた瞬間、彼女の爆乳と爆尻がぶるんっと上下に弾む。
「例え兵器としては欠陥品でも……やはり改造人間は改造人間。その厄介な力は決して軽く見ていいものじゃない。だから……『相応の措置』を取らないとダメね?」
「なっ……!?」
刃を向けてくる真凛の眼は、脅しのそれではなく。ただ淡々と標的の命を奪わんとする、殺し屋の色を湛えていた。その眼を見た戦闘員達は戦慄し、青ざめる。
この女は、自分達をこの場で全員殺すつもりなのだと。
「ま、待て! 待ってくれ! た、確か貴様は対策室の特務捜査官なんだろう!? 俺達を捕まえることが任務のはず……!」
「……だから命だけは助かる、とでも? 当てが外れたわね」
「待っ――!」
真凛がすでに対策室を去ったフリーの女探偵であるとは知らず、命乞いを始める男達。彼らの言葉を遮る冷酷な一言と共に、真凛は男達の喉首にナイフを投げ付けるのだった。
「ぎゃあっ……!」
「や、やめっ……がっ!」
矢の如く飛ぶ刃が彼らの急所に突き刺さり、鮮血の飛沫が上がる。だが、遠距離からナイフを投げている真凛にその返り血が降り掛かることはない。彼女の足元だけが、血の海に染め上げられて行く。
「……人であることを捨てておいて、まるで人間のような悲鳴を上げるのね」
その眼にも、所作にも躊躇は無い。まるで流れ作業のように迷い無くナイフを投げる彼女は、畜生にも劣る汚物を見る眼で、死に行く男達の最期を見届けていた。
「き、貴様ァッ! それでも特務捜査官か!? 無抵抗の相手にこんな真似をッ……!」
「そう言うあなた達は、無抵抗の人間に情けを掛けたことが一度でもあるのかしら。そんな記録を読んだ覚えは無いのだけれど」
「あ、『悪魔』めぇッ……!」
「ふふっ……あなた達からそんなことを言われるとはね。褒め言葉として、ありがたく受け取るわ」
やがて、最後の1人が悔し紛れに恨み言を吐き出すのだが。真凛はそんな彼からの罵声すら、「褒め言葉」と称して嗤っていた。
「あがッ……!」
「……じゃあね。おやすみなさい」
それから間も無く、その男の首にも刃が突き刺さり――この研究室一帯が、赤く血塗られて行く。戦闘員達の全滅を見届けた真凛は乳房を揺らして踵を返すと、デスクに残されていたノバシェードの作戦計画書に目を通していた。
「ノースカロライナのジャスティアドライバー研究所……『ニノマエラボ』、ね」
そこには、変身ベルトの一種である「ジャスティアドライバー」に関する情報が記載されていた。どうやらこの施設の構成員達はここで作った怪人を使い、ジャスティアドライバーの研究施設「ニノマエラボ」を襲うつもりだったらしい。
(「彼」の戦闘記録は何度も読ませて貰ったわね。仮面ライダーオルバス……悪魔に近しい名を冠した「ジャスティアタイプ」の適合者、か)
ジャスティアドライバーといえば、新世代ライダーの一員である「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが使用しているベルトの名称だが、実はジャスティアドライバーを介して変身する仮面ライダーは彼1人ではないのである。
稀代の天才女科学者・一光。彼女が開発した、ソロモン72柱の悪魔――に近しい名を冠した仮面ライダーは「ジャスティアタイプ」と呼ばれ、番場惣太総監が推進していた開発計画とは枠組みが異なっている。そのジャスティアタイプはオルバスを含め、なんと72機も存在しているのだ。
だが、ドライバーに適合した人間でなければまともに扱えず、警察組織の装備として運用するにはあまりにもピーキーな仕様となっている。
そのため身分や出自を問わず選抜されたオルバス以外のジャスティアライダー達については、その行動内容について疑問視されることも少なくないらしい。彼らの活動に関する記録は、真凛も対策室時代に資料で読んだことがある。
(……あの資料に誤りが無いのであれば、悪魔にあやかった名前に相応しい働き振りよね。番場総監主導の成果物と比べて、メディアへの露出が少ないのも当然……か。到底、表社会にお見せ出来る代物じゃないもの)
第55番機のオルバスが現役警察官の忠義に委ねられているのも、番場の計画に加わることによって研究開発の「大義名分」を得るためだという話もある。ノバシェードが諸悪の根源であることは疑いようのない事実だが、一光という人物も決して清廉であるとは言えないらしい。
「ソロモンの72柱を想起させる『悪魔』のドライバー……か。ふふっ、私のような人間にはおあつらえ向きかも知れないわね?」
正義の味方を自称するには、あまりにもその道から外れ過ぎている。そんな一博士に対して思うところがあったのか、真凛は自嘲するような笑みを溢しながら――この研究所の「自爆機能」を作動させていた。
「さて、と……それじゃあ、綺麗に『お掃除』しておきましょうか」
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