魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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3.5章
3.5-3:御前に捧げる奇術
前書き
どうも、黒井です。
取り合えず今回で3.5章は終了となります。
突如倒れた装者達。そして倒した筈なのに再び姿を現した顔の無いスフィンクス。
颯人は倒れた奏達を守る様に立ち、スフィンクス擬きにウィザーソードガンを向けた。
スフィンクス擬きからの攻撃を警戒しつつ、颯人は現状を努めて冷静に分析していた。
まず奏達が突如倒れたのはまず間違いなく先程スフィンクス擬きを倒した際に飛び出した光が原因だろう。あれがツタンカーメンの仮面に入り込んだ瞬間、切歌と調から始まり最後に奏が倒れた。
颯人はチラリと倒れた奏の様子を見る。一見すると眠っているだけの様に見えるが、その顔色は次第に悪くなっている様にも見えた。悪い夢でも見ているのか、それとも体力が落ちているのかは現時点ではわからないが。
――ツタンカーメン……ファラオの呪いって訳でもないだろうが……――
ツタンカーメンの仮面と言えば有名なのがファラオの呪いだ。あれが発掘された際、その発掘に関わった人々がファラオの呪いで次々と命を落としたと言うのは世界の都市伝説ミステリーの話としては有名である。しかしそれは創作の類であり、実際には発掘調査に関わった26人中10年以内に命を落としたのは僅か6人。墓に穴を空けたと言われる考古学者カーターに至っては発掘後15年以上存命だった。
当時は発掘のスポンサーが突如死去した事でセンセーショナルを巻き起こしたが、現代ではそれも呪いとは関係の無い感染症と言われ呪いなど存在しないと言うのが結論であった。
「いや……重要なのは有名だって事か……」
先の魔法少女事変でオートスコアラーのファラが振るうソードブレイカー。あれは長年人々に伝えられていた言霊とも言える物が力を持った結果、剣と定義される物を問答無用で破壊する能力を手に入れていた。今回も同様に、長年言い伝えられてきた伝承が力を持たされていたとしたら?
状況の解決策を考えていた颯人だが、スフィンクス擬きは何時までも彼に考える時間を与えてはくれなかった。後ろの奏達毎彼を巨椀で叩き潰そうとしてきた。
「チッ、透ッ!」
悠長に考える時間はここまで。ここからは戦いながら解決策を講じなければならない。
素早くスフィンクス擬きを駆け上った透は、鼻も口も無い顔を切り裂き怯ませた。そして怯んだ隙に颯人がシューティングストライクを発動して傷付いたスフィンクスの顔を撃ち抜いた。
〈フレイム! シューティングストライク! ヒーヒーヒー!〉
見事にスフィンクス擬きの顔面を撃ち抜き、その巨体が仰向けに倒れる。倒れたスフィンクス擬きを、颯人と透は油断なく見つめた。
すると再び光がツタンカーメンの仮面に入り込み、靄が形を持ってスフィンクス擬きへと変じた。その様子に透は息を呑み、颯人は対照的に納得したようにフムと息を吐いた。
「こりゃこのデカ物を何度倒しても意味はねえな。かと言ってあの仮面をぶっ壊すのも得策とは思えねぇし……」
しかしあまり時間をかける訳にはいかないだろう。仮に奏達が倒れたのが超常的力により再現されたファラオの呪いによるものだとして、このままだと彼女達の命に係わるかもしれない。
ここで疑問なのは、颯人と透がピンピンしている理由だが…………
「これが魔法か錬金術によるものであれば、あれの魔力と俺達の中の魔力が反発し合って防げてるのか」
思えば装者の中で最後まで持ち堪えていたのは奏だった。彼女には颯人から常に微量ながら魔力が注がれている。その魔力が多少なりとも彼女を守ってくれていたのだろう。だがそれも長くは続かなかった。本来彼女の中にある物ではないから、長年の伝承により発揮した呪いの力には敵わなかったのだ。
「さて、となるとこいつを何時までものさばらせておく訳にはいかねえな」
コイツがこの船の外に出られるのか否かは分からない。もしかしたら活動範囲はあの仮面の近くに限られるのかもしれないし、この船の外に力が及ばないのかもしれない。
だがどちらにしても、颯人に放置すると言う選択肢は存在しなかった。あの仮面を中心とした力は奏達に危害を加えた。そんな危険なものを放置する道理は彼の中に無い。
問題はこの力をどう攻略するかである。あの仮面が中心になっている事は分かるが、さりとて仮面を破壊すれば終わると言うような簡単な話ではないだろう。或いはあの仮面を破壊したら、次は別の何かに宿って新たな力を発現させる可能性もある。今以上に厄介な能力を持たれでもしたら本末転倒だ。
さてどうやってあの力を無力化するか。
「まずはもう一度倒して、力の源の光を引っ張り出してみるか」
〈フレイム、ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!〉
〈アーマースペシャル、ナーウ〉
颯人と透は本気であのスフィンクス擬きを攻略する為、それぞれ内に眠るファントムの力を引き出した。颯人はドラゴンの力を引き出し、透はアーマードメイジとなってデュラハンの力を身に纏う。
本気を出した2人を危険と判断したのか、スフィンクス擬きは巨椀で殴り掛かって来る。透はそれを魔法も使わず腕力だけで防いだ。
自慢の一撃を防がれたからか、スフィンクス擬きの動きが止まった。その隙に颯人はスペシャルの魔法でドラゴンの力を限界まで引き出した。
〈チョーイイネ! スペシャル、サイコー!〉
胸に装着されたドラゴンの頭部。その口に灼熱の劫火が宿り、強烈なブレスがスフィンクス擬きを焼き払った。紅蓮の炎がスフィンクス擬きを塵も残さない程焼き払い、後には核になっていた光だけが残る。
その光がまたも仮面に入ろうと飛んでいった。
「逃がすか!」
あの光が力の源であるのなら、あれが仮面に入る前に消してしまえばいい。そう思って颯人が再びドラゴンのブレスを光に向けて放つが、あの光には実体と呼べるものが無いからか放たれる炎を物ともせず仮面に入りスフィンクス擬きを生み出してしまった。
光への直接攻撃は失敗だ。となれば別の方法であの光を何とかしなければならない。
どうすべきかと颯人が悩んだ時、彼はある疑問を抱いた。
――あの光、仮面にしか入れないのか?――
先程からあの光は真っ直ぐ仮面に向かって行く。まぁ術式でそうなるように仕込まれているのだろうが、あの光に対して他の物が干渉するとどうなるのだろう? もっと言ってしまえば、人間があの光に触れると?
普通の人間であればそれは非常に危険な賭けだろう。だが颯人達魔法使いは普通の人間ではない。彼らの中には人間としての精神だけではなく、その内に宿るファントムも存在している。人間一人では対処不可能でも、ファントムと力を合わせればどうだろう?
「……やるだけやってみるか」
「?」
「透、俺はこれからちょいと賭けに出る。もしもって時は悪いが尻拭い頼むぜ」
そう言うと颯人は迫るスフィンクス擬きを再びドラゴンのブレスで焼き払った。燃え盛る炎により形が崩れ、スフィンクス擬きの中から根源となる光が珠となって飛び出した。
「今だ!」
その瞬間、颯人は光の珠の進行ルート上に立ち塞がった。透が止める間もなく光の前に颯人が立つと、光は彼を避ける事無く颯人の体の中に入ってしまった。
そして光が彼の体の中に入った瞬間、彼の意識は急速に薄れ視界は闇に閉ざされた。
***
「…………ん?」
気付くと颯人は暗闇の中に居た。辺りを見渡しても見える物は漆黒の闇のみ。だが上下左右はハッキリしており、中空に浮かんでいると言う感じではなかった。
何より、颯人はこの空間に見覚えがあった。そう、以前初めてフレイムドラゴンとなる際にドラゴンの力を引き出そうとした時ここに来た事がある。その時の事を覚えていたから、この場所にピンときてパニックになる様な事は無かった。
【ギャオォォォォォォッ!!】
「ん?」
颯人がこの場所の事について考えていると、突如聞き覚えのある咆哮が耳に入って来た。そちらを見ると、彼の身に宿るファントムであるドラゴンが先程颯人の中に入ってきた光の珠を追い掛け回しているのが見えた。
大方、自分のテリトリーに無断で入って来た不届き者を排除しようとしているのだろう。と言う事は、あのまま放っておけばドラゴンが全てを解決してくれる。
一瞬そう思った颯人だが、彼はそうはせずドラゴンと光の珠の間に入ると光の珠を守る様にしてドラゴンを手で制した。
「ストップストップ! 待て、待つんだ」
颯人に制止させられ、ドラゴンは苛立たしいと言いたげな唸り声を上げた。言葉には出さないが、何故余所者の排除を邪魔するのかと言ったところだろう。
最初は颯人もこのままドラゴンに任せようと思った。だが逃げる光の珠を見ていて、次第にその気が失せたのだ。
何と言うか、逃げる光の珠が子供のように泣いているような気がしたのである。
「そう言えば、ツタンカーメンって確かガキの頃に即位させられた挙句大人になる前に死んだんだったよな」
資料によれば即位したのは8~9歳の頃。そして僅か10年弱で在位期間を終えた……つまりは命を落とした悲劇の少年王なのだ。本来であれば子供らしく遊んでいるべき時期に、欲望と陰謀渦巻く政治の世界に巻き込まれ、何の楽しみも味わう間もなく若くして命を落とした。
それを考えるとこのままドラゴンに始末させるのが忍びなくなったのだ。
「そう言う訳で、ここは俺に任せてもらう。お前は今回下がってな」
颯人の言葉を理解したのかどうかは分からないが、ドラゴンは呆れとも苛立ちとも取れる溜め息を鼻から吐いて何処かへと消えていった。
ドラゴンが居なくなると、颯人は一息つき改めて光の珠……否、長年の伝承により歪められたツタンカーメンの思念と向き合った。
「それじゃ、初めまして王様。俺は明星 颯人。アンタらに分かり易い言い方をすれば、そうだな……奇術師で伝わるか?」
そう言って颯人は芝居がかった仕草で恭しく頭を下げた。相手はただの光の珠なので、表情の類は分からない。ただ、何となくこちらに興味を持ってくれているのだろう事は分かった。
こうして直に対面して、颯人はあの光の珠とそれに掛けられた術式に見当がついた。何者かは分からないが、下手人はツタンカーメンの仮面に残った思念と伝承を組み合わせて、周囲の人間を無力化する効果を生み出させたのだろう。
その核となっているのが、今彼の目の前に存在する若くして命を落とした少年の王の残留思念。無念の内に亡くなった若き王の残渣を無理矢理核に捻じ込んだのだ。
とくれば、話は簡単だ。思念に残った無念の思いが力の源になっているのであれば、その無念を忘れるくらい楽しませてやればいい。起こったことそのものを無くす事は出来なくとも、新しい感情……即ち楽しませることで憂いを晴らさせることは出来る。
何を隠そう、それが彼のもっとも得意とする事だからだ。
「さて、王様! こんな場所で言うのもおかしな話だが、これからあなたに夢の様な一時をお送りしましょう!」
***
それから数時間後、颯人は気付けば本部の医務室で寝ていた。
「……ん? お……?」
「颯人ッ!!」
目を覚まし周囲を見ると、彼を心配して近くに居たのか奏が声を掛けてきた。見ると彼女の目元には彼を心配してか、涙を流したような痕がある。どうやらかなり心配させてしまったらしい。
「おう、おはよう奏。体は大丈夫か?」
「そりゃこっちのセリフだ馬鹿ッ!? 目を覚ました時、お前がメチャメチャ無茶したって聞いて心配したんだぞッ!!」
「悪い悪い。他に方法考え付かなくってさ」
正直、自分でもかなり危ない橋を渡ったとは思う。もしかしたら今度は彼自身が呪いの力の源となっていた可能性も否定できないのだ。外部と通信して情報交換できなかった状況だったとは言え、今回の事は流石に無謀が過ぎた。
奏も心底心配させてしまった。颯人は己の短慮を少しだが反省した。
「悪かったな、心配かけて」
「ホントだよ。体は何ともないのか?」
「ん~、そうだな。腹が減ってる以外は何とも……」
「ならば一発喰らっても大丈夫だな」
奏ではない声が突如耳に入ったかと思えば、次の瞬間颯人は脳天から迸る痛みを感じ声にならない悲鳴を上げた。
「~~~~~~~~ッ!?!? な、何っ!?」
何事かと奏と反対方向を見れば、そこには指輪を外して拳を握り締めたウィズと腕を組んだアルドの姿があった。ウィズは仮面で、アルドはフードでそれぞれ表情が隠れているが、放たれる怒気は隠し切れていなかった。
本気で怒ったらしき2人を前に、颯人は文句も軽口も言う気になれずただ頬を引き攣らせていた。
「えっと、あの…………誤れば許して……くれ、ないよな?」
「ま、今回は諦めろ」
奏がそう言って颯人の肩をポンと叩いた。それはこの場では死刑宣告にも等しい言葉で、それから数十分颯人はウィズとアルド、2人からの説教を喰らう羽目になった。
そして今回の無謀すぎる行動への説教が終わった頃には、颯人は魂が抜けた様になってしまっていた。そんな彼の背を奏が優しく撫でる。
因みにウィズとアルドは、やる事をやったからか早々に姿を消していた。
「お疲れさん。無茶した事はあれだけど、ま、助かったよ」
「お、おぅ…………あ! そう言えばあの後結局どうなった?」
一番大事な事を聞くのを忘れていた。颯人がこうしてここに居ると言う事は、あの後スフィンクスが出るような事は無く事態は終息したと見るべきなのだろうが念の為だ。
「あぁ、颯人の中に光の珠が入ってから少ししてアタシ達の目が覚めてね。で、透に何があったのかを聞いて引き上げてきたって訳だ」
「もう靄は出なくなったのか?」
「そうだよ。靄が消えて、皆目を覚まして戻って来たんだ。あの後一度別のスタッフが確認しに行ったけど、もうあの風船の化け物も居なくなって全部終わってたって」
どうやら颯人の作戦は成功したらしい。ツタンカーメンの思念はたっぷり楽しみ、伝承と若くして死んだ無念も忘れて安らかな眠りについてくれたようだ。その事に颯人は安堵の溜め息をついた。
「そうか……そいつは良かった。……なぁ奏?」
「ん? 何?」
「今度の週末、ちょいとデートに行かねえか?」
颯人は奏を誘って、博物館で催される特別展へと赴いた。そのメインと言える、ツタンカーメンの仮面を見に。
2人が見た時、無表情の筈のツタンカーメンの仮面は心なしか笑みを浮かべているような気がした。それを見て颯人は、我が事の様に嬉しそうな笑みを浮かべたのだった。
そんな彼を、3人の女性が眺めていた。3人の内、カエルのぬいぐるみを抱えた少女と言える体躯の女性が口を開く。
「まさかあの術式を1人で破るとは思わなかったワケダ。一体どうやったのか……」
「流石はあの男の息子、と言ったところかしらサンジェルマン?」
「或いは彼だからこそ、それが出来たと言ってもいいかもしれないわね」
サンジェルマンと呼ばれた白髪の女性は、颯人に柔らかな視線を向けていた。それが面白くないのか、ぬいぐるみを抱えた少女はフンと鼻を鳴らした。
「とは言え所詮は小僧。サンジェルマンがそこまで入れ込む必要は無いワケダと思うのだが?」
「そう言うんじゃないわよ。さ、行くわよ。これから忙しくなる」
「あ~ぁ、偶には休みが欲しいわ」
3人はボヤキながらその場を離れていく。颯人と奏は、離れていく3人に気付く事も無くツタンカーメンの仮面を見ていた。
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございました!
ファラオの呪いの解除はこんな形となりました。原作では響がツタンカーメンの残留思念と心を通じ合わせるような形で終わらせていたので、本作では颯人らしいやり方で終わらせようとした結果こうなりました。
今回でGXとAXZの間の話は終了となり、次回からはいよいよ第4期のAXZ編となる予定です。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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