魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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3.5章
3.5-2:襲い掛かるファラオの呪い
謎の視線を颯人が感じ取りつつ、貨物室を出て船内を探索する一行。その道中何度かあの風船の様な怪物が出現したが、その度に彼らは危なげなく始末していった。数は多いが、一発でも攻撃が当たれば簡単に倒せるので苦にはならない。
そうこうしていると一行は船内でも一際広い場所に出た。メインホールとでも言えばいいか。
彼らがそこに到着すると、突如黒い靄が一か所に集まり始めた。
「え……な、なにこれ? 靄が渦を巻いて集まっていくッ!?」
「構えろ響ッ! 今までの奴とは違う何かが出るぞッ!」
困惑する響に喝を入れて奏が構える。颯人と透もこの異変に警戒心を強めて、武器を手に身構えている。
と、警戒していた彼らの前で、靄の中に何かのマークが現れた。それは太陽や星、月を象った紋章で作られた円の中に蛇が入り込んでいるような不思議なマークであった。
「ん、なんだ、あのマーク……」
クリスがよく見ようと目を凝らしながら呟く。だがそのマークに気付いたのはクリスだけなのか、切歌は首を傾げている。
「どうしたデス? クリス先輩」
「いや、今なんかうっすらと――」
「見て、形が変わる」
他の面々にも自分が見たものを教えようとしたクリスだったが、それよりも先に靄が形を変え始めた。翼と尻尾を持ち、顔の周りには鬣を思わせるパーツを付けた四足歩行の怪物。
顔は真っ黒なのっぺらぼうだが、それ以外の見た目はどう考えてもエジプトのピラミッドの傍に聳え立つ石造、スフィンクスに他ならなかった。
「スフィンクスッ!?」
「ファラオの呪いってか?」
「顔がのっぺらぼうデスよッ!?」
「自分の顔が嫌になったとかじゃ――――」
目の前に突然現れたスフィンクスに、警戒しつつも困惑を隠せない装者と魔法使い達。
だがあまり何時までもくっちゃべっているだけの時間の余裕は与えられなかった。
「うぐッ!? な、なんデス――ッ!?」
「すごく嫌な気配……なに、これ?」
「来るぞッ! みんな気を付けろッ!!」
クリスの警告を合図にしたように顔の無い黒いスフィンクスが殴り掛かって来る。颯人達は咄嗟に散開してその一撃を回避したが、外れたスフィンクスの攻撃は船の床を一撃で粉砕した。
「うひゃぁぁッ!? すごい威力ッ!!」
「ヤバい、こんなのに何時までも暴れられたらこの船持たないぞ颯人ッ!」
「だったらさっさと倒すだけだ!」
「同感だ! 攻撃してくるって事は間違いなく敵ッ! やられる前にやれだッ!!」
クリスがアームドギアをガトリングにして引き金を引いた。吐き出された無数の弾丸がスフィンクスの体を抉り取ろうと殺到する。颯人もそれに続いてガンモードのウィザーソードガンの引き金を引くが、彼はスフィンクスに攻撃しながら奏と切歌、調の3人に意識を向けた。
「奏ッ! お前体調は?」
「心配すんな、まだまだ絶好調だ!」
「切歌ちゃん調ちゃんは?」
「大丈夫デスッ!」
「了子さんに新調してもらったLiNKER、あれのお陰でまだ戦えます!」
この3人は装者としては不完全で、ギアを纏う為にLiNKERを必要としている。薬を打てば戦えるが、LiNKERは同時に劇薬でもあるので体に負担を掛けていた。故にあまり多用しすぎる訳にはいかず、場合によっては戦線離脱も必要な事があった。
成人して体が出来上がっている奏はともかく、まだ子供な2人にはあまり無茶をさせられない。そう考える颯人は2人の様子を気にしながら戦っていたのだ。
「あまり無茶すんなよ……奏、お前もな!」
「心配性だねぇ。安心しろ、最近は本当にすこぶる快調だからさ!」
事実だ。ここ最近、奏の体調は本当に快調でしかも徐々にだがLiNKERの投与量も減りつつあった。その事を了子も不思議がっていたが、長く戦い続けたことで奏の適合係数が上がって来たのだろうと結論を下していた。
颯人が奏達の身を案じている間、スフィンクスの相手は響とクリス、そして透の3人がしていた。体も大きく力も強いスフィンクスを相手に、3人は決め手に欠き直撃を貰わないようにするのが精一杯と言った様子であった。
「おいッ!? 何時までも喋ってないで戦えッ! 透1人で大変なんだってのッ!?」
「クリスちゃん、私はッ!?」
「だぁぁぁッ!? もう、分かってるよッ!!」
素早くスフィンクスの体を駆け上がりながら切り付ける透に続き、がら空きな胴体に拳を叩き付ける響。しかしスフィンクスは堪えた様子を見せず、煩わしいと言いたげに巨椀を振り回して殴り飛ばそうとしてくる。クリスはそんな2人を援護すべくスカートアーマーを展開させて小型ミサイルを降り注がせた。的が大きい上にスフィンクス自身の動きはそこまで速くは無いのでミサイルは全て命中し、束の間スフィンクスの姿は爆炎で隠れる。
だがスフィンクスは立ち上る煙を突き破ってクリスに攻撃してきた。両手にガトリング、展開したスカートアーマーの所為で身動きがとり辛いクリスにこれを回避する事は難しい。
「ッ!!」
〈バリアー、ナーウ〉
だからこそ彼女を透が守った。素早くスフィンクスとクリスの間に入り込むと、障壁を展開しスフィンクスの一撃を受け止めた。
「透ッ!」
スフィンクスの一撃は見た目通りに重いが、しかし耐えきれない程ではない。僅かに体ごと後ろに押されるが、彼は耐えきりクリスをスフィンクスの一撃から守り抜いた。
この瞬間、スフィンクスは完全に隙だらけとなった。そこを奏が見逃さず、アームドギアの槍を逆手に持って投擲した。
「オラァァァァァァッ!!」
[SAGITTARIUS∞ARROW]
投擲された槍が真っ直ぐスフィンクスに飛んでいき、頭部に直撃しそのまま押し倒した。だがスフィンクスは倒れはしたが、槍は刺さらず弾かれあらぬ方向に飛んでいってしまった。
回転しながら飛んでいく槍を、颯人が魔法で回収し奏に手渡す。
〈コネクト、プリーズ〉
「よっと。奏、ほれ」
「サンキュー! しかし、コイツは……」
「奏さん! このスフィンクス硬くて強いですッ!?」
一度スフィンクスが倒れたことで体勢を立て直す余裕が生まれた。響達は一旦後方に下がり、どうやって攻めるかを話し合った。
「らしいね。響達が束になって掛かってもピンピンしてるとは」
「だが攻撃が効いてない訳じゃなさそうだ。見ろ」
クリスに視線を誘導されスフィンクスの頭を見ると、鬣のような装飾が欠けている。先程の奏の一撃が効いている証拠だ。
傷付けられるのであれば、倒せない道理はない。
「そもそもこいつはあの風船共の親玉みたいなもんだろう。なら、倒せない事は無い筈だ!」
「なら話は簡単だ。全員で一斉に攻撃して、一気に倒す!」
「それっきゃねえなッ!」
「はい!」
「私達で切り刻むデスよ、調!」
「うん!」
立ち上がったスフィンクスに颯人達は一斉に攻撃を開始した。
迫る颯人達にスフィンクスは剛腕を叩き付ける。しかしそれに透が飛び乗り、腕を駆け上がりのっぺりとした顔を切りつけた。目鼻口はなくとも顔を攻撃されたら怯むのか、スフィンクスが顔を顰めた。その隙に懐に入り込んだ響が腹を殴りつけ地面から浮かせた。
浮き上がったスフィンクスだが、体が大きいためすぐに落下して床に足が付きそうになる。それよりも早くに颯人が魔法の鎖でスフィンクスの手足を縛り空中に磔にした。これでスフィンクスは身動きが取れない。
「今だッ!」
「よっしゃ!」
颯人が合図すると、奏・クリス・切歌・調の4人がアームドギアを構え一斉に必殺技を叩き込んだ。
[LAST∞METEOR]
[MEGA DETH FUGA]
[切・呪りeッTぉ]
[α式 百輪廻]
次々と必殺技が直撃し、その威力にスフィンクスの体に罅が入る。そして遂にダメージに耐えきれなくなったのか、スフィンクスは体を破裂させ消滅していった。
その光景に響を始めとして装者達が安堵の溜め息をつく。
「ふう……なんとか倒したね……。みんな無事でよかったよ」
「無茶苦茶、手強かったデス……」
「スフィンクスの体、消えていったね」
「霧みたいに散って……ッ!」
消えていくスフィンクスを見ていた颯人達だが、その中に光る珠の様な物がある事に気付いた。その珠は意思があるのか、そのまま飛んで何処かに逃げていってしまった。
「あッ! 逃げるデスよッ!!」
「逃がすか!」
〈コネクト、プリーズ〉
颯人がコネクトの魔法で空間を繋げて手を伸ばすが、珠は彼の手をするりと回避して飛んでいってしまう。透も逃がす物かとカリヴァイオリンを投擲するが、小ささを活かした回避で光の珠は逃げていてしまった。
何だか分からないが、このまま逃がしたらロクな事にならなさそうだと言う事は分かる。颯人達は慌てて光の珠を追いかけた。
逃げていく光の珠の先にあったのは、黄金で出来た年代物の仮面の様な物。ちょっとでも知識のある物が見れば、それがツタンカーメンの仮面である事にすぐ気付いただろう。
逃げた光の珠はその仮面に吸い込まれて消えてしまった。
「光があれに吸い込まれたデスよッ!?」
「あれ、ツタンカーメンの――くッ!?」
光が仮面に吸い込まれた次の瞬間、調の顔色が悪くなりふら付き始めた。傍にいた切歌がどうしたのかと彼女を支える。
「ど、どうしたデスか、調ッ!?」
「なんだか、急に、力が……」
切歌に心配される中、調はそのまま意識を失い倒れてしまった。するとそれに続く様に切歌も体の不調を訴え倒れてしまう。
「うう……ア、アタシも、デス……」
「お、おいおい、切歌ちゃん調ちゃん!? どうした急にッ!? こんな時にLiNKERの副作用か……?」
最初颯人はLiNKERの薬効が切れたか副作用かと疑ったが、次に不調を訴えたのはクリスであった。急激に体から力が抜け、意識が薄れていく彼女を透が支える。
「ッ!?」
「なんだよ……これ……ッ。力が、何かに、吸収されて……くッ……」
「黄金の……仮面……?」
次々と装者が倒れて行き、遂には奏までもが脚から力が抜け崩れ落ちそうになる。それを颯人が支えようとすると、奏は苦しそうに顔を歪めながら顔に脂汗を浮かべ虚ろになった目で颯人を見上げた。
「やば……くそ……ッ。はや、と……」
「奏ッ!?」
意識せず、奏は颯人の腕を力無く掴んでいた。颯人が奏の意識を繋ぎ止めようと彼女の手を掴むが、彼の願い空しく奏も響達と同じように意識を失ってしまった。
これで装者は全滅。残るは魔法使いの2人のみ。颯人は奏達の身を案じながら、何故自分と透は何の異変も起こらないのかと考えを巡らせていた。
するとツタンカーメンの仮面から黒い靄が噴き出し、再び顔の無いスフィンクスが姿を現した。
自分達を見下ろすスフィンクスを前に、颯人は小さく鼻を鳴らしてこう呟いた。
「ツタンカーメン……ファラオの呪い、か」
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございました!
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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