大阪幽霊談議
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第四章
「些細なものです」
「あれっ、そうなんですか?」
そう言われてだ、ジェーンは意外といった顔で応えた。
「幽霊と人間って」
「全然違う様に思えますね」
「もう妖怪と人間と同じだけ」
違うとだ、ジェーンは言った。
「そうちゃいます?」
「いえ、人間は身体があり」
僧侶はジェーンに穏やかな声で話した。
「そこに魂があるものです」
「魂ですか」
「魂魄が。その魂魄が身体から出れば」
「幽霊ですか」
「生きているうちに出れば生霊となり」
「死んでから出ると死霊ですか」
「雨月物語の吉備津の釜はご存知でしょうか」
僧侶はジェーンに尋ねた。
「落語家さんとのことですが」
「あのめっちゃ怖いお話ですか」
これがジェーンの返事だった。
「雨月物語は石川淳さんの訳で読みました」
「そうなのですか」
「幽霊の勉強してるうちに」
「あの人も幽霊の話書いてまるしね」
「それがまさに雨月物語ですね」
「そうです」
その通りという返事だった。
「作者の上田秋成は」
「この大阪の人ですね」
「それで読まれましたか」
「大阪の幽霊のこと勉強する中で」
「それは素晴らしい、それでまさにです」
「吉備津の釜で、ですね」
「生霊と死霊がです」
その両方がというのだ。
「出ます」
「そう言われますと」
「あれこそがです」
「人間と幽霊の違いですか」
「そうです、人間と幽霊の違いは」
「身体があるかないか」
「それだけです」
その程度、そうした言葉だった。
「まさに」
「そうですか」
「だから足があってもです」
「不思議やないですか」
「なくなったのは丸山応挙の絵からですが」
僧侶もこう言った。
「身体がないのである程度は見えなくもなるでしょう」
「身体がない分」
「そうです、しかしあることもまた事実です」
「あってもなくても幽霊なら」
身体がないのでとだ、ジェーンは言った。
「有り得ますね」
「そうです、そして」
それにというのだ。
「この度拙僧がお話したいことは足と」
「幽霊と人間の違いですね」
「そうです、それはまことにです」
「些細なことですね」
「身体があるかないか」
「ほんまそれだけですね」
「左様です」
「わかりました」
ジェーンは僧侶のその言葉に頷いた、そして足形のことを詳しく聞いた。そのうえで事務所でマネージャーと仕事の打ち合わせをして動画の収録もしてだった。
この日は席もないので家に帰ってから落語の練習をした、そこで家に帰っていた津々子と夕食を摂ったが。
おかずの焼き餃子を食べて豆腐と茸の味噌汁を飲みながらコタツの向かい側に座る津々子にこんなことを言った。
「いや、足のことも勉強になったけど」
「幽霊と人間の違いやね」
「そのことがわかったさかい」
それでというのだ。
「ほんまな」
「ええ勉強なったんやね」
「そう思うわ、確かにな」
ジェーンは神妙な顔で話した。
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