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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第67話:死線


同日夕刻。
機動6課の隊舎を襲っていたガジェットの大群は少し前に突然退却した。
空中で戦い続けたシグナムとヴィータはさすがに疲労困憊の様子で,
隊舎の屋上に着地した。

「ひでぇな」

「ああ。これではここはもう使えまい」

中に侵入したガジェットによって蹂躙された隊舎の惨状を見て
ヴィータとシグナムは吐息をもらす。

「ゲオルグがいち早く隊舎放棄の決断をしていなければどれだけの犠牲が
 出たことか・・・」
 
「ああ。あいつのそういう決断の速さはこーゆーときに頼りになるよな」

「シグナム,ヴィータ。ゲオルグくんは?」

シャマルの問いに2人はそろって首を傾げる。

「見てねーぞ」

「ああ。私も見ていない」

「そうなの?どうしたのかしら・・・」

「ずっとシャマルといたんじゃねーのか?」

ヴィータが尋ねると,シャマルは首を横に振る。

「ザフィーラから応援要請があったらしくて,向こうに走って行ったきり
 全然姿が見えないのよ」

「は?何やってんだあいつ・・・」

「探してきてくれない?ヴィータ」

「わかった。ったくあいつも手間かけさせやがって・・・」

ヴィータはそう言うと,シャマルの指さした方へ飛ぶ。

隊舎の端まで来て下をのぞきこむと,何かが倒れているのが見えた。
片方はザフィーラだと見てすぐに判ったので,ヴィータはザフィーラの側に
飛び降りると,声をかける。

「ザフィーラ!おい!大丈夫か!?」

「私よりも・・・あいつを・・・」

そうやってザフィーラが指さす方を見ると,金髪の男が倒れているのが見えた。
ヴィータは男に駆け寄ると,絶句した。

「ゲオ・・・ル・・・グ・・・?」

そこには腹を何かに貫かれ,血を流しているゲオルグが倒れていた。

「お・・・おい。ゲオルグ!」

ヴィータがそう呼びかけると,ゲオルグは少し身じろぎした。

「ヴィヴィオが・・・」

「あ?何だ?ヴィヴィオがどうした!?」

「さら・・・われ・・・た・・・」

ゲオルグはそう言って,再び意識を失った。

「おい!ゲオルグ!しっかりしろ!!」

ヴィータはゲオルグをゆするが反応はない。
ヴィータの声に気づいたのか,シャマルがやってきた。

「・・・ゲオルグくん・・・ひどい・・・」

シャマルもゲオルグの惨状を見て絶句したが,すぐに応急処置に取りかかった。



同刻。
地上本部でもガジェットと戦闘機人による襲撃を受けたが,
無事これを撃退し,はやては胸をなでおろしていた。
隊舎との通信が途絶したのは心配だったが,地上本部にこれだけの戦力を
投入した以上,隊舎にそれ以上の攻撃があるとは考えていなかった。

『・・・隊長。八神部隊長,聞こえますか!』

「グリフィスくんか?聞こえるで」

『よかった,やっとつながりました。そちらは無事ですか?』

「被害なしっちゅうわけにはいかんかったけど,なんとかな。
 6課のメンバーも全員無事やで。そっちは?」

『こちらはかなり大規模な攻撃で隊舎は壊滅です。
 ゲオルグさんの素早い決断で非戦闘員の退避は迅速に行われたので
 今のところけが人は確認されていません』
 
「壊滅!?そこまでの被害が出たんか!」

『はい・・・すいませんちょっと待ってください』

グリフィスはそう言うと,向こうでの会話を始めたようだった。
微かに聞こえる声から察するにかなり慌てているようだから,
誰か重傷を負ったものが居るのかもしれない・・・はやてはそう考え
少し身構えた。

『はい,判りました。・・・八神部隊長!聞こえますか?』

「聞こえるで,何かあったんか?」

『落ち着いて聞いてください。シュミット副部隊長とザフィーラさんが
 敵との交戦で負傷しました。お2人とも意識不明の重体です』
 
「なんやて!?命に別条はないやろな?」

『それも含め現在情報を確認中です。それと,これも未確認なのですが・・・』

「なんや?さっさと言い!」

『すいません。ヴィヴィオちゃんがさらわれたと・・・
 ゲオルグさんが意識を失う前に言っていたらしいです』

「・・・それはほんまか?」

『すいません。情報が錯綜していて・・・』

「判った。はっきりし次第連絡して・・・」

『了解しました』

はやてはグリフィスとの通信を終えると,フォワードの4人やフェイト,
ギンガと話しているなのはを見た。はやては大きく息を吐くと,
全員に向かって言った。

「みんなちょっと聞いてくれるか・・・」



・・・同日,夜。

ゲオルグとザフィーラが収容された聖王医療院に機動6課前線メンバーの
姿があった。
ガラス窓で仕切られた向こうにある医療用ポッドではゲオルグの
治療が行われている。

はやては手のひらの上にある,待機状態のヤクトレーベンを見た。
先ほど,ヤクトレーベンの記録からゲオルグが負傷するに至った経緯を
確認していた。ヴィヴィオがさらわれたことも。

小さくため息をつき,はやては傍らに座るなのはを見た。
なのはは,ゲオルグが握り締めていた鎖のちぎれたネックレスを握りしめ,
茫然と座り込んでいた。

「ゲオルグさん,大丈夫なんでしょうか・・・」

エリオが不安そうに医療用ポッドを見つめる。

「医者の話では,助かるかどうかはゲオルグくん次第や。
傷はシャマルがほとんど治してくれたんやけど,
失血性ショックを起こしてたらしいから・・・」

なのはが肩を少し震わせた。

「なのはちゃん。私らは教会の方に行くな。なのはちゃんは隣にベッドを
 用意してもらったから,そこで寝たらええわ」

「・・・私も行く」

「なのは。無理はしない方が・・・」

フェイトの言葉になのはは首を振った。

「大丈夫だよ。ゲオルグくんはこんなことで死んだりしないよ。
 それより早くヴィヴィオを助けることを考えないと」

はやてはその言葉を聞いて,なのはの肩に手を置いた。

「なのはちゃん。そんな無理せんでええから。
 焦っても何も解決せえへんやろ?それに,ゲオルグくんが目覚めたとき
 一番に見たいんはなのはちゃんの顔やと思うから・・・。
 頼むからここにおってあげて。これはお願いや」

「はやてちゃん・・・」

なのははそう言うと,小さく頷いた。

「ありがとうな」

はやてはそう言ってなのはの肩から手を離し,なのはに背を向けた。

 
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