機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第68話:一夜明けて
目を開けると,目の前に白い天井が見えた。
周りを見回すと,壁も白く,寝かされているベッドもシーツも白い。
(病院・・・か?なんで?)
「ん・・・」
すぐ近くで声がしたのでそちらを見ると,俺の寝ているベッドに突っ伏して
眠っているなのはが見えた。
(なのは?何やってんだこいつ・・・)
俺は身を起こそうと力を入れたが,その瞬間痛みが走った。
「くっ・・・痛って・・・」
俺は身を起こすのを諦め,なのはに向かって手を伸ばす。
何とか顔に手が届いたので,頬を軽くつねる。
「ん?・・・なに?・・・」
俺に頬をつねられたなのはが目を覚まし,身を起こすと目が合った。
「ゲオルグ・・・くん?」
なのはは目を見開いてそう言った。
「なんだよ。俺が居たらそんなに不思議か?」
その瞬間なのはの両目から涙がこぼれおちる。
「・・・よかった・・・ゲオルグくん・・・ほんとに・・・よかった」
なのははベッドに横になっている俺に抱きつき,声を上げて泣き始めた。
「おいおい,どうしたんだよなのは・・・」
俺が声をかけるが,なのはは相変わらず泣き続けている。
俺は他に為すすべもなく,なのはの背中をゆっくりと撫で続けた。
しばらくして,ようやく泣きやんだなのはは,医者を呼びに行った。
一人になった病室で,俺は何があったのかを思い出そうとする。
「確か地上本部の公開意見陳述会があったんだよな,で・・・何だっけ?」
俺は何かないか探そうと周りを見回す。
すると,サイドテーブルの上に,小さな羽根の形の飾りがついたネックレスを
見つけた。
俺は手を伸ばしてそれを手に取ると,じっくりと見つめた。
鎖は引きちぎられて,羽根の形の飾りは赤く染まっていた。
その時,俺は激しい頭痛を感じうめき声を上げた。
目の前で泣き叫ぶヴィヴィオの姿と,自分の腹に刃が突き刺さる感覚が蘇った。
「・・・そっか。俺,守れなかったんだな」
一人そう呟くと,視界が滲んできた。
「ヴィヴィオ・・・」
「ゲオルグくん?」
医者を連れて戻ったなのはが,涙を流している俺に気づいて
駆け寄ってくる。
「どうしたの?ゲオルグくん。どこか痛いの?」
「・・・違う」
「じゃあなんで泣いてるの?」
「自分が情けないから・・・かな?」
「情けない・・・?」
「なのは,俺,お前との約束を守れなかったよ。ごめん」
俺がそう言うと,なのはは泣きそうな表情になった。
「ゲオルグくん・・・覚えてるんだね・・・」
「忘れるわけないよ。目の前でヴィヴィオが助けを求めてたのに・・・」
俺がそう言うと,なのはは俺を抱きしめた。
「ゲオルグくんは,命懸けでヴィヴィオを守ろうとしてくれた。
ゲオルグくんはなにも悪くないよ」
なのははまた涙を流していた。
(ありがと,なのは。でも,俺は自分で自分を許せそうにないんだ)
「よければ診察したいのだが構わないですか?」
なのはの連れてきた医師がそう言うと,なのはは俺から身を離して涙を拭いた。
医師は,シーツをめくり,包帯を外すと俺の腹にある傷の様子を見てから,
もう一度包帯を巻きなおしてから,俺の顔を見つめた。
「傷の治りは順調・・・というより,予想より早いですね。
さすがに鍛えているだけのことはある,といったところですか」
「どれくらいで治りますか?」
俺がそう聞くと,医師は眼鏡を指で持ち上げた。
「傷そのものはさほど重いものではありません。
幸い内臓も外れていましたし,シャマル医師の初期治療もよかったですね。
傷はもうほとんどふさがってます。痛みはもう少し続くでしょうがね。
大量出血で命の危険はありましたが,もう大丈夫ですね。」
「そうですか。では退院は?」
「命の危険は無くなったとはいえ,体力も落ちてますから
今からそういうことは考えずにゆっくり休養することですね」
「・・・判りました。ありがとうございます」
「いえ」
医師はそう言って病室を後にした。
「なのは,俺はどれくらい寝てた?」
俺がそう聞くと,なのはは真っ赤な目で俺を見た。
「え?丸1日くらいかな・・・今は夕方だよ」
「公開意見陳述会は昨日だよな」
そう尋ねると,なのははこくんと頷いた。
「なあ,昨日からずっとついててくれたのか?」
「え?うん。まあね」
「そっか,ありがとな。でも,もう大丈夫だ」
「え?」
「仕事に戻ってくれ」
「でも・・・」
「なのは,ヴィヴィオを助けるんだろ?」
「もちろんだよ!でも・・・ゲオルグくんだって私にとっては大切な人だし」
「俺ならもう大丈夫だよ。さっき先生も言ってたろ?もう命の危険はないって」
「うん・・・」
「でもヴィヴィオは今も危険な目にあってるかもしれない」
「うん・・・」
「ならどっちを優先すべきかは判るだろ?」
「でも・・・」
なのははそれでも決めかねているようだった。
俺は,なのはの背に手を回すと,俺の方に引き寄せた。
「ゲオルグくん!?」
「ヴィヴィオは俺達の大切な娘だろ。俺達の手で助けてやりたいじゃん。
でも俺はまだ動けない。だからなのは,お前に動いてほしいんだ」
「ゲオルグくん・・・。うん,わかった。私,やるよ」
なのはが意を決したようにそう言った。
「頼んだよ,なのは」
「うん。じゃあ,行くね」
俺はなのはに向かって頷いた。
なのはも俺に向かって頷き返すと,俺の病室を出て行った。
「やれやれ,手のかかるやつ・・・」
俺は一人ぼっちになった病室で一人ごちた。
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