クラディールに憑依しました
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自由の身になりました
それから二週間後、第三十三層迷宮区を発見した所で狩が終わり、俺は例によって女性陣のバスタイムによる拘束中である。
拘束中と言っても椅子に座って見張り役の話に適当な相槌を打って、紅茶をすすってるだけだがな。
そしてあの狩り以来、偶にだがサチの方からお泊りに来る事が増えた。今日も遊びに来ている。
見張り役をサチにさせる訳にも行かず、それに俺とサチを二人っきりにすると、サチが何をされるか判らないと言う事で必ず一人が同伴するのだが。
「あの、今日はサチさんと三人で一緒に入ってください」
「絶対駄目よ! こいつと二人っきりのなるのが、どんなに危険か解ってるでしょ!?」
「全力で人に指を指すな、そしてそう言う話は本人の居ない所でやれ!」
「でも、ちょっと二人で話すだけなんです、圏内ですし大丈夫ですよ」
「……――何かあったら必ず大声あげるのよ?」
「はい!」
こうして三人は一緒に風呂へ入り、俺の見張り番はシリカになった。
取り合えず、こう言う時の為に用意していた紅茶を出してシリカに勧める。
「…………アスナさんとリズさんには内緒なんですけど、第十層のボス戦を手伝ってくれたキリトさんが月夜の黒猫団に入ったんです」
「何でアスナとリズには内緒なんだ?」
「何度か血盟騎士団に誘われた事があるらしくて、ちょっと気まずいんだそうです、リズさんとアスナさんは親友ですから、教えちゃうと伝わると思って」
「アスナだってサチのギルドエンブレム見てるんだから、ボス攻略の時にバレるぞ?」
「そう言ったんですけど、暫く考え込んだ後でせめてボス攻略までは内緒にしてくれって」
「俺には良いんだ?」
「みなさんに装備あげたり色々してるじゃないですか――――キリトさんにも助けて貰ったんだし、ちゃんと伝えて置かないと」
「ふむ…………しかし、攻略組以外のギルドに入ってどうするつもりなんだ? レベルだって違い過ぎるだろ?」
「成り行きで助けたら、放って置けなくなって、レベルを伏せてギルドに入っちゃったそうです」
「面倒な事にならなきゃ良いがな」
「――――何かあるんですか?」
「調べてなかったのか? 黒の剣士キリト、βテスト時代に第八層まで到達した初代攻略組の一人だよ」
「キリトさんって、そんな凄い人だったんですか!?」
「当時はデスゲームって訳でもなかったしな、それに『だった』だよ。
デスゲーム化したSAOでは――――我が身可愛さで大勢の初心者を見殺しにした『ビーター』だ」
「キリトさんはそんな人じゃありません!!」
「――――はいはい、わかったよ。……キリトがビーターと呼ばれている理由についてだが。
キリトはβテスターの初代攻略組だからこそ、同じβテスターに狙われたんだよ」
「――――狙われた?」
「β時代に第八層まで到達したが、キリトはその間にラストアタックボーナスを多く獲得してた――――らしい」
「ラストアタックボーナスって、あれですよね? ボスに最後のトドメを刺した人が貰えるレアアイテムとか」
「そうβテスターはそのレアアイテムが、この世界でどれだけ価値があるか良く知っている」
「…………それじゃあ、βテスターの人達はみんなキリトさんの事を狙ってるんですか?」
「どうだろうな? まぁ、その内の一人はモンスターを使った殺人、MPKを狙ったが自滅したらしい。
そしてもう一人は噂を流した、β経験者のキリトはその知識と経験を独り占めして、
助けられる筈だった初心者を殺し、ラストアタックボーナスを狙ってる酷い奴だとな」
「――――その人は誰なんですか?」
「…………死んだよ、色々とキリトに嫌がらせをしたけど、どれも失敗した。
最後はボスにラストアタックボーナスを仕掛けて殺された――――今はその噂だけが残った」
「それなら、その噂を正せば良いじゃないですか!」
「これがそう言う訳にも行かないんだよ、βテスターはみんな酷い奴って認識を、キリトがビーターと名乗る事で新しい枠組みを二つ作ったんだ。
βテスターは初心者ばかりでSAOを理解出来てないグループと、情報や狩場を独占するチート集団の二種類に分けた。
だから、今更キリトが良い人だって誰かに伝えても、死んだ人間が帰って来る訳じゃない。
例え全ての悪い噂を正したとしても、次に出て来るのは、はじまりの街に居る初心者を養えとか全員に装備を整えろとか。
楽して生き延びたい連中の代わりに戦えってなるのがオチだな。」
「…………そんなの酷いです」
「まぁ、この状況をひっくり返す手段が一つだけある」
「――――それは何ですか!?」
「簡単な話さ、このデスゲームをクリアすれば良いだけだ。
そうすればこのゲームに囚われたプレイヤーは、金寄越せだの安全を提供しろだの言わなくなる」
「でも、それじゃあクリアするまではどうしたら良いんですか!?」
「クリアするか、クリアされるかは知らないが、攻略組に居る元βテスターはそれを隠し続けてクリアを待つしかないのさ。
そう言う訳で――――あいつは人目に付かない狩場とか、過疎ってる狩場を狙って薦めてるんじゃないか?」
「――――そう言えば、狩場を決める時はキリトさんが中心でした、ソロでやってるから良い狩場に心当たりがあるって」
「シリカから見れば攻略組の一人だし、月夜の黒猫団から見れば近いレベルなのにソロで切り抜けてきたキリトの意見だからな」
「こうして考えると…………言い方が悪いですけど、騙されてますよね、いい意味で」
「あぁ、そうそう、騙されてるで思い出した――――第二十七層の迷宮区に潜る話になったら連絡しろ、あそこは危険だ」
「絶対にソロで行ったり低レベルのPTで行くなって言ってた所ですよね? そんなに危険なんですか?」
「行けば解るが、あの迷宮区に潜るくらいなら、第二十八層の街周辺で狩をする方が安全だ、それを理解した時は死ぬ直前だろうがな」
「具体的にはどう危険なんですか?」
「びっくり箱程度だった罠が、熊が集団で生活している山に置き去りにされるとか、
人食いザメが集団で泳いでる海に叩き落されるとか、そう言うレベルだな。
シリカならレベル六十になったらソロで行っても良いぞ? ――――ピナが死ぬけど」
「絶対に行きませんッ!! 何ですか!? その凶悪な罠は!?」
「茅場的に考えて、そろそろ罠を酷くして行くって言う親切な警告なんだろ?」
「何処が親切なんですかッ!?」
「まぁ、話がそれたけど第二十七層の迷宮区に行く時は連絡を寄越せ、俺からは以上だ」
「…………わかりました」
シリカから視線を外して物思いに耽ってる――――振りをする。
するとシリカも自分のティーカップを見つめて、何か考え始めた。
シリカが紅茶を口に含んだ…………しかし何も起きない。
それは当然だ、此処は圏内でどんなBADステータスも無効化されるからな。
だからこそ、俺はある行動を起こした――――さり気無く立ち上がりシリカの背後に回る。
シリカは特に気にする事も無く、再び紅茶を口にした――――今だ!
「…………なぁ、シリカ? こいつを見てくれ、どう思う?」
「――――え? 何ですか?」
シリカがこちらを振り向いた瞬間、俺はメニューから決闘要請を行い、メニュー越しにシリカの右手を握り、素早くOKボタンと初撃決着を押した。
一瞬の事でシリカにはどんな操作が行われたのか理解できなかった筈だ。
「――――い、今何したんですか!? このカウントは何ですかッ!? デュエル!?」
「カウントがゼロになったら解るよ、嫌でもな」
「怖い顔で笑わないで下さいッ!? 何をするつもりですかッ!?」
カウントがゼロになり、シリカが麻痺毒で崩れ落ちた。
俺は素早くシリカのポーチから解毒結晶を抜き取った――――おー、ちゃんと複数詰め込んであるな。
「――――麻痺!? 嘘っ!? ――――此処は圏内なのに!? なんでッ!?」
「決闘を了承したんだ、圏内でもBADステータスを有効にする手段の一つだよ、第八層でお前が街の外に運び出された手口と似たような物だ」
「…………美味しい紅茶だと思ってました」
「リアル世界で有るかどうかは知らないけど、SAOじゃ麻薬系の麻痺毒だな」
「――――なんて物を飲ませてるんですかッ!?」
「お前さんも学生だからな、お友達から『美味しい紅茶があるの、ちょっと変わってるけど美味しいよ』とか、
『白じゃないけど法律じゃ禁止されて無いから灰色な感じ? セーフセーフ』とか言って、
真っ黒で違法な紅茶とかタバコとか幸せな気分になれる粉を勧められるだろうからさ」
「そんな人は友達じゃありません!! あたし絶対にタバコなんか吸いませんからッ!!」
「まぁ、それはともかく」
俺はシリカの倫理コードを解除、猿轡をしてメニューを開けないようにロープでグルグル巻きにしてベットに放置した。
「ムームー!」
「ん? 何するつもりかって? 決まってるだろ――――天使が三人も入浴してるんだ、覗きに行くしか無いだろ?」
「ムー!? ムームー!!」
「何? あたしよりも三人を選ぶんですかって?
そう言う台詞はボンっキュっボンになってから言おうな、キュっキュっキュっみゃー?」
「ムー!!」
「違うだと? まぁ、大人しく寝てろ、騒いだら気付かれちまうだろ?」
「とっくに気付いてますけどね? これはどう言う事かしら?」
いつの間にかバスルームのドアが開き、風呂上りのアスナが俺に細剣を向けていた。
リズがシリカを助け起こし猿轡とロープを解いて、サチはバスルームのドアからこちらを覗っている。
「ちょっとでもこいつを信用したあたしが馬鹿だったわ。
――――シリカ、負けを認めなさい、それで圏内コードが有効になって解毒できるから」
「ま、参りました……」
シリカが涙目になりながら負けを認めた事でデュエルが終了し、シリカが麻痺状態から正常に戻った。
「こ、これは、アスナ様――――そう、これは訓練、訓練なんです!」
「とりあえず死ね、話はそれから聞いてあげるわ」
それから約十二分間にわたりアスナのソードスキルで串刺しにされ、圏内ノックバックをたっぷり味わった。
この日を境に女性陣のバスタイムにお呼ばれする事も無くなり――――俺は遠出して深夜のソロ狩りが可能になった。
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