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クラディールに憑依しました

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ちょっと踏み込んでみました

 結論から言うと三人はシステム外スキルでの攻撃が上達した。
 SAOでの攻撃方法は大体二種類、ソードスキルを使うか自分で速く武器を振るかである。
 システム外スキルでの攻撃は、速ければ速いほど攻撃力も増すし、重い武器ほど破壊力も上がる。


「やっぱり攻撃が楽になりましたね」
「そうね、一撃で倒せる敵が一気に増えたわ」
「わたしも『正確さ』と『鋭さ』が上がった気がする」
「はいはい、気がする気がする――――オメーらのレベルが普通に上がっただけだから」


 サチと出会ってから一ヶ月、最前線は三十一層、来月にはシリカが原作のレベルを超えそうだ。
 第二十五層ではキバオウが予定通り死者を多数出して、はじまりの街に逃げ帰った。
 攻略組の約三分の一が死んだが――――知ってて殺すのは相変わらず気分が悪い。


「どうしたんですか?」
「いや、何でもない、作戦はいつも通り、前衛はアスナとリズで二人でスイッチ、シリカが後方支援、俺は待機してHP回復はスイッチで交代だ」
『了解』


 今日はリズが居るのでHP管理が楽だ、普段はアスナとシリカの三人だから、
 俺とアスナが前に立ちシリカがピナでHP管理をする狩り方をしている。

 バトルヒーリングスキルにピナのヒールブレス、俺達のPTは準備無しでボス部屋に突っ込むとか、
 かなりの無茶をしない限り負けることは無い、よって攻略組からは最前線を食い荒らす恐暴竜PTと呼ばれていた。
 まぁ、威力偵察と称したボス狩りを何度もやってりゃ、そう呼ばれても仕方ないよな。


「そういえば、月夜の黒猫団だっけ? あれって今どこら辺に居るんだ?」
「サチさん達ですか? 今は第八層だったと思いますよ?」
「八層? そんなもんか? あの装備が付けられるなら――――底上げで第十五層までは上れる筈だけどな?」
「レベルが足りないんですよ、もう一人盾持ちを増やした方が良いですよって、言ってはみたんですけど」
「あー、盾を持つよりも、お下がり装備のままで攻撃する方を選んだか」


 元々メイス使いのテツオが一人だけが盾持ちで前衛と呼べる存在だった。
 それ以外が盾を持って前衛に立つとなれば、お下がりの武器を別の武器――月夜の黒猫団の資金で買える武器と盾に変えなくてはいけない。

 シーフのダッカーは盾を持つ事でスピードが落ちて立ち回れなくなる。
 サチとササマルもお下がりの槍を手放して、特殊攻撃や攻撃力を捨てたくなかったんだろうな。
 団長のケイタもお下がりの棍を手放す気は無しと。


「結局は盾持ちが一人だけですから前線を支えきれなくて、HPが回復するまで逃げながら戦ってますね」
「だから一撃で敵を仕留められる第八層まで降りて狩をしてる訳か…………その内ノーマナー行為で新聞に晒されるぞ?」
「注意してくださいとは言ってるんですけど…………『まだ安全マージンの範囲内だから平気だ』って」

「そろそろあたしのHPを回復させたいんだけど?」
「了解、次のタイミングでスイッチだ」
「行くわよ――――スイッチ!」


 リズのソードスキルが敵を吹き飛ばし、俺がスイッチで入れ替わり追撃をかける。
 シリカはリズの回復を手伝ってたが…………やっぱり不安そうだな。

 それからアスナの回復も終えて、再びアスナとリズが前衛に回った。


「なぁ、シリカ? そんなに心配ならサチだけでも俺達の狩りに呼んだらどうだ?」
「…………良いんですか? レベルが違い過ぎて立ち回れ無いと思いますけど?」
「大丈夫だよ、『槍を捨てて盾を持ってろ』なんて言わないし、俺とシリカで護りながら戦えば良いさ」
「本当に良いんですか?」
「あぁ――――構わないよな? 二人とも?」


 前衛のアスナとリズに声を掛ける。


「ええ、わたしは大賛成よ」
「あんたも偶には良い事を言うじゃない」
「偶には? ――――奇跡的に、だろ? そこを間違って貰っちゃ困るな」
「普通は『偶には余計だ』って返す所でしょ!? 奇跡的って何よ!?」
「明日はフロア全体に槍の雨を降らすぜ」

「不吉な事言うなッ!? あんたが言うと実際に降りそうで怖いのよ!」
「期待して待っててくれ」
「誰が待つかッ! ――――もう……あたし達は大歓迎だから、今度お泊り会とでも言って誘ってきて」
「はい、ありがとうございます!」


 数日後――――と言いたい所だが、思い立ったがなんとやら、翌日にはシリカが月夜の黒猫団からサチを拉致っていた。

 押しに弱すぎるぞ、サチ。


 第十一層タフトにて。


「あの、今日はよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく――――レベルはいくつになったんだ?」
「えっと、二十三になりました」
「ふむ、んじゃ新しい麻痺槍を進呈しよう、二十五層までなら余裕だ、着けられる軽金属装備も更新だな」

「ええ!? あのッ…………これ以上装備を貰う訳には…………」
「良いって、倉庫で寝かして置くよりは、誰かに使って――――誰かを護れるなら、その方が良いだろ? 貰っとけ」
「…………はい…………ありがとうございます」


 メニューを操作してサチに新しい装備を渡す。


「それじゃあ、みんなの準備は良いかしら? わたしは何時でも行けるわ」
「問題無しよ」
「大丈夫です」
「――――よし、行きましょうか……今日はどうやって狩るの?」

「最近考えるの放棄してねーかお前? 全部丸投げされてる気がするんだが?」
「そんな訳無いでしょ、あなたの判断力を試してるのよ」
「本当かねぇ? まぁ、前衛はアスナとリズの二人でスイッチ、シリカは二人の後ろからHP管理、その後ろにサチと俺だ。
 アスナとリズはHPが減ったら俺のポジションと交代、回復しながらサチと協力して周囲を警戒してくれ」

「あの、私は前に出なくて良いんですか?」
「サチは弱った敵に攻撃してくれ、麻痺させられたら儲け物ぐらいの対応で良いよ」
「でも…………いつもは私がモンスターを麻痺させて、それからみんなで攻撃してるから…………」


 ――――槍のみのサチを前に立たせてるのか、それも弱らせた所を麻痺じゃなくて、麻痺させてから攻撃ねぇ。

 ん? 急にサチがガクガクと震え始めた?


「出しちゃいけないモノが出てますよ?」
「――――おぉ、すまんすまん――サチ、このパーティーでは安全第一だ、スイッチの時だけザックリ刺しとけ」
「…………でも」
「サチ、先ずは俺の言うとおりにやって見て、そこから配置を変えよう、
 狩場も変わるし敵の行動パターンも変わってる、だから最初は後ろからどんな役割があるか見て欲しいんだ」

「無理なんかしなくて良いのよ? こいつが欲しがってるレアドロップを探す為に第十四層の敵を狩るんだから」
「今サチが着けてる装備なら楽勝だし、もっと気楽に行こうぜ、俺達は命を預け合う仲間なんだからな」
「――――はい」


 やっと緊張が解けて微笑んだサチの頭に軽く左手を置いた――――がんばろうな。


「…………あの、ちょっと恥ずかしいです、私、もう高校生で…………えと」
「あぁ、サチさん泣かせてます!!」


 ――――――――何が引き金だったのだろうか? サチがポロポロと涙を流していた。


「ちょっと、大丈夫!? あんた、何やったのよ!?」
「悪い、どこか痛かったか!? ――――いや、圏内でそんなBADステータスは発生しない筈!?」
「大丈夫です、ごめんなさい、急に泣いたりして――――目に埃が入っただけですから」


 だから、圏内でそんなBADステータスは発生しないっての。
 暫くサチ以外の女性陣から疑いの眼差しで見られたが、サチが何とか纏め上げて狩りに出発。

 第十四層のモンスターが俺達のパーティーに敵う筈も無く、装備を変えたサチも問題なくレベルが上がった。
 日が暮れた所で狩りを終えて、第十一層タフトへ戻ると月夜の黒猫団メンバーがサチの帰りを出迎えていた。


「サチ!? その装備はもしかして!?」
「…………あはは、貰っちゃった」
「うおーッ!? また借金か!? ギルドホームが、マイホームが遠のくぅ!?」

「前にも言ったが金など要らないと言ってあるだろう――――気にせずギルドホームを買うと良い」
「そう言う訳にも行かないんですよ、今回のサチの装備もちゃんと代金支払いますから!」
「君達の装備も上位版を持って来てある、持って行くと良い」


 メニューを操作してそれぞれ装備を表示する。


「うわー!? 金が、金が消えて行く――――でもこんなレア装備、俺達が何ヶ月かかっても手に入りそうに無い…………どうしたら良いんだッ!?」
「ならば前の装備を売り払って金に買えれば良いだろう?」

「――――でもこれには思い出が、俺達の血と汗と涙の結晶が――――売る訳には行きません!」
「クローゼット収納にも限界がある、マイホーム、急いだ方が良いぞ?」
「解ってます、解ってますけど…………金が……」

「金も融資して欲しいのか?」
「――いえ、要りません!! さぁ、サチ帰るぞッ!! 今日はありがとうございました!!」
「みんな、またね」
「はい、サチさんもみなさんと頑張ってください!」


 サチが手を振り、ケイタ達は新しい装備をメニューに取り込んで去って行った。


「…………あんた、ちょっとは加減しなさいよ」
「んー? 何を言ってるのか全然解らんなー?」
「サチの扱いが気に入らないんだったら、直接言えば良いじゃない」

「バレバレか――――それはまたの機会にするよ…………今回ので変わると良いんだけどな」
「今の彼等だと、あなたが言いたい事は伝わらないと思うわ」
「やっぱアスナもそう思うか」

「ええ、このSAOで夢や希望を持ち続けて戦えるのは良い事だとは思うけど、彼等には、
 ――――月夜の黒猫団にはまだ覚悟が足りないわ」
「まぁ、それがあいつ等の良い所でもあるんだろうな」
「またサチさん誘いましょうね」
「あぁ、また今度な」


 それから最前線に戻り――――俺は相変わらず部屋に軟禁され遠出の狩りが難しくなっていた。
 早く何とかしないとアスナ達にレベルが追いつかれてしまうな――――さて、どうするべきか。 
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