クラディールに憑依しました
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団欒してみました
第二十三層、宿泊施設にて。
第十層をクリアしてから、アスナ、シリカ、リズの三人は大部屋で宿泊するようになった。
こいつ等のお目当ては大きなバスルームである、三人で借りればそれなりに安くつくようだ。
そして俺は三人と狩りに出た後は必ず部屋に呼ばれるようになり、今後の予定だとか狩りの反省だとか作戦だとか。
兎に角理由を付けられて、三人がベッドに入るまでの間は部屋から出られない状態が続いていた。
「さぁ、説明して貰いましょうか? あなた何であんな事したの?」
「ん? 装備の件か?」
「そうよ、お金までとって…………あのギルドの為にならないわよ?」
「別に? 単なる気まぐれだよ、気にするな」
「セ・ツ・メ・イして貰いましょうか?」
「…………はぁ、お前さんあのギルド見てどう思ったよ?」
「仲の良さそうなギルドだったわね…………攻略組とは大違いだったけど」
「そうだな、だから死んで欲しくなかっただけだよ、本当にそれだけさ」
「………………まだ何か隠してるみたいだけど、まぁいいわ…………今日はわたしが先にお風呂入るわね」
アスナがバスルームへに入った、この宿は部屋の隣にバスルームがあって、ドア一枚向こうは――――まぁ、そう言うことだ。
「今度サチさんのギルドの人達と狩に行くのが楽しみです」
「あぁ、レベルは低いだろうが楽しんで来い、色々教えてやれ」
「レベルが低いなんて言ったら失礼ですよ…………はじまりの街から出るのはとても勇気が要るんですから」
「…………なら、それなら解るだろ? サチははじまりの街から出たくなかったって事くらい?」
「……――――そうですね、サチさんははじまりの街から出た人達が持っている……心の強さと言うか、そう言う気持ちがあまり有りませんでした。
…………たぶん、あのギルドの人達に置いて行かれるのが怖くて、それではじまりの街から出たんだと思います」
「……そこまで解ってりゃ、上出来だ…………暫くの間、サチを頼んだぞ?」
「はい、がんばります!」
シリカがメニューを広げて今日の成果や装備のチェックを始める。
暫く沈黙が続いていたが、同じくメニューを操作してたリズから質問が飛んできた。
「でもさ、あんたあんなに大量の装備あげちゃって本当に良かったの?」
「言ったろ、死んで欲しく無いって――――倉庫で装備を寝かして置くよりマシだろ、これからも必要なら提供していくつもりだぞ?」
「何? 鍛冶屋の仕事を横取りする気?」
「オメーが今作れる装備より遥かに下だよ、中級プレイヤーがお前の武器防具なんて買える訳ねーだろ」
「注文と材料があればどんな装備でも作って見せるわよ、中級プレイヤーでもそれは変わらないわ」
「あんまり安く強い武器を流通させると価格崩壊起こすから止めろよ? 『気に入った奴にしか武器は作りません』とか言って誤魔化しとけ」
「どこかで聞いた台詞ね?」
「そりゃそうだろ? 鍛冶スキルの高いプレイヤーは色々理由を付けて崩落回避してるからな?」
「そんなんじゃ商売にならないでしょ?」
「あくまでも値崩れ起こさない程度だよ、自称鍛冶師からクレーム付けられて営業妨害とかされるぞ?」
「…………そう言えば商業ギルドから似たような事を言われてたわ、そう言う奴に注意しろって」
「お風呂上がったよー」
「了解、シリカ。一緒に入っちゃいましょ」
「はい」
アスナと入れ替わりに、シリカとリズがバスルームへと消えて行く。
「ふー、すっきりしたー」
「そろそろ席を外そうか?」
「え? 大丈夫よ? そこに居てくれないかしら?」
「何時も思うんだが…………俺ってお前らのリラックスタイムを思いっきり邪魔してないか?」
「そうでもないわよ? むしろ居てくれないとリラックスできないから?」
「――――それってもしかして、俺が覗きをするとでも思ってるのか? それで毎回此処に固定されてるのか?」
「大正解、良く判ったわね?」
「毎回お前らの風呂につき合わされたら嫌でも気付く、狩りに行かせてくれよ」
「あなた隠蔽スキル高いから、目の届く範囲に居て貰わないと落ち着けないのよね」
「隠蔽スキルが高いのは、俺に限った話じゃないと思うんだがな?」
「お風呂に入る度にパーティーやフレンドリストから抜いたりするの手間だから」
「ドアの設定変えろよ、俺が外に出れば良いだけの話じゃないか」
「あなたの隠蔽スキルなら、わたし達の影に隠れて開けたドアから一緒に入るくらい軽くこなしそうだし?」
「…………やろうと思えば可能かもな? ドアの近くに遮蔽物を置いてその陰で待機、ドアが開いた瞬間に中へ入るっての」
「でしょ? 可能性はゼロじゃないのよ、あなたにそのつもりが無かったとしても、この短時間で作戦を組み立てられるし、心配なのよ」
「信頼されてるんだかされて無いんだか」
「信頼はしてるわよ? 信用はして無いけど?」
「それを信頼してると言わねーよ」
信頼と信用はほぼ同じ意味だが、使われ方は様々だ。
例えば、彼の人柄は信頼できるが、運動神経は普通なのでリレーのアンカーには出来ない。
対して、彼の人柄は信頼できないが、運動神経が抜群なのでリレーのアンカーに抜擢した。
とまぁ、アスナに言わせれば俺の人格は信頼してるが、覗きに関しては信用できないと言っているのだ。
男を相手にその認識は間違いでは無いと思うのだが……アスナの周りに集まる男ってアレだからなー。
きっと須郷が中学三年生のアスナか、もしくはそれ以前に会っていて――親の目を盗んで色々やったんだろうなー。
「…………そう言えば、聞きたい事があったんだけど?」
「んー? なんだ?」
「あなた偶にだけど、変わった踏み込み方するわよね? あれって何の技術?」
「変わった踏み込み方?」
「ほら、入団試験でわたしから一本取った時のあれよ、アレだけ早いのにソードスキルじゃなかったでしょ?」
「あー、あれか、アレは剣道の踏み込みだよ、特別な事をして――――いるのか?」
「わたしに聞かないでよ……ふーん、剣道かぁ…………それで何処かで見た事あるような踏み込みなんだ――――やってたの?」
「いや、適当にかじった程度だ、試合とかしたら子供相手にボコボコにされるな」
「その言い方だと、わたしが子供以下じゃない」
「あの踏み込みは完全に修得できてない、ソードスキルの硬直とか、相手が完全に無防備の時しかやらねーよ」
「そんなに難しいの?」
「リアル世界で同じ事するとアキレス腱を痛めるな、下手すれば断裂して入院コースだな」
「滅茶苦茶危ないじゃない!?」
「あぶねーんだよ、まぁ、右足を上げて踏み込む瞬間、右足からの重心移動を利用して左足に加重する。
後は左足の脚力で加重を押し返して踏み込み速度を増加させてるんだが、意識すると身体の中心軸が左右にズレて無駄な動きが増えるんだよな」
「スキップみたいな感じかしら?」
「左足の限定の運動ならそれで合ってるな、重要なのは右足で踏み込みながらそれが出来るかどうかだ、一瞬でやらなきゃならんし。
結局は個人個人の感覚の問題だからなー、後はスケートのスピンを意識すると中心軸を理解できて、左右の無駄な動きを減らせて加速を可能にしたって話もある」
「スピンねぇ?」
アスナが呟きながら肩や腰を左右に捻り始めた――――薄着でそれは目に毒だから止めてくれないかな?
身体を振る事に集中し始めたアスナを視界の端に追いやって無視した後、暫く壁を見ながらボーっとしていたのだが。
「アスナ? 何やってるの?」
「え? あぁこれ? ちょっと気になる話を聞いたから練習してみようと思って」
「剣道の踏み込み――――もどきだな、リアルの世界でやったらアキレス腱を痛めるから、指導者が居ない所で練習しないように」
「あんた指導者なの?」
「いや? ド素人だが? ハッキリ言って怪我するぞ? 軽く齧っただけでマジでヤバイから」
「じゃあ何でアスナに教えてるの?」
「入団試験の時に決めた最後の踏み込みが気になってたらしくてな、それでこうなった訳だ」
「あー、アレかー…………確かにアレは速かったわね」
「アレってどうやるんですか?」
「リアル世界で絶対にやらないって約束出来るなら教えるけど?」
「やらないわよ、歩けなくなるの嫌だし――――それに、リアル世界に戻ったら戻ったでリハビリ大変そうだしねー」
「まぁ、ベッドの上で眠りっ放しだしな、リハビリに何ヶ月かかる事やら…………」
「あの……約束しますから教えてください」
「あー、悪かった、今教えるから」
それから理論にもなっていない、適当な説明で超適当に教えたのだが、
それぞれ自分の物にしようと、薄着のままで飛んだり跳ねたりと部屋の中がカオス状態に。
終いには俺がそれぞれの踏み込みフォームを手取り足取りチェックする羽目になった。
「何度も言うが、学生の時に齧った程度の技術だからな? 本職に鼻で笑われるから人の居る所で使うなよ?」
「はいはい、解ってるわよ、あんたの踏み込みをチョット真似してるだけじゃない、あんまり煩く言わないでよ」
「あ、ちょっと速くなった気がします!」
「そら絶対嘘だ!」
こんなド素人の思い付きアスナ達の動きが更に速くなったかどうかは――――想像にお任せする。
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