クラディールに憑依しました
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黒猫を拾いました
第十層突破から約二ヶ月、最前線は第二十三層まで到達していた。
今が三月だから原作よりも十日前後早い筈だ――――何故かは聞くな…………一応俺のせいなのだが。
ちなみに某情報によると、原作では二月で第二十五層を突破した事になってるが、
俺はあの情報はおかしいと断言出来る――――いや、断言したい。
第一層をクリアした日が二十二年十二月三日、それから十日後の十二月十三日に第二層をクリア。
それから第二十八層をクリアしたと新聞で広まったのは二十三年の五月九日。
つまり、百四十六日間で二十六層――――大体五日ちょいでクリアしてきた事になる。
だが、二月で第二十五層をクリアしていたと言う情報を真に受けると、
例え二十三年二月二十八日に第二十五層クリアしたとしても、第二層から七十七日間。
――――つまり一層あたり三日でクリアしている計算になる。
そして第二十五層から第二十八層まで掛かった時間は約七十日になり、一層あたりのクリアに二十三日も掛かった事になる。
キリトと月夜の黒猫団が遭遇したのは四月、その時点でキリトのレベルは四十だった。
キリトの安全マージンは階層に対して通常レベル十追加する所をレベル二十にしている。
これはソロで生き残るにはレベル十プラスした程度では生き残れないからだ。
仮に二十五層を二月で突破していたとなると、その時キリトのレベルは一体いくつだったのか? って話になる。
だから断言出来る、第二十五層を突破したのは二月ではなく四月だ――恐らく誤植だな。
まぁ、他にも色々と言いたい事はあるが、そんな事より今日は装備強化に必要なレア素材を集める為、第十一層まで降りて来ていた。
「リズさん遅いですね」
「鍛冶屋がPTに居なきゃ出ないかもしれないレア素材なのに、リズが遅れてちゃ意味が無いな」
「お得意さんに武器を渡してくるって言ってたから、もう直ぐ来る筈なんだけど」
この場に居るのは、アスナ、シリカ、そして俺、今は転移門から見えるカフェテリアぽい店で待ち合わせ中だ。
時間は既に昼過ぎ、待ち合わせの時間はまだだが――――身体を動かしていないのは退屈で仕方が無い。
「あ、あの人――――女性プレイヤーですよ」
シリカの声に視線を辿ると――――そのテーブルにはギルド月夜の黒猫団の紅一点、サチが居た。
今日はギルドメンバーと一緒じゃないのか? 休憩中か? それとも…………俺が色々思考していると。
「ちょっとお話をしてきますね」
「あ、ちょっと、シリカちゃん――――わたしも行くから」
あっと言う間にアスナとシリカに囲まれて、サチは戸惑い気味だ。
そう言えば、第十一層タフトは月夜の黒猫団のホームだったな。
「――――あれ? あんた一人? アスナとシリカは?」
「社長出勤ご苦労さん、ほれ、あそこで花咲かせてるよ」
「誰が社長かッ! ――――あたしも行って来るわ」
リズも輪に加わって、暫く話に花を咲かせてると――――俺の所にPT要請が来た。
OKボタンを選択するとPTにはサチが居た。
「…………俺が混ざって良かったの? 女の子だけで行った方が良かったんじゃ?」
「この子、槍使いなのよ――――壁が足りないわ、いつもどおり、リズとあなたで壁をして」
「へいへい、よろしく――――サチさん?」
「は――――はい、よろしおねがいします…………」
「いじめちゃ駄目ですよ?」
「…………圏内で悪戯できる訳無いだろ」
「圏外でも駄目ですッ!!」
「わかったよ…………それじゃあ、サチさん――――これ装備して」
メニューから適当な武器防具を出してサチに渡す。
「……あの、どれも立派な装備なんですけど…………」
「あげるよ、十一層の敵は攻撃力が弱いからそれ着てれば充分だよ、槍は麻痺槍だから攻撃力関係ないから、ドンドン麻痺させてくれ」
「あんたが槍なんて使ってる所、見たこと無いんだけど? …………それにレアっぽいんだけど、何この槍?」
「ん? 大体十五層までのモンスターなら軽く麻痺できるぞ? 麻痺率二十六パーセントだった筈?」
「高っ!? 何よそのチート武器!?」
「あたしが貰った麻痺短剣より高いですね」
「手に入るのが十七層でな、最前線じゃ使い道が全く無いんだ――――貰ってくれると助かるな」
「あ、はい…………ありがたく使わせて貰います」
それから狩りに出て、サチはずっと後ろに隠れてたが、偶には槍の威力を試して見ろとリズの後ろから弱ったモンスターに攻撃させたりした。
弱っていたモンスターは直ぐに麻痺状態になり、リズのメイスがトドメを刺す。
シリカの方は逃げ回りながら足の速いモンスターに追いつかれそうになると、麻痺短剣で斬りつけてまた逃げる。
麻痺で足の止まったモンスターをアスナが串刺しにしたり、俺がトドメを刺す。
そうやって一応は順調に進み、日が沈んで来た頃だった。
「今日はそろそろ上がろっか、お目当てのレア素材も充分手に入った事だし、言う事無しよ」
「そうだね、わたし達がこれ以上下層に居たらノーマナープレイヤーとして扱われて、みんなに迷惑が掛かっちゃうしね」
「みなさん強いんですね…………凄かったです」
「――――あー、俺の事を気にしてるなら御構い無く、硬い言葉遣い何てこっちが遠慮しちまう、無礼講無礼講、適当にな」
「そうですよ。サチさんはもうお友達なんですから、もっと気楽に楽しくお話しましょう?」
「常に敬語のお前に言われてもな」
「あたしは年上の人に対する礼儀と感謝と尊敬を込めてこの話し方なんです」
「――――それを敬語と言うのだがな?」
「もう、あたしの事より今はサチさんの話です!」
「…………あの、私はこれでも楽に話してるつもりなんだけど…………硬い、かな?」
「そんな事無いよ、楽な話し方で良いから、その方がわたし達も嬉しいし、気にしないで?」
「こいつは居ない物として扱っても、あたし達は全然構わないから」
あの日以来、俺の扱いがかなり雑なのだが…………まぁ、今更仕方ないか。
帰り道は女子四人で話しに花が咲き、PTを解散する時に全員でサチとフレンド登録を済ませた。
街に戻ると転移門広場に一つのグループが待っていた――――サチのギルドメンバー、月夜の黒猫団だ。
「おーい、サチー!!」
「うわ、本当に閃光のアスナさんだ」
「すげー」
「サチ、皆さんに迷惑掛けなかったか?」
上からシーフスタイルで短剣使いダッカー、メイス使いで月夜の黒猫団唯一の前衛テツオ、もう一人の槍使いササマル。
そして最後はギルド団長の棍使いのケイタ、コイツ等には言いたい事が山ほど有るが、今はその時じゃない。
「なによ、何時も迷惑掛けてるみたいに言わないでよ」
「サチさん大活躍でしたよ、今日で三つもレベルが上がったんです」
「三つ!? マジで!?」
「おいおい、サチが俺達の中で最強になっちまったぞ!? どーするリーダー?」
「どうもしないよ――――サチの装備が変わってるみたいですけど?」
「私が提供したのです。アスナ様のパーティーに入られるのならば、せめてこれくらいの装備はしていただかないと」
急に俺の喋り方が変わった事でサチがビックリしてるが、目配りをすると頷いてくれた。
「…………ありがとうございます、あの、これって全部でいくらくらいですか?」
「全てはアスナ様の為――――金など不要、君達もその様な装備では心許無いだろう、持って行くと良い」
メニューから低レベルでも装備できそうな武器防具を選んで、ギルドメンバーに得意武器を聞きながら渡していく。
「……あの、流石に貰い過ぎだと思うんですけど、こんなに頂く訳には…………」
「既に最前線では使えない装備ばかりだ、アスナ様のご友人となったのだ、生き残って貰わねばこちらが困る」
「いや、しかしですね…………」
「ごめんなさい、今回は貰ってくれるかしら? …………この人には後でキツク言って置くから」
俺の意図を察したのかアスナが助け舟を出した。
「え、あの、アスナさんが言うんでしたら、ありがたく」
「おー、やったッ!! やりぃ!! こんな強力な装備貰えるなんてラッキー!」
「騒ぐなよ、…………せめてお金だけでも払いますから」
「いや、結構だ――――その代わりこちらの要請に応えて貰おう」
「…………一体何をすれば良いんですか?」
「ウチのシリカを君達のパーティーに混ぜて貰おう、情報交換やレアアイテムの買取など、互いの有益になる事は色々ある」
「情報交換って言っても、攻略組の人達に渡せる様な情報なんて…………」
「攻略組はその名のとおり、次の階層を目指して活動している為、細かいクエストやレアアイテムを探す時間がない。
情報屋を間に挟んだりすると、時間と引き換えに高い金額を要求されるのだ、君達が協力してくれるとありがたい」
「それじゃあ俺達はクエストを探したり、レアアイテムを見つけたら報告すれば良いんですね?」
「そのとおりだ…………こちらもシリカを預けられるパーティーを探していてね、サチ君も居る君達のギルドなら信頼できそうだ」
「あの、その――――ありがとうございます…………でも、装備のお金は必ず払います、直ぐには無理ですけど、必ず」
「…………わかった、使い道の無い装備だった物だ、そちらの都合の良い時にでも払ってくれ」
「――はい」
こうして、月夜の黒猫団にシリカを預ける契約が成立した。
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