リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第十四楽章「夢をあきらめない様、言葉を贈る」
(グランバニア:芸術高等学校内第3自習室)
アイリーンSIDE
「さて、MSVの説明は概ね理解してくれただろ? コレを使って卒業生等の写真を撮って、大きなパネルにして卒業式に彩りを加えるんだ」
「写真?」
思わず陛下の言葉に反応し、話の腰を折ってしまった。
「ん……あぁ! 『“写”す“真”実』で写真」
「写す真実……写真……綺麗な言葉」
この場に居た誰かが……多分ピエがポツリと呟く。
ヤバい。
感動して泣きそうだ!
こんな綺麗な言葉を……流石陛下だ!
「あ、あの社長……こうなると俺等は不要じゃないですか? こんだけ完璧な写真があるのだから、画家(志望)の俺等が描く意味なんて……」
そうね……ラッセルの言い分は尤もかもしれないわね。
「違うなラッセン」
違うの?
そう言えば何でラッセンって呼ばれてるの?
「写真は……そうだな、写す時の角度やパースなどに気を付けて作品に思いを乗せる事はあるだろうが、それでも見たモノをそのまま描き出してるだけだ。だけどお前等の描く絵画には、目に見えたそのモノより変更……強調したりや逆に存在感を消したり等の技法を用いて、書き上げたモノに思いを乗せている。思いの乗せ方が異なるのだから、それぞれが作品として成り立っている。描かれる側はどちらも嬉しいと思うよ」
何となくだが陛下の言いたい事は解る……つもり。
チラリとラッセルの顔を見ると、瞳を輝かせて頷いている。
かなり心に響いたのだろう。
「よし! じゃぁ卒業式を目で楽しませる方面は、これで進められる様になったよね。今度は僕の本領発揮……耳で楽しませる分野だ!」
待っっっってました!! 私の得意分野もそちらですわ陛下ぁ!
「一応ね、2曲持って来たんだ。最終的にはこの場に居る全員に選んで貰おうと思って」
そう言って陛下は、肩から提げてた鞄から封筒を2通取り出し、更に中から楽譜を出す。
それぞれを皆に配り渡すと、この部屋奥に設置してあるグランドピアノへと歩み出した。
陛下の後に付いて移動しながら、私は各楽曲ごとに纏められてる譜面を見て胸の高鳴りが止まらない!
この部屋のピアノに到着した陛下は、華麗な動作で椅子に座り何音かピアノの調教を確認すると「じゃぁ1曲目……『贈る言葉』ね」と言って奏で始めた。
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素晴らしが過ぎる! 音楽専攻者じゃない者は譜面の下に音符に従って書かれた歌詞を読んで、その素晴らしさを噛みしめている。
1曲目を終え素晴らしさに拍手をしようとしたら、陛下はそれを左手で制し、「続けて2曲目『夢をあきらめないで』だ」と引き続き奏で出す。
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……もう、涙腺が崩壊しっぱなしだ。
まだ卒業式本番じゃないのに、曲だけで泣ける。
今年の卒業式は脱水症状者が続出するだろう……間違いなく!
当日ハンカチを販売したら一財産儲けられるかもしれないわ。
「ふふふっ、感動してくれたなら幸いだね」
皆が感涙に咽び泣く中、優しく笑うと立ち上がり一番近くに居たリューナ嬢の頭を撫でてピアノから離れる。
あの場所に立ってれば良かった……
「さぁ、曲は渡したよ。如何使うかは君たちに任せるし、アレンジだってして構わない。2曲あるんだし、魔技高校・芸高校どちらかに振り分けて披露するのもアリだし、双方の卒業式で両曲とも披露するもアリ。どちらか片方はお蔵入りだって構わないからね」
「絶っっっっ対にヤダ! お蔵入りだけは絶対にさせない!」
「そうねアイリの意見に私も賛成よ。少なくとも芸高校は2曲とも使用する!」
私の我が儘の様な発言にピエが賛同。画家(志望)連中も首を縦に振って同意の意思。
「何言ってるの? 魔技高校は芸高校の卒業式とは多少異ならせるつもりなのだから、両校共に2曲使用するとなれば作業量は倍よ! 泣き言は言わないでよ皆」
陛下に頭を撫でられデレッとしてた表情とは打って変わって、凛とした顔で皆を見渡すリューナ嬢。
「とは言え……だよ、俺等もMSVで両校の卒業生を写しまくる作業があるわけだし、芸高校の美術専攻者だって絵を描く作業が大量に発生するから、2曲も歌える様に……少なくとも人前で歌える様になる練習をする時間は少ないと思うんだ」
「……ボセック先輩の言い分は最もですわね。私などは授業の他にも王家から依頼されてる新製品の開発作業もありますし……音楽の素人が2曲も歌い熟せる様になるには、些か時間が無さ過ぎます。でも2曲とも使いたいですし……」
「何もこの場に居る全員で歌えなくってもいいんじゃない?」
「……と、申されますと?」
音楽以外の分野担当達を代表してリューナ嬢が発言。
その言葉に対してお父様が軽い口調で状況打破の助言!
「つまりさ……両方の卒業式本番で音楽を披露するのはピエッサちゃんとアイリーンちゃんだけで、他は絵を描いたり写真を撮ったりその両方の飾り付けをしたりすれば良いんじゃないかなぁ? 知らんけど」
「そうですわね。本年度から卒業式は各校日にちをずらして行われるわけですから、音楽専攻者のお二人には残りの8ヶ月間を使って2曲を完璧にしてもらい、各々の卒業式で披露して頂く形にしましょう」
なるほど……歌うのは私とピエで、他は飾り付け係ね。
「それなら演奏する順番は変えたいわね。飾る絵や写真の構成も違ってくるでしょうし」
「でもピエッサちゃん。私達が描く絵はまだ決まってないのよ? 今この場で卒業式の構成を考えるのは無理くね?」
年下なのに“先輩”と付けないキャバ嬢……らしいと言えば彼女らしい。
「それじゃぁ私達は陛k……社長が作ってくれた曲のイメージに沿った絵や写真を作って、構成は卒業式の間近で良いんじゃないかしら?」
「そうだね。ピクトルさんの進め方だ妥当だと思うよ俺は。 皆は?」
アントン・ボセックが“陛下”と言いかけたピクトルさんのフォローで纏める。気があるのかな?
「うん、決まりね。それじゃぁ進捗状況とか、変更事項とかがあるかもしれないから、毎月の初めの土曜日に集合しましょ」
「了解」「は~い」「そうしましょう」
この集まりの責任者であるピエが活動方向を定め纏める。
少し離れた位置では陛下が優しく見守ってくれている。
何この幸せな時間!?
「つ、月一の会合場所は、この部屋で大丈夫でしょうか?」
「ロッテンマイヤー先輩の言う通りですね。ピエッサさん、この部屋の確保をお願いしても大丈夫でしょうか?」
「任せてリューナちゃん、ヴィヴィアンちゃん! 芸高校の学長の姪として……そしてその学長から責任者を押しつけられた者として、この第3自習室確保はしっかりとしときます」
おぉ、珍しくピエが自信を持って引き受けたわ。身内には強く言えるのだろう。
「よし、じゃぁ今日の所は纏まったね」
「「「はい」」」
陛下の言葉に、私を含め全員で返事をした。
なんか青春してるみたいで好き。
「この後、皆予定が無ければ僕の行き付けの肉ジャガ屋で、ご飯を奢るよ」
「よ、宜しいんですか?」
うわぁ~絶対行くぅ~!
「宜しいんですよピクトルちゃん。その店の店主は、元城のシェフでね……店の現オーナーとも知り合いだから、其奴へのツケで食べられる」
「あら、では遠慮の必要無く食べれますね(笑)」
リューナ嬢もご機嫌だ!
「あの店は若い夫婦で営んでるんだけど、奥さんの作るナスの天ぷらも美味しいんだよ」
夫婦で営んでるなんて素敵ね。
となると、下手に遠慮するのは陛下に失礼よね。
沢山堪能する事にしましょう!
アイリーンSIDE END
後書き
今更ですが、
「贈る言葉」は海援隊さんの名曲です。
「夢をあきらめないで」は岡村孝子さんの名曲です。
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