リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第十三楽章「攻撃魔法の方が優しい場合もある」
(グランバニア:芸術高等学校内第3自習室)
アイリーンSIDE
「ベホイミ……ベホイミ」
「ほれ、2回もベホイミしてやれば、痛いのどっかに消えちゃったろ?」
「あ……あぁ……」
陛下の連撃で多少の怪我(ナルシスト野郎の鼻が折れる)を、娘さんの回復魔法で治療してやり、ホッと一息(当人的には)吐いた状態。
だが見た感じ……何だか違和感を感じる?
何かがおかしいのだけども、この男に興味がなさ過ぎて分からないわ。
「ほら、このハンカチあげるから、血を拭き取れよ」
え!? 陛下のハンカチいいな……と思ってると、その有り難みを知らないアホ男は無遠慮に汚い鼻血を拭う。
「……!? お、おい……何だよコレ? 如何なってんだよ!!??」
何かに気付いたアホ男は頻りに自分の顔を触っている。
血はまだ拭いきれてないが、何か違和感も拭いきれない。
「は、鼻が……俺の鼻が!!」
ん……鼻?
「あ……鼻が曲がったままだわ!」
ピクトルさんの言葉に、アホ男の鼻が折れ曲がったままな事に気付いた。
「あ~あ、ダメだよリューナちゃ~ん。骨折したままベホイミしたら、骨はそのまま固まっちゃうよぉ~(笑)」
え、そうなの!? へぇ~、勉強になるぅ。
流石陛下!
「あ~らごめんあそばせ。まだ魔法を勉強中の身でして、その様な効果効能があるなんて露程も知らなかったわぁ。まぁあまり問題無いですわよね、その程度の面なら(笑顔)」
絶対嘘だ(笑)
急に機嫌が直ったのは、絶対に知っていたからだと確信する。
「ふ、ふざけんなよ馬鹿女! 俺の鼻を「ゴチャゴチャうるせーぞ!」ふがぁっ!」
アホ男がリューナ嬢に掴み掛かろうとした瞬間、ドスの利いた声で陛下がヤツの曲がった鼻を摘まみ上げる。凄く痛そうで笑える(笑)
「い、痛ででででっ! は、離せ……手を離せ!!」
「黙れ。鼻が曲がってる事が気に入らないんだろ? 今、直してやるよ」
そう言うと陛下は、アホ男の鼻を摘まみ持ち上げながら手に力を入れた。
(ゴキャッ!)
何とも形容できない鈍い音が鳴り響いたと思ったら「ベホマ」と陛下の綺麗な声が響き渡る。
「ぐはぁぁぁぁ!!」
アホ男は痛そうに顔を押さえ蹲る。
「もう痛くねーだろ、大袈裟な」
うん。今は“ベホマ”という回復魔法を唱えてくれたから痛くないだろうけど、先刻の鈍い音の瞬間は激痛だったのだろう。
「うるはい……?」
アホ男は勢いよく顔を上げて文句を言ってるが、何故だか鼻が詰まってる様な声になっている……もしかして?
「あで? 如何まってるんだ!?」
「こうなっているよ(笑顔)」
陛下は満面の笑みでポケットから手鏡を取り出し、アホ男の顔を本人に見せてあげてる。
「な、何だこれは!?」
手鏡を見せられたアホ男の鼻は、先程の様に折れ曲がってはおらず、真っ直ぐ前方に伸びている……以前よりも!
「曲がってるのが嫌そうだったから、伸ばしてやったんだよ! ゴチャゴチャ言うんなら、また曲げてやろうか……あ゛ぁ゛?」
ドスの利いた声を出す陛下は、顔では笑っていても目が凄く怖い……でも、それがまた素敵♥
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
ゴム製の鼻を引っ張った様な顔になったアホ男は、陛下の手が迫ってきたのを見て慌てふためきながら逃げ出した。
「私は社長ほど回復魔法の恐ろしい使い方をする人を見た事がありません。知り合いに馬鹿みたいな魔法力で巨大クレーターを作り上げる馬鹿女を存じておりますが、其奴のイオナズンよりも恐ろしいですわ」
そんな女が居るのか!?
「アイツも才能はあるんだけど努力をしないからなぁ……魔法も歌も」
「音痴ですもんね。よくもまぁ人前で歌えること……(失笑)」
ん? 私も知ってる女かもしれない。
「さて、邪魔が入ったけど、先程の続きを……? なに……してたっけ?」
「社長の正体をロッテンマイヤー嬢に伝えようとした所でアホ男が乱入してきました。その続きを行うのでしたら、他の馬鹿が入ってこない様に、私が扉の前で見張りますが……如何でしょう?」
「流石気が利くねぇアイリーンちゃん。ちょっと宜しく頼むよ」
眩しすぎる笑顔で陛下に頼まれ、小走りでこの部屋の外へ見張りに出る。
この部屋も、お城の音楽室同様に防音扉が二重になっている。内扉と外扉の両方を閉めてしまえば、中の音は聞こえない。
なので部屋の中では如何様な会話がなされているのか判らないが、ロッテンマイヤー嬢が如何様な反応をするのかは大体判る。
多分ロッテンマイヤー嬢は戸惑い極まるだろう。第一印象だが、ピエくらい真面目っぽそうだったから……
だがしかし、本当の戸惑いを感じるのは娘さん関係の事柄を知ってしまった時だろう。
“社長 = 陛下”という図式を知ってしまったくらいで泣き言を言うのなら、リューナ嬢とは距離を置いた方が良い。
そんな如何しようもない事を考えていると、第3自習室扉が内側から開く。
中からはピエが顔を出し、「OK!」とサムズアップで皆が落ち着いた事を教えてくれた。
私達が揃った事で、リューナ嬢が持ち込んだ新製品の説明を開始する。
・
・
・
「……何となくだけど、コレが何なのか解ってもらえたかしら?」
「……はぁ……」「……何となく」「……大まかには」
新製品の説明を終え、一番最初にアイデアを提案した陛下と、開発に協力した魔技高校の方々以外は、歯切れの悪い返答をする。
そりゃぁそうだ!
素人にも解りやすく原理とかを説明してたけども、専門用語もあって我々が何となく漠然とフワッとした感覚で飲み込むくらいしか出来ないのだから……他人に説明せよと言われたら絶対に無理だ。
だが私なり……多分他の者も……理解した事と言えば、手に持って使用する小型の機械が絵筆で、用紙をセットする大きい置き型の機械が絵の具で、用意された大小様々な用紙がキャンバスなのだろう。
手持ちの小型機械……陛下は『カメラ』と言ったが、それで風景や人物などの景色を記憶させ、置き型の機械……陛下は『プリンター』と教えてくれたが、それで各用紙に絵を完全再現する機械らしい。
凄い機械だと思う! いやまぁ、陛下が思い付き魔技高校が具現化させたのだから、凄くないはずが無い!
私は音楽なら兎も角、絵画等の芸術品には疎い……が、全く実物と違わない絵を一瞬で描き上げてしまう機械は凄すぎる以上だろう!
陛下は既に使い方を熟知してるらしく、私達(陛下以外)を寄せる様に部屋の中央に集め、件のカメラを手に取り私達に向けて作動させた。
“ピコッ”という動作音がして、その度に陛下は私達の周囲を移動しカメラを構え動作音が聞こえる……それを数回繰り返し、カメラの中からダークブルーの魔道結晶を取り出すと、リューナ嬢へと手渡す。
リューナ嬢は魔道結晶をプリンターへセットし起動させる……
そして機械の情報に付いてるガラス板に何やら文字が表示され、その文字をタッチする……
するとそこには、この部屋の中央で肩を並べて集まっている私達の姿が映し出された!
ガラス板の下方に表示されてる“次の画像”という文字をタッチすると、別角度の私達が表示される。
これは先程陛下がカメラを使って記憶させた絵なのだろう。
記憶された画像を一通り見終わって一番最初に記憶させた正面からの画像にすると、今度は“印刷”と表示された箇所をタッチ。
程なくしてプリンターが“ブーン”と音を鳴らして動き出すと、1分もしない内にA4サイズの用紙に私達の絵が描き込まれ、プリンターから出てきた。
皆が現実と見紛う絵に殺到すると、リューナ嬢は「落ち着いて」と言ってから再度プリンターを操作する。
何事かそちらにも注意してると、プリンターからは同じ絵が何枚も排出されてきた!?
寸分違わぬ同じ絵だ!!
全員に絵が行き渡り感動で見入ってると……
「う~ん……やっぱり紙質は向上させないとなぁ。トナーも値が張るし、一般流通できるお手頃価格にするのには、まだまだ時間がかかりそうだ」
え! この出来で不満なの??
「トナーに関しては、既存の顔料メーカーを焚き付ければ生産は上がるでしょうし、生産が上がれば価格も下がってくるでしょう。紙質に関しては一朝一夕とはいかないと思います」
そうなの? 流石はリューナ嬢……良く知っているわ。
「どうでしょう? 顔料生産は、サラボナのメーカにも声を掛けて競わせれば“質”“量”共に向上するでしょうし、紙質はアリアハン王に命令なされば、明日にでも献上しに来るのではないですか?」
確かに陛下が声を掛ければ、その両方とも直ぐに動くだろう。
「ダメだね」
「ダメ……ですかぁ?」
ダメなんですか!?
「まず、あのハゲにこれ以上グランバニアの財政面を握られたくない。どんなに金があっても、売り手側がサラボナしか居なければ、値段は釣り上げ放題だ。以前は発展が急務だったから、色々恩もあったし多少儲けさせてやったけど、今後は内需を潤わせなければ直ぐに立ち行かなくなる」
「なるほど……」
「それにアリアハン王には借りを作りたくない! 貸しは存分にあるが、それを返し終えたと勘違いし、デカい態度に出られるのはムカつく。あいつマヌケなんだし!」
「ふふふっ……この世界の神をマヌケードラゴンと呼べるのは社長だけですからね(笑顔)」
た、確かに……それだけ陛下が偉大なのだろうけど、凄い事でもあるわ!
アイリーンSIDE END
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