リュカ伝の外伝
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絵画とは心で捉えるもの!
(グランバニア城・宰相執務室)
ユニSIDE
「…………ポ~ン」
三時の休憩も終わり、睡魔と戦いつつ仕事をしていると、この騒がしい執務室にまで聞こえてくる子供だと思われる高めの声が遠くから聞こえてくる。
「ウ~ル~ポ~ン!」
大分近付いてきたのか、先刻よりも言ってる言葉を聞き取れる。
その言葉に思わず執務室の出入り口に向けてた視線を、宰相閣下に向けた。
「ウ~ルゥ~プォ~~ン!!」
声の主の目的と思われる宰相閣下の眉間に、シワが寄って不機嫌丸出しの顔をしている。
更にノックするとほぼ同時に扉は勢いよく開かれ、声の主と思われる8才くらいの鞄を肩から提げた少年が現れた……そして、
「ウゥゥゥ・ルゥゥゥッ・プォォォォ・ンンンン!!!!」
「うるせー!」
声、デッカ!
宰相閣下の怒鳴り声が小さく思える声の大きさだわ。
誰かしら?
「申し訳ございません閣下……この少年が閣下にお会いしたいと申しまして……」
城の入り口を警備してる兵士だろう……困った顔で子供の手を引いて現れた。
「だからって安易に連れてくるな馬鹿!」
確かに……滅多矢鱈に一般人を入れて良い場所ではない。
「ですが、宰相閣下のご親友との事でしたので」
「馬鹿かお前、そんなガキが親友なワケないだろ!」
「そ、そうですか……? しかし精神年齢が近く思えましたから」
「お前……僻地に左遷するぞ、この野郎!」
名前は知らんが将来有望な兵士と見た!
出世する前に僻地への左遷が実行されない事を祈りつつ、警備兵が連れてきたお世辞にも賢そうとは言えない少年に視線を移す。
「ウルポン、来たよ!」
「ウルポンって呼ぶな! 『来たよ』じゃねー!」
少年は警備兵に手を引かれながら……いや、警備兵の手を引きながら、宰相閣下の机の前にやって来た。
「閣下……お知り合いですか?」
私はこの部屋に居る誰もが思ってるであろう疑問を宰相閣下に訊いてみる。
親友では無いだろうが、隠し子という可能性も否定できない。
「俺がよく行く画材屋の近くに住んでる馬鹿ガキだ」
「『ガキ』じゃないよ、“パブロ・ピカン”だよ」
馬鹿は否定しないのか。
「隠し子ですか?」
「こんな馬鹿が俺の子供なワケねーだろ! 画材屋の近くで、時折道路にろう石で落書きしてるから、添削してやってんだよ」
「大親友じゃないですか(笑)」
「だから違ーって言ってんだろ!」
色んな意味でお似合いだと思うけど……(笑)
「流石はウルp……宰相閣下、人気者ですね(笑)」
私の台詞に室内からクスクスと聞こえてくる。
「おねーちゃん、それは違うよ」
だがパブロ少年は真面目な顔で否定した。何が違うのだろうか?
「人気者じゃないよ全然!」
分かってるわよ少年。
この国の誰よりも私は分かってるのよ。
「人気の無い俺の所へ何しに来やがった!?」
こんな子供相手に拗ねないでよね。
だから精神年齢が近いとか言われるのよ。
「学校の授業でね、『尊敬する人の絵を描いて送りましょう』ってのがあってね……」
「えっ? 尊敬する俺の絵を描いてきたのか?」
急に嬉しそうに反応したわ。
「尊敬してねーよ。話は最後まで聞いてよ。そういう所だぞ、ウルポンが尊敬されてないのは!」
この少年、見た目よりは賢いのかもしれない。
宰相閣下の表情が、また不機嫌になったわ。
「んで、尊敬する父ちゃんと母ちゃんの絵を描いて、時間が余ったから尊敬する王様の絵を描いたんだ! だから絵を渡して貰おうと思って持って来たんだ……はい、これ王様に渡して置いてよ」
「ふざけんな、自分で渡せ馬鹿!」
「ほんとウルポンはバカだなぁ。忙しい王様に俺みたいな子供が簡単に会えるわけないじゃんか! だからウルポンに頼んでるんでしょ」
「バカはお前だ馬鹿! 俺の方が忙しいんだ馬鹿!」
子供相手にブチ切れる精神年齢お子様な国家の重鎮。
だがパブロ少年が鞄から取り出し差し出された絵をチラッと見て、思わず「上手いな……」と呟き受け取ってしまった。
私も身を乗り出して宰相閣下が手にしたパブロ少年の絵を見る。
確かに上手いわね!
宰相閣下が描く絵の様に、そっくり同じというワケでは無いけど、8才(推定)の少年が描いたとは思えない技量だわ。
「じゃぁ渡しといてね」
「だから、俺は忙しいんだよ!」
「あははははっ『忙しい』って……ウケるぅ(笑)」
「冗談言ってるわけじゃねー!」
色んな意味で大物だわ。
「あぁもう! おい警備兵……確かディエゴとかいう名前だったな?」
「は、はい。“ディエゴ・サンティマ”一等兵です!」
よく名前を知ってるわね。記憶力は本当に凄いわ。
「今ならリュカさんも執務室に居るはずだから、このガキを連れて絵を直接渡させてやってくれ」
「よ、よろしいんですか?」
よろしいんですか、見ず知らずの子供を通して!?
「本当は良くないけど、この馬鹿が変なところに行かない様に手を離すな」
「は、はぁ……」
どうせ1時間もしない内に、報告等でリュカ様のところへ行くのだから、宰相閣下が渡せば良いのに……拗ねちゃって大人気ない。
「あははははっウルポン、何か偉そう。ウケるぅ(笑)」
「『偉そう』じゃなくて偉いんだよ!」
「あははははっ、ウケるぅ(笑)」
「ウケんな!」
ヤバい……この二人の遣り取り可愛い。ウケるぅ。
「あ、そうだ。父ちゃん母ちゃんの絵と王様の絵を描いて、それでも時間が余ったから序でにウルポンの事も絵に描いたんだ。あげる」
絵を描く事業が何時間くらいあったのかは判らないが、あのクオリティーの絵を描いて更に時間が余ってるなんて……天才か!?
「何だよ、結局俺の事を尊敬してんじゃんかよ」
「尊敬してないよ。時間が余ったんだよ」
8才(推定)には少し大きい鞄から、再度取り出された絵……宰相閣下は受け取りながら凄く嬉しそうだ。
「……オイ! 何だ、この落書きは?」
先刻の絵のクオリティーを思い出し、私(と室内のほぼ全員)は興味津々で新たな絵を覗き込む……だが閣下の台詞通り、落書きに見える。
「落書きじゃないよ。チューショーガだよ。学校の先生が『素晴らしいチューショーガね』って言ってたもん」
抽象画? 詳しく概念は解らないけど、そんな言葉は聞いた事がある。
「あ……絵のタイトルは、裏に書いてあるよ」
そう言われ直ぐに絵を裏返し確認する宰相閣下……
そこには拙い字で『ごくあく宰相』と書かれている。
う~ん……言われてみれば、そんな絵に見えない事も無い。
全体的に暗く、中心には閣下と思われる顔の歪んだ男性(?)が描かれている。
やはりこの少年は天才なのかもしれない。
「うるせー、何が『ごくあく宰相』だ! サッサとリュカさんの絵を本人に持っていけ! あとお前字が汚ーぞ! 字の練習と勉強しろ!」
「あははははっ、ウケるぅ(笑)」
相変わらず大人気なく怒鳴り散らし、警備兵共々部屋から追い出す宰相閣下。
不機嫌さを増した様に見えるが、パブロ少年等が出て行った直後、嬉しそうに受け取った絵を机の引き出しに綺麗に仕舞う宰相閣下を垣間見た。
何時もこうなら可愛いのに……
ユニSIDE END
<追記>
凡そ13年後……
パブロ・ピカンは希代の天才画家として世界中に名を轟かせる事になる。
更に晩年になって雑誌のインタビューでは、最も影響を受けた画家の名に、“極悪宰相”と答えている。
そして死後50年が経ち、とある名家からパブロ・ピカン作の『ごくあく宰相』というタイトルの絵が発見され、天才が名の知れ渡る以前に描いた作品としてオークションで5000万Gで落札される事となった。
だが遙か未来の事である。
後書き
ウルポンにもたまにはいい話があっても良いだろうと書きました。
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