リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第十二楽章「嫌味にも高級感が出る」
(グランバニア:芸術高等学校内第3自習室)
アイリーンSIDE
本来なら私が社長を校門まで出迎えにいく(というより、いきたい)のだが、正体不明の人物を無許可で校内に入れる事に抵抗を感じたピエが、学長に許可を貰いに行った為、事前に正体を明かす事になってしまい、その説明を兼ねて学長と一緒に出迎えに行く。
この校内で一番端にある『関係者以外立入禁止』と書いて張られた扉のある自習室へピエと学長に先導され颯爽と現れる社長……今日は珍しく肩から鞄を提げてらっしゃる。陛下は如何な格好でもやっぱり格好いい!
ピエ同様、事なかれ主義の学長は社長を我々に託すと、そそくさと自室へ引き上げた。
「やぁ、お待たせ。リューナの方も、準備が整ってるみたいだね」
私達を含め、室内に視線を巡らし、魔技高校からの人員と機材に視線を止める。
魔技高校からの人員は、リューナ嬢を含め3人だ。
だが一際注目を集めるのは機材。
一般的な文庫サイズよりも少し小さい機械に、それを立てかけるのだろうと予測される三脚……そして小柄なキャバ嬢なら中に収納できそうな大きい箱形の機械。傍には今回使用するのであろう、大小様々な用紙……所謂『A0 から B10』と呼ばれてるサイズ種だ。
「あー……プーサン様……私共も貴方の事は『社長』とお呼びすれば良いでしょうか?」
「ん? あぁ……そうだねぇ……それが妥当かな?」
親娘であるにも関わらず、危険を避ける為に他人行儀な状態に、双方とも辟易してるのが判る。
「では社長。魔技高校からの人員を紹介させて頂きます。先ずはこの『MSV』開発にも参加し、以前は『音響装置』作りでも協力して頂いた、3年の『アントン・ボセック』です。ピエッサさんも協力して頂いたので、ご存じだと思いますが」
「あ、はい。その節は如何も!」
「あ……ど、どうも。アントン・ボセックです。宜しくお願いします」
如何やらこの男は以前に陛下とは間近で接した事があるらしく、プーサンの事が気になって仕方ない様子だ。
それを混みで事前にプーサンの事を『社長』と明言しておいたのだろう。
正体は明かさない方針かな?
「そしてもう一人は2年の『ヴィヴィアン・ロッテンマイヤー』です」
「初めましてヴィヴィアン・ロッテンマイヤーです。宜しくお願いします」
こっちの地味な娘は陛下と間近で会った事は無いらしく、その雀斑顔からは怪訝さは覗えない。
「おや、もしかして僕の事は知らないのかな?」
「あ……い、いえ……プーサンさんのお噂は、王都民としての知識で存じております」
それは社長が、色んな場所に出没するってだけでしょ。それじゃぁ本当の意味でプーサンを知っているとは言えないわ。
「知っている者は少ない方が良いと思いまして、彼女には何も言っておりません。言っておいた方が良かったでしょうか?」
「う~ん……普段だったらそれで良いと思うけど、今年から全部の高等学校の卒業式に出る事になったから、そこで会うわけだし……そんな所でついウッカリ『プーサン』って呼ばれちゃうと困っちゃうし……う~ん……絶世の美女は如何思う?」
「そうですね……言われてみれば社長の言う通りです。私の認識が間違っておりました」
「『絶世の美女』とは言ったけど、この場には美女揃いなんだけど、何で君が答えるの?(笑)」
流石の血筋だわ……臆面も無く自分の事だと確信してるわ。
「はぁ? 『美女』に意見を求められたので有れば、私もこの場では誰の事を指してるのか判りかねますけども、こと『絶世の美女』と言うので有れば私以外はあり得ないと考えましたが……何か間違いでもありましたか?」
間違いは無いけども!
「良い根性している……ウルフが『父親の顔が見たい』って嫌味言うのも解る(大笑)」
「お褒めに与り光栄の極み。その“父親”のお陰でございますわ」
スカートの裾を摘まみ、恭しくお辞儀をするリューナ嬢は可愛すぎるわ。
「まぁリューナが連れてきたから口は堅いだろうし、知っておいてもらった方が……ん!?」
社長が自身の正体を明かそうと、変相に手をかけた時、何かに気付き“陛下”には戻らず手を止めて、この部屋の出入り口の方へ視線を向けた。
(バァン!)「ここか、卒業式の準備をしてるって部屋は?」
突如、防音扉を勢いよく開け、無遠慮に入室してくる男が……
「そこに有るのが魔技高校が作った新製品か!?」
男は部屋の中央に存在感を発揮して置いてある装置に目を付けていた。
男の名は『トーマス・ガブリエル』……芸高校の芸能文学科に通う3年生である。
そこそこの歌唱力と並の演技力……そして所属劇団『堕天使座』内では比較的美男子のナルシスト野郎だ。1年生だった頃に半年ほど付き合った“元彼”である……所謂“黒歴史”ってヤツだ。
当時は私もまだピュアで、リュケイロム陛下という超絶極上圧倒的美形男性に出会って無かった故、この程度の男にお手つきされてしまったのだ。
この男共々、消し去りたい過去である!
「何ですか貴方は、扉の張り紙を見てないんですか!? それとも……文字が読めない頭の可哀想な下等生物ですかぁ?」
流石あのクズ宰相とも渡っていける陛下のお血筋の少女だ……言い回しが絶妙である。
「何だとこのアマ!」
片やこの言い回しである。
過去の自分に『この男だけはやめとけ』と教えてやりたい。
「まぁまぁお嬢さん。このアホも関係者なのかもしれないじゃん(薄笑) それくらいは確認してやるのが、我々高等生物の温情じゃないかなぁ?」
流石は高等生物中最高位であらせられる陛下のお言葉!!
「ピエッサちゃん。この字が読めない可哀想な子は、卒業式制作の関係者なの? 今回の責任者な君なら知ってるよね」
並の人間であれば、今の陛下の台詞に“この集まりが何で誰がリーダー”かを判りやすく集約している。しかもコイツがアホだという事も!
「いいえ。私はこの手のアホが嫌いですから」
本当に嫌いなんだろうなぁ……ピエの眼がクズ宰相を見る時より酷い(笑)
「何だとこのアマ!」
お前それしか言えないのか?
「はぁ~……少なくとも、この国の宰相閣下と口論してる時は、お互いの知性のぶつけ合いを感じて幾ばくかは楽しいですけれど、こうも無知だと人生へのやるせなさを感じますわね」
相手をするだけ時間の無駄だと言いたいのだろう。
「じゃぁ……今日からお前の名前は“グリンガムの”君ね(笑)」
「……?」
陛下は“グリンガムのムチ”と掛けてるのだろうけど、当の本人はピンときて無い様だ。
「……嘘でしょ、このアホ」
リューナ嬢の呟きに私も同意する。
「社長……この男には、カジノの景品でコイン250000枚で獲得できる品は高級品すぎる様ですわよ」
カジノコイン1枚が20Gなので、5000000G相当の名は役者不足が過ぎる。
「何ワケわかんねーこと言ってんだ? 関係だったらある」
「ほ~う……それはどの様な関係ですかしら“はがねの”君?」
ランクが下がった(笑)
「コイツ! コイツは俺の女のひとりだ」
二年以上前に別れて以来、事務的な会話さえしてない私を指さし自分の女扱い。
この男の頭の中は如何なってるんだ?
「え~っと、つまり……軍高官の奥様は、極秘事項に該当する様な事柄を議題に出す会議に出席しても良い……と“トゲの”君は仰られるのですね?」
あ、またランクが下がったわ(笑)
「うわ、絶対ヤダ……そうなるんだったら、私アイツと結婚しない」
ピエには今の彼氏と別れるという選択肢が無いらしい。
まぁ悪い男じゃ無さそうだから良いけど……
「まぁまぁピエッサちゃん(笑) そんな事より僕はアイリーンちゃんの男の趣味の方が気になるなぁ」
「ち、違います社長! 田舎から出てきたての、まだピュアだった頃の愚かすぎる過ちですわ!」
ホンっっっっとぅに迷惑な話だわ!
「何だぁオッサン? 俺の女に興味あったのぉ?? でもザンネ~ン、俺がコイツを女にしてやり、その股で色んなセンセーを垂らしこんでたんだぜぇ! オッサンみたいな無価値なオヤジに股開かねーよ。ギャハハハハ(爆笑)」
この男を殺してやりたくなったが、それよりもこの場の皆の反応が気になって、思わず顔を見渡した。
大半がピエと同様にドン引き + 嫌悪の表情だったが、リューナ嬢と陛下は一際違ってた……
リューナ嬢は何時もの可愛らしい表情が思い出せないほど鬼の様な顔をしており……それとは逆に、陛下は楽しそうに笑って居られる。これが経験の差ってやつ?
そ、そんなに楽しいですかねぇ……この状況?
「こ、この無礼な部外者が……………!!」
「おぉ怖い……お嬢ちゃんも俺が女にしてやろうk…ぐふっ!!(ドンッ!!)」
押し殺す様なリューナ嬢の言葉にヘラヘラ顔で声を掛け、彼女の顔に手を伸ばした時……突如トーマスの身体が天井に叩き付けられた!
言ってる意味が解らないわよね? えぇ私も解らないのよ。
この自習室は演劇の練習にも使用したりするので、天井が8メートルくらいはある広い部屋なのだが、細身でも身長が180センチメートル弱ある男が、突然飛んだのだ!?
因みにヤツの真下には、拳を突き上げた状態の陛下が……
まぁ状況から推測すると、陛下がヤツを殴り上げた(?)のだと思う。
大人の男が8メートル以上高い天井に勢いよく衝突する威力で殴り上げられたら、無事生きてられるのだろうか? 私としては一向に構わないのだが、陛下のお名前に傷が付くのだけは避けたい。
そんな思いとは裏腹に、自然の摂理に従って落ちてきた男を、今度は華麗に蹴り飛ばす陛下に濡れる。
だが先程とは違い、今回は聞き逃さなかった言葉が……
蹴り飛ばす瞬間(もしくは直後)に『ベホマ』と陛下のお声が!
部屋の端まで10メートルくらいあったのだが、壁際ギリギリの所でヤツの身体は停止した。
そしてお腹を押さえながらヨロヨロと立ち上がるヤツに陛下が「ちょっとこっち来い」と、ステキな声で話しかける。
「えぇ~~~……社長が吹き飛ばしたんじゃん(汗)」
ピエは私とは違う感想を呟きながらも、この状況を見守っている。
なおリューナ嬢は初めて見る満面の笑みで状況を楽しんでいる。
「テメェ~何しやg「うるせーな、こっち来いって言ってんの。バギマ!!」
突如ヤツの真後ろに空気の塊の様な物が出来たと思ったら、それに吹き飛ばされる様に今度はこっちに吹き飛ばされる男。
だが今度は勢いがありすぎて、陛下にぶつかりそうになったが、吹き飛ばした当人は分かっていたらしく、直前で踵落としをキメ床に叩き付けて停止させた。
因みに踵落としは背中にキマったが、勢いで顔面を床に強打した模様……起き上がったヤツの鼻は左に曲がって鼻血を垂れ流している。
「おやおや可哀想にぃ……鼻が折れてらしゃいますよ(笑)」
「お、俺の鼻が!!!!」
怖いくらいの笑みで状況を教える陛下……泣きながら鼻を押さえる馬鹿男。
「リューナ。回復魔法は憶えたのかい?」
「はい。ですがまだ“ホイミ”と“ベホイミ”しか……」
魔法の知識がほぼ無い私でも知ってる回復魔法の初級“ホイミ”と少し上級の“ベホイミ”……
「ベホマはまだかぁ……まぁ大丈夫だろう。そこの鼻の折れた彼に、ベホイミを数回使用してあげてよ(笑)」
こんなヤツの怪我なんか治してやる事も無いと思うのだが……?
何故かずっと笑顔の陛下と、頗る機嫌が良くなったリューナ嬢が凄く気になるわ。
アイリーンSIDE END
後書き
トーマス君はリュカ伝にたまに出てくる馬鹿キャラです。
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