イベリス
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第七十四話 東京を巡ることその七
「生きているうちに既にそうなっていて」
「死んでですか」
「いよいよその力を発揮しますが」
「もう生きている時からですね」
「怨霊になっているのです」
既にというのだ。
「そこはご注意を」
「人間と幽霊の違いは身体があるかないかで」
「心が怨みや憎しみに支配されて」
「怨霊になるとですね」
「生きていてもです」
例えそうであっもというのだ。
「怨霊なのです」
「そうなっているんですね」
「そうなのです、そのことは覚えておいて下さい」
「怖いことですね」
「何が最も恐ろしいか」
速水は咲の言葉に応えて述べた。
「それは人間と言われますね」
「はい、よく」
「妖怪はユーモラスで面白いですが」
「人間は、ですか」
「聖人かその様な方もいれば」
「怨霊になっている様な」
「そんな恐ろしい人もいます」
人間のことをこう話した。
「だからです」
「人間が一番怖いんですね」
「現に京都の結界は怨霊に備えてです」
その為のものであるというのだ。
「あの街は怨霊を恐れてです」
「物凄い結界を張ってますね」
「町全体に幾重にも結界を張ってです」
そうしてというのだ。
「護っています」
「それが京都ですね」
「そして東京もです」
この街もというのだ。
「鬼門には日光東照宮がありますが」
「あれは鬼を防ぐ為ですね」
「その鬼とは」
「ええと、日本の鬼じゃないですよね」
咲は今の話の流れからそう察した。
「そうですよね」
「この場合の鬼は霊です」
「そうですよね」
「芥川龍之介の作品に点鬼簿という作品がありますが」
末期の作品である、芥川が自分の母親を狂人であったと告白する作品である。末期の芥川に見られる暗鬱さや狂気が出ていることも特徴だ。
「これは閻魔帳のことです」
「死んだ人の名前が書かれていますか」
「そうした本なのです」
「鬼は幽霊ですか」
「中国ではそう呼ぶのです」
このことは中国の特徴の一つである。
「幽霊を霊ではなく」
「鬼ですか」
「そうです、日本の赤鬼や青鬼ではなく」
「幽霊ですね」
「そして鬼の出入りを防ぐということは」
鬼門に結界を配してだ、鬼門は丑寅の方角で北東のことだ。
「悪霊が都に入ってです」
「禍を為さない様にする為ですね」
「そうです」
まさにその通りだというのだ。
「それだけ怨霊は恐ろしいのです」
「妖怪よりも遥かに」
「そうなのです」
「霊つまり人間が一番怖い」
「そう感じたことはないでしょうか」
「あります、確かに本とか読んでいて現実でもです」
咲は速水の言葉にこれまでの人生の触れて来た創作に経験も思い出しつつ答えた。
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