イベリス
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第七十四話 東京を巡ることその六
「決してです、ですが邪悪でもないです」
「魔都なんですね」
「妖しい魅力に満ちた繁栄と退廃が共にある」
「そうした街なんですね」
「そうです」
まさにというのだ。
「様々な結界に護られつつも魔性の者も多く潜んでいる」
「本所七不思議なんてのもありますね」
「人が多く集まれば」
そうすればというのだ。
「その分魔性の存在もです」
「集まるんですね」
「そうです、ですがその魔性の存在もまた」
その彼等もというのだ。
「東京の住人ですから」
「そう言うと悪くないですか」
「無論人に害を為す者もいますが」
魔性の者の中にはそうした者もいるというのだ。
「しかしそれは人も同じで」
「妖怪もですか」
「そうです、むしろ魔性の存在は面白いです」
このことも嗤って話した。
「実に」
「本所七不思議みたいに」
「他愛のない悪戯をして楽しむ様な」
そうしたというのだ。
「面白い方々です」
「あの、何か」
咲は速水の話をここまで聞いて言った。
「店長さん妖怪と会ったことは」
「あると言えば」
「妖怪って実在しますか」
「私の知る限りでは」
「そうですか」
「勿論幽霊もです」
彼等もというのだ。
「存在します」
「まあ私もどちらもいるとです」
「思われていますか」
「子供の頃から。特に幽霊は」
この存在はというのだ。
「いるとです」
「思われていますか」
「はい」
その通りだというのだ。
「そうしたお話よく聞きましたし」
「人は魂がありますね」
速水は咲にこのことから話した。
「左様ですね」
「はい、そうですよね」
「その魂が身体にあるうちは人間で」
「魂だけになると幽霊ですね」
「その証拠に生きていて身体から出れば」
その時はというのだ。
「生霊となりますね」
「雨月もの狩りとか源氏物語に出た」
「そちらです」
「ああした幽霊ですね」
「そして身体が死んで身体から出れば」
その場合はというと。
「死霊です」106
「本当に人間と幽霊の違いってそれだけですね」
「ですから怨霊はです」
この存在はというのだ、東京にしてもそうした存在の話は多い。
「人間が心が怨みで魔物になった」
「そんなものですか」
「心が魔物になりますと」
「人間の姿でも魔物ですね」
「そうなりますので」
「怨霊は、ですね」
「怨みや憎しみに心を支配され」
そうなりというのだ、もっともそうなるまでにそれぞれ相当な事情が存在している。ただ何もなく怨霊には誰もならない。
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