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イベリス

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第七十四話 東京を巡ることその八

「そうした怖い人に」
「怨念の塊の様な」
「そんな人も見てきました」
「雨月物語もそうですね」
 上田秋成の代表作である。
「吉備津の釜といい」
「さっきお話に出ましたね、私も読んだことあります」
「面白い作品ですね」
「円地文子という人の訳でしたが」
 昭和文学を代表する女流作家であり古典を現代語訳もしている。
「奇麗でそれで」
「怖いですね」
「はい、確かに生霊が出て」
「そして死霊も出ますね」
「最後が滅茶苦茶怖いです」
 こう答えた。
「本当に」
「あの作品に書かれている様にです」
「人間がですね」
「最も怖いです、妖怪は水木しげる先生の作品にある様に」
 妖怪漫画の大家である、妖怪という存在を世に広く知らしめた功労者である。
「怖い一面もありますが」
「面白くてユーモラスですね」
「愛すべき存在でもあります、その怖さも」
 これもというのだ。
「人間と比べますと」
「ましですね」
「それも遥かに」
 そうだというのだ。
「そうなのです」
「それが妖怪ですね」
「しかし怨霊は」
「そうはいかないですね」
「これ以上はないまでに恐ろしく力もです」
 これもというのだ。
「非常にです」
「強いですね」
「国を乱すまでの」
「力がありますね」
「魔王にもなります」
 この存在にもというのだ。
「そうも」
「魔王っていいますと」
「西洋では悪魔ですね」
「悪魔の君主ですよね」
「そうです、ですが日本では」
「人間が魔王になるんですね」
「怨念が高まり人が人でなくなり」
 そうなってというのだ。
「死して尚怨念を高め」
「魔王になるんですね」
「それが日本の魔王です」
「元は人間なんですね」
「人間の怨念が高まれば」
「魔王になるんですね」
「それが日本でして」
 速水はさらに話した。
「悪魔の魔王以上にです」
「恐ろしい力を持っていますか」
「そうです、まさにこの日本を脅かすまでに」
「それは何かの作品で書いてませんでした?」
「太平記に」
 この軍記ものの名作にというのだ。
「あります」
「あの作品ですか」
「あの南北朝の大乱はです」
「そうした魔王がもたらしたものですか」
「その魔王は小山さんが読まれた雨月物語にも出ておられます」
「まさか」
「おわかりですね」
 速水はその右目を光らせて咲に述べた。 
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