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DQ3 そして現実へ…  (リュカ伝その2)

作者:あちゃ
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奔走

<エコナバーグ>

エコナバーグのとある建物内では、大勢の男達の悲鳴が響き渡っていた…
そんな建物から爽やかな笑顔で出てくる人物が1人…リュカである!
タイロン老人から、エコナを襲った連中の事を聞き出したリュカは、この建物にやって来た。
そして中に入り、小1時間ほどしてから何事もなかった様に出てきたのだ。
遠巻きに眺める人々に、軽く会釈をすると『ルーラ』と魔法を唱え、彼方へと飛び去ってしまった。
誰もこの建物には入ろうとしない…
微かに呻き声が聞こえるのだが、恐ろしくて入る事が出来ない…
そして見ていた皆が口を噤む…この建物から誰が出てきたのかを…




<エルフの里>

「リュカ…こんな夜更けに何用ですか?」
エルフの女王カルディアは、リュカの突然の訪問に驚くも、それ以上の嬉しさで胸を弾ませ彼と会う。
「ゴメンね、こんな時間に…急ではあるけど、提案があって来たんだ!」
本来であれば、謁見の間で会うのが常識なのだが、カルディアは既に寝間着に着替えており、相手がリュカだった事も影響し、自身の寝室へと向かい入れた。

「この里から西へ海を越えた場所に、僕の知人が町を作ってるんだ。その町の発展に、エルフ族皆で協力してみるのはどうだろうか?何も、エルフ自ら赴き建築を手伝えと言うんじゃない。交易をしてほしいんだ…『その町では、エルフ族からしか買えない様な商品を、買う事が出来る』って噂が広がれば、町の発展にも繋がると思うしね!」
リュカが来た理由は、先日のエルフと人間の共存共栄の件だった。
甘いロマンスを期待していたカルディアは、思わずガッカリした表情を見せてしまう。

「………なるほど…出来たての町ならば人口も少なく、我らエルフの事を説明する手間も小さいという事か…」
「うん、そう言う事!いきなりロマリア王国と親密になろうとしても、規模が大きすぎて時間が掛かり過ぎちゃうからね!出来たての町だったら、規模も小さく互いを理解し合うのに、それ程時間は掛からないだろうから……それに此処へ来る前に、ロマリアを始めイシス・ポルトガ・サマンオサと話をつけて、その町と協力体制を築いてくれる様になったから、世界中にエルフの事を理解してもらうのにも利用出来ると思うよ」
「確かに…エルフの使用する道具等は、人間には希少価値が高く、それを取り扱うその町も即座に知名度が上がり、町の発展を促すだろう…」
カルディアは一旦言葉を切り、リュカの事を見つめる。

「その町の為、協力しても良い………が、条件が1つある!………リュカ、私に子を授けて欲しい…お前との子を!!」
「…………………………」
先程まで優しく微笑んでいたリュカの顔が曇り出す。
「リュカ…先日お前が言っていた事を忘れたわけではない。その町との友好関係が上手く行けば、エルフと人間のハーフも迫害される事はなくなるだろう!だからこそ、我ら両種族の架け橋となる為に、私はお前との間に子を宿したいのだ……それを認めてくれぬのなら、私はその町に協力はしない!」
カルディアはリュカを真っ直ぐ見つめ、己の気持ちを語りきる。

「君は何か勘違いをしている…」
「か、勘違い………?」
「僕はこの世界の住人ではない。この世界でエルフと人間が啀み合い殺し合っても、僕には関係ないんだ!何故、そんな交換条件に僕が従わなければならないんだ!?別に構わないよ…その町の発展に協力しなくても…」
リュカは先程と変わることなくカルディアを見つめている…
だがリュカの瞳からは、彼女に対する愛情は消えていた。

「僕はエルフ族の為を思い、この提案を持ってきたんだ!君が心から、エルフと人間の共存共栄を望んでいると思ったから………なのに君は、自分の欲望を実現させる為の道具に使用するつもりなのか!?………自分の事しか考えちゃいない!だから娘が自殺したのだろ…それから何も学んでないんだな!」
カルディアはリュカの言葉に打ちのめされる。


リュカの言う通りだ…
エルフと人間の共存共栄のチャンスを、自らの欲望で潰そうとしていたのだ!
「リュ、リュカ…違う…わ、私…そんなつもりじゃ…違うの…お願い…見捨てないで…リュカ…」
カルディアは泣いていた…
リュカに手を伸ばし縋ろうとしていた…

しかしリュカは、その手を払い除け立ち去ろうとする。
「リュカ…リュカ…!」
そして出口の前で立ち止まり、振り向くことなく語り出す。
「その町の名は『エコナバーグ』…以前、僕等と共に旅をしていた仲間が作った町だ。彼女は当初、町の作り方を間違えて破滅へと向かっていた。だが間違いに気付き、僅か1ヶ月で素晴らしい町を再構築したんだ!でも、最初の間違いで生み出した膿は、消え去ることなく彼女を苦しめた…だから僕は少しだけ力を貸したんだ。本当は手を貸すつもりなんてなかった…彼女が自分の力で成し遂げてこそ、意味があると思ったから。でも手を貸した…彼女が間違いに気付き、より良い町造りに進み出したから。…別にエルフの力など必要じゃないんだ。エコナの実力なら、エルフの協力など無くても、あの町を立派に出来るからね…だがエルフ族はどうだろうか…?」
そしてリュカは出て行った。


寝室に残されたカルディアは、床に蹲り泣きじゃくる…
涙が止め処なく溢れてくる。
カルディアの嗚咽は部屋の外にまで聞こえ、心配したカリーが傍らに寄り添い慰める。

「私は…私は愚かなのです…アンを失っても気付かなかった…それを教えてもらったのに忘れてしまった…だからリュカは私を見放したのです…」
カルディアは女王としての立場を忘れ、カリーに縋り泣き続ける。
「女王様…我らエルフもそれ程利口では無いのです。人間を低俗と卑下出来るほど利口では無いのです。ですから間違う事もあります…でも間違えたら、それを認め是正すれば良いだけの事!女王様はリュカに見捨てられてはいません。リュカがくれたチャンスを生かし、人間との共存共栄を成功させれば、リュカは微笑んでくれます…あの優しい笑顔で…」
カルディアは涙の止まらない瞳で、カリーの事を見つめ続ける。
優しく力強い言葉をくれた部下を…いや、友人を。


カルディアは立ち上がり、寝間着の袖で涙を拭う。
そしてまだ赤い瞳のまま、カリーに指示を出す。
「明日の朝になったら船の準備をして下さい。我らエルフは、リュカが用意してくれたチャンスを生かす為、西の海を越えたエコナバーグに赴き、友好的関係を築こうと思います。その為の特使として、私自ら赴きますので、カリー…貴女も一緒に来て下さい…私を補佐して下さい」
カルディアはカリーの手を握りお願いをする。
「女王様…勿論、私は貴女様を支えるつもりでございます!微力ではございますが、全力を尽くします」
2人は互いの手を堅く握り頷き合う。
そんな2人を、出て行った様に見せかけたリュカが、扉の隙間から覗いていた…
嬉しそうに微笑みながら、エルフ族とエコナバーグの未来を想像して…



 
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