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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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六十一 外待雨が止む時

 
前書き
たいっへんお待たせしてしまい、申し訳ございません──!!!!!!!!
お待たせしました…!!



 

 
雨が降り続けている。

絹糸のような、されど永遠に途切れることのない細い雨脚。
潮騒のような音が満ちる閉鎖的な里の上空には、常に黒雲が渦巻いている。
絶え間なき密やかな雨音。

時折、里の至る場所で轟く雷鳴が、その静寂を切り裂いた。
西の一番高い塔。

天を裂くかのように奔った稲妻が、壁に背を預けるナルトの顔を微かに照らす。
ピシャッ、と背後の窓から射し込む雷光が、室内にいる人々の影を長く伸ばした。


「…惜しい人材を失ったな」

薄暗い部屋の中、骨張った手首と痩せこけた胸板の青白さが闇に浮かんだ。

「ゼツの目撃情報とも一致している。世話をかけたな、ナルト」


ゼツから聞いたのだろう。
角都の暴走。サソリとデイダラの死。そして角都の死。

遺体の後始末に関しての労りの言葉を投げた相手へ、ナルトは無言を返す。

「しかし。戦力の大幅ダウンは免れないな…」と誰ともなしに呟いたのは小南だった。


「確かに…角都まで失うとは、痛手だな」

小南に同意した彼の言葉に、それまで黙していたナルトが口を開いた。片眼を開ける。
雨空とは真逆の、青空を思わせる瞳が鋭く、その場にいる面々を射抜いた。

「それは…俺がいたとしてもか」


ナルトの言葉に、彼は虚を突かれたかの表情を浮かべた。
一瞬考える素振りを見せるも「いや、」と即答する。


「お釣りがくるくらいだ」
「なら問題ないだろう」


ナルトがいれば角都・デイダラ・サソリの三人分を補って余りある。
そう言い切ってみせた彼の傍らで、お面を被った男がナルトの代わりに返事を返した。


「むしろ、癖のある連中の面倒をみなくて済んで清々するというものだ」
「…酷い言い草だな」


表情を一切変えずに非難するナルトへ、仮面の男はおどけるように肩を竦めてみせた。


「ふ、冗談だ。彼らは貢献してくれたさ、我々『暁』に。…だが、正気を失った狂犬は処分するのが道理だ。ナルトの判断は間違ってはいない」
「後々、飼い犬に手を噛まれるよりは現時点での対処が無難か…」


仮面の男に同意した彼は、骸骨を思わせるほど痩せこけていたが、落ち窪んだ眼窩は絶えず輪廻眼を発動している。
常時力を使っている彼を見兼ねて、ナルトは眉を顰めた。


「…あまり己の身体を酷使し過ぎるなよ」

ナルトの忠告に、薄紫の波紋模様の双眸を見開いた彼は、ふ、と口許に笑みを象る。
それは久方ぶりの心からの微笑みだった。


「まぁ、新たな人材も確保したし、元の鞘に収まった者もいる。プラマイゼロと考えよう」

気を取り直すように仮面の男が話題を変える。ナルトから仮面の男へ視線を移行した彼は「しかし…」と顔を顰めた。


「あの、うちはサスケは役に立つのか」
「イタチの弟だ。使い道はある。それに、実力を確かめる為に八尾回収へ向かわせた」
「…………」


仮面の男と彼──『暁』のリーダーとのやり取りを、ナルトは黙って聞いていた。
内心、八尾という単語に反応を示していたが、それを億尾には出さす、涼しい顔で口を開く。


「イタチの弟でも単独での八尾回収は難しいだろう」
「問題ない。ゼツに監視させている。万が一があれば、ゼツが手を貸す手筈だ」

ゼツがこの場にいない理由を口にした仮面の男に、一先ず納得はしたらしい。
痩せこけた頬で彼は小さく唸った。


「最悪、八尾の尻尾だけでも一本切り落としてくれれば御の字…」
「そういうことだ。それで死んだらそこまでの奴だったというだけ」

辛辣な言葉を続ける双方の会話を素知らぬ顔で聞き流していたナルトは、独り言のように呟いた。


「だが、あのイタチの忘れ形見だ。手懐ければ何かしら役には立つ。死なすには惜しい」
「…それもそうだな。鬼鮫を同行させよう」


さりげなくサスケの寿命を延ばしたナルトは、不意に街向こうから此方へ近づいてくる気配を感じ取った。まだ彼は気づいていない。相手は彼のテリトリーである雨の領域に足を踏み入れる一歩手前だ。


ナルトは仮面の男に目配せをした。
仮面の奥で頷きを返した男を認めると、外へ足を向ける。

濡れた空気に軽く身震いをし、纏わりつく雨粒に嘆息したナルトは、うんざりとした表情をわざと浮かべた。
絶え間なく降り続ける雨の中、肩越しに振り返る。


「たまには陽の光を浴びたらどうだ」

ナルトの視線の先を追って、彼もまた久々に眼を外へ向けた。


細かな雨が静かに降りしきる街並み。
自分が支配するこの里の上空には重苦しい雨雲が広がっており、陰鬱な雰囲気が常につき纏っている。
ナルトに促され、彼は静かに、ペイン六道のひとりを操った。


【雨虎自在の術】。
輪廻眼とチャクラ受信機を応用した感知忍術であり、雨雲を操り特定の場所に感知術を付与した雨を降らせることで、降雨範囲に入った侵入者を即座に感知する術だ。


ペイン六道がひとり、天道が術を解除する。
やがて雨脚が弱まり、陰鬱に沈んだ街へ陽射しが降り注ぐ。
その眩しさに、彼は眼を細めた。
いつも気が張っている落ち窪んだ眼窩がやわらかく、天から射し込む光を見つめる。


そういえばこの街で晴れ間を仰いだのはいつぶりだったか。


「この街で青空を拝むのも悪くはないな」


ナルトに従い、術を解いた彼は、雨上がりの空を眩しげに見上げた。



際限なく降り続ける雨をあっさり中断させた彼に対して思うところはあったが、ナルトは素知らぬ顔でその場を後にする。

雨を上がらせた真意を巧妙に隠して。
























デイダラとサソリを殺した角都を始末したナルトが、先んじて報告を行ったゼツの後からわざわざ雨隠れの里へ赴いてきた。
迎えた彼は、今し方立ち去ったナルトが消えた方角を、眼を透かして見つめていた。


僅かに降られたナルトの白衣に散る雨粒が銀色に輝く。
斜め後ろから垣間見える項の白さが雨上がりの空の下、眩しかった。


ナルトに続くようにして、仮面の男も立ち去り、この場には彼と小南しか残されていない。
いや、久方ぶりの青空を暫し堪能していた彼に、そっと近づく者がいた。



「新たなメンバーも増えたことですし、そう気落ちするものでもないでしょう」

仮面の男と同じことを口にするカブトを、彼は──長門は胡乱な目つきで見遣る。
元の鞘に納まったカブトへの不信感ではない。
仮面の男がやけに推薦してくる新たな戦力に関して、長門は再び懸念を口にした。


「お前が連れてきた、あのうちはサスケ…本当に役に立つのか」
「あの大蛇丸様…いや、大蛇丸を上回った逸材であることは間違いないでしょう…ただ、」
「ただ?」


一瞬逡巡するも、カブトは長門にきっぱりと言い切った。


「ナルトくんには会わせないほうがいいですね」
「何故だ」

その疑問の答えを持ち合わせているにもかかわらず、長門はあえてカブトへ問うた。

「彼はナルトくんを恨んでいますから」
「イタチの件か」
「はい」


『暁』を裏切ったイタチを消したのはナルトだ。
故に、イタチの弟であるサスケがナルトを憎むのは道理。
頷いた長門に、カブトは言葉を続けた。


「ですから会わせるのは得策ではないかと」
「確かに…既に戦力が削られている今、これ以上の内部分裂は避けたい」


デイダラ・サソリ・角都と三人失った今、新たな人材は貴重だ。
今しがた、雨をあがらせた天道が向かった保管庫。そちらへ視線をやりながら、長門は案を口にした。

「ならば八尾の件が片付いたら、うちはサスケには塔の警備にでもあたらせるか」


ペイン六道は基本的に一体のみが行動しており、残りは塔の隠し部屋のカプセルの中で眠っている。
そのカプセルを守る役割をサスケに宛がうことでナルトとの接触を避けられるだろう。 

ペイン六道の秘密保持の為、塔を警備してもらうか、と思案する長門へ、カブトは「しかし、」と自ら志願した。



「サスケくんが八尾に殺されては元も子もありませんよ。微力ながら医療忍者である僕も加勢に…」
「カブト。貴方には長門の衰弱した身体のメンテナンスをお願いしてる。貴方が抜けられると困るわ」


傍らの小南がカブトの案を却下する。

衰弱し、戦闘どころか歩くのもままならない状態の長門を診る唯一の医療忍者を手放すわけにはいかない。
自身とて看護を担当しているものの、医療技術に優れているカブトがいれば、長門の負担も大幅に減るのは間違いないと小南は理解していた。


「戦闘が長引くようであれば、マダラに強制撤去させる」
「……承知致しました」


小南に続いての長門の決定にカブトはわざと浮かべた不服げな顔の裏で、秘かに含み笑った。




















「口裏を合わせてくれて感謝する、オビト」

雨隠れの里から聊か離れた場所。

赤く色づいた木立の合間に、小さな橋がぽつん、と架けられている。
雨隠れの里と違って、雨雲がひとつもない抜けるような青空の下、紅葉がよく映えた。

落ち葉で覆われる水面に影がふたつ、映り込む。
水面を覗くわけでもなく、ひとり、橋に佇んでいたナルトは、背後から近づいてきた男へやにわに謝礼を告げた。


「なにを企んでいるかは知らんが、お前なら悪いようにはならんだろう」

デイダラ・サソリ・角都の死に対して『暁』のリーダーである彼が違和感を抱かないように手を回す。
サスケという新たな人材を話題にすることで三人の死への疑問を抱かぬよう、ナルトに口裏を合わせた仮面の男は、ナルトの謝礼に肩を竦めた。


「お前に今死なれると俺の夢が消えてしまう。それだけは避けねばならない」

目配せをした故に、ナルトのあとを後から追った仮面の男は、遠く離れた雨隠れの里を透かし見る。
ナルトの衣に散る銀色の雨粒だけが、寸前まで雨隠れの里にいた事実を露わにしていた。

珍しく晴れている里の上空を遠目で眺めながら、仮面の男は釘をさすように、目線をそのままに、口を開いた。

「お前は無駄なことはしない主義だ。俺はお前に従うだけさ」


仮面の奥の瞳がぎょろり、と動く。
仮面の奥から垣間見える眼は赤く、それでいて鋭く、ナルトを見据えた。


「────俺の願いを叶えてもらう為に」




雨隠れの里から仮面の男を引き離し、更には感知忍術である雨を『暁』のリーダー自ら止ませたナルトは、双眸を軽く閉ざす。

雨隠れの里へ潜入する男をあえて見逃し、ナルトは仮面の男の野望に頷きを返した。


「わかっているさ」







































水面が揺れる。
波紋が広がったそこから、ひょこっと蛙が頭を出した。

その口からおもむろに手が伸ばされた。
ぬるり、と蛙の口から抜け出たのは、大柄な白髪の男。


「潜入成功だの…」

水面へ降り立った男は、眼前に広がる閉鎖的な里を眺める。
常に雨に降られる街の上空は、珍しいことに晴れ間ができていた。


「意外に簡単にいったが…ちょうど雨が止んだ時に潜入できるたァ、幸先良いのぉ」


雲の切れ間から零れる薄明。
天使の梯子と呼ばれるそれは、侵入者である自分の道行きを示しているかのようだ。



いや、その梯子は本当に、天使の導きか。
はたまた地獄への片道階段か。







光芒射す雨隠れの里を前に、三忍のひとり──自来也は不敵な笑みを口許に湛えた。 
 

 
後書き

本当に遅くなって申し訳ありませんでした…!
毎月更新してたのにこの体たらく…忙しい&なかなか思うように書けなくて…しかも短くてすみません…!(土下座)

お詫びに今月は二話更新しますので、7月中にもう一話更新予定です!!(自分で自分の首を絞めるスタイル)
不甲斐ない奴で申し訳ないですが、どうぞこれからもよろしくお願いいたします…!!(土下座)
 
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