吸血鬼の真祖と魔王候補の転生者
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第10話 魔女狩りを狩る者
前書き
前回のあらすじ
エヴァと恋人になる
オリジナル装備取得
※※注意※※
この話から数話、ある宗教の歴史的事実を用いて、敵役として表現いたします。
作者の同宗教を攻撃する意思は一切ございません。
あくまで作品の構成上、そのような表現を取らせてもらった次第です。
ご理解いただいた上で読まれますよう、お願いいたします。
「・・・俺が知ってるのはそれぐらいだ」
「そう・・・ありがとう」
私は応対してくれたマスターにそう告げると、白ワインのボトル1本とワイングラスを2つ受け取り、わざとワイン2本分の代金を置いて、恋人の待つテーブルに向かう。
皆さんごきげんよう、シルヴィアよ。
エヴァの故郷から出発した私達は今、ヨーロッパ東部にある村の酒場に居るの。
時刻は日も沈んでしばらく経つ夜。
宿屋で夕食を終えた後、目的があった私はエヴァを誘い村に一軒だけあるこの酒場に来た。
普段男しか居ない酒場に現れた美女2人に、様々な視線が向けられる。
そんなのはどこ吹く風とさっさと席を取り、私がお酒を買いにカウンターへ行ったというわけ。
目的の情報を得られた私は、エヴァの向かいのイスにマントを掛けて座るとボトルを空ける。
「ずいぶん話し込んでいたな?」
目の前の美女、エヴァがそう問いかけながらグラスを向ける。
「えぇ・・・少し知識の確認をね」
エヴァのグラスに注ぐと、今度は自分のグラスを取る。
今度はエヴァが注いでくれて、無言でカチンとグラスを合わすと一口。
うん、なかなかおいしい。
元々お酒には詳しくなかったけれど、旅をしていれば飲む機会くらいはある。
エヴァも幼い頃から飲んでいたし。ヨーロッパらしい面だ。
渋みの強い赤ワインよりは、2人とも白ワインが好き。
味音痴な私基準でおいしいのに当たると得した気分になる。
もちろん、熟成年数その他の難しい事は分からない。
寝かせたら寝かせた分だけおいしくなる?らしいとしか知らない。
「それで?」
一息に飲み干し自分で新たに注ぎながら、知識と言う単語に気を引き締めエヴァが訪ねてくる。
彼女には私の前世の事も話してあるから当然と言えば当然の反応。
私が口を開こうとしたその時・・・そいつらは来た。
「へへへ、姉ちゃんたち。どうせなら俺たちと飲もうや」
そう言いながら私達のテーブルに近寄って来たのは、酔った2人組の男。
一応気と魔力を使い探るもただの一般人。完全な『あちら側』・旧世界の住人だ。
魔に生きる私達に話しかけるとは、運が無いなぁと内心呆れる。
まぁ酔って気が大きくなっているところに、どう客観的に見ても極上の旅人美女2人が居れば、わからなくはないけど。
「ふふっ、ごめんなさい。これから女同士の大事な内緒話があるの。またの機会にしてもらえるかしら?」
特別サービスで笑みを浮かべながらやんわり断る。
ちなみにエヴァは我関せずと、ちびちびワインを飲んでいる。
・・・そりゃ男2人とも私の方向いているからいいけどさ。
ふと探ると、酒場中の人間がこっちの様子を伺っている。
この酒場に入ってから感じていた、ただ美人を見る目や、男の欲望丸出しの視線など様々な視線が集まっている。
「いいじゃねえかよ、ちょっとくらい」
しつこい男Aが私に手を伸ばしてくる。
いい加減辟易していた私はその手を払い除け、冷めた声で告げる。
「しつこい男はモテないわよ?出直してきなさい」
「テメェ!下手にでてりゃいい気になりやがって!」
どこが下手だったのか疑問が満載の男は、顔を真っ赤にしながらわめき散らす。
・・・むさ苦しい酔った男の罵声を大音量で聞くって・・・なんて罰ゲーム?どうせ聞くなら女の子の嬌声の方が・・・
そんな現実逃避をしていると・・・
「そんならこっちの無口な女にしようぜ」
黙っていたもう1人の男Bが、エヴァに手を伸ばした。
うん、無理。穏便とかもう無理。私の低い沸点が臨界点超えたもの。
すっと立ち上がるとエヴァに延ばされた手を掴み、引っ張りこちらを向かせる。
「ん?・グヘッ」
何事かと呆けていた下衆Bの顔面に、フルスイングの右ストレート。
左手は下衆Bがエヴァに伸ばした右手を掴んでいるので、Bは吹き飛びもせず反動でこちらに向かう。
今度はその腹部に右のひざ蹴りを叩きこむ。
「グエェ!」
衝撃で宙に浮きかけたBの腕を再度引っ張り、背中を向かせるとそのまま蹴りつける。
ドッカーン!
壁側の席を取ったのが幸いし、下衆Bはそのまま壁とキス・・・の予定が突き抜けたけどまぁ結果オーライ。
「テッ、テメェ!このクソアマ!」
ようやく頭が再起動したのか下衆Aがわめく。
でも正直まともに相手をするつもりが無い私は、ホットパンツからスラリと伸びた脚を、ぶんっと振り上げる。
ブーツのつま先は狙いを外さず、男の脚の間の付け根へ。
「ガッ!(ピクピクピク)」
なにがぐにゃりとした感触がしたけど気にしない。酒場の空気が凍った気がしたけど気にしない。
まぁ、男にしたら痛いらしい。女の私にはわからないけど。
膝をつき痙攣を始めた下衆Aを尻目に、私はその場でジャンプ。
くるりと空中で一回転をしながら、遠心力を乗せた右足踵をAの後頭部へ。
ドッカーン!バキッメキッ!
床にキス・・・というより頭をめり込ませた下衆の出来あがり。
「ふうっ、こんなものかしら(パンパン)」
なんとなく手を叩きながら、一息。視線を酒場に流すと、皆自然にそらした。
私は下衆2人のポケットを探ると財布を取り出し、カウンターヘ向かいそれを差し出す。
「これは?」
初老の酒場のマスターが訝しげに尋ねてくる。
「床と壁の修理代よ。あとは迷惑料。お客さんも驚かせちゃったから1杯おごりよ。足りなきゃこれで」
私はそう言いながら、財布から硬貨を何枚か出す。
「いや、こっちだけで十分だ」
マスターは苦笑しつつ私のお金を戻させると、奢りの1杯の準備を始めた。
席に戻るとグラスを手に取り、酒場に視線を向けて笑みを浮かべながら掲げる。
そこかしこからグラスが掲げられると、再び喧騒が戻り出す。
もっとも、此方に向かうぶしつけな視線は一切消えたが。
それでも念には念を入れ、認識阻害と防音の障壁を張る。
「それで?知識の確認とは?」
まるで何も無かったかのように会話を再開するエヴァ。
「少しは手伝ってくれても良かったんじゃない?」
「私に手を出されそうになって、シルヴィアが何もしないわけがないだろ?なら私は安心して酒を飲んでいれば十分さ」
さらりと当然の真理の如く話すエヴァ。
まぁ、事実そうなのだけど。それでもなんとなく悔しいので、体を寄せて耳元で囁く。
「それはもちろんそうよ。エヴァの全ては私のものだもの」
「!まっ、まぁな/////」
一瞬で耳まで顔を真っ赤にしたのは決してお酒のせいではないはず。
そんな照れたエヴァの様子をしばらく楽しむと、気を引き締め本題に入る。
「ローマ・カトリック教会が、魔女狩りを再び行い始めたそうよ」
魔女狩り。
魔女と疑われた女性(男性もごく少数いたとか)を拷問にかけ、魔女だと自白させ、火炙りの刑に処すと言う残虐行為。
カトリック教会主導、住民の集団ヒステリーなど諸説あるそれは、教会関係者の欲望を満たすためだったと言う説もある。
最初は12世紀ごろに行われ、一旦姿を消すも現在の15世紀ごろから再び行われ始め、16・17世紀が最盛期だったと聞く。
前世の事実がどうかはわからないが、この世界においてはほぼその通りらしい。
教会に睨まれた女性は連行され、暴力的・性的拷問を受けて自白を強要される。
自白したら最後、待っているのは火炙りで処刑。
女の財産はすべて没収。家族や恋人など抵抗した者も処刑し、同じく財産を没収する。
教会は更に、その事実と力を前面に押し出すことで、影響下にある町や村からの搾取も始めているというテンプレな内容。
色欲に金銭欲、支配欲を満たす行為。
トップの教皇か、その周りを固める枢機卿か。地方を束ねる司教か、各町や村にある教会を治める司祭か。
どのレベルまでが関与しているのかは知らないけど・・・。
神の名を盾に好き勝手暴れまわる・・・文字通りの下衆共。
私の知識と、先ほどマスターから得た情報を伝えると、エヴァの目にも怒りの炎が灯っている。
彼女の場合、さらに思うところがあるだろう。
初めて出会ったときに居たローブの下衆と、追従した下衆共。
あのローブ男がこちら側の関係者だろうと、あちら側のただの司祭だろうと本質とは関係ない。
一方的な決め付け、自らを正義と語り、暴力で蹂躙する。
「なぜ、今それを探った?」
問いかけてきたエヴァに、私は正面から答える。
「私はこの状況を利用できると考えているわ」
「利用?」
「教会に喧嘩を売る事で、その財産のいくらかを今度は私達が徴収する」
「なに!」
私の回答に驚いたエヴァが声を荒げる。
注目を浴びそうになるので、視線で抑える。
気づいたエヴァはすぐに口をつぐみ、ワインを一口飲み心を落ち着ける。
「なぜそんなことを?」
落ち着いたエヴァが静かに尋ねる。
ローマ・カトリック教会と言えば、世界で最も多い信者を誇るキリスト教の中でも最大の派閥。
現在他の流派が生まれているかどうかは知らないが、ヨーロッパでも最大の勢力を誇る組織であるのは間違いない。
だからこそ、わざわざこちらから喧嘩を売る必要性をエヴァは疑問に感じている。
「私達は遅かれ早かれ教会に目を付けられるわ」
「教会に?」
「私達はこの10年で既に、賊や魔法使い共を手にかけている。恐らくそう遠くないうちに、魔法世界では私達に懸賞金が掛けられるわ」
「!それが教会側に流される・・・と言う事か」
「人ならざる存在に加え強大な力、魔法世界の下衆共は手段を選ばないでしょう。教会側への理由も、本当に魔女だからとでも言えば済む話。仮に渋ったとしても金を渡せば通る程度には腐っているでしょう。私達は2つの世界から追われることになる」
「・・・」
「正直それでどうにかなるつもりなんて私には更々ないし、ましてエヴァには指一本どころか爪の先すら触れさせない」
真正面から真面目に告げれば、再び顔を染めてくれる愛しい恋人。
我慢の出来なくなった私は、テーブルの上のエヴァの手を握り、感触を楽しみながら話を続ける。
「狙われたところで叩き潰せばいい。ただ問題は、襲ってくる連中を叩き潰しても問題は解決しない。次が来るだけだもの。そんなのうざったくてしょうがないわ」
「・・・まさか」
「そう。必要ならばその組織ごと叩き潰せるだけの、あるいはこちらを恐れ手出しができないだけの力を持てばいい」
にっこり微笑みながら告げれば、エヴァは苦笑を浮かべる。
「話を最初に戻すわ。どうせ後で敵対するなら、こちらから喧嘩を売って教会が溜めこんでいる財産を奪う。その財産を元手に私の未来知識と一緒に運用して、さらに巨大な財力を得る。」
「・・・」
「財力があれば、地位や権力を手に入れるのは容易いわ。そして何より、経済を支配できる」
「経済?」
「えぇ。国にとって経済活動は命とも言える。それを支配する人間に刃向かう事なんかできないわ。商売が成り立たなきゃ、税も徴収できない。そんな事じゃ国が倒れるでしょ?」
くすくす笑う私を尻目に、ぽかんとするエヴァ。
うん・・・呆けた顔も可愛い。
「もちろん今までのように、旅をしながら撃退でも構わない。うざったいだけで手間はそんなにかからないから。だから今エヴァに問いたいのは1つ・・・・・理不尽な暴力を、理不尽な力で駆逐する気はある?」
「・・・」
「これは明確に、自分の意志で殺しに行くと言う事。目的は3つ。財力を得るための足がかり・囚われた女性の解放・下衆共への鉄槌。」
「・・・」
「分かっているとは思うけど、女性の解放ははっきり言えばついでよ。同じ女として怒りを覚えるけれど、あくまで赤の他人。その程度よ。下衆共への鉄槌も私怨とかのようなもの。腹が立つから叩き潰す、それだけよ」
そこまで話すと私は言葉を切り、じっとエヴァを見つめる。
文字通り、原作とのターニングポントと言えるわ。
原作のエヴァは、襲ってくる奴らは殺した。つまり正当防衛の範囲で降りかかる火の粉を払っていた。
なのに賞金首として追われ、悪のレッテルを張られた。
それでもなお、女子供には手を出さず、弱者もいたぶらない、誇り高き悪の魔法使いとして君臨していた。
エヴァが誇り高いのは変わらない。攻勢に出るか否かの違いだ。
まぁ、どんな決断にしろ、共に在るのは変わりないのだけど。
そう考えながら見つめていると、エヴァは顔を上げ、正面から私を見つめながら口を開く。
「・・・やろう」
その視線は揺るぎなく、真っ直ぐに私を射ぬく。
「私達にも大きな利点がある。全ての女を救うなどとふざけた事を言うつもりはないが、ついでに助けるくらいはいいだろう。それに・・・」
そこで言葉を切ったエヴァは、おもむろに笑みを浮かべる。
「多くの下衆共に、私達に敵対する事の愚かしさを早めに教えてやるのもいいだろう」
くすくすと、無邪気に、妖艶に、凄絶に微笑むエヴァ。
見惚れていた私は、気づけばエヴァを抱き寄せ口づけていた。
一瞬回りの事を考え体を強張らせたエヴァだが、魔法で外には普通に話しているように映っている事を思い出すと、身を任せる。
ぴちゃぴちゃと音を響かせ、舌を絡ませ、唾液をすする。
ワインとエヴァの味が混ざったそれを楽しむと、今度は私が流し込みエヴァが啜る。
ひとしきり楽しみ落ち着けば、互いにグラスを満たし掲げる。
「私達は自身と自身の大切な者のために生きる」
「そのために力を行使する」
2人で誓いの言葉を囁けば、グラスを合わせ飲み干す。
「これで正真正銘、悪の魔法使いの仲間入りだな」
グラスにワインを注ぎながら、可笑しそうに膝の上のエヴァが囁く。
「なら2人で悪を極めましょう?私達なら出来ないことはないわ」
囁き返し耳を甘咬み。2人で笑い、じゃれつき、キスを交わしながら、ワインを楽しむ。
・・・悪の魔法使い結構。
私達が好きに生きる事を悪と言うなら、私は喜んで自ら悪を突き進む。
全ては私とエヴァの幸せのため。
邪魔する者は叩き潰す。
腕の中のエヴァを抱きしめ、心に刻みながら、杯を交わしていった。
後書き
お読みいただき、ありがとうございます。
さて、初めにも書きましたとおり、この世界のローマ・カトリック教会に少々お相手していただきます。
重ねてになりますが、作者にキリスト教批判の意思は一切ございませんので予めご了承ください。
さてさて、作者のおねだりに答えてくださったさっそくのご感想ありがとうございます。
返信は感想板の方に。引き続き皆様のご感想お待ちしております。
またこの度、この作品のお気に入り件数が200件を突破いたしました。
これもいつもご覧いただいている皆さまのおかげです。ありがとうございます。
これからも皆さんに楽しんでいただけるような作品をかけたらなと改めて思った次第です。
それではまた次回。
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