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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第108話:動き出す獣達

 
前書き
どうも、黒井です。

今回は遂に遂に、あのライダーが登場します! 

 
シャトルの救助から早3か月……

 奏と翼の2人は世界に羽ばたくツヴァイウィングとして、S.O.N.G.の一員とは別に活動していた。

 より多くの人々に自分達の歌を届ける……その夢を実現させ、この日もその歌唱力で沢山の人々を魅了する2人。
 だが歌手として活躍しているのは、2人だけではなかった。

 この日ロンドンで行われたライブで2人と共に歌ったのは、誰あろうマリアであった。
 少し前まで、収容施設に切歌・調と共に収容されていた彼女だが、今は一応の自由を与えられていた。

 ウェル博士の悪行を探る為に潜入していた……と言うカバーストーリーを作られたマリアは、一応表面上は正義を行ったものとして罪に問われる事はない。
 だが与えられた自由は所詮仮初でしかなく、彼女が行く先にはアメリカ政府からの監視が付けられていた。

 ライブ終了後、ステージを後にしたマリアの前には案の定アメリカ政府からのエージェントがやって来た。敬語と言う名目で、マリアの身柄を監視する為に。

「任務、ご苦労様です」
「アイドルの監視ほどではないわ」
「監視ではなく警護です」

 せめてもの憎まれ口を叩くマリアだったが、エージェント2人は全く気にした様子を見せない。
 マリアはマリアで、皮肉が通じない相手に顔色一つ変える事無く黙ってついて行く。

 その様子を、ライブ終了後の交流を深めようと翼を引っ張ってやってきていた奏が遠目に見ていた。
 奏はマリアと共に行く、2人の黒服の男達に険しい目を向けていた。

「ちぇ~、ヤな連中。あんな奴らが待ってたんじゃ、風情もへったくれもあったもんじゃない。そうは思わないか、翼?」
「言いたいことは分かるけど、馬鹿な行動は起こさないでよ? 現状これが一番波風立たないからこそ、マリアも黙ってるんだから。ここで奏が出しゃばって話をややこしくしたら、それこそ――」
「分かってるっての。そこまでアタシも馬鹿じゃない。ただ単純にアイツらが気に入らないってだけだよ」

 そう言うと奏はマリア達……正確には黒服2人に向かってベーッと舌を出した。気に入らないにしても、変に不機嫌な様子の奏。

 翼はその理由に直ぐ見当が付いた。

「最近颯人さんに会えてないからって、八つ当たりは良くないわよ奏?」
「ぬなっ!? いや、そう言う訳じゃ……」

 翼の一言に奏は顔を一気に赤くしてしどろもどろになる。それだけで翼の言葉が図星であると言うのがよく分かる。
 それを証明する様に、奏が右手でそっと左手を撫でる。颯人に渡された指輪を薬指に嵌めた左手を……

「私達が世界に羽ばたくと同時に、颯人さんも表世界での活躍を始めたからね。今頃はアメリカだっけ?」
「……ロサンゼルスだってさ」

 今、颯人は奏が言う通りロサンゼルスに居る。
 S.O.N.G.が世界的組織となったことで活動が一気に広がり、颯人も何時までも裏方で動いている訳にもいかなくなった。より広く動く為には、表世界で何らかの肩書が必要になったのだ。

 そこで颯人が選んだのは、マジシャンとして活躍する事。そもそも魔法使いにならなければ、父の後を追う様にマジシャンとしてデビューするつもりだったのでちょうど良かった。

 だが颯人がマジシャンとして活躍するという事は、それだけ奏と共に過ごす時間が減るという事。ただでさえツヴァイウィングとしての活動で忙しいのに加え、颯人もまたマジシャンとしての活動で更に奏と触れ合える時間が減っていた。

 しかも颯人は彼自身がマジシャンとして優れた腕を持っていると言うだけでなく、世界的に有名なマジシャンである輝彦の息子と言う話題性もある。

 おかげでここ最近奏は颯人と全く触れ合えておらず、愛しさと寂しさが高まっていた。出来る事なら、今すぐ颯人に会いたい。

 そんな気持ちが顔に出ていたのか、翼が奏の頬を突っついて来た。

「奏、そんな顔しないの」
「む、何だよ?」
「この仕事終われば少し時間も空くし、言えば颯人さんならすぐに跳んできてくれるでしょ? それまで我慢しよ」

 普段は奏の方が翼を宥めたり揶揄ったりしているのに、今は完全に立場が逆だ。颯人と婚約してからこういう事が多くなったような気がする。恐らく、と言うか間違いなく、颯人の存在が奏にとっての精神的支えと同時に弱点になっているのだろう。

 それが分かり一瞬ムッとなった奏だったが、しかしそんなに悪い気もしなかった。颯人の事を想うと、奏は戦士としての自分を忘れられる。1人の、タダの女で居る事が出来る。それが何だか心地良くて、自然と奏の顔には笑みが浮かんでいた。

 奏の笑みに彼女の機嫌が良くなったのを感じて、翼もまた朗らかな笑みを浮かべる。

「さ、行こう奏。緒川さんが待ってる。マリアとはまた後で――――」

 マリアとは後で話そう……そう言おうとしたところで、マリア達が向かっていった先で発砲音と争うような音が聞こえてきた。明らかにただ事ではない様子に、2人は一瞬で戦士としての顔になり頷き合うとそちらへと向かう。

 ギアを纏ってそちらへ向かうと、通路の先ではドレスを着た嫌に色白な女性が真上に剣を構えており、マリアがその剣に貫かれそうになっている瞬間を目にした。

 それを見た瞬間、奏は考えるよりも先に行動を起こしていた。

「おらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 女性に向け投擲されるアームドギア。槍が飛んできた事に女性が気付くと、マリアへの攻撃を中断し剣で槍を防いだ。
 それと同時に飛び出した翼が落下しつつあったマリアを受け止める。

「翼! 奏も!」
「友の危難を前に、鞘走らずに居られようか!」
「大丈夫か、マリア?」

 2人はマリアを女性から庇う様に立つ。今のマリアはギアを持っていない。戦えない彼女を守るのは当然の事であった。

 奏と翼が警戒する前で、謎の女性は特に焦った様子もなく落ち着いた佇まいを崩さなかった。

「待ち焦がれていましたわ」
「貴様は何者だ!」
「ジェネシスの仲間か?」

 見たところ女性はシンフォギアを纏っているようには見えないので、新たな敵装者という訳ではなさそうだ。となると、彼女達の常識ではあの女性はジェネシスの一員という事になる。

 しかし女性は、2人の問い掛けに対し肯定も否定もしなかった。剣を手に、スカートの裾を掴んでポーズを取ると彼女はただ一言、静かに告げた。

「オートスコアラー……」
「オートスコアラー?」
「何だそりゃ?」

 聞き覚えの無い単語に揃って首を傾げる奏と翼だったが、オートスコアラーと告げた女性は2人に考える時間を与えてはくれなかった。

「貴方達の歌を聞きに来ましたのよ――――!」

 言うが早いか、女性は剣を手に2人に襲い掛かって来る。振り下ろされる剣を躱し、2人は左右から女性に反撃した。

 放たれる翼の斬撃を華麗に女性が躱し、そこに奏が追撃の刺突を放つ。女性はそれを剣で受け流しその勢いを利用して奏を切り裂こうとするが、奏はそれを許さず肘で女性の腹を殴り飛ばした。

 その瞬間、ガンと言う変に硬い音が奏の耳に届いた。

「『ガン』? 今『ガン』っつったぞコイツ!?」
「何? 服の下に鎧を着こんでいるのか?」
「いや、そう言うのとは違う、もっと――――」

「お喋りしている暇はございませんよ!」

 奇妙な事象に対する考察の時間もなく、女性の攻撃は激しさを増す。

 何が何だかよく分からないが、この女性は得体が知れない。ここであまり時間を掛けるのは得策ではないと判断した2人は、早々にこの場での戦闘を切り上げる事にした。

「翼、行くぞ!」
「承知!」

 奏が女性に向けて突っ込んでいき、翼がその後に続く。女性はそれを剣を構えて迎え撃った。

「オラっ!」
「はぁっ!」

 互いにタイミングをずらして放たれる刺突と斬撃。豪快な奏の攻撃の合間を縫って女性が攻撃しようとするが、翼がその隙を埋める様に女性を攻撃するので女性は徐々に押されていく。

 そして遂に、2人の攻撃で女性に決定的な隙が出来た。2人はその隙を見逃さず、女性に向けて大技を放った。

「これで!」
「喰らえッ!」

[双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-]

 2人の合体技が女性を吹き飛ばし、資材か何かの山に吹き飛ばした。女性は成す術なく吹き飛ばされ、直撃した資材の山に埋もれる。

 その光景にマリアが顔を青褪めさせて2人に詰め寄った。

「2人とも、やり過ぎだ!? 人を相手に――」
「いや、違うねぇ」
「え?」
「やり過ぎなものか」

 マリアから見ればオーバーキルとも言える状況だが、直接剣を交えた2人にはよく分かる。これだってあの敵に対しては不十分であると。

「手合わせして分かった。こいつは、どうしようもなく――――」

 それを証明するかのように、資材の山が吹き飛びその下から無傷の女性が姿を現した。

「化け物だ!!」
「少なくとも、タダの人間じゃない事は確かだ」

「……聞いてたよりずっとしょぼい歌ねぇ? 確かにこんなのじゃ、やられてあげる訳にはいきませんわ」

 嘲る様な女性の言葉に、奏と翼は険しい顔を向ける。




 ロンドンで奏達が戦いを行っているのと同時刻、日本でもまた戦いが起こっていた。

「何で……何で、テメェが――――!?」
「!!」

 1人の少女を挟んで背中合わせに立つ透とクリス。それぞれの前には、男装をした女性と紫色の仮面のメイジが立っていた。

「フフフフフッ――!」
「……フンッ」

 警戒する2人を前に、女性とメイジは悠然と構えている。

 そして――――――――――









 遠く離れたアメリカ・ロサンゼルス。

 ここでもまた、騒動は起こっていた。

「お前……一体何者だ?」

 ウィザードに変身した颯人の前に立つのは、恐らくは魔法使いだろう鎧を着た人物が立っていた。

 腰には颯人のウィザードライバー等とは形状が全く異なる、観音開きのバックルのベルトが巻かれている。そのバックルのレリーフと左肩、そして頭部の形状はライオンを模しているのが分かった。

 颯人の問い掛けに、未知の魔法使いは静かに、だが強い敵意と共に答えた。

「俺は……ビースト。魔法使いビースト…………お前ら魔法使いを狩る獣だ!!」 
 

 
後書き
という訳で第108話でした。

遂にビーストが登場ですが、ご覧の様に本作のビーストは立ち位置が完全に敵です。キャロルサイドの魔法使いとして、味方とは異なるムーブで颯人達の前に立ちはだかる事になります。
当然その分大きく活躍する事になると思いますので、どうかお楽しみに!

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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