リュカ伝の外伝
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リュカ'sキッチン レシピその1「よそみゆびきりパイ」
前書き
オリーブオイルを大量に使用する話ではございません。
(グランバニア城・メインキッチン)
ニックSIDE
俺の名はニック。
子供の頃から料理人を目指し、今はグランバニア城のキッチンで働く見習いシェフだ。
ここグランバニアでは、一流のシェフになるには幾つかの道がある。
まず1つめは、自ら店を持ち客の口伝てで有名になる事。
実家が金持ちなら有名になる事以外は楽な道だが、貧乏だとそうはいかない。
それに店の経営に意識が行って、料理の腕前が上がりにくい。
2つめの道は、既に開業しある程度金銭的に余裕がある店に雇われる事。
先述の場合と違って、料理に邁進できる分、腕前も上がりやすい。
だが所詮は雇われの身……その店のスタイルに合った料理以外は練習できない。
3つめは、実家が飲食店。これは大きなアドバンテージだ。
先述した2つの良いとこ取り。
だけども自分の力では如何にも出来ないのが欠点。
4つめが、グランバニア城の見習いシェフになる事。
実はこれが一番難関!
その代わり一流と呼ばれるには一番の近道だ。
一年に一度、宮廷シェフの採用試験がある。
応募者は毎年100人から150人くらいいるが、その中で採用されるのは10人だ。
そして古参の宮廷シェフが卒業していく。
卒業と言ったが、別に城から追い出されるわけではない。
宮廷の方でかなりの就職先を探してくれるし、俺の様な『見習い』から通常の宮廷シェフにランクアップすれば、給料も結構あるから卒業までの間に貯金をしておけば、頑張り次第で一等地に店を構える事だって出来る。
しかも卒業者全員に『グランバニア王家認定料理人』という、証明書を発行して貰える。
これを持っていれば、地方のレストランくらいだったら、無条件で採用して貰えるし、数ヶ月後にはその店の料理長にまでのし上がってる可能性がある。
因みに卒業をせず腕前も人柄も認められてる上級シェフってのが、我々見習いやその上のシェフ等の教師的な立場の人が居る。
この上級シェフを決めてるのが王家の方で、腕前をティミー殿下が、人柄をリュカ陛下が見てると言われるほど審査には厳しい。
そんなグランバニア城の宮廷料理人……見習いなのが俺。
厳しい上下関係もあるし、皆料理に関してはストイックなので時と場合によっては職場の空気が辛い時もあるけど、得られるモノは一般の店と違って大きい。
料理の腕前は“教わる”と言う事が出来る為、向上する振り幅が大きい。
一般店だと客に料理を提供する事が一番の目的で、店が終わっても明日の仕込みやら何やらで料理を誰かに教わるなんてないだろう。
そして何よりご褒美なのが、リュカ陛下やビアンカ王妃陛下が時折キッチンを使いに来る事だ。
両陛下のお側で料理を学ばせてもらえる事が何よりも貴重だが、お二人に接近する事が出来るというのは何よりの至福なのだ!
勿論、両陛下がお揃いでキッチンに現れる事は少ないが、ビアンカ王妃陛下は週に1.2回ほど、ご家族への料理を自らお作りになるので、新たな料理の開発以外では来られないリュカ陛下よりも、間近でお目にかかれる機会が多い。
ただ……間近でお目にかかれるってのが案外危険なのだ。
先日も、広い城内キッチンで俺の前の場所が空席だった。
別に人数分ピッタリ有るわけでもないし、そんな事は日常茶飯事なのだが、丁度その日にビアンカ王妃陛下が料理をされにきた。
高飛車な王妃が気紛れで料理をしに来た為、一番良い場所(善し悪しなんて存在しないが)を独占する……何て事はビアンカ王妃陛下には絶対に無く、その日の空いてる場所に自ら収まる。そう、つまりその日は俺の目の前!
あのビアンカ王妃陛下が目の前に居るのだ。
アルコールを摂取してなくても、そのフローラルな香りに腰砕けになるほどの距離に、一目間近で見たら数週間は他の女性の顔は“ジャック・オゥ・ランタン”に見えてしまうと言われてるほどの女神が俺の目の前に舞い降りたのだ。
ビアンカ王妃陛下は公式の場でもない限り、常に一般的な服装を好まれる。
その日も華美なドレスなどではなかったが、特筆すべき点が2点。
まず1点は、これは城下を散歩される時も同様なのだが、左の二の腕にホイミスライムが触手を絡ませて随伴してる事。
これは料理中に怪我をしたとき用にと、万が一暴漢に襲われてとき用にだ。
このホイミスライムはリュカ陛下と共に世界を救う旅をした強者で、俺なんかが包丁を振り回して襲いかかってもワンパンで伸されるだろう。
そしてもう1点……
こっちが重要なのだが、普段着で無意識なのか判らないのだが、ビアンカ王妃陛下の大きな胸の為に出来る谷間が、如何しても見えてしまう服装なのだ。
料理をするので少し前屈みになるのだが、その所為もあってより一層俺の視線を奪い取っていく。
ビアンカ王妃陛下の胸はかなり大きいので、前屈みになり服との隙間が出来、チクb……トップが見えるという事は無いのだが、それでも男は見てしまう。
そんな中、事件は起きた。
ビアンカ王妃陛下の手伝いという事で、料理の下拵えをしていた俺。
完全にビアンカ王妃陛下の胸元に視線を固定しながら、手元ではキャベツの千切りを高速で行っていた。
いくら料理人(見習いも含む)とは言え、刃物を扱っている時は手元を疎かにしては大問題だ。
そしてその大問題は、即座に明瞭になる。
(ゴリュ!)という鈍い音と共に、俺の指先に激痛が走る。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は痛みと共にその事態を理解し、情けないほどの悲鳴を上げてしまう。
傷口を見ると、骨まで達し……と言うか、その骨すら半分切断されており、指先を使う料理人生活の終わりを俺に突きつけてきた。
その時だ…
「ベホイミ」
と、何処からともなく聞こえてきて、指先の激痛が嘘の様に無くなった。
押さえていた手を離し指先を確認すると、骨まで達してた傷は綺麗に無くなっている。
大量に出た血が手にべっとり付いているが、それを洗い流すと何事も無かったかの様な指がそこに存在した。
ハッとなり顔を上げると、そこには美しいビアンカ王妃陛下と、しがみついてた触手の内2本をフヨフヨさせながら、何を考えてるのか解らない笑顔でこっちを見ているホイミスライムが……
「あ、ありがとうございます!!」
俺のお礼の言葉が伝わったのか分からないのだが、ホイミスライムはフヨフヨさせた2本の触手を使い、手近なタオルを持ち上げると、それをフワッとビアンカ王妃陛下の胸元にかけた。
めっちゃバレてるぅ!
「あらやだ。こんな所を見つめてたの? いけない子ねぇ(笑)」
ぐはぁ! 可愛くもセクシーなその一言。心と股間に突き刺さり、今夜はご飯三杯はイケる!
そしてクルッと俺等に背中を向けると、手近に居た女性シェフに手伝ってもらい、あの素敵な谷間をタオルで覆っている。
因みに手近に居た女性シェフは俺の彼女だ。生ゴミを見る様な目で俺を睨んでいる。
「こんなおばさんの胸なんか見ても楽しく無いでしょうに……もう孫も居るのよ、私」
タオルで完全に見所を覆ったビアンカ王妃陛下は、とんでもない……まさに、とんでもない言葉で自らを卑下なさった。
「な、何を仰います! ビアンカ王妃陛下の美しさ・若々しさは周知の事実! 手元を見ないで包丁を高速で動かすなど、危険極まりない事ですがビアンカ王妃陛下の魅力的すぎる谷間を前に、危ない事なんて虚空の彼方に忘れ去ってしまいます!」
ぎゃぁぁぁぁ!
パニクってとんでもない事まで言ってる。
如何しよう……如何しようぅ……な、何かフォロー的な事を言わねば。
「ニック、お前……自分の彼女が目の前に居るのに、ヤりたい時に私に吐く甘い言葉より、饒舌にビアンカ王妃陛下を口説いてんな!?」
何言ってんのこの娘!? 俺を最低男に仕立てるなよぉ。
「お、おま……ち、違ーし! 口説いてなんてねーし! お、お、お、俺が言った事は全部真実だし! ち、違うって言うんなら、真実ではない点を……そ、その……し、指摘せよ!」
パニックによるパニックで、自分でも何を言ってるのか解らない。
「……………うっ。ぜ、全部事実です」
隣に居たニャア(彼女)は、ビアンカ王妃陛下の上から下を見て、俺の言い分が正し事を認めてくれた……と同時に、
「あっ……わ、私ってばビアンカ王妃陛下のお胸に無遠慮に触れてしまいました! も、申し訳ございません」
な、何て羨ましい事をしてるんだ、この女は!?
「大丈夫よ、気にしてないから。私が昔からのお気に入りって事で、この服を着てきてしまった事が原因だからね」
そう言うとクルリンとその場で一回転して、その服がお気に入りである事を示してきた。
「あ~そうそう。私の胸に触った事は、リュカには内緒にした方が良いわよ。下手に言うと『え~僕専用のオッパイなのにぃ。勝手に触った罰として、君のオッパイにもタッチィ!』とか言って、意味不明にセクハラしてくるからね」
如何しよう……容易に想像できてしまう。
陛下を尊敬はしているが、その……女性に対するアプローチの数々で、そんなに接点の無い俺でさえ、想像できてしまうのが凄い。
「そう言えば私のオッパイが気になる貴方。お名前は?」
やべぇ……怒られるのかな?
「は、はい……あ、あの……『ニック・ジャガー』と申します!!」
ニックSIDE END
後書き
このエピソードは
時系列的に
納豆ご飯の前になります。
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