冥王来訪
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第二部 1978年
ミンスクへ
国都敗れる その3
前書き
柴犬本編でのRPG7対戦車砲での攻撃による被撃墜描写を鑑みて、ミサイルの排気炎から放射される赤外線は検知出来ないと言う事と解釈しました
もっとも、この時代(1970年代)は、現実世界でも航空機搭載の赤外線検知装置は発展途上です
自室で手紙を書いていたヤウク少尉は、室内にある内線電話を取る
受話器越しにハンニバル大尉の呼び出しを聞き、応じる
着慣れた運動着から、強化装備に着替え、走る
首都で何かあったのであろうか……
生憎、カッフェは結婚した為、寮外で暮らしている為、到着が遅れるとの連絡があった
新人のクリューガー曹長の実力も未知数だ……
訓練時間は十分ではあろうが、実戦経験はほぼ無いに等しい
その様な事を思っていると、指令室に着く
何時もは勤務服姿の最先任上級曹長が、珍しく深緑色の野戦服に身を包んでいた
椅子に腰かけ、腕を組むハンニバル大尉に敬礼をすると、開口一番問うた
「非常招集とは、どうかしましたか」
彼の言葉に、大尉は顔を向ける
「これを見ろ」
大尉は、電子探査装置の画面を指差す
「ベルリン市街に戦術機が一機出現した。
そして市街地より東南東20キロメートルの地点を時速200キロで戦術機が飛行している」
彼は驚愕した
「防空隊はなぜ市街地に戦術機着陸を許したのですか……」
大尉は目頭を押さえる
「君でも分からぬか。
はっきり言おう。出現までレーダーには捕捉されなかったのだ」
彼はしばしの沈黙の後、答えた
外字紙や欧米の軍事情報雑誌からの情報を基に、推論をくみ上げる
「もしかしたら、あの米国内で開発中のレーダーに映らない新型機……。
其れではないでしょうか」
「電波を遮断できる装置を兼ね備えてるとでも……」
彼は、右手を顎に当て答える
「手短に言いますと、米国では特殊な塗料や複合材で電磁波を遮断できる高性能機。
そのような物を設計中だと、軍事雑誌に載っておりました。もっとも噂レベルですが……」
大尉は立ち上がり、左手の腕時計を見る
「分かった。5分後に出撃だ」
「同志カッフェ少尉は……」
大尉は、彼の方を向き、答える
「奴を待たずに出撃する」
基地より緊急発進した戦術機大隊、およそ40機
ハンニバル大尉の指示で、大隊は三つに分けられ、ヤウク少尉の率いる部隊は共和国宮殿に接近する不明機に向かった
大尉指揮の本隊と、ベルンハルト中尉の別動隊は宮殿周辺に向かう
彼は、操作卓を指でなぞる
ユルゲンの事が心配だ……
彼は、此の所、家族の事で思い悩んでいる
戦闘に支障が出なければよいが……
「戦闘指揮所の将校は、すべて出払っただと!」
遅れてきたカッフェは驚嘆する
非常時とは言え、ハンニバル大尉迄出払うとは……
最先任上級曹長が続ける
「同志大尉の意見としては、同志カッフェ少尉に全体の指揮をお願いすると……」
彼は思い悩んだ
「こんなのだったら、アイツを連れてくればよかったな……」
家で休んでいる妻の事を思う
曹長は笑みを浮かべると、彼の独り言に返答した
「同志少尉、身籠られた細君に無理させる必要はありません。
違いますかな」
曹長は、身重のヴィークマンを気遣う
知らぬ間に独り言が漏れた彼は、己を恥じた
ソ連大使館に佇む白磁色の大型戦術機
戦術機隊に周辺を囲まれても、身動ぎせぬ姿
ベルンハルト中尉は、その様から、帝王を思わせる風格を感じた
彼は一か八かの勝負に出た
もし、ゼオライマーという機体ならば、操縦者は木原マサキ
一度、面識のある人物だ
彼は部隊の仲間に通信を入れた
「1番機より、中隊各機へ。所属不明機を説得する。
自分よりの指示があるまで衛士の攻撃は禁ず。
繰り返す、衛士の攻撃は禁ずる」
「ソ連大使館への対応は如何しますか」
彼は、画面に映る衛士を見る
「3番機、余計な事は考えるな。
良いか、市街地故に擲弾や散弾の使用は制限するように」
僚機から心強い返事が返ってくる
「了解」
彼は、頷く
指で、航空無線機の国際緊急周波数121.5MHzにダイヤルを回す
彼は英語で答えた
「警告する。貴機はDDR(ドイツ民主共和国)領内を侵犯している。速やかに現在地から退去せよ」
白磁色の機体が、ゆっくり此方に向く
即座に、向こうから通信が入った
男の高笑いが聞こえる
そして、ドイツ語で話しかけてきた
「この天のゼオライマーに、何の用だ」
ゆっくりと機体の右手が上がり始める
「此方に攻撃の意思はない。
操縦者は木原マサキ曹長であろう。違うか」
彼は賭けに出た
男は応じる
「如何にも、俺は木原マサキだ」
彼の応答に、マサキは応じた
暫しの沈黙が起きる
画面にマサキの画像が映る
不敵の笑みを浮かべ、此方を見る
「何時ぞやの懇親会以来だな」
哄笑する声が響き、彼の心を騒がせる
「貴様等なりの歓迎と受け取ろう。
だが、俺には構わず遣るべき事がある」
機体の右手を挙げ、食指で共和国宮殿の方角を指し示す
「向こうから来るヘリコプターを撃退するのが先であろう。
貴様等が望むのであれば、俺はいつでも相手になってやる」
再び哄笑する声が聞こえる
「もっとも無残な姿を晒すだけであるから、止めて置けば良い」
マサキは、画面越しに映る美丈夫に応じた
あの時、見た碧眼の美しい瞳
忘れもしなかった
「今日の所は見本だ。
ソ連大使館と戦闘ヘリだけで勘弁してやる」
彼は、右手で髪をかき上げる
「天のゼオライマーの威力、特等席で観覧できる喜び。
全身で感じるが良い」
数機の戦闘ヘリがこちらに向かって、ロケット砲を放つ
面前の機体は気付くのが遅れた模様だ……
借りを作ってやろう
そうすれば、何かしらの工作の下地になる
彼はそう考えると、操作卓に指を触れる
ベルンハルト中尉は、自分の判断を誤ったことを後悔した
9M17《ファーランガ》対戦車ミサイル(AT-2 スワッター/蠅叩き)が、連続して直進する
手動指令照準のミサイルの為、照準用レーダー波は発生しない
レーダー警戒装置は未検知……
つまり警告装置は作動しなかったのだ
飛び上がって避ければ、ソ連大使館へ直撃……
向きを変えれば、時間的に被弾する可能性も高い
突撃砲で迎撃するよう、背面に向けて、180度搬送腕を曲げる
背中にある補助腕を展開させ、懸下した突撃砲を向けた
操縦桿を強く引き、火器発射ボタンを押す
突撃砲は勢い良く火を噴き、飛翔物を狙う
後方射撃を繰り返すが、思うように命中しない
二発、迎撃できたが……もう二発は通り抜けて来る
対戦車弾ですら簡単に損傷させる機体……
跳躍ユニットやコックピット背面に当たれば、助かるまい
しかも勝手知ったる平原や山岳地帯ではなく、市街地
不慣れな状況も、彼の心に動揺を与える
そうしている間に閃光に包まれた
周囲の機体は、モニターより接近する飛翔物を見る
発射炎を上げ、接近する対戦車ミサイル
攻撃を察知すると、即座に散開した
一番機のベルンハルト中尉が光に包まれたのが見える
恐らく跳躍ユニットか、燃料にでも引火誘爆したのであろう……
彼等は、後方のヘリに意識を集中した
瞬間的に跳躍して、ヘリの上空に出る
有りっ丈の20ミリ機関砲弾を喰らわせた
十数機の戦術機より攻撃を受けたヘリは爆散
後方に居たヘリ数機は、高度を上げると引き返していく……
「射線上から回避しろ」
撃墜されたとばかり思っていた一番機からの通信が入る
急いで、散開すると一筋の光線が勢い良く通りぬけて行く
光線級の攻撃を思わせる、その一撃ははるか遠くにいるヘリに命中
機体を光線をかすって誘爆すると、全滅させた
ベルンハルト中尉は困惑した
目前に居た機体が、一瞬にして後方に転移
その後即座に、大使館へ戻ったかと思うと自分の機体に覆い被さるよう佇む
50メートルは優に有る機体が、瞬間移動……
信じられなかった……
唖然とする彼に、マサキは話し掛けてきた
「これも、ゼオライマーの力の一部にしか過ぎん。
貴様等が首魁が居る、共和国宮殿。
焼ける姿が見たいか」
不敵の笑みを浮かべ、彼を煽り立てる
「その代わり、俺と共にソ連を焼き払う……
文句はあるまい」
困惑をしていると、なおも続ける
「貴様にその意思があるならば、俺は喜んで手を貸そう」
マサキは哄笑した後、こう吐き捨てた
「楽しみに待っているぞ」
そう言い残すと、面前の機体は消え去る
氷室美久は、この騒動をゼオライマーを通して見ていた
自分の主人の真意を測りかねる……
彼女は通信機越しに、マサキに問いかけた
「何が為さりたいのですか……」
マサキは応じた
「俺が望むのはただ一つ、世界征服よ」
彼は不敵の笑みを浮かべる
「まず足掛かりとしてソ連を戦場にした世界大戦を引き起す。
東欧諸国を巻き込み、西側に迎え入れ、社会主義経済圏を破壊する……。
やがては経済的に孤立させ、核に汚染された大地を当てもなく彷徨わせる」
上空に転移し、浮遊させたゼオライマーより市街を睥睨する
所々燃え上がる市街……
ヘリやミサイルの残骸が火事を引き起こしたのであろう
「あの蛮人に相応しい、鎌と鍬で暮らせる原始共産社会……。
奴等を再び世界の孤児の立場に追い込む」
眼光鋭く、画面を睨む
「俺が、東ドイツの小僧を助けたのも、その亀裂を広げるための方策よ。
奴等は諜報戦の世界で、割れ目をこじ開ける方策を西側に仕掛けて来る……。
自分で味わうと、どうなるか……。
この目で見たくなったのよ」
「今日、手に入れた資料は複写して全世界にばら撒く」
彼女は困惑した
「それでは、世界中が混乱します。
御願いですから、お止めください」
彼は哄笑する
「CIAとゲーレン機関にだけ、限定してやるよ」
慌てふためく彼女の様を見て、一頻り笑う
「この上で、シュタージファイルでもあれば、奴等を強請って小遣い稼ぎでも出来たかもしれんな」
ふと思いついたように言う
「俺は決めたぞ。
これより大使館を跡形もなく破壊した後、ミンスクとウラリスクを灰燼に帰す」
このゼオライマーの力を持って容易い……
彼は、続ける
「そうすれば、その戦力はすべて対ソ戦争とやらに使えるであろう。
嘗て列強が支那をパンケーキの様に切り取ったように、ソ連を細切りにして国力を減退させる。
その戦争で国力を疲弊させた各国を恫喝し、ほぼ無傷の侭、我が手中に収める」
その様に嘯く
「この世界の人間どもを、BETA等という化け物の餌にするのは惜しい。
我が奴隷として、傅かせる」
内に秘めたる黒い感情を吐露した
「想像してみよ、愉しかろうよ」
彼は心より、己が策謀を楽しんだ
後書き
偶然かもしれませんが、『ゼオライマー』のノンスケールプラモデルが出るそうです
一部彩色済みで、7月頃発売だそうです
ご意見、ご感想、よろしくお願いいたします
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